第25話昼食会は誰得?

なろうで少しだけ先行して書いています。



周平視点


「やあ、今日は来てくれてありがとう坪川さん」


 湊が坪川さんを笑顔で迎えた。

 

 俺達がいるのは中庭ある休憩場所だ。

 テーブルと長椅子があって天気がいい日は生徒達が昼食を食べている人気の場所だ。ただし入学したての一年生が使用できる場所でもない。ほとんどが三年生で、たまに二年が使おうとして先輩に没収されている。


 どうやってそんな場所を使用できるかというと、湊の根回しと友人の交友関係の伝手であった。中学時代にお世話になった先輩達に連絡を取って今日この昼休みの時間使うことを許された。

 高校生活という狭い世界の中でそれを短期間で実現するのは難しい。それが出来る湊と友人は凄いと思う。思うだけだ、嫉妬なんて今は少しも感じない。


「きょ、今日は招待していただきありがとうございます」


 坪川さんは緊張しながらも挨拶を返す。

 きっちり深く頭を下げる坪川さん。


「私がお礼をしたくて無理を言って来てもらったんです。そうかしこまらないで下さい」

「いえいえ、お礼だなんて持っていってもらったんですから、私がお礼をするほうです」

「そんなそんな、こちらがお願いしたことなのでお礼するのはこちらで・・・」

「いやいや、それこそ・・・」

「そんな・・・」


 凄いな坪川さん、湊とどちらがお礼をするかで言葉のクロスカウンターの応酬をしている。不利なのは湊ほうかな、お礼の理由が俺と一緒にいられる権利という湊限定の価値だから理由として弱い。


「それではお互い様ということで」

「ええ、そうですね」


 二人はすり合わせて妥協したようだ。

 波風立たせずにいつの間にか場を収めるのは地味に凄いと思う。湊は優秀な故だが、坪川さんは一部凄いところがあるが普通の人だ。でも委員長を出来るぐらいだから場の流れがわかるのかもしれない。


「うおーい、もういいか?腹が減って死にそうだ」


 二人のやり取りに飽きた友人はすでに長椅子に座ってテーブルに伸びている。


 それを見て二人は笑った。


 友人の場合は場を読まずに、壊しても良い方向に持っていく。本能で持っていくから凄い才能なのだろう。


「友人君の言うと通りだ。あとは食べながらいろいろとお話ししようか」

「そうですね。私も少しお腹が空いてきました」


 少しの会話で仲良くなってるな。良いことだ。


 俺がどこにいたって?

 ずっと坪川さんの後ろで地味にいましたよ。

 対面の湊からどうして私の隣に来ないのと、テレパシーを(目で)送られてきましたが、ライオン(湊)の前に出向くウサギ(坪川さん)が可哀想なので後ろで応援していただけだ。

 たぶん、この件で家に帰ってから湊がいじけるのでケアしないといけない。


「周平が座る席はそっち、腹ペコのとなり。坪川さんは私の隣ね」

「え?あ、ありがとうございます」


 いつもの様に湊の隣に座ろうとしたら拒否された。でも坪川さんを自分の隣に座らせるのは女性への配慮だろう。馬鹿の隣に座らせるのは酷だしな。

 こういう配慮が湊が女子に人気が出る要素の一つだ。サラリとこなすのが素敵と聞いたことがある。


「さあ、周平。お弁当を出して」


 俺にはそういう配慮は無い。友人には無いどころかボケると罰が下るときがある。


 俺は持ってきた弁当をテーブルの上に広げた。

 四人分の弁当を持ってきた俺に感謝の言葉はない。くすん。


「わぁ」


 坪川さんが少し驚いてくれた。少し嬉しい。


 テーブルに広げられたのは運動会で親が持って来てくれた重箱だ。


 三段の重箱には種類別に分けられている。

 一つ目はサンドイッチがぎっしりと詰め込まれていた。

 定番の卵、トマトレタスベーコン、とんかつが挟まれたのもある。

 二つ目は卵焼きに、唐揚げ、チキンナゲット、アスパラを巻いた肉巻き、、プチトマト、ポテサラなどお弁当定番のものが入っている。

 最後は飾り切りしたオレンジやリンゴ、マスカットが入っている。


「足りないな・・・」

「俺達の主食はこっちだ」


 重箱を見て不満そうな友人の前に、別の容器にはいったおにぎりを出す。


「中身は梅、おかか、昆布、ツナマヨだ」

「やったぁ!周平愛してるぜ!」


 友人が抱きついてこようとするのを手で防御する。

 愛してるなんて言うな、湊が暗い目で見てるだろうが。親友でも湊は潰すぞ。

 それに坪川さんの資料映像をこれ以上増やすな。鼻息が荒くなって委員長キャラがくずれかけている。


「よし、食べる前に坪川さんの為に自己紹介しようか。私は穂高湊、周平の彼女です。湊と気軽に呼んでね」


 湊が先陣を切る。


「俺は時東周平、湊の彼氏をやってます。周平と呼んでください」


 俺の事は知っているだろうが一応だ。


「最後は俺だな」

「この馬鹿は閑名友人、いつも隣の席で迷惑かけてすいません。ヒマジンと略すと怒るので馬鹿と呼んで」

「おおぅい!なんで周平が俺の自己紹介をするんだよ。あと怒りませーん、嫌いな奴に言われたらぶん殴るだけですぅー」


 馬鹿に坪川さんは笑ってくれた

 少しの間、坪川さんは笑うと顔を上げて俺達を見る。その表情は笑顔だ。


「私は坪川眞子です。周平君と友人君のクラス委員長をしてます。眞子と呼んでください」


 坪川さんの自己紹介に俺達は一瞬止まり。


「眞子ちゃん」

「眞子さん」

「眞子先生」

「せ、先生ってなんですかー!?」


 湊、俺、友人の順で呼び方を言ったら友人がボケた。

 いや、ある意味眞子さんは先生だ。ある業界では。それを本能で気づいたのだろうか、この馬鹿は。凄いな。


 すり合わせた結果、先生呼ばわり以外はオッケーになり、眞子さんは俺達の事を湊ちゃん、周平君、馬鹿・・・ではなくて友人君と呼ぶことになった。


「それでは遅くなったけど食べようか。はい、みんな手を合わせていただきます」

「「「いただきます」」」


 各々、自由に食べていく。

 湊と眞子さんはサンドイッチ、俺はポテサラ、友人はおにぎりに唐揚げのダブル持ちだ。


「このサンドイッチ美味しいですね。湊ちゃんが作ったんですか?」


 眞子さんが食べているのは卵のサンドイッチだ。

 ゆで卵を崩したのではなくだし巻き卵を挟んである。


「いや、作ったのは周平だよ」

「え?」


 眞子さんが一瞬停止したあと俺を見た。


「テレビで美味しそうだったから作ってみたんだけど、普通の卵サンドのほうがよかったかな?」

「い、いえ美味しかったです。じゃあ、こっちの唐揚げは・・・」

「それも周平。というより飾り切りしたデザート以外は全部周平が作ったんだよ。わかるかな眞子ちゃん、彼氏が自分よりも料理が上手い自慢と微妙な敗北感」

「・・・」


 眞子さんは驚いていらっしゃる。

 俺からすれば普通の事なんだがな。今日のお弁当は少しだけ凝ったぐらいで。


「湊、口元にソースが付いてる」


 カツサンドのソースが湊の口にうっすら付着していた。


「ん、取って」

「しょうがないな・・・ほら取れたぞ」

「ありがと」


 指で拭った。指に付いたソースは自分で舐める。


「人前で当たり前の様にイチャつく・・・ああ、画像で保存したい」


 しまった眞子さんが腐の人だとわかっていたが、俺と湊でもいけるのか!以前に冗談で湊が男性化されると言ってたが、腐は奥が深いな。


「うっしゃぁ!おにぎり終わり!次は唐揚げだ」

「あ、おにぎり十個作ってきたんだぞ!俺なんて一個しか食べてないのに、これ以上食うな馬鹿!」

「ハムハムハム」

「湊も高いヤツだけ食べるんじゃない!カツサンドとマスカットは俺も食べたいんだ」

「ああ、資料が貯まっていくなぁ」

「眞子さーん、早く食べないとこいつらに全部食べられますよー」

 

 混沌と化した昼食会は昼休みギリギリまで開催された。



ーーーーーーー

湊「おっ友達♪おっ友達♪」

周平「湊に友達が出来た」

眞子「棚じゃなくフォルダ分けにしないと!」

友人「メシうめぇー!」


さて誰が一番得したでしょうか?

次はなんの話を書こうかなー(脳内ストックゼロ!)(;・ω・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る