第2話本当のプロローグ

プロローグというかエンディングの過去から始まります。

本当のプロローグ


周平視点


「注意事項は以上です。もう少ししたら体育館に行く呼び出しがあるからそれまでお話しでもして交流を深めてください。皆さん入学おめでとうこれからよろしくね」


 教壇に立つ若い女性の先生が一通りの説明をしたあとドアから出ていく。

 緊張の糸が途切れて教室にいたみんなが騒ぎ始めた。

 

 今日は高校の入学式。

 今はクラス分けされた教室で担任になる先生が入学式の進行の流れとその後の行動や注意することの説明を受けていた。

 

 教室にいるのは真新しい制服を着た新入生だ。中学時代からの友達もいれば全然知らない奴もいる。そんなごった煮状態で大人しく話しを聞くのは精神的にきつかったに違いない。

 先生が出ていくと同時に気が緩むのは仕方がなかった。

 友達同士で集まったり、初対面で挨拶を交わしている連中もいる。


「よ、同じクラスだな」


 後ろから声を掛けられる。

 振り向くとちょいチャラそうな男子が立っていた。


「なんだにわかチャラ男。高校デビューしてモテようとか考えてたのか?」

「ちょーおぅ!にわかじゃありませーん」


 にわかチャラ男が叫ぶ。

教室一瞬で静まり視線がこちらに集まった。

にわかが慌てて手を合わせてこれからクラスメイトになる生徒たちペコペコ謝っている。俺は窓から外を見ているふりをして他人のフリを決め込む。

 高校生活初日から目立つのは勘弁だ。

 

「あっさりと親友を見捨てやがってお前に人の心は無いのか」


 しばらくすると疲れ切ったにわかがやって来る。俺の座っていた座席の前にある椅子に逆に座り背もたれを腕置きにしてこちらを向いてきた。


「いえいえ俺にはにわかな知り合いはいませんのでどうぞお引き取り下さい」

「なんで丁寧語。それにチャラ男が無くなってるっ」

「ウザ絡みするときのお前は友達ではないただのせんべいだ」

「せんべいっ?あ、にわかからか。それでは座布団はやれんな~」


 かまえよ~と手を伸ばしてくるにわかにそれを手ではたいて迎撃する俺。


 はなはだ不本意だが俺とこいつはウザ絡みするくらいの友達である。幼稚園の頃からの腐れ縁で気の許せるやつではある。


「ところで教室に入ってくるの遅かったよな。なにかあったのか」


 手をはじきあいながら聞いてみた。

 クラス発表の掲示で同じクラスなったことはわかっていたのだがこいつは先生が入室した後に入ってくるぐらい来るのが遅かった。

 おかげでボッチで窓から散っていくサクラを眺めるのをする羽目になった。


 とある理由で俺は友達が少ない。その少ない友達も他のクラスや他校に入学したりで教室には気軽に会話する相手はおらず。そして、そのとある理由のせいで自分から話しかけて親しくなるのは今後の事を考えると気軽には出来なかった。


「悪い悪い、普通に寝坊して遅刻した。新しく始めたゲームがクソゲーでクリアするのに結構手こずってさ、寝たの朝の四時。姉貴が起こしてくれなかったら昼起き確定だったよ」

「入学式前日になんて無駄なことをやってんのこの馬鹿は」


 初日から伝説を作る瀬戸際だったのにへらへらとこの馬鹿友人は笑っている。


「そういえばお前スマホどうかしたの。家出るときに遅れるから連絡したけど繋がらなかかったし」

「ああ、どうも充電が出来てなかったみたいでバッテリーの残量少なくてさ、帰るときに連絡するために電源切ってる」


 スマホを取り出し画面が黒いのを見せた。

 それをみて友人は唸った。


「・・・それでか、俺の方に日照り神様が降臨したのは」


 日照り神?たぶん昨日やっていたゲームを引き摺っているんだろう。こいつはなにかと影響を受けやすいタイプなのだ。現ににわかチャラ男で高校デビューをしようとしてるし。


「これを見ろ。そして日照り神様のお怒りを鎮めろ」


 友人はスマホを取り出しこちら向けてきた。

 どれどれそこまで言う日照り神とはいったいなんなのか、軽い気持ちで画面を覗く。


「ヒィッ」


 悲鳴にならない声が出てしまった。


「教室に入ってから気づいたんだがそれからずっと止まらない。今日は一度も使ってないのにバッテリーがどんどん減っていくんだよ・・・」


 友人のスマホの画面はある人物から送信された文章で埋め尽くされていた。

 今も新しいものに更新されている。殆どが俺がどうしているかを聞いているもので全部命令口調だ。たまに友人に対してのダメ出しが入っている。


 友人は被害者だったようだ。

送ってくる人物は俺が返信しないのを心配して同じクラスになった友人に連絡を取ったようだ。ただ友人をライバル視しているようなので余裕がないときは態度が悪くなる。

 友人はそれはそれでご褒美と喜んでいるのでそれでいいのだ。


「あ~すまんとしか言いようがない」

「お願い鎮めて、バッテリーを食べる日照り神様には生贄を捧げないとお怒りが収まらないの・・・」


 本当にこいつはどんなクソゲームを遊んだんだ?


 スマホを借りて返事を返す。


≪すまん。充電が不十分で帰りまで持たせるために切ってた≫

≪周平?≫


 瞬時に返しが戻ってくる。どんな速さで打ち込んでるのこいつ。

 あ、ついでに周平は俺の名前だ。


≪そう俺。入学式が終わったら一緒に帰ろう≫

≪わかった。後でね≫


 友人のスマホは沈黙した。


「おお、スマホからお怒りの意思が消えた・・・ありがたやありがたや」


 返すとスマホを両手で挟んでこちらを拝む友人。

 そこでふとあることが頭に浮かんだ。


「なあ、あいつも俺達と同じように他の教室で説明を受けてたんだよな」

「そりゃ当たり前だろう。同じ新入生なんだから」

「どうやってスマホに打ち込んでいたんだ?優等生クラスなんだから一瞬でも見た時点でアウトだろ」

「・・・机に入れてブラインドタッチとか?」

「出来るのか?」

「あの速度は普通は無理。たぶん日照り神様だから出来るんじゃねえの」


 そうか神様になると出来るのか。

 その後は誘導係の在校生が来るまでグダグダと話した。


(体育館に移動中)

「そういえば遅刻しかけた原因のゲームってどんなやつ?」

「雨乞いフィーバータイム2」

「は?」

「干ばつで大不作の村を雨乞いで救う村長が主人公。ヒロインは農家の一人娘」

「・・・」

「日照り神様が出てくると九割ぐらいの高確率でヒロインが生贄にされる鬼畜ゲーです」

「やってみてぇ」

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