第207話閑話 初の日の夢
明けましておめでとうございます。
年末から訳のわからぬものを書いてしもうた…(´Д`)
その村の名はおとなり村と言った。
「餅がつけたべー!」
「こっちさ持って来てべさ!」
年の初めの一大行事を総出で行っている村人全員の表情は満面の笑みを浮かべている。
それを村の入り口で若い村人茂作が眩しそうに眺めていた。
去年は日照り神様が殊更に荒れ狂っておられて、地域一帯が日照りの影響で軒並み不作で、茂作の村も同様だった。
しかし、村人は優しく村を想う村長の下に一致団結し、食べられる野草取り、森で獣を川で魚を獲り、井戸を掘りギリギリの水を確保して少ない種籾を植え付けて、元旦に餅をつける程の余裕が出来た。
「村長様の為にもオラは見張りを頑張るべ」
茂作は村の中でも一番小柄で力も体力も無い。
普通なら差別の対象になるはずが、つらいかもしれんが人のやらない事をしてくれと村長に頼まれ、それらをこなすと村長がみんなの前で褒めてくれた。
おかげで村人達からは茂作は村長が気に掛ける真面目な奴と認識されるようになった。
「おおーい。茂作もこっちさ来て祝うべー」
「オラは好きでやってるから皆で楽しんでくれー。後で餅貰って食うべさ」
「茂作は真面目だなー」
茂作は誘われてもやんわりと断りを入れる。
村長に多大な恩義を感じている彼は、祝い日に誰もやらなかった村の入り口の見張り役を買って出た。
年の初めに不審な者や獣が村にやって来るかもしれない。
村を愛する茂作は最初に発見して村に知らせ、万が一の時には身を犠牲にしてでも村の皆が逃げる時間を稼ごうとしていた。
茂作は命を賭ける決意をしている。
村の為、村長の為、村人達の為、そして気があるあの娘の為に……、茂作は昨日も今日も明日も見張るのだ。
「ん? あれは何だべさ」
だがその決意だけでは、この地域で生きてはいけない。
戦国大名も三秒後にはジュッされたり、アニマルにボコられたり、濁流に呑まれたりする。弱者の血と強者の鮮血が飛び散るこの土地では、気を引き締めたぐらいでは……。
茂作は村の外の砂埃舞う荒野の向こうに黒い……。いや、赤い何かが見えた。
「す……よ……さ」
吹きすさぶ風の中に野太い何かが叫んでいる。
「全……寄越……さ」
それらは自らのドドドッと轟音を立てて茂作の、いや茂作の村にやって来る。
「あ、あああっ!」
はっきり見えた時、茂作は戦慄いた。
上は襤褸の着物に、下は血で染めたかのように見える真っ赤な褌をしめた筋肉モリモリマッチョマン達が群れでやって来ていたのだ。
「隣村の赤フンだべー!」
「「「全てオラ達に寄越すべさー!」」」
この血沸き肉躍る土地の頂点には日照り神様という理不尽を頂点として、山の神率いる獣達、税というな強奪をするお侍、ヒャッハー!と叫びながら襲撃してくる頭部横を剃って棘付きの肩当をした盗賊などがいる。
しかしそれらよりも恐ろしい連中が、茂作達農民には存在した。
その者達、赤き褌を引き締めて黄塵の原野を略奪すると伝えられる、ヒャッハーを見れば襲撃し、侍を見れば税の米俵を強奪し、獣を見れば竹やり担いで狩りをする。
その名も赤フン村の筋肉褌野郎共。
「あいつを殺るべさ!石投げ石投げー!」
「皆逃げるべさーっ!ぐべえっ!」
村に警告の叫びを上げた茂作の背に赤フン達の投げた石が当たり、彼は衝撃に前のめり倒れ、痛みに呻くことしか出来なくなる。
「あぁああああぁぁ……」
「男は売るべ売るべ」
「おなごは嫁っこにするべさ」
「家は板切れにして持って帰んべ」
茂作の涙と痛みで薄ぼんやりと視界には、赤フンに村が蹂躙されていくのが見えた。
「米は一粒残さず持って帰んべ」
「ガキは育つまで飯食わすべ」
「年寄りは細かい仕事をさせるべ」
「日照り神様から村を守るには人手が足らねえからな」
根こそぎ全てを持って帰ろうとしている赤フン達。
男は殴られ、おなごと子供は肩に担がれ、年寄りは優しくおんぶされ米俵は大八車に積まれ、家屋は解体される。そして老いた村長は向かれて大の字に逆さ磔にされているのを見て涙する茂作。
村が、村の形を崩されていく。
「オラが、オラ達が何したっていうんだぁ……」
「悪いなこれもこの地の習いだ」
悲哀の叫びをあげる茂作の隣にいつの間にか男がいた。
「あ、あんたは……!」
その男は略奪している男達と同じように赤フンを引き締め、先が赤黒く染まった鍬を担ぎ、巨大なイノシシに跨った男が茂作を睥睨している。
「この世は弱肉強食。平穏な村を作るのはいい、しかしその周囲は飢えた連中は獲物を見逃さない」
ゆっくりと赤フンは鍬を持ち上げる。
刃側でなく柄のひっくり返したのは殺すつもりは無いのだろう。
「気絶しておけ。明日からは寝る以外は堀を作る為の穴掘り作業だ」
絶望の鍬が茂作に振り下ろされる。
どうかこれが夢であってほしいと祈るしか彼には出来なかった。
カキーン
「っ!?」
しかし降ってくるはずの鍬は金属音と共に茂作からそれて大地に突き刺さる。
鍬赤フンが鍬に衝撃を与えて軌道をズラしたモノを見た。
それは青く細長い円柱の形をしており、クルクルと回転したあと茂作の目の前に落ちてきた。
「蒼の……バトンだと?」
鍬赤フンがそれを見て言い当てた。
「ふっふっふっ、その若き青春の汗と涙と、え、次渡すの女子なの? 手汗が溢れちゃう!
の謎のヌタッとした汗ではない何かが染みついたバトンは、ちょっとやそっとで砕かれない!」
「その声は!」
鍬赤フンが声がした崖の方を振り向くと、そこには複数の変態が立ってた。
赤フンマッチョをも凌ぐ盛りマッチョ達。
ただし頭部の横と後ろをピカリンと光るほどに綺麗に剃り上げ、頭頂部に残った髪をまとめて天を突き抜けとばかりに直立させていた。
数名はその直立した髪にバトンと呼ばれた棒を差していたりしている。
「「「「「我等、嫉妬と我欲にまみれし具視軍団!」」」」」
「変態だべー!」
「「「「「なぬぅ!?」」」」」
具視軍団と呼ばれる変態達がポーズを取ると、茂作は指差して叫んだ。
「我等はお前を助けたのだぞ!」
「変態だ~変態だ~」
「聞けぃ!」
「変態がうつるだ~」
「いくらなんでも酷くない?」
うつらないように拝む茂作に、これは時が解決するだろうと現実逃避した具視達は鍬赤フンに身体を向ける。
「その下半身赤フンまる出しで村を襲う狼藉。天が許しても、この髷が許さなくってよ!」
「お前らに言われたくねえよ!」
リーダー格の具視が叫ぶと、改造セーラー服を着たどうみても中学生のスタイルじゃないよね? 達のヒロインポーズを取る具視達。
変態はツッコミをいれられても驚きはするが、その身には響かない。安定の変態なのである。
「なんだべなんだべ」
「うちの村長に手を出し変態だべー!」
「変な頭の変態だべー!」
「念仏唱えるべ!」
「「「「「我等除霊されるの? 実体あるよ?」」」」」
鍬赤フンの異変に気づいた赤フン達が集まってくる。
「フ、フハハハハ! いくら筋肉の総量が多くても、この人数と赤の褌力によって増幅した赤フンに勝てるまい!」
具視軍団の異容に怖気づいていたというよりドン引きしていた鍬赤フンは、赤フンという戦力が自分の周囲を囲んだことに調子を取り戻して、具視を挑発する。
「うむ。我らの筋肉はみせかけのもの」
「そこの赤フン一人に五体で挑んで互角であろう」
「いやちょい負けてる?」
「お侍やヒャッハーに襲い掛かる赤フンよ?」
「負ける負ける」
ちょっと内股気味になって無理無理と手を横に振る具視達。
「しかぁし! 我等は暴力に対抗する|正義(きょうき)の力があるのだぁ!」
だが、具視はすぐに持ち直す。
「「「「「出でませぃ! 我らの|神(スポンサー)よ!」」」」」
崖の上にいる具視達が自分達の後方に手を振り向けた。
「「「「「……?」」」」」
具視達はジャジャーンとポーズを取ったのに何の反応のも無いのに首を傾げる。
「おーい、もうここの村長と同じように褌一丁大の字逆さ磔してもいいかー?」
「あ、ちょっと待って! あと三十秒!」
「……様……様」
「日差しが気持ちよかったからウトウトしてた?」
「うんうん、あとで日照り神様直下の村に遊びに行こうねー」
「俺達触れたらドパンッされるから自分で着物パンパンはたきましょうね」
「ん」
聞こえた声に、まさか……と呟く鍬赤フン。
「いるはずがない。いるはずがないんだ。ここは俺のゆ……」
「ん、じゃじゃじゃじゃーん」
「「「「「純様の御光臨―!!」」」」」
「キャラ名じゃなくて本人かよー!」
具視が馬となり騎乗するは、おかっぱ美幼女純。
無表情なのに何故か自慢気で、口には草を噛み、頭は寝起きでアホ毛が起ち。
「純様! 具視毛を握っても操作は出来なわ!」
「ん、為せば成る(訳、いいから動け)」
「せめて、せめてバトンを被せて純様! このままじゃ三号がザビエルになっちゃうのぉっ!」
先頭の具視(三号)の髪を両手で鷲掴みしてグイングインと全力で引っ張る純。
|神(スポンサー)を乱暴に扱うこともできずにされるがままになって、変な声を上げる三号に、いろんなカラーのバトンを持って右往左往する二号と六号。
「……日照り神様がジュッしてくんねぇかなー」
現実逃避したいけど話が進まないよな、ああめんど、とため息をつく鍬赤フン。
「うっし。そんな|幼子(おさなご)に何が出来る!」
「そ、そうだべ!」
「そんな子供を人質に取るなんて、この悪もんが!」
「オラ達で育ててやんべ!」
叫ぶ鍬赤フンに同調し始めた赤フン達。
鍬赤フンの下半身が及び腰になっているのは、騎乗されているイノシシだけが知っている。
「む、私はロリじゃない。立派な大人のミステリーな女」
「純様純様、ここは雨乞いの世界よ。横文字はメッ」
「ミステリアスをミステリーと間違ってる可愛いわー」
「でも幼女扱いされて怒ってるから使ってくれるんじゃね?」
「寝起きでグズってアレ使ってくれるか不安だったから良かったか?」
赤フン達の言葉に不機嫌になる具視馬に乗る純。
鍬赤フンが言い過ぎ言い過ぎだと赤フンを抑えようとするが、時すでに遅し。
純はかなり感情のままに生きる女の子なのだ。
三号の具視毛に渡されたバトンを被せて引っこ抜くように構える純。
「〇ん□い」
「「「「「「ヤバすぎて伏字多過ぎぃー!」」」」」」
「限定解除|屠藻魅痔尹(ともみじー)」
「あふん♪」
言葉とともにスポンとバトンが抜かれて三号が喘ぎ、他の具視がゴミクズを見るような目をした。
純がバトンを持ち上げると同時に具視達の足元から光が溢れ出した。
ただし漆黒の光、黒光りである。
「「「グワッ! 目がー!?」」」
黒の閃光が目に入り悶える赤フンと茂作。
「目が目がぁ染みるー!」
光で痛むのではない。何か玉ねぎを切った時のような地味にこたえる痛みがきていた。
「落ち着け! いくら黒光りで目くらまししようと少数の具視! 目が回復したら一気に突撃するぞ! でも純様は丁寧に扱えよ」
一人だけ騎乗していたイノシシの影に隠れて閃光から逃れていた鍬赤フンが𠮟咤すると、赤フン達は見えないながらも落ち着きを取り戻した。
漆黒の光を出す具視達と目を閉じて滂沱する下半身赤フンと、今だ目がぁー目がぁーと茂作。
現代日本なら即通報逮捕ものの光景である。
「よしこの黒光りも収まってきたな」
「オラ達の目も治ってきただべ」
「光が消えたら合図するぞ」
鍬赤フンは鍬を握りしめ、赤フン達は竹やり、侍ヒャッハー獣から強奪した刀、棍棒、鹿の角を構えた。
「今だっ!」
「「「うらー!……あ?」」」
黒光りが収まり鍬赤フンの号令で赤フン達が動きだそうとして止まってしまった。
荒野を走り、崖をよじ登り、変態五匹を〆て幼女を救い出す簡単な作業だったはずだ。
「我が名は具視……」
なのに荒野に黒光りするモノが埋め尽くしていた。
「モテる男を妬み」
それは人類が嫌う黒き羽を背に生やし。
「女子には蛇蝎の如く嫌われる」
黒のバニー姿に所々に逆バニーのも混じり。
「だけどたまには不審者撲滅良いことを」
しかし頭部は頭頂部以外はキラリと光る頭に、天を突く具視髪にバトンをオン。
「千に嫌われようとも一の子供にありがとうと言われたいのが俺達さ!」
「「「喰らえ! 無限のTOMOMIを!」」」
「ん、蹂躙開始―」
変態Gな具視軍団が本当の軍勢となって、純の号令の下に赤フン達に襲い掛かる。
人は嫌悪感MAXのものが大量に押し寄せてくると思考が停止し動けなくなる。
赤フン達も動けないところに一気に具視が押し寄せられて、変態に触られるのは嫌だべー、気持ち悪いべーと叫びながら具視の渦に呑まれていった。
そして鍬赤フンも相棒のイノシシを逃したせいで、己は逃げるのに一歩及ばず具視の中に沈んでいく。
「く、そこは〇ンリミ〇ッドトモミ〇ークスだろー!」
親指を高々と上げて鍬赤フンは具視の中に消えっていった。
「ん、悪は滅んだ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ハッ! ……夢?」
普段ベッドに使用しているソファーに、頭を床に脚を天井にと天地逆転の状態で寝ていた友人は目が覚めた。
「初夢からなんちゅう悪夢だ……」
元旦から周平達と四人で初詣に行くことになっていて、寝たら遅刻すると思い。友人は寝ずの雨乞いフィーバータイム2.14をソロプレイをしていた。
しかし大晦日とその前日を恋人のライフワークに付き合った友人の化け物並みの体力は限界に近かった。
朝方になる前に眠りに落ち、最悪な初夢となったのである。
「んぁ? 周平か」
悪夢に最悪の顔をしていた友人のスマホが鳴った。
手繰り寄せて画面を見る。
『すまん。午前中は無理。午後にプリーズと眞子さんに伝えてくれ』
親友の爛れた私生活には死ぬほど興味は無いが、湊が連絡すればいいと思ったところで、眞子に連絡できない状況をいくつか想像してしまった友人。
「さっき見た最悪の初夢並みに最悪だ」
愚痴りつつ恋人に変更の連絡を入れる。
まあ流石に初夢があれでは、これからの一年が縁起が悪くなりそうなので友人はソファーに寝転がり寝直し始めた。
ちなみに友人の恋人眞子は収穫したモノを楽しく読んでいる途中でダウン。
友人の連絡を見るのは昼になってからだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「明けましておめでとう純さん。いい初夢見れた?」
「ん、雨乞いで具視で蹂躙。感謝してきた村にみかじめ料を払わせる契約をして、日照り神様のウハウハ常夏村でミックスジューチュで乾杯した。勝ち組」
「純さんの人生は夢の中でも波乱万丈なんだね……」
ーーーーーーーーーーーーーーー
友人「歴代最高の悪夢だった…」
眞子「毎年初夢は戦利品のおかげで最高です!」
周平&湊「「何があったこのカップル」」
軽い閑話を書こうとしたのに五千文字を越える短編に(´Д`)
具視と赤フンがここまで書かれたのは歴史上無いでしょう。それだけ狂っていますね(´▽`)
定番の周平の夢と思いきや、友人の夢でした!絶対に見たくない夢筆頭です(-人-;)
まあ純にとってはアトラクションで楽しかったようですが(;^_^A
次は本編書こう筆者(;´Д`)
少し宣伝を、もう一つ書いている小説【ハイブルク家三男は小悪魔ショタです】がGCノベルズから1月30日に発売されます。
ショタと覇王様のイラストが最高です(*´▽`*)
旧Twitterにもアカウントがあるのでフォローして頂けると嬉しいと担当様がおっしゃっていました!(≧∇≦)
筆者「登場させたのでこれで許してもらえるでしょうか」ペコペコ
じぇー「ん、明日また投稿」
筆者「死ぬる!」
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