第146話文化祭の出し物は?


周平視点


 湊は許してくれなかった。

 俺の刑は寝るまで湊へご奉仕することだった。普段より少し甘やかすだけでたいして変わらなかったが満足されたようである。

 

「何かしてあげようとする心が嬉しいの」


 湊が嬉しかったなら俺も満足だ。

 

 次の日、治療痕の友人がいたが些細な事である。それよりも眞子さんとの距離が少し縮まっていたのは友達として喜んだ。

 教えてはやらない、すぐにボケるからめんどい親友なのだ。

 かわりに湊が話して眞子さんが照れているので俺の代わりになっているだろう。


 そして一週間が経った。

 その間起きたことは友人の怪我が凄い速さで治っていくのを観察するぐらい。髪もすぐに伸びるし、本当に変な奴である。

 あと眞子さんが学校での友人への接し方が近くなったおかげで、友人に気があると考えた六組女子が数名出てきて、本人達ではなく俺に話しに来るのは止めて欲しい。

 保護者じゃないし、二人の偽装工作までしなければならない。あとその度に湊に報告しないと日照り神様が嫉妬してきそうなので宥めるのが少々面倒。それも可愛いのだが毎度毎度となると。


「今日は文化祭の出し物を決めますよっ!」


 週一あるLHRに我がクラスのアイドルミニマムティーチャー梅ちゃん先生が大きな声で宣言した。

 教卓にバンッと手を振り下ろしているが梅ちゃん用のシークレットシューズならぬシークレット台に乗っているのは全員が知っている。他のクラスにも専用台があるのは愛されているからだろう。


「だいたいは三つに種類がありましてね。ふぬっ、ぬぬっ」


 梅ちゃんはミニマムである。

 なので黒板の半分より下にしか書くことが出来ない。

 いつもはチョークを先に付ける棒を持っているのに忘れたのか必死につま先立ちで書こうとしていた。

 そのぴょこぴょこした動きにクラス全員の心が一致する。


「はぁ可愛い~」

「あの生物は何なんだ?」

「ヒト科ヒト族じゃなくて梅科梅ちゃん族よ」

「俺このクラスで良かった」

「心が洗われる」

「ああ、梅ちゃんを飼いたいな・・・」


 出てくる声が本能まる出しなのが怖い六組だ。一人湊と同じことを言っている女子がいるけど止めましょう。可愛いのは愛でるだけで。


「あー眞子さん、話が進まないからクラス委員のお仕事みたい。あと女子の誰か梅ちゃんを玉座に」

「・・・はっ、そうですねっ」

「「「はーい」」」


 俺の声かけに愛でる状態から復帰してくれた眞子さんが立ち上がる。

 

 俺が愛でても呆けていないのはたびたび昼食時にやってきて友人並みに食べていく梅ちゃんの姿を見ているから。

 最近は調整するために悪魔の誘惑クッキーを予備で持っているのです。いやまあ体育祭以降、カロリーを取っておかないとやつれそうなので、少し負担になっているミニマムティーチャーにそこまで魅了されなくなった。

 おかげで飽きがこないように調整したドライフルーツ入りやチョコ入りの悪魔の誘惑クッキー改に進化したけど。生徒会、校長には大好評で調理部先輩女子達からは大不評をいただいた。


「はいはい梅ちゃんちょっと座っておこうね~」

「む、なんですかっ。私は書くのです私が書かないとぉ」

「あたしが書いておくから何を書きたいの?」

「まず座ってからね」


 眞子さんと俺(一応副クラス委員だった)が教壇に行く前に女子達が梅ちゃんを誘導していく。


「梅ちゃん、ちゃんと座ったらクッキーを上げますよ」


 教師としての役目の為に抵抗する梅ちゃんに今日は食べなかったクッキー改の入った袋を見せると大人しく指定のパイプ椅子に座った。

 女子にクッキー改を渡して梅ちゃんを餌付けしてもらう。

 子リスが両手でクッキー改を食べる姿の為に女子が三人魅了状態になったが尊い犠牲と割り切る。


 教壇に眞子さんと二人で立つ。

 女子が梅ちゃんの言葉を書いてくれたのと教卓の上に置かれた教師用の文化祭の資料を読んだ。

 漫画の様な順位などはないようでホッとする。

 体育祭の時みたいに湊に勝負を挑まれることは無くなった。


「はい今から眞子様からありがたいお言葉がいただけるから静かにしような」

「どうして難度を上げるようなことを言うんですか・・・」


 眞子さんに睨まれた。

 いやほら、現にクラスメイト達は静かにしたよ、人の不幸が好きな連中だから。


「え~、梅田先生が言った通りに文化祭での出し物を決めたいと思います」


 梅ちゃんが書こうとしたのは、出店、舞台、教室だ。


「大体この三つから選ぶそうです。後は中庭など広い場所でパフォーマンスするかなどです」

「あ、舞台は部を上級生で殆ど埋まりますから、出店も部屋が無い部が大体ですね」


 クッキー改を食べつつの梅ちゃん助言だ。

 黒板に書いてあった舞台にバツを上から書き、出店もワンチャンと横に書いた。


「はい、案があるなら手を上げて発言してください」

「「「最初からもの凄い制限っ!」」」


 問題児達が騒ぎだした。


「教師用の資料を確認したけどほぼ出に鉄板、ガスボンベなどはレンタルされるから規模の大きなものは出来ない」

「うがあぁぁっ!上級生ぃぃっ」

「大物制作作品も金銭面は一年は渋です。予算が設計図とどのくらい予算がかかるかはっきりしてない出ないみたいです。二年生以降に一学期ぐらいから考えないと間に合いません」

「「「事前に知らせろよ学校っ!」」」

「ひぅっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「「「あ、いえ梅ちゃんのせいではないから」」」


 本当に面白いよこの六組。


「舞台も部活や有志の人達で殆ど埋まるみたいです。もし許可が下りても優先順位では一年の私達は低いかも・・・」

「「「「「具視の舞台がっ」」」」」

「「「誰がするかっ!」」」


 元具視達は周囲の連中に封殺される。その中に友人が紛れなかったことにホッと息をついている眞子さん、そうだよね彼氏が再び具視になるのは嫌だよね。

 その元一号の友人はどうしているかというと、珍しく起きていた。LHRなどは基本白目で寝ているのにだ。


 元具視にクラスメイトが視線が集まっているので眞子さんの顔を見ると。


「眞子さん眞子さん、友人が起きてちゃんと座っているので笑顔になっちゃ駄目」

「はっ、ご、ごめんなさい」


 顔を引き締める眞子さん。見られていた確定でバレそうなニコニコ顔だった。文化祭の出し物を決めるのが断罪裁判に変わるところだ。

 いあや、少し汗が出たので拭ってたところで視線を感じた。


「っ!?」


梅ちゃんが俺と眞子さんをジーと見ていた。

 俺と目が合う。

 その顔はみんなのアイドルではなく、教師でもなく、大人の女性であった。なので口元に人差し指を置いて沈黙をお願いした。

 ニッコリ笑った後、梅ちゃんはクッキー改の攻略に戻る。

 初めて梅ちゃんが大人だと感じた。すぐに元に戻ったけど。


「はい、楽しむのだったら大人しく教室出し物が良いと思いますがみんなは?」

「「「賛成―」」」


 眞子さんに賛同する六組生徒。

 これも真面目な眞子さんの人徳のおかげだろう。ほとんどまともな奴がいない六組だから苦労人に任せたいのかもしれないのは秘密にしておく。


「ではしたい出し物を・・・」

「「「メイド喫茶っ!」」」

「お化け屋敷っ」

「「ヒッ、それはダメだ!」」

「お祭りの出店」

「執事カフェっ」

「「「それだっ!」」」

「「「女子達がこえーっ!」


 一応、俺と眞子さんが展示物とかはと提案してみたがするなら楽しんで見回るのもしたいと強欲な言葉が返ってくる。中学生の頃に優等生を目指した時にしたことがあるが文化祭はクラス委員に結構な負担がかかる。

 大事になっていくほど生徒会や教師との交渉、調整、物資調達の為に町の店に頭を下げたりと出し物の進捗状況管理の面倒くささが跳ね上がるのだ。

 中二の時にやったがあまりしたくない、展示物が超楽なのはその時の他のクラスの委員に聞いたから、たぶん眞子さんも中学生の時の体験だろう。絶対にクラス委員になっているだろうし。


「なぜメイド喫茶と執事カフェが同数に」


 多数決で決めることにしたら二大厄介ものが同数で残って眞子さんが悩む。


「王道はメイドだろうがっ」

「何言ってんのよっ、女性を取り込める執事カフェが収益は出るのよ」


 そして完全にクラスが男女に分かれて言い争いが始まった。

 男連中はメイド喫茶で女子は執事カフェ。

 つまり人前で恥を晒すの押し付け合っている。

 ストッパーの梅ちゃんはクッキー改を食べながら青春ですね~と放置。しまった梅ちゃんに渡したのクッキー改の袋は生徒会用でかなりの量が入っている。まさか全部食べるつもりだろうか。


 六組は完全に二つのどちらかに決めないと駄目なようだ。

 メイド服もだが執事服もどうするつもりなのだろうかこいつら。


 教室を半分ずつに分けての関が原に眞子さんはオロオロしまくり、俺はしばらくすれば収まるだろうと考えていた。

 だって教師用の文化祭の資料には舞台、出店、教室、パフォーマンスで出るお金の金額が違っていて教室は一番少ないのだ。ほぼ毎日料理している俺がざっと計算したが、喫茶やカフェで出す料理でほぼなくなってしまう。

 つまりメイド服や執事服、飾りつけは自費かスポンサーを見つけなければならない。だから熱が冷めれば身の丈にあった出し物に変更されると俺は思ったのだ。


 ただ俺は忘れていた。

 小学四年の時に湊を俺から遠ざけようとしていた男が、俺と自分の恋人を困らせていている状況に我慢できるかと。


 ポケットのスマホが鳴る。

 一応LHRなのでこっそり見ると。


≪閑名も俺のコネも何でも使っていいから、こいつらを黙らせて眞子を困らせないようにしてくれ≫


 友人からのお願いだった。

 見ると机に指をトントン叩いている。自分で解決できないから苛立っているのだろう。


 あー、湊に怒られるかも。その時はまあしょうがないか、滅多に頼まない親友のお助けぐらいはしてやらんと眞子さんも友達で親友の恋人だしな。


「あーお前らの言いたいことはわかった」


 眞子さんは教壇から降りて仲裁をしていたので俺は教卓に手をついて笑う。

 この時点で俺の中学時代を知っている奴等はヤバいという顔をしていたがもう手遅れだ。友人が俺の制限を取り払ったからな、普通の高校の文化祭では無理な事してやろう。


 眞子さんと俺の昔を知らない連中はポカンとした顔、梅ちゃんはしまったという顔をしているけど一歩遅かった。

 教師用の文化祭の資料を俺に見せたらダメだよ。うん、スポンサーがついても金銭面ではダメで物はオッケーなんてもう穴だけじゃないか。


「メイド喫茶も執事カフェも実行してやる。ただし当日は馬車馬のように働けよ」


 この後俺はある人に連絡しないといけない。あと友人と眞子さんにも協力してもらう、さすがに俺一人では動かせない人達だからな。


「あ元具視達、お前らは文化祭の間は具視になれよ。正式な服も用意してやるからな」

「「「「「具視に衣装あるのっ!?」」」」」


 あるんだよ。そしてお前らが結構重要な存在だからな。さすがに上着ぐらいはお願いするからほぼ全裸は。・・・二人ぐらい別の髪型にしない?そちらの方が喜ぶお方がいるのよ。



ーーーーーーー

周平「どうするかな~♪」

眞子「何をしたんですかっ!」

友人「まずったかな?」

湊「三人楽しそうだな~、ちょっと寂しいよ」


周平は自分からは動くのは湊ぐらいですが、友人や親しい人に頼られたりすると動いてくれます。

ただし生徒会がつけた災害ですから制限をかけないと平気で人を巻き込んでいきます(;・ω・)

湊が側にいないからさらにヤバいです。

そして後で湊に怒られます。( ̄▽ ̄;)

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