第55話私の彼氏は格好いい
湊視点
「んあ?」
目が覚めると、目の前に黒いお山があった。
私にはない大きさである。このくらいあれば周平も眺めるのにいいのかな、もしかすると襲い掛かってくれるかも・・・無理だね。視線はエッチだけど行動は起こさない鉄壁要塞周平だ。
お山に触れてみる。なかなか張りがってよろしい。眞子ちゃんが世界のお山ならこちらは日本のお山と言ったぐらいだろうか。
「おいおい、寝起きで人様の胸を揉むとはオヤジ臭くなってんぞ湊」
お山が話しかけてきた。いやお山の上にある口から発せられた。
「おはよ、秋夜姉さん」
「おうおはようだ。目が覚めたのにまだ胸を揉むかこの野郎」
「いやなかなか揉み心地がよくて」
どうも私は秋夜姉さんに腕枕をしてもらってるみたい。閑名家では私は秋夜姉さんと一緒に寝るのが普通なのでいいのだけど。
「いつの間に私は眠ったのかな?」
記憶がない。周平の作った料理を美味しく食べてたのは覚えているけど、そのあとがなにをしていたっけ?お風呂は入ったような。
「覚えていないならちょうどいい。見せたいもんがあるから起きるぞ。ほら眞子も起きれ」
「うぅ~ん」
友人君と同じ笑みを浮かべる秋夜姉さん。やはり兄弟と言ったところか。
秋夜姉さんが起き上がったことで私も強制的に起こされる。
私の反対側には眞子ちゃんが起こされていた。私と同じように腕枕をしてもらっていたようだ。
「おはよ眞子ちゃん」
「んぁ、おはようございますぅ」
寝ぼけている眞子ちゃんは目をショボショボしながら挨拶する。
その服装はフリフリもこもこの白のパジャマだった。小柄で童顔の顔の眞子ちゃんには良く似合うパジャマだけど、私の家に来たときはシンプルなパジャマだったはず。
「俺のチョイスだ。いいだろう」
元凶が隣で胸を張っていた。秋夜姉さんも色違いの黒のパジャマを着ている。うん、この人はこういう人だった。暴君だけど可愛い系の服が好みなのである。
「もう無理矢理着させたよね。眞子ちゃんは優しいからあんまりそんな強引なことはしないで」
秋夜姉さんは理由があればちゃんと聞いてくれる人だ。友人君や槍ジジイのように動物に教えるようにしなくていい。
「あん?そんなことしてねえよお前を二人でパジャマに着替えさせたら、ノリノリで同じパジャマを着ただけだ」
「え?」
何を言ったのかなこのお姉ちゃんは。
ゆっくり下を見る。
「なぁーっ!?」
そこにはフリフリもこもこのパジャマを着た私の体があった。しかも絶対に私が選ばないピンク色だ。
「俺は黒が良いと言ったんだが、眞子がピンクが絶対に似合うと譲らなくてな。着せてみるとなかなか似合うじゃねえか。眞子にはセンスがあるぞ」
「湊ちゃん似合うよぉ」
眞子ちゃんが寝ぼけながら親指をグッとするけど、私は恥ずかしくて自分の体を隠すのに必死だった。
「ううぅ酷いよ」
「人を着せ替え人形にした罰です」
あれから眞子ちゃんにお仕置きした。柔らかほっぺを上下左右にこねくり回してあげるとイヒャイイヒャイひなひょひゃんひゃひぇひぇと可愛らしく鳴いたので三分ほどで止めてあげる。
俺にもするか?と秋夜姉さんが言うけど絶対に報復されるのがわかるので遠慮します。
ピンクのパジャマは恥ずかしいけど女性陣しかいないから着替えるまでこのままいることにする。三人お揃いなら恥ずかしさも三分の一なのである。
「秋夜姉さんさっきからスマホを弄ってるけど」
「ん?湊に昨晩の記憶覚えていないと言ってるからな、よしこれでいいだろう」
スマホを操作した秋夜姉さんは備え付けのテレビをつけた。
『しゅうへ~い♡』
テレビ画面に映ったのは顔を真っ赤にした
私が周平に抱きついている瞬間だった。
「お、おお・・・」
『ちゅ~して~』
「はうっ」
『周平抱っこ~♡』
「あうっ」
『やだやだ~ギュッてしてくんなきゃやだ~』
「あああああああ」
数々のあられもない自分の醜態に広いベッドの上を私は転げまわった。
思い出した!ウーロン茶を飲んだのにいつもと違う味だなと思った瞬間から記憶が無い。
たぶんその記憶に無い部分がこの流されている動画だ。
「俺の酒を間違えて飲んだら眠るまで周平に甘えていたのが昨晩起こったことだ」
「死ぬ。古代中国の人みたいに憤死する」
「湊ちゃん、憤死は怒りのあまりに死ぬんだよ。湊ちゃん場合は恥ずかしくて死ぬから違うよ」
「冷静に訂正しないで眞子ちゃん・・・」
それから十分ほど自分の痴態を見させられた私はベッドの上で真っ白な灰と化していた。
「このあとどんな顔して周平と顔を合わせればいいのかな」
「いつもの方がスキンシップ凄いと思うけど。人前で平気で腕組んでるでしょ?」
私のつぶやきに眞子ちゃんは不思議がる。
「こいつはな自分から行動する甘えにはだいたい計算づくだから平気なんだよ。だからただ普通に甘えたりとか相手から積極的に来られると結構パニクるんだよな。昨晩は酔って甘えたい感情が前に出てきたんだろう」
「やめて、これ以上は言わないで」
秋夜姉さんは私の頭を撫で、顔を覆っている両手の隙間から見える眞子ちゃんは菩薩様のような顔で私を見ている。
私も気づいているのだ。いつの間にか眞子ちゃんが秋夜姉さん呼びしていることを、絶対にそのことでいじって報復してやる。
でもどうしよう。周平の前で普段の私でいられるのはちょっと無理だ。前にも間違ってお酒を飲んだことはあるけど意識を失うほどではなかったので動画の私のように酷いことにはならなかった。
まさか意識を失うとあそこまで痴態を晒すなんて。二度とアルコールは飲まないようにしよう。
「夕方ぐらいまでこの部屋に籠ります。たぶんそのくらいで自分の中で折り合いつけるから」
うんそのくらい時間を空ければどうにかなるだろう。ミノムシになろうとタオルケットを被ろうとしたのだが。
「あん?俺の部屋でそんなこと許すと思ってるのか。さっさと周平に会ってそのくらい解決しろや。だいたいお前ら何年も付き合ってんだろうが、甘えるのに恥ずかしがんなよ」
ひょいと襟首の後ろを掴まれて持ち上げられた。
「付き合い始めてまだ一年も経ってないよ!あ、まってどうしてこのまま部屋を出ようとするの?」
「そりゃあ、周平が朝食の用意しているから台所に行くんだよ。今のウチに美味そうなメシを作れるのは周平だけだからな」
なんて酷いことをするのだろうかこの姉は。
「まってせめて着替えさせてっ!」
「ついでに可愛い姿も彼氏に見てもらえ」
暴君だ暴君がいるっ!
「眞子ちゃん助けてぇっ!」
最後の頼みの綱に助けを求めた。親友だもんね助けてくれるよね。
「ごめんなさい湊ちゃん。湊ちゃんが眠っている間に秋夜姉さんには逆らったらダメっていうことをわからされました。あとピンクはお似合いですから周平君に感想を聞いてね」
「眞子ちゃんが私達にいつの間にか染まってるっ」
綱は千切れるどころかナイフで切られたよ。
「朝飯も食うんだからさっさと行くぞ」
「せめて着替えをぉぉ」
私のお願いは聞き入れてはくれなかった。そうだよね暴君だもんね。
そして台所のドア前で降ろされた私は、入ることに躊躇した。
「ね、ねえ本当に今入らないといけないかな?まだ調理中みたいだし、一度部屋で着替えて呼ばれるまで待ってれば」
「馬鹿野郎お前がギクシャクしてたらメシが不味くなるだろうがサッサとしろ」
「湊ちゃんガンバだよ」
横で小声で本音の人と応援する人がいる。応援する人は私を助けてくれてもいいと思うんだけどな。
私は深く深呼吸をして覚悟を決めた。周囲は四面楚歌、前に出るしか道はない。
「周平~いる?」
ドアをそーと開ける。二人がサッと入れと言っているような気もするけど、今の私の勇気の出力はこれが最大出力なのです。
「お、湊かちょっと待ってくれ」
周平がキッチンで調理していた。ドアは反対側なので周平は背中をこちらに向けている。手間がかかることをしているようでこちらをみない。
「よしこれであとは皿に盛りつけて出すだけだ」
それもすぐに終わったみたい。
「おはよう、みな・・・と?」
「おはよう・・・」
振り返って挨拶しようとした周平が私の姿を見て固まった。
「あはは、周平が見ても似合わないと思うよね」
眞子ちゃんは似合うと言ってたけど、身長が高く中性的な顔立ちの私に可愛い系のピンクのパジャマが似合うと思えない。周平も固まるくらいだ。
両腕隠すようにするが流石に全てが隠れるわけではない。
恥ずかしい、周平に似合わないと思われると惨めな気持ちになる。
「うん、これはちょっとしたおふざけだよ。すぐ着替えてくるから」
ドアから出ていこうとしようとする。
「待て湊」
周平に呼び止められる。
そして近づいてきた周平は私の肩と腰に腕を回して抱きしめてくれた。
「よく似合ってるから、いつもは見ない色と形のパジャマだから少し驚いただけで」
「・・・ほんと?」
「俺が湊にお世辞を言うわけないだろう」
やさしく周平は抱きしめてくれた。うん、嘘は言っていないと思う。
「湊は可愛い系はあまり着ないからな、パジャマは秋夜姉さんで色のチョイスは眞子さんあたりか」
「よくわかるね正解」
「二人には新しい湊を見させてくれたことに感謝しよう」
む、彼女を抱きしめているのに他の女に気を向けるとは、いけない彼氏だ。私からも抱きしめ返してやろう。
「昨晩はごめんね。周平には迷惑かけちゃった」
今のうちに謝ろう。
「迷惑かけたのは友人達にだけどな。俺にはただ甘えてきているだけだったから。秋夜姉さんからは本音で甘えさせろとか言われたけど、湊はどうしてほしい?」
秋夜姉さんめぇ、余計な事を言って。
「周平はいつも通りでいいんだよ。いつも私の傍に居てい、いつも私を見ていてくれれば」
「そっかそれならいつもどおりだな」
私達はそれでいいんだ。無理に変わろうとしたら歪むのが私達なんだから。
「ところでドアの所から生首が二つこちらを見ているんだが湊は知っているか」
「ん、私達の仲に嫉妬した閑名家のご先祖様じゃないかな」
あんまり自分から動かない周平が抱きしめてくれているのだ。羞恥?優先順位が違い過ぎるね。
「赤い髪の方が口パクで早くメシを食わせろと言ってるけど」
「私をおもちゃにしようとした人の事は知りません」
周平は困ってるけどあと十分はこのままでいたいのだ。
「湊」
「ん?」
周平に名前を呼ばれて顔を上げる。
前髪を手で上げて周平は私のおでこにキスをした。軽く触れるようなキス。
「湊のパジャマ姿が可愛かったからな」
「はう、」
え?周平から?キス?おでこ?人前だよ?
逃さないように腕を回していたのにするりと周平は私から抜け出した。
「どうせ秋夜姉さん達もパジャマ姿なんだろう、朝食は女性陣で食ってくれ。俺と友人はゲームしてほぼ徹夜だから昼まで寝るから」
おやすみーと言いながら台所から周平は出ていった。
しばらくすると二人が入ってくる。
「イチャイチャを期待してたが予想の数倍甘かったな」
「周平君私達を見ないように顔を背けていきましたよ。どれだけ湊ちゃんのこと好きなんですか、次に描くのを変更しないといけないじゃないですか」
何か騒いでるけど私は周平から行動してキスしてくれた余韻に浸って聞こえなかった。
ーーーーーーー
湊「周平好き・・・」
秋夜「カーッペ!」
眞子「口から砂糖が出るのが止まらない」
文才があればもっとバカップルに書けるのに・・・(;´Д`)
周平は湊限定特効兵器です。余波で周囲が唾か砂糖を吐きます。
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