第160話彼女がメイドになったら平静を保てる?


 

 湊視点

「もう無理」


 お風呂上がりの周平さんはそのままベッドに倒れこむ。


「無理と言われると私が強引にさせたように聞こえるんですけど~」


 私はうつ伏せに寝る彼の隣に横向きで倒れる。

 周平は頭だけこちらに向けて目が泳いでいた。


「はい、俺から求めました」

「素直でよろしい。この魅力的な肢体がいけないんだね」

「溺れたからにはからかうことも出来ないな・・・」


 お風呂上がりの周平さんに、お風呂上がりの私。

 うん、一緒に入ったよね。

 晩御飯を食べた周平の眠気がマックスに近いままだったから心配で一緒に入浴しました。最初はフラフラして私にされるがままに剥かれて体を洗われていた彼だったけど、ほら男性は疲れると逆に元気になるという話があるよね。

 常時デバフ付きの周平の身体は更に文化祭からの疲れと謝罪行脚用の暴食フルアーマーに強欲を作ったせいで、ご疲労気味で。

 一部はお元気だった。


 強欲を盗み食べた罪で箱消費のお役目を受けている(周平は一晩で終わりと思っている)のでお慰めした。

 初回は箱消費無しになったけど、おかげで目が冴えた周平さんは頑張って二個ほど箱の中身をお使いなされてお掃除まで私にさせた。ん?お掃除はお掃除です。初回と変わらないけどね。


「なぜ同じくらい体力を・・・いや回数的には湊の方が多い筈なのになぜ俺は体を動かすのも億劫なのにそっちはツヤツヤお肌で元気なの?」

「純粋に聞かれても私にもわからないよ。しいて言えば優しく愛されたから?」


 激しいときは動けなくなるよ。この前の強欲全てが家族に食べられた周平は激おこで私の弱い後ろから責められたときはヘロヘロになったし。

 まあ周平も一緒に死んだけどね。


「あ~このベッドいいよな」


 ごろりとうつ伏せから私の方に向き直る周平。

 周平の先ほどの動きは、いつもなら二人で合わせて動かないと壁に当たるか床に落ちそうになっていたんだけど今は余裕で出来る。


 強欲でパパママ達からお小遣いもせしめた周平は私にも話を持ち掛けて二人で新しいダブルのベッドを購入した。

 届いたのが今日で、二人でえっちらおっちらベッドを置くために頑張ったのだ。前のベッドは時東家の私の部屋に移動済み、家具の位置も調整しないといけなかったので重い物を動かした周平はさらに疲れた。


「前のベッドも密着感があって良かったけどな~」

「寝返りが打ちにくかったから俺は微妙」


 それは今後も密着するから変わらないと思う。


 一応言っておくと、ママがいるときはちゃんと自宅で寝ている。

 ママがパパの手伝いで忙しくなって家にいない時だけ周平の部屋で寝ているのだ。忙しさが増してくると二、三日は帰ってこなくなるのなるので、かなりの頻度で周平の部屋にいることになる。

 土日はママ達が家事放棄するし、パパは仕事で周平パパは泊まりで釣り、パパ達がいても穂高家で親達だけで宴会をするので、コソコソしないエチエチタイムでもある。

 まあ自分の部屋で寝るのは週に一、二回あるぐらいの逆転生活をしている私だ。


 周平が学生なのにお高いベッドを購入したかった理由は私の為。

 球技大会と文化祭で忙しくて疲労した私はシングルのベッドで二人で寝てもあまり回復はしなかった。だから自宅で寝る頻度を増やしたんだけど、寂しくて強引に理由をつけて周平と寝たりした。

 そのあまり回復しないのを彼はちゃんと見ていたみたい。

 今後、私が忙しくなるのも見越してのベッドを購入を決めてくれたのだ。相談してくれたから私も半分だして後ろめたさもない。


「これはもうあれだね、同棲?」

「昔から寝るとき以外は家ではほとんど一緒にいるから今さらだな」


 理解のあり過ぎる両親達のおかげで子供達は不良にはなっていないけど一部悪い子になっております。


「そういや友人達はどうなっているんだ?あんまり変わっていないような感じなんだが」


 だらだらと新しいベッドを二人で満喫していると周平が思い出したかのように聞いてくる。


「さすがの周平でも人の恋愛には疎いみたいだね」

「俺はお前しか見てないからそこら辺はポンコツだ」


 サラッと好感度が上がる言葉を言える私の恋人はポンコツとは言えないと思うのだけど。


「まあ三歩ぐらいは進展したのかな?」

「おおっ、あの友人がか?」

「千歩の内のだよ」

「・・・百歩ならわかるが千歩だと変わらなじゃないか」


 甘いね周平、最初の数歩が重要なのです。

 文化祭の前は眞子ちゃんが子犬の様に友人君を追っかけていたけど、今は私達以外の人前でも友人君は眞子ちゃんを目で追っているよ、前は気配を探るぐらいだったのでかなりの進展だ。


「汐戸さんと左当さんからも補給されるわ~、て送られてきたし」

「いや六組女子が気づいていたのを教えてもらった時はびっくりしたけどさ、その二人とは縁を切らない?六組の中でも危険人物で上位に入る連中だぞ」

「トップは周平と友人君だよね。いい子だよ二人共、人の恋路が大好物で秋夜姉さんとレオさんの写真を情報交換でねだってくるぐらいしかしないし」

「十分おかしいって」


 文化祭から汐戸さんと左当さんとは連絡を取り合っていた。

 眞子ちゃんが友人君に好意を抱いているというところまで気づいた二人だけではなく六組の女子数名。

 恋路を見守るのが好きな人達で楽しむためにはクラスメイトを裏切るのも平気という、恋する乙女には最強の味方である。

 友人君の隠蔽が凄すぎて眞子ちゃんの片思いになっていたのは少し驚いたけど、後夜祭の後から交際し始めたと興奮した文面が送られてきたので誤差として黙っておくつもり。

 眞子ちゃんの応援のほかに他のクラスメイトへの偽装工作もしてくれる良い人達だ。


 それに汐戸さんにメイクを左当さんにはヘアースタイルを教えてもらえることになっているのでちょっと嬉しい。

 進学したときに仲が良かった子達と学校が違ってほとんど連絡も取ることも無くなったので、そういう女の子の相談相手がほしかった。

 一組はお友達というのは違うかな、よく言えば仲間で現実的には配下に近い。喜多園さんは意見を容赦なく言ってくれる忠臣という感じだ。


「まあう~ん、友人達のことを知っているのが友達というのもいいのか。でもな~ソルト&シュガーはアクが強すぎで」

「も~、このベッドの上では私以外の女性の話は禁止でっ」


 ペシッと周平を叩く。

 以前ほどではないけど人の、特に女性のことを周平から聞くと嫉妬するのだ。


「ほらお風呂で頑張ったからゆっくり休もう。周平が抑えてくれてたらこのベッドの初めては今日だったのに」

「いやその内二回は湊の方か・・・はい頑張ってすいません」


 素直に否を認めるのはいい子いい子。

 は~い腕枕してね。

 明日は休日なので遠慮なくくっついて眠るよ。

 うん、抱きしめてくれるのは満点です。



「うん、完璧かな?」


 姿見の前で体を左右に動かして背後も確認してクルリと一回転してみた。

 黒のロングスカートがふわりと広がる。

 いい生地と縫製のおかげで普段着ている服よりも着心地はいいかも。


「私からも頑張った周平にご褒美をあげないとね」


 大混乱も起こしたけど文化祭自体は成功だったし、一年六組にいたっては学校創立以来最高金額を稼いだ。

 まあ閑名家の供出したドリンク類を入れれば赤字だけれど凄いことは確かだ。明日その情報は生徒にも流れるけど、私は先に一番の功労者にご褒美をしてあげたいのである。


 ちょうどいいときに服も手に入っているし、ご使用方法は姉に聞いた。

 あの姉がそんなことするんだぁと感慨深く、周平達に教えたら憤死すると思うので秘密にする。別に教えてもいいぞと言える姉は凄い。


 姿見に近寄り髪型をチェックして白のフリル状のカチューシャ、ホワイトプリムの位置が固定しているか確認する。


「喜んでくれるかな~」


 まあ文化祭でフリーズしたくらいだから喜んでくれると思う。それでもどんな反応するか楽しみだ。

 私は時東家の自分の部屋から出て周平のもとにむかった。



 周平視点

 寒い。

 ぼやけた頭に浮かんだのはその一言。

 ザビエル友人が分裂して具視とヒャッハーを丸めた新聞紙でバシバシ叩いてるのを爆笑しているのに、なぜか寒いという思いが脳内に浮かぶ。

 あともう少しで釣り野伏に引っかかったザビエル友人達が、結んでいた紐が解けて凄い髪型の具視とモヒカンが前後に七三分けになったヒャッハーにごぼうでしばかれるのが見れるのに、寒い寒いと思いが増え続けて本当に寒くなってきて。


「夢か・・・」


 見慣れた天上が見えて先ほどまでのが夢と自覚する。

 脳が働くにつれて夢はあやふやなものになっていくがなぜかザビエルだけは忘れてはならぬと心が訴えてくる。

 来年の体育祭が少し楽しみになってきた。


 そして意識がはっきりしてくるにつれて起こされる要因となった寒さの原因がわかった。

 かぶっていた毛布が無いのである。

 そりゃあ寒い筈だ。

 そのうえ着ているTシャツが捲れているのか下腹部が寒・・・ん?腹部ではなく下腹部?

 ガバッと上半身を起こして自分の下半身を見た。


「何をしているのかな?」

「おはようございますご主人様♡」


 にこやかに微笑んで挨拶を返してくれる湊、いやメイドの湊さん。

 白の布のカチューシャを頭に付けた可愛らしい彼女はおそらくメイド服を着ている。

 断定できないのはその後ろ姿しか確認出来ないから。


 俺は新しくなったベッドに床に足を下ろして腰かけている状態になっている。

 起きたときには脚はベッドからはみ出して膝から曲がっていたのだろう、上半身を起き上がらせたら丁度座った状態になるように移動させられていたのだ。

 そして穿いていたジャージは脱がされていてボクサーパンツのみになっている。


 湊は、まああれです跪いて間におられるのです。だから服の前面は見れていないのです。


「あーうん、文化祭で予想はしていたよ予想は」


 寝起き数分も経っていないのによく回ってくれる脳だ。


「その予想でこのシチュエーションはありましたか?」

「なかったな。夜にお披露目してそのままというのが予想していたやつ」

「では半日ほど私の行動が上回ったということですね」


 ずり下げられるのを慌ててとめる。


「ちょっぉ待てっ!待ってっ、気持ちが全然ついていってないし、メイド服はまあ受け入れるけどその口調はなんなんだっ!?」

「え、お疲れになられているご主人様に今日一日ご奉仕するメイドですから、いつものようにはお声を掛けることはできません」

「・・・ニヤニヤしているの気づいているか?」


 俺をからかうのが楽しくて笑いを抑えられていないメイド湊さん。


「もう、周平は変なところでストッパーがかかるんだから」

「寝起きで状況判断したら止まるわ」


 ニヤニヤでもメイドの澄まし顔でもない、元の表情になった途端に口を尖らす湊。


「どうして俺はこんな状態になっているんだ?」

「ん~普通にメイドが起こしに来るシチュでいこうと思っていたんだけど」

「だけど?」

「ほら周平さんが朝だからお元気なので即興で考えたプランBエチエチメイドの気持ち良い起こし方に変更したの」

「・・・湊さん、あなたの頭のネジは体育祭ぐらいに十個ほど抜け落ちてませんか?」

「そのくらいではあんまり私は変わらないかな」


 なるほど元から変態だったということか。


「まあ文化祭で疲れた周平を労いたいから今日はご奉仕されてほしいな」


 あ~そう言われるとどうしようもない。

 俺が湊のために何でもしてあげたいように、湊も俺にしてあげたいのだろう。

 二人でコスプレ大会して遊ぶのもいいと思っていたけど、ここは恋人を受け止めるのが正解だろう。


「朝からいつまででしょうか?」

「寝るまでかな?」

「長いな~」

「なんでもご奉仕するよ♡」


 コマンド

→・受け入れる

 ・何をお願いしようか

 ・ご奉仕カモンッ


 俺の中のコマンドは否定というものはないようだ。

 寝起きで驚いただけと説明が欲しかっただけだし。

 だって彼女にメイド服をきてご奉仕しますと言われて拒否る男はいるか?いやいないっ。

 ワタクシマダマダワカイノ。


「で、このまま続ける?」

「・・・続行で」

「口調は?」

「・・・メイドでお願いします」

「わかりましたご主人様♡」


 スルスルスル


 たぶん自分の前世は相当な善行をしたのだろう。

 そしてその善行はもの凄い勢いで現在消費されております。



 湊視点

「あーーー」


 周平がソファーに横になって顔を隠している。

 朝のご奉仕のあと、ふわふわ状態になった周平を連れてリビングにむかった。

 私が作った朝食をあ~んして食べさせてコーヒーを飲ませるとなぜか顔を隠したのだ。


「どうして周平が恥ずかしがるのかな?」


 口調はご奉仕の時だけに限定されたので今は普通に喋っている。


「いやそのな?」

「ご奉仕して嬉しいのか?」

「うわあぁぁっ」

「湊は誰のものだ」

「あああああっ」

「ほらおねだりしてみろ」

「やめてくれえぇぇっ」


 ご奉仕中の周平語録を再生するとビタンビタンとのたうち回る周平魚。


「Sの気は前からあったけど周平はシチュにのめり込むんだね」

「服がいけないんです・・・あと口調も、こう俺の心の何かが刺激されて・・・」


 周平はなかなかのご主人様気質でした。

 メイドの私はとっても大満足だったね。

 周平の嗜虐心が出てきたみたいに、私も被虐心が出てきて興奮した。

 中学生の時に周平が隠し持っていたメイドの漫画の気持ちがよくわかる。これが奉仕の心なんだと。

 でも今の周平は羞恥心の塊になって相手をしてくれないのでちょっと寂しい。


「周平周平、時間がどんどん過ぎていくけど」

「・・・もうちょい待って。今心が折り合いをつけている最中だから」


 も~恋人が相手をして欲しいのに殻に閉じこもるなんてダメダメなんだから。

 しょうがないもう少しあとでお披露目しようとしてたのを出そうか。


「あのねご主人様」


 顔を隠す周平の耳に唇を近づけて甘く囁く。

 ピクリと彼の身体が反応した。


「私、ご主人様の気を引くために少しはしたない下着を着けているんです」


 指の間から覗き始める周平。

 その目の前に立って、スカートの前の方を掴み少しずつ持ち上げていく。

 白の靴下を裾が越えても白いまま。


「見られてしまうとお叱りなさるかもしれません」


 裾は膝を過ぎ太ももの中頃まで持ち上げられて白のストッキングのレースの部分とそれに繋がるストラップ見えてきた。

 周平の目は完全に私の脚に釘付けになっている。


「これ以上は・・・恥ずかしいです」


 顔を背ける。

 演技ではない、さすがに私も恥ずかしいのだ。

 それが効いたのかご主人様は復活する。


 白のガーターベルトとレースのストッキングを買っておいてよかった。

 まさかメイド服に合わせることになるとは思ってもみなかったけど、周平には大好評だったみたい。

 下着?それはご主人様にしか見せられないよ。



ーーーーーーー

周平「この年でこんなに性癖が開発されていいのだろうか・・・」

湊「大丈夫だよっ!メイドなんて彼氏さんからみれば初級だって」

周平「なんで知ってるの?」


文字量は多いのに書けない部分が山ほどある回です(;´д`)

まあノク○ーンに書くんですが( ̄▽ ̄;)

そのぶんこちらを書くのが難しいこと難しいこと(--;)

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