第18 話俺は愚か者だった

湊と周平の中学生時代の話です。

前話と違い、シリアスです。


周平視点


 中学時代の俺は愚か者だった。

 小学四年の時に穂高湊と出会い。

 それからずっと一緒にいた。


 中学一年の時、湊は荒れた。

 その頃に長かった髪を振り乱し、どうすれば俺に愛してもらえるのかわからないと、俺の服を掴みながら泣いていた。


 もうこの頃には、湊は努力してどの方面も才能を伸ばしていた。

 後に知った、ただただ俺に釣り合うための努力をしていたことを。


 今まで俺が焦ることはなかった。なにがあっても湊は俺の傍にいると、この頃は訳も分からない自信があったのだ。


 それが泣いて訴えてきた湊を見て間違いだと気が付かされた。


 好きや愛がその頃の俺にはわからなかった。ただ湊に俺の傍にいてほしい。


 だけど、湊から離れていったら?

 才能がある湊だ。いくらでも優秀な釣り合う男は現れるだろう。


 それは嫌だった。

 それならばどうすればいい?


 努力して湊に釣り合うしかなかった。


 いきなり殆どの時間を勉強や運動に向けても、湊が心配する。そんなことはしなくていい今の周平でいいと言ってくるはずだ。その優しい毒に俺は甘えてしまう。


 なら湊といる時間を減らさなければいい。

 その頃の一日の睡眠時間は一、二時間になった。


 勉強は一人でした。塾に通えば湊が一緒に行くと言うだろう。それではさらに差が付いてしまう。

 運動は友人の家が道場を開いていたので、友人の姉に頼んで鍛えてもらうことになった。


 朝方まで勉強し、仮眠。湊と登校して学校では友人達と普段通りに遊び、帰りは湊と一緒に帰る。湊が家に帰った後は、道場に行き鍛えてもらう、家に帰れば朝まで勉強をした。


 それだけしても凡人の俺は学年で成績上位にギリギリ入るくらい。運動の方はさらに厳しい、才能のあるやつにはどうしても勝つことは出来ないことを思い知らされただけだった。


 それでも続けなければ湊との差は更に開いていく。


 両親に友人にも友人の姉にも止められた。

道場は出禁になった。壊れるために鍛えているのではないと友人の姉に言われた。

 だから一人で隠れて鍛えた。


 中学二年の冬、唐突に俺の身体は動かなくなった。

 深夜にこっそり家を出て鍛えていたら、力が入らなくなっていた。最近は痛みやきしんだりするのが無くなって鍛錬の量を増やしたばかりだった。


 寒いのかも分からなくなった俺が気絶する前に考えたのは湊に嫌われるかもだった。


 意識を取り戻したのは半月後、朝方に人に発見された俺は死ぬ一歩手前だったらしい。


 そして、俺の身体は壊れた。

 一つ一つ医者が説明してくれたが、全身がくまなくボロボロだったようだ。リハビリで普段の生活は出来るようになるが、もう激しい運動は難しいと言われた。


 それから友人と友人の姉が来てくれた。友人はいつも通りで、友人の姉は俺の頬を叩いた後、ごめんと抱きしめてくれた。


 その後も友人が友達を連れてきてくれた。ただ、湊は来なかった。


 母に聞いたら、死にかけていた俺を見て、精神的に大きく不安定になってしまったらしい。湊は湊で他の病院にかかっているそうだ。


 頻繁に会いに来る友人が、来るたびにケガが増えていた。怪我した原因はヘラヘラ笑って教えてくれなかった。


 体は痛むが勉強は出来る。勉強道具を持って来てくれたが教科書などの最低限度のものだった。無理はいけないと言われたので我慢する。


 ようやくリハビリの許可が出た。

 それなりに鍛えていた体は針金の様に細くなっていた。また一から鍛えていく、今度はマイナスからだ。


 半月ぐらいリハビリを続けたある日、母から休憩に外に出てみたらどうだと勧められた。

 外のベンチに座らせてもらって一人で休む。いつの間にか春になっていた。


「周平・・・」


 忘れることがない懐かしい声が聞こえてきた。


「よう、酷い格好だな」

「うん・・・」


 近くに来ていたのは湊だった、

 その姿は酷いものだ。まずよれよれのパジャマ姿、髪は長かったのに肩口でざんばらに切られていてボサボサだ。顔もやつれていて涙が流れた後もある。


 湊が俺の前に立つ。


「ごめんなさい・・・」


 湊が謝る。

 何を謝っているのかわからない。


「私のせいで周平の身体が壊れちゃった・・・」


 自分のせいだ湊に追いつけなかった俺の、湊のせいではない。


「周平の傍に私はいちゃいけなかったんだよ」

 

 言うな、それ以上は言わないでくれ。


「もう二度と周平に関わらないようにするね。本当にごめんなさい」


ーーーーーーー

周平は周平なりに考えてました。

後編にあたるのは次話です。

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