第4話日照り神様からはにげられない
2.日照り神様からは逃げられない
恐怖の入学式が終わり、そのあとは教室でロングホームルームがある。
自己紹介や保護者の入室など高校生になりたての俺達には緊張感のある時間が過ぎるはずだった。
だが入学式の影響でグダグダ。生徒どころか保護者も湊のことで話し合っている。担任が涙目になっているのが哀れでたまらなかった。
入学式に来ていた俺の母はしれっとしていた。
俺と湊は子供の頃から家族ぐるみでの付き合いがある。
娘同然の女の子があんな残念な子に成長したのにおくびにも出さない母には驚愕する。
いや知っているからこそ、やらかしても普段通りでいれるのかもしれない。でも知らないふりして他の保護者と会話していたのはチクってやる。娘に冷たくされるがいい。
すでに母は教室にはいない。穂高ママとランチに出かけるらしい。
今日は娘のせいで酷く疲れているだろうから癒してやってほしい。
ホームルームが終わった今、保護者は全員帰り、生徒達は思い思いに話しているかさっさと帰宅している。
「脱出するから手伝ってくれ」
「何言ってんの?」
友人に助けを求めると首を傾げられた。
おかしいなこの親友は察することに関しては神がかり的に鋭い筈だ。
「このままでは俺は無事に帰ることができない」
「ほう」
こちらの言葉に耳を傾けてくれるみたいだ。
お互いの顔を寄せ合って話す。
「俺はこれから湊と一緒に帰ることになっている。もし教室を出て湊と合流したらどうなると思う?」
「・・・よかったな入学初日から湊ちゃんの次に人気者になれるぞ」
確かにそうなのだが、友人に言われるとイラっとする。あと人気者でもマイナス方面でだ。
「いやわかってたよ。湊と付き合うにはそれなりの覚悟が必要だって。でもさ初日に本人が爆弾発言するなんて思わないだろ。せめて一年、いや半年は隠していればその間は普通の高校生活を送れると思ってたんだよ」
湊とは小学生のときからの付き合いではあるが、正式に交際し始めたのは数か月前のことだ。
交際までにはいろいろとあったのですよ、だってあの湊ですから。友人にもその関係ではかなり迷惑をかけたものだ。いつかは恩を返さないといけない。
「たぶんだけど湊ちゃんはお前と交際しているのを自慢したかっただけじゃないかな」
「はい?」
友人の思わぬ言葉に驚いてしまう。
「たぶんよ、たぶん。湊ちゃんにとって周平、お前が一番大事で自慢したい存在なのはわかっているよな?自慢したい大事なものは隠すか、自慢したくなるかの二通りなんだよ。お前が湊ちゃんを隠して普通の交際をしたいと思うように、湊ちゃんはお前を自慢したかったわけ」
反論できなかった。
こういう時に限って的を射た発言をするな友人よ。あと俺の思いを当てるな。
「しかしな、入学式に彼氏への愛を叫んでピー(自主規制)宣言されたらどうよ」
友人はしばし考えた後、俺を両手で指差し。
「ドン引きぃ~♪」
よし殺そう。今は脱出計画のために必要だから明日ぐらいに埋めて殺そう。
「そこら辺は後で考える。今は学校から脱出するほうが重要だ。さすがに今日はこれ以上何かあったら俺の精神が死ぬ。マジモウムリデス」
「うわぁ、目が死んでるよ」
「お前が俺を見捨てるなら。中学時代のお前の恥部を新しいクラスメイトに広めまくる」
「止めよう、シャレにならないから」
「道連れがいるほうが寂しくないよな」
「わかったわかった。高校生活で友達100人作るつもりなのに、始める前に潰されたらシャレにならん」
よし共犯者ゲットだぜ。
「計画はそんなに難しいことじゃない。生徒用玄関に向かえば高確率で湊に出会ってしまう。ならどこから出るか、それは校舎中央にある来賓用玄関しかない。保護者がまだ校内にいるだろうから鍵も開いているはずだ」
「お遊びかと思っていたら本気で計画していたよ」
「精神的な死を避けられるなら本気を出す」
ホームルームの間、ずっと考えていたのだ。担任の先生ごめんなさい。明日からは真面目に生きていきます。
「外に出るためには靴が必要だ。だから生徒用玄関にある俺の靴を取ってきてほしい」
「湊ちゃんに出会ったら?」
「今日できたファンクラブに囲まれているはずだ。その対応に追われているはずだから、お前ならその隙をついて靴を取ってこれる。持ってくる経路はそのまま玄関をでて外から来てくれ。靴を持って廊下を歩いてたら湊は絶対に気付いてしまうからな」
「うわー彼女への対応がマジすぎてて引くわ~」
うるさい。完全に本気なら内履きのまま帰るわ。でもそれをすると湊と母が怒りそうだしな。
「なあ一つ確認いいか」
「時間があまりないから一つだけな」
「俺が遅刻しかけた理由がゲームしてたのは言ったよな」
「ああ雨乞いフィーバータイム2な。面白そうだから今度貸してくれ」
「構わんよ。その雨乞いの中に日照り神様というキャラがいるのも伝えた」
何言ってんだこいつ?
「日照り神様を鎮めるためには生贄が必要なことも言った。絶対に逃げられないことは言ってなかったかな?」
意味が分からん。
「周平、お前はスマホ救出のために日照り神様の生贄として捧げられたよな」
ポンと後ろから俺の肩に誰かが手を置く。
「日照り神様からは絶対に逃げられない」
ゆっくり振り向くと笑顔の湊がいました。
NEW!
日照り神様の容姿は可愛い。倒せば攻略対象なると信じて立ち向かうプレイヤーが続出したぞ。公式に攻略は出来ませんと言われても止めない人は多かった。友人もその一人だったがある日を境に止めたぞ。理由は親友の彼女に見えて萎えるだ。
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