第191話初日照り?


 

 周平視点

「ふっ、もう驚かないぞ」


 着物に赤フンを締めただけの下半身。その自分の姿に俺は瞬時に理解した。

 ここは雨乞いの世界だ。


「つまり夢だ」


 湊と二人っきりのクリスマスから正月までをすごす為に、親の食事を作り絞られ作り絞られ…。

 久しぶりに良い食材で試したい調理をでき、湊のサービス満点だったサポートもあったので満足ではあった。

 味見でカロリーを取って、湊に絞られるという日々に不満を持ったらモテない男達に殺されることぐらいは知っている。

 年末は忙しく働き大晦日、ではなく元旦に年が変更してからの若さ爆発したけどなにか?

 何か言いたい奴はかかって来いっ!

 ただし雨乞いでなっ!


「と思いながら力尽きたのが悪い方向に夢がいってしまったか…。雨乞いワールドが初夢なんてなかなかにハードだと思うけど、意見のメールは創造主に送ればいいんだろうか」


 したらしたで羨ましがられてどうやって見れるのか脅迫ごうもんされそうなので止めておこう。

 保護者かれしさんには夢に見るから自キャラの育成中に強制介入は止めさてくれと送ってはおこう。

 二重之塔折れ鍬巨城がいつまでも作れないし、友人が最近村人あにまるから甲虫に興味を出してムシ王を創り出そうとしているのが一向に進まないのだ。


「起きたら友人に抗議のメールを送らせよう。被害は最小限に抑えた方がいいからな」


 でも最近は考えることを覚えた友人である。メリットデメリットを笑いに求めたらダメだと教え込んだのに、人さるは恋をすると成長するんだな。チッ。


「さて目が覚めるまでこの世界あくむからは出られないからどうするか」


 さすがに三回目もなると冷静に対処できる。

 赤フンをキュッと締めなすのもTバックで慣れたから大丈夫だ。やはり似た経験をするのはいいことだ。


「ふっ、やはりいるよな」


 そして右手には折れてささくれた断面を赤を通り越して赤黒くなった武骨な木の棒。

 退かぬ!(折れるものか!)媚びぬ!(神でも殺ったる!)省みる!(折れた先が戻ってほしいっ!)

 折れた先は隣村に忘れてきた鍬の中の鍬の王、折れ鍬だ。

 軽く握ると手に馴染んでしまう。


「あ~暴走していた時に自分を追い詰めていた声のようなものが聞こえるわ」


 声というより意志みたいなのが心に響いてきている。

 おそらく折れ鍬のものだろうが、あいにくとそういう類はほとんど効かない。

 入院している時に精神科で診察してもらったらもの凄く意志が強すぎると言われた。

 いい風に言うと自分をしっかり持っている。

 悪く言うと人の言うことを聞かない唯我独尊ゴーイングマイウェ~イな自己中野郎なのだ。


「わかったわかった」


 聞いてくれていないと判断したのか圧力が数倍に増えるけど、スルーな俺です。

 ただうるさいのは年の初めの夢でツラい。


「無理矢理言うことを聞かせようとしないでも大丈夫だぞ折れ鍬。お前の求めているのは大体わかっているから」


 お、圧力が少し収まった。

 本当に?と聞いているみたいに思える。


「ああ、あれだ。目が覚めるまでノーマルな雨乞いライフを過ごそうとした俺の軟弱な考えが気に入らなかったんだよな。雨乞いなんてするよりも。、隣村から奪い、獣を罠にかけ、ヒャッハーを引ん剝く、それが狂喜の雨乞いだっ!


 使えっ!

 使うのだっ!

 肉を貫けっ!

 骨を叩き折れっ!

 血肉を耕すのだっ!


 折れ鍬の意志が伝わってくるぜっ!

 お?さっきよりも殺る気だな?

 ピコンッ。

 タイミングよくウィンドウが表示された。


 あなたの村が全滅するまでのこり七日!


 ・隣村を襲撃する。

 水源を確保した隣村は油断してるよ。攻め込むなら今だ!


 ・山に入って食材の確保。

 山に入って食材ゲット!だけど狼、猿、山賊、山の神(大猪)などが殺意満々で襲ってくるよ。初心者には絶対に無理!


 ・お役人に税の免除を請う

 上の方なんてこちらを畜生以下としか思ってないよ。すぐに完全装備の武士が数百人で殺しにやって来る。死にたいなら確実だ!


 ・殺られるくらいなら殺っちまえ!

 専守防衛、それは略奪しにくるヒャッハー達をぶっ殺して金目の物を奪い取れっ!無限に湧くヒャッハーはなかなかやっかい。

 さあ、ヤらないか?ヤったら一部のヒャッハーが仲間に、ただし内股走りになるので速度大幅減。腕力増大。


 ・雨乞いをおこなって創造主ご降臨(今なら初売りセール!95%の確率で出現するよ♪後の5パーは日照り神様)


 最後のはダメだ。

 覇王ロードを歩もうとしているのに、保育園児の先生より育児に邁進することになる。

 初夢、子守り。

 湊に素直に言ったら元旦から家庭内裁判が始まってしまう。(有罪は確定、ほぼ尋問)


「誰かいるかっ!」

「どうしたべ村長」

「おお、お前は日照りで村が終わるのを教えてくれる村人堀吉。これから村の為にやるべきこと皆に伝えるから広場に呼んで来てくれ」

「わかったべさ」


 俺の言葉に素直に従い村に書ける堀吉。

 彼が出現したということは雨乞い2、いや2.1の可能性もある。そこら辺は追々情報が集まればわかってくるだろう。

 ちなみに雨乞い2.14では堀吉はヒャッハーに拉致され名前通りに…。

 創造主は恐ろしい存在だと感じた瞬間である。


「行くか」


 おっとその前に選択肢を押さないとな。

 俺は最後の雨乞いで創造主様ご降臨以外を全部同時に選択した。


「折れ鍬、お前とならたかだか村人、獣、国家公務員ぶし、ヒャッハーぐらい同時に相手さ」


 さすが夢、全部ちゃんと選択されたよ。

 おおうっ、その脳への圧力は少しきついぜ折れ鍬よ。それぐらいお前も気合が入っているんだな!


「さあっ!目覚めるまで雨乞いフィーバータイムだっ!」


 しかし、本来の雨乞いを選択しなかったのはゲームタイトルとしてのアイデンティティに問題は無かったのだろうか。まあ今さらだな。



「これで終わりだあぁぁぁあっ!」

「プギャアァァアッ!?」


 俺の投擲した折れ鍬が巨大イノシシの眉間にまっすぐ突き刺さる。

 折れ鍬の貫通能力は伊達じゃない。

 そして様々困難を乗り越えた赤フンこと俺も能力値はカンスト状態だ。

 毛皮で僅かな抵抗をするが、折れ鍬のささくれが毛をかき分け皮膚に僅かな傷をつけるとそこを一点突破。

 皮膚を貫き骨を砕き脳に完全にめり込んで、後頭部から折れ鍬が貫通して現れた。


「「「やったべえぇぇーっ!」」」


 とうとう最強の敵、隣の山神信長さんを倒した。

 仲間の戦闘員赤フン村人たちが歓声を上げるのでようやく長い闘いに決着が着いたのを実感する。


 折れ鍬を手にして全てを敵に回したときから俺達の村の伝説は始まった。

 まず、ヒャッハーを誘導して隣村を襲撃させてボロボロになったタイミングで救いの手を差し出し、隣村を円満に吸収。残ったヒャッハーはヤる覚悟のある村人に下賜した。

 人口は増えないが相棒と一緒ならなかなかに強い夫夫ふうふが誕生した。

 お役人を騙る盗賊たちは余ったヒャッハーを囮にして山の中へご案内。

 日照りでよく乾燥していた山は良く燃えた。


 そして順調に村を育成していたら、大やけどで瀕死になっていたところを折れ鍬で撃破した山の神と、鉄砲調達の為に見つけだした隣の信長さん(もち貫通殺害済)が怨念によって合体して襲撃してきたのである。

 隣の山神信長さんは強敵だった。

 森神(鹿)と合体した川向こうの義元さんに、平原神(馬)と合体した宗麟さん、沼神(鯉)と合体した氏政さん等が配下にいておらが村(だいたい一般村人が木造三階建てに住んでいる)に攻め込んできたのである。


 強かった。

 全員が国持ちの元武士達だ。

 合体が身体が神でなく人ベースだったから勝てた。

 身体が神なら負けていただろう。

 みんな頭部が獣だからバランスがとりにくそうだった。隣の山神信長さんなんか山神がトラック並みの大きさだから、突進攻撃は必死だったね。

 氏政さんなんかエラ呼吸で酸欠状態だった。


 村人の歓声を隣の山神信長さんの頭部の上に上って受ける。

 おっと堀吉よ、隣のヒャッハーは奥さんかい?それとも旦那?


「これで後顧の憂いなく対日照り神様防衛設備を使用できるな」


 楽しかった夢の時間も終わりに近づいているのはわかっていた。

 だってコマンドウィンドウの右上に数字が減っていくカウンターが表示されていたからね。

 おそらく真のボスは日照り神様だ。

 前の回では日照り神様(中身湊)が登場で目が覚めたからな。


「起きるのは当然だ。だが一度は真正面から撃破してみたい日照り神様っ!」


 そのために近隣の村、町、国を攻め取り、その資材と民を全て村の防衛設備を作るために使用したのである。

 総工費、国が五つほど消滅したおらが村は雨乞い史上最強の超起動城塞都市になったのであるっ!移動には数十万人の人力が必要だけど。


「さあ来い日照り神よ!今日がお前の命日だ!」


 タイマーカウンターゼロになる。

 ちょうど朝日が昇ってくる時間帯だ。


 ゴ、ゴ


「ん?なんの音だ?」


 低く重い音がする。


 ゴゴ、ゴゴゴォ


 次第に大きくなってくる音。


「なんだっ!?なんの音なんだっ!?」


 未知の音に村人たちが慌てはじめて混乱が起き始めた。

 堀吉、お前が旦那だったのか。ヒャッハーが内股で堀吉に抱きついている。


「あれはなんだべだっ!?」


 村人が何か異変に気付いて指を指した。

 その方向は東の山。

 それはおらが村の近くでは一番高い山だった。

 その山際に四つの細長いものが生えていた。

 いや違う生えているのではない、ゆっくりとそれらは動き山に触れた。


「あれは…指だ」


 大きな指だった。

 なぜわかったかというと、そのあとから山の後ろに人のシルエットが現れたからである。

 太陽を背に現れたのはまさかの超巨大日照り神様。


「いくら夢でも巨大化は卑怯だろうっ!」


 俺の苦情は空に溶けていく。

 届けこの想い(宛先は日照り神様びいきの制作者)。


「しゅうぅぅへえぇぇいぃぃぃ」

「しかも湊の精神がパイル〇ーオンかよっ!」


 雨乞い史上最強の超起動城塞都市おらが村は、巨大日照り神様の指先から発射される超極太光線によって蹂躙される。

 ああ、村人が塵にもならず消滅していく。

 堀吉が奥さんのヒャッハーと抱き締めあいながら光の中に消えていった。

 その目は幸せだったと言っているようだった。

 そして俺は。


「くっ!殺せっ!」


 日照り神様の指の間に挟まれていた。

 折れ鍬が飛翔して攻撃するが日照り神様に小さな傷一つつかない。


「折れ鍬よ。まだ日照り神様に挑むには俺達は力が足らなかったようだ…」


 すまない。

 俺が山神は美味しいのかな?森の神はあっさりしているな。馬は馬刺し馬刺し、鯉は甘露煮かな。と経験値を沢山持っている連中を食べたばかりにレベルが足らなくなってしまった。


「日照り神様よ。今回は負けを認めてやろう」


 先ほどからじわりじわりと圧力が増している。あと十数秒で俺はプチッとされるのだろう。


「だが次は負けないぞっ!必ずその身体に一撃を与えて隠している顔を拝mひょえらっ!」


 プチョン。


 ………

 ……

 …


「素直にプチッと鳴れよ俺…」


 微妙な音に納得がいかなくて寝起きが最悪だ。

 横を見るとすぐそばに湊の顔があった。


「あ~最後の死因が圧死だったのは湊のせいか」


 湊はがっちり俺の身体を抱き枕にして眠っていた。

 動けなくて変な夢を見たのだろう。

 片腕はフリーだったのでスマホを見ると、初日の出はとっくに出ているけどまだまだ起きるには早い時間だった。


「おせちは準備できているし、お年玉は昨日確保したからまだゆっくり眠れるな」


 出来る男周平に一票をよろしくお願いします。

 起きたけど、寝ようと思えばまだ眠れる。

 寝たの三時間前だし、初日の出の一時間前に寝たのよ。

 どうして遅いのかは一糸纏わぬ姿の二人で察してくれ。

 カップル初年度の元旦はそりゃ箱が消費されるだろ?

 そういうこと。


 午後から友人達と初詣に行く約束をしているから、もう少し眠って体力を回復するか。

 スマホを頭上に置いて、毛布を二人の首元までしっかり上げてから、その腕を湊の背に回す。

 よし寝る準備は出来た。


 ……


 サワッ


「ん♡」


 うん無―理―。

 ムラムラッとして寝ぼけている湊に覆い被さる。

 大丈夫大丈夫まだ若いから、このくらいの体力消耗は気力でカバーだ。


「あんっ♡」


 …箱の中身は幾つ消費されるかな?



ーーーーーー

湊「美味しくいただかれました」

周平「美味しくいただきました」

湊「たっぷりねっとりとです」

周平「大変楽しい一時だったなぁ」


雨乞いが終わった?

それは嘘だっ!Ψ( ̄∇ ̄)Ψ

今回は元々書く予定ではない回でした。エロ回だったのですが、もう一つの作品が賞を受賞してエロ回を書く熱量が維持できませんでした(-_-;)

エロはエロだけに集中しないと書けないのが筆者です(;´д`)


で、雨乞いの夢オチです。

基本ベースが雨乞い2でしたので全然狂っていませんね。やはり2.14でないと狂喜の世界は…。

折れ鍬は普通の雨乞いをするノーマルな雨乞いを希望していました。あと普通の鍬に戻りたかった(´・ω・`)

はっきりとした意志疎通ができないと酷いことになりますね(*´∀`)



物語の中では年が変わりました。でもまだまだ続く雨乞い、ではなく釣り合う二人はバカップルをよろしくお願いします(^^)


あと賞を受賞した短編『婚約破棄のおかげで婚約者ができました』ですが、連載版があるので興味あったらお読みいただけると嬉しいです(*´ω`*)


https://ncode.syosetu.com/n1853hy/


カクヨム版は一章で完結にしていますので、つづきはなろうでお読みください。


…おそらくバカップルをお読みの方は婚約破棄のほうは読まれているだろうな(;・ω・)

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