第143話メシテロ程ではない


 湊視点

「ただいま」

「おかえりないさい。ご飯にする?お風呂にする?それともわ♡た♡し♡」

「はいはい、メシ食うぞ~」


 満面の笑みで玄関で待ち構えたのに周平はスルー。

 脇を通り過ぎる彼の首に腕を回して身体を預けた。


「もぉ~そこはお前だよ、でしょう?」

「隣のお前の家にメシを届けただけで、そればかりなら死ぬわ」


 私を引き摺りながら周平はリビングに入り、そのまま台所に入って行く。


「ママ達は?」

「なんかすっげー高そうな形の瓶の赤ワイン出して飲んでたな」

「ふむふむ、今日の料理には合いそうだもんね」


 台所にたった周平がまな板の横に置いてあった密封された耐熱の袋を開ける。袋から出てきたのは肉の塊。にんにくと肉汁の匂いがいい匂い。


「手、邪魔」

「は~い」


 彼の首に回していた手を腰に回す、これなら邪魔にはならない。顔を横から出して除く。


 周平専用の、葬儀の後の返礼品のギフトので取った約一万円の包丁で少し厚めの私好みに肉を削いでいってくれた。

 外側はしっかり火が通っているのに中はピンクというより赤に近い色、ローストビーフだ。


「端の方が私好きだったんだけどな」

「ちゃんと確保してある」


 包丁で指す袋の中身には小さな塊が、出されると肉の端の部分だった。

 私の為に取っていてくれる彼が良い男過ぎて堪らない。


 切られていく肉が大皿に赤の大輪を咲かせていく、中心に二枚の端の部分を置いて皿の縁にはかいわれ大根をちりばめた。


「少し赤ワインをくすねてきたから俺達のソースはちょっといいのにする」


 そう言って蓋付きコップをポケットから取り出して。


「それずっとポケットに入れてたの?」

「保温機能が付いているから大丈夫だ」

「気分的に少しビミョーです」


 フライパンに袋に残っていた肉汁を移し始める。


「油は?」

「少な目で」


 キッチンペーパーである程度油をふき取ってくれた。玉ねぎをすりおろし水と赤ワインを入れて沸騰させてアルコールを飛ばし、バルサミコ酢と醤油を少々入れていた。最後にマーガリンを入れて出来上がり。


「こういうときはバターあればいいと思う」

「味のレベルが上がると下げるのが嫌になるからね。私達庶民は良いモノはお店でだね」

「バルサミコ酢は湊ママが飽きたヤツでけっこうお高いのなんだがな、まさかマーガリンと合わされるとは生産者の方も思うまい」


 時東家の台所の一部は周平の調味料コーナーがあるが基本の調味料以外は母―ズが買って放置したものばかりだ。なので周平の料理はそれらの調味料で味を調えるで毎回違う味になる。私が気に入ったら固定されるのが嬉しい。


「ほら食べるぞ」

「連れて行け~」


 後片付けも終わった周平の首に再び腕を回して身を任せる。呆れているけどそのままリビングに連れて行ってくれた。


「う~むこれだけ量があると最後の晩餐かと思うよ」

「半額シールが付いた牛モモと三割引きのブリと鯛だけどな」


 テーブルの椅子ではなくソファーの方で今日の晩御飯は食べる。

 私が先に座り、その隣に周平がローストビーフをテーブルの上に置いて座ってくれる。

 テーブルにはローストビーフに酢飯が入ったボウル、海苔にその中に巻く魚や卵に野菜があった。


「手巻き寿司は湊の希望でローストビーフは半額だったから作ってみたがどうだ?」

「うむうむ満足です」


 なぜこんなに豪華かというと球技大会が私の生徒会で初めて活躍したから、ママ達がお金を出してくれたのである。周平は外で食べようとしていたけど、私的には周平が作るのが一番美味しいのでいつものスーパーではなく、複合施設のスーパーにデート兼買い物に出かけたのだ。


「それではいただきます」

「いただきます」


 私の合図で周平も手を合わせる。


「具はどうする?」

「ブリたまごかいわれ」


 海苔を手に取り、酢飯を均してその上に置いて周平の具材を乗せてくるくると巻いた。


「はいあ~ん」

「ん」


 小ぶりに作ったから男の周平には差し出されたのをすぐに食べ終わる。

 その間に自分の分を作って食べた。


「スーパーで魚の質が変わるよな」

「こっちの店の方が割り引かれても美味しいよね」


 批評をしながら食べ始めた。

 私が手巻き寿司を巻くのは周平が巻くのが苦手だから、なぜか巻くとはみ出すバランスの悪さ、普段の料理は盛り付けられるのに彼は手巻きを苦手にしているのである。

 だからうまく巻ける私が巻く係に自分で任命した。私の好きな料理に手巻き寿司が入るのは、作って食べさせるまでを私が出来るように周平を躾けたから。

 手渡しでいいのに食べさせるのが当たり前にするのは苦労したのです。


「はい次は周平の番だよ」


 数本手巻き寿司を食べた後は周平が私にご奉仕する番。


「マジでこっちもするのか?」

「今日は私のためのご飯なので私の我儘が通じま~す」


 仕方なしに周平はローストビーフを摘まみ、私の口に運んできた。

 軽く上を向いて口を開ける。


「んっ」


 赤身の肉が半分口内に入り歯で噛み千切り舌の上に送る。濃厚なソースの味を感じたあとにしっとりした肉が旨味を出してきた。


「ん、ちゅっ」


 最初の分を食べ終わるまで待ってくれていた残りも口に入れ、周平の指についたソースも舐める。

 舌で口内に誘導し、一滴も残らないように指の腹、爪、第二関節までしゃぶりつくした。


「チュパッ、はぁ美味しいぃ」


 綺麗に舐め終わって離してあげた。


「お前なぁ」


 呆れているような、照れているような周平。ん~ゾクゾクする。


「私も食べさせてあげようか?」

「そのままもつれ込みそうな気分になるからいらない」

「それは美味しいのが渇いて味が落ちるから止めときます」


 その後は普通に食べた。手巻き寿司だけは餌付けですけど。


「ところで周平、台所から甘い匂いがするんだけど」


 食べ終わるぐらいからチョコの匂いが漂ってきた。


「ああ、怠惰を作っている最中」

「怠惰っ!」


 怠惰は周平が作る大罪スイーツの中で唯一まともなスイーツである。暴食や傲慢のような罰ゲームではない単純に美味しいだけ、なのに怠惰の名がついているかというと。

 台所からピーピーピーと電子音が聞こえてきた。


「お、出来たみたいだ。食べれるか?」

「食べるさっ!」


 私は出来立てが一番美味しいと思っている怠惰だ。

 ちょっと待ってろと言って周平が立った。

 台所に行く周平をワクワクしながら待つ。


「ほいお待ち」


 周平が持ってきたのは大きめの皿にドンッと置かれた黒い高さ低めのドーム状の物体、その上には粉砂糖が雪のようにまぶしてあった。

 ふんわりとほろ苦いチョコの匂いがする。


「自分で切るか?」

「ん~見ていたいからお願い」


 周平にお願いして切ってもらう、半分に切られた黒の物体が横に広げられるとドロリしたチョコが溢れ出てきた。チョコの匂いがさらに増す。

 一人前のサイズに切り分けられて小皿に乗せられた。


「飲み物は閑名家高級紅茶パックです」

「私の恋人は万能執事かな?」


 一度台所に戻って飲み物を持ってきてくれた。


「飾りのミントが無いのが不満だ」

「たまに思うけど周平はどこに行きたいのかな?」


 渡された黒い物体、怠惰のフォンダンショコラを切り分けて口に入れた。


「ん~っ!この甘さ控えめのがなんとも」

「あ~チョコを全部ブラックでしたしコーヒーを少し入れたからな」


 食べる怠惰は濃厚で甘さ控えめどころか苦みがあるぐらい。紅茶で口内をリセットして食べてもワンピースで満足できる。

 どうしてこのフォンダンショコラが怠惰と付けらているのかというと。


「久しぶりの怠惰は美味しいね」

「炊飯器のおかげだ」


 そう材料を混ぜて炊飯器に入れる順番を少し注意するだけ、作る側がたいしてなにもしないのに美味しいので怠惰と周平が名付けた。


「私が作っても同じように出来ないんだけど」

「混ぜて入れるだけなんだがな」


 二人で首を傾げる。

 何故か大罪スイーツは周平にしか作れない。一番簡単な怠惰のフォンダンショコラも中身のトロリ感が上手くできない。


「残りは冷蔵庫だ」

「ママ達には?」

「あ~湊と一緒にいたいから明日だ。冷えても美味いのが怠惰だしな」


 腰を少し上げて私の方に移動してくれる。

 言葉とその行動に嬉しくなった私は周平に寄り掛かった。


「んふふっ」


 私は周平限定の安い女です。だけど彼は高くで買ってくれるので大満足しているのです。



ーーーーーーー

湊「怠惰は美味しいけどそんなに食べられない」

周平「切り分けた分だけでも板チョコ半分以上は入っているからな」

湊「抹茶バージョンも食べたいな~」

周平「太るぞ」

湊「そこは夜に頑張れば♪」


湊におとなしくしてもらったら大罪がしれっと登場( ̄▽ ̄;)

怠惰もローストビーフも炊飯器で作っています。どちらも作るには中々のお値段がします(;´д`)


怠惰のフォンダンショコラ

周平が作る大罪の中で一番手間のかからないスイーツ。普通に美味しくてバージョンがいろいろある。

湊が好きだから時々作るが、本人は作り方が怠惰に感じるあまり好きではない。母ーズもすきな一品。

濃くて続けて食べられないので知られていないが、カロリーは中々のお高い。


コメディーが大人しい・・・具視・・・ダメッ!

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