第38話愛する人を主人公に重ね見て


「本当にこのフィギュアいらなかったのかな眞子さん」

「持って帰るには邪魔だったからしょうがないよ。欲しいものは確保していたし」


 二人でフィギュアを持って戦う振りをする。

 湊は青の縞パンの美少女キャラだ。

 ただしドレスにこれでもかという鎧パーツがついてでかい槍を装備している。

 俺の方はイケメンフィギュアなのだが胸元がこれでもかと開いて細いレイピアを構えていた。

 とてもじゃないが湊の持つフィギュアに勝てる要素がない。フィギュアで闘ったら一撃でレイピアが折れてしまう。


「この二つは周平の部屋に飾るということで」

「いらんいらん。親に飾っているのが見られたら引かれるだろうが」

「じゃあ箱に入れてクローゼットの奥にしまって、大人になった後周平ママが片付けようとして見つけたときの表情を思い浮かべてみて」

「うおおぉぉう、なんて脅しをするんだ!」


 男が想像するのも嫌なトップスリーの一つがオカンの微妙な顔だぞ、トップは欲情している時にふと浮かぶオカンの顔だ。


「私は持って帰らないからね。四人で遊んだ記念のフィギュアを周平はどうするのかな」

「悪魔!悪魔めっ!」


 仕方ないカッコ良く置いておけばどうにかなるか?



 今日の戦利品確認していく。

 湊が購入した紙袋、小物が入った小さめの紙袋、ゲームセンター荒稼ぎした物が入った大きな袋が二つ。スーパーで買った食材・・・は先に冷蔵庫に入れておく。

 服と小物が入ったのは湊が自宅にそのまま持って帰るそうだ。


「服は眞子ちゃんに選んでもらったのだから、そのうちお披露目するね」

「気にはなるが期待して待っとくよ」

「普段買うのとは違うから新鮮かも」


 それは楽しみだ。

 ほとんど一緒にいるから、服を買いに行くときも付いていくので湊の好みはだいたいわかっている。眞子さんはどういうのを選んだんだろうな。


 小物は二人でプレゼントしあったものだ。中身は湊もまだ知らないらしい。あとで一人になったときに開けるとのこと。

 二人が小物選びしているときに友人が自分達もしてみるかと誘ってきたので、暇つぶしでやってみた。

 俺が選んだのはコインを置くと手が出てきてかっさらっていく貯金箱、友人は中の蛍光色スライムが上下に移動する謎の置物だった。お互いのを見た後、元の場所に戻した。購入する前でよかった。

 そして二度とプレゼント交換なんてしないことを心に誓った。おそらく友人も同じ気持ちだっただろう。


「最後に大物二袋が残ったが・・・よくこれだけ取ったな」

「確実に取れるのだけ狙ったから種類がバラバラで統一性がないのがいかにもUFOキャッチャーで感じだよね」


 眞子さんと友人は欲しかったものだけ数個持って帰っていった。今ここにあるのは湊と俺が欲しかったものとその他である。

 湊は一番大きな猫のヌイグルミ、俺は猫型のティーポットだ。どちらも同じキャラクターである。最近見た古いアニメで人気があったのか、復刻で景品としてあったのだ。

 湊も俺もホクホクである。


「他にもフィギュアは無かったか?」


 記憶ではビキニアーマーの美少女と学ランを着た美少女を取っていた記憶があるのだが。


「残りの二つは眞子ちゃんが持って帰ったよ。こっちにあるのはすでに持っているんだって」


 おおうすでに所持済みでしたか眞子さん。腐は美少女もイケるんですね。一度、眞子さんの部屋を見てみたいな。ズラッとフィギュアが並んでいるのだろうか。


「刀はなかったっけ」

「それは友人だな。漫画のキャラが持っていたやつらしい」


 造りがよくて俺も少し欲しかった。

 

 他は何のキャラかわからないのがプリントされた食器に、バスタオルなど微妙な物を仕分けていく。


「最後は食品類か・・・」

「一番取りやすかったんだよね。掛けた金額からすると少しマイナスだったかな」

「楽しく遊んだ分も入れればトントンだろう」


 大半がお菓子だが真っ黒な缶ジュースや見たこともないカップラーメンもあった。

 なになにグリーン蒙古タンメン・・・どっちかに寄ろうとはしなかったのだろうか。

 お菓子はまっとうだが、それ以外はキワモノ系だった。

 台所の長期保存の棚に置いておけばそのうち食べるだろう。すくなくとも今は食べる気は起きない。


 仕分けが終わり時計を見るとまだ七時を少し過ぎたぐらい。


「菓子でも食べながらテレビでも見るか?」

「んーそれでもいいけど・・・見たいのは無いね」


 湊はテレビをつけて番組表を見ているがいいのは無かったようだ。


「じゃあ映画でも見るか。あ~でも昼に二本も見たしな」

「それいいね!もう一度同じのを見よう」


 提案しながら取り下げようとした案を湊は取り上げてくれた。

 しかももう一度同じのを見たいらしい。


「え、もう一度バタ〇アンをか?」

「あんなトラウマになるのじゃなくてもう一つの!」


 怒れてしまった。でもバタ〇アンを見させたのは貴方の親友ですよ。


 昼食後に映画鑑賞会になったのだが、男女で一本ずつチョイスすることになった。

 ただしキワモノ系はダメという俺と友人にはなかなかに厳しい制限を付けられる。

 男二人で悩んだ。

 キワモノを封じられたらおすすめの九割はダメという体たらくだ。悩む悩む、出した結論は俺達にまだ慣れていない眞子さんに酷いのを見せるのはさすがに人としてしてはいけないということであった。

 

 だから男二人は時東家にあった両親が集めたDVDで名作だけどそこまで知られてない古い映画を選んだのだ。

なのに。


「あれは予想外だったな。湊達が選ぶなら恋愛物かと思っていたのに、あんな極モノを出してくるなんて・・・友人と反省したんだよ。次からは遠慮はしないって」

「まって、昼にも言ったけど私のチョイスじゃないから、眞子ちゃんがあの二人ならこれくらいはイケるでしょうと選んだの。私は見るまでのお楽しみと言われて知らなかったの」


 眞子さんが選んだとは思えない映画だった。

 子供が見たらトラウマ確定の古いホラー映画である。

 あれを選ぶ眞子さんに俺と友人は戦慄したよ。自分達より凄い奴がいるって。


 湊は怖がって俺の腕にしがみついていた。ホラー映画は湊が苦手なので見なかったのだが、しがみつく湊が可愛かったので今後は時々見ることにする。

 ちなみに眞子さんはニコニコ笑顔で見ていた。そっちのほうが俺には恐怖だったよ。


「そっちじゃなくてこっち!」


 湊がテレビ前に置いてあったDVDを見せる。

 外出する前にしまうのを忘れて置いていったみたいだ。


「また見るのか?」

「凄くいい映画だったよ。これは二人で見たいの」


 しょうがない。いい映画だから何度見ても飽きないだろう。それに一緒に見たいと言われたら断れるわけないのだ。


 ゲーセンで取ったお菓子と謎の缶ジュースを用意して見始める。

 二人でソファーに座り、湊は俺にくっついてくる。いつもの映画を見る体勢だ。


 映画はSF物である家族の家にアンドロイドがやって来るところから始まる。

 妙に人間臭いところがあった彼は色々な経験を家族の元でしていく。

 彼に好意を寄せていた次女が結婚すると、人間というもの学び始める。

 彼は人間を愛し憧れ、機械の身体を徐々に人に近づけていった。

 そして次女の孫娘と出会い。愛し、人になった。


 だが人間達は彼を人とは認めない。永久に生きれる彼を人として認められないのだ。

 愛しい人は老いていく。不死に限りなく近くなる技術があるのに彼女は拒む。

 彼は決断した。

 自分の身体に血液を流すことを。血液によって彼のシステムは壊れていく。不死でなくなった彼は人として愛する人と共に死ぬことを選んだ。

 老いた姿になった彼は再び人間として認めてもらう裁判を起こす。

 法廷に出廷しどこが人間なのかという質問に彼は自分の胸を指して「ここです」と答えた。


 判決の日、彼と愛しい人はベッドの上で横になりテレビで判決が出るのを見ていた。

 彼が人間として認められたとき、彼は活動を停止する。

 愛しい人も生命維持装置を切り彼のもとに旅立った。


 湊は泣いていた。

 俺の肩にもたれながら。


「彼は人になりたかったのかな」


 湊はポツリと呟いた。

 空いている手で頭を撫でてやる。


「最初はただ人間に憧れたんだろう」


 湊はわかっている。それでも聞きたかったのだろう。


「でも好きな人が出来てからは自分の為じゃなく、彼女の為に人になりたかったんだろう。彼女と人として一緒に生きて一緒に死んでいくために」

「うん、そうだね」


 エンドロールが終わるまで湊は撫でられ続けた。


ーーーーーーー

湊は映画の主人公に周平を重ねています。

このあと何度も周平は同じ映画を見ることになります。バタ○アンじゃないよ!

筆者の中で一番の名作なんですよねこの映画。久しぶりに見たくなったのでレンタルしに行ったら店潰れてた・・・orz

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