第20話浮気ではない男の本能だ
「はい。これで今日は終わりです、坪川さんと時東くんは提出物を回収して、職員室に持って来てください皆さん気を付けて帰宅してくださいね」
「わかりました」
「了解です梅ちゃん先生」
「梅ちゃんと呼ばないの!」
俺と坪川さんが返事すると梅ちゃん先生からの否定の御言葉が飛んできた。
波乱の入学式から二週間が過ぎていた。
二週間の間に何か起きたかというと、たいしたことはなにもない。新一年らしくみんな高校生活に慣れていくので必死だった。
それでも俺のクラスはまとまるのが早かったと思う。
梅ちゃん先生のおかげだ、誉めるときはその小さい身体を全身使って一緒に喜び、叱るときは真剣に叱り、一緒に叱られる原因を解決しようとしてくれる。
そしてマスコットキャラ。
クラスメイトの殆どが可愛い先生(妹枠)を守ろうと同じ気持ちになった。
「凄いよな、梅ちゃん先生。あれ素でやっているんだろう」
「そうだね。梅田先生も慕われるのは満更でもないと言ってたし。教師が天職だったみたい」
坪川さんは提出物を受け取りながら、俺のつぶやきにこたえてくれた。
提出物を出したクラスメイトが思い思いに梅ちゃん先生に挨拶して教室を出ていく。今から新しく入った部活に行くのだろう。
一人一人が梅ちゃんと呼ぶので梅ちゃん先生は否定するのに大忙しだ。
坪川さんの所に持ってこられる提出物を二人で整理していく。
高校一年の一学期はいろいろあるし、慣れていないのでクラスの委員長は忙しい。副委員長の俺も頻繁に手伝っている。
坪川さんに提出物を渡したクラスメイトが梅ちゃん先生と一緒に教室を出ていく。みんなが笑顔で梅ちゃん先生の周囲にいた。たった二週間であの慕われようは凄すぎる。
「でも、穂高さんも凄いと思うよ」
「梅ちゃん先生は天然で人を魅了するけど、湊の場合は技術での人心掌握だからな。天然と養殖、どっちが凄いんだ?」
「う~んどっちなんだろう」
坪川さんとは委員長関連で一緒に行動をすることになり仲良くなった。頼まれたら断れない良い人である。
「天然物でも養殖物でも美味しかったらどっちでもいいんじゃないのか。ほい、これ」
友人が会話に入りながら提出物を渡してくる。
「そうだよな良ければどっちでもいいもんな」
「そういうこと、今日は用事があるから先に帰るわ」
じゃあなと手を振りながら友人は教室を出ていった。
「時東閑名・・・閑名時東、ううん悩むな」
坪川さんは良い子なんだけど、クラスメイトを容赦なく薄い本にしてまうので少し困る。
少し前に描いてもいいかと言われたので、俺には見せないことを条件に許可した。友人?あいつには許可する権利はない。
「坪川さーん、現実に戻ってきてね。クラスメイトの男子が引いてますよ」
「は!ごめんなさい。次に描くのはどっちを攻めにしようか考えちゃった」
テヘペロする坪川さんに提出物を渡そうとしていた男子が真っ赤になる。
この子も十分なたらしだ。
「さてと、あとは職員室に持っていくだけだね」
二人で提出物を男子と女子に分けて、名前順に並べなおす。坪川さんがいうにはこの一手間で渡された先生は少し楽になるらしい。これが委員長になる資質なのだろう。
「待った。その半分は俺に渡してくれ」
自分の分を持った坪川さんに提案する。
「え、でもそんなに重くないから私でも持てるよ?」
「いや、同じぐらいで一緒に持っていくと男として恥ずかしいのです。どうか俺のプライドのためにいただけませんでしょうか」
「あー女性に持たせるなんてと思う人もいるもんね。わかりました差し上げましょう」
「ははっ、ありがたき幸せ」
乗ってきてくれた坪川さんからうやうやしく半分受け取る。
俺は内心ホッとした。
プライド?中学生の頃は騙して友人に全部持たせたりしていたよ、そんなものあるわけがない。
今回はやむにやまれぬ事情が、坪川さんが提出物を持ったときに発生した。
最初に言っておく。
俺は湊一筋だ。それは絶対に変わることがない。
ただ、男でもあるのだ。
目の前で下からムニュッと押し上げられた二つの巨大物質に目がいくのは仕方がないではないか。
周りの男子も目がいったのは見えた。そして女子達がクズを見るような目で男子を見ているのも見えた。
だからクラスに亀裂が入らないように対応しただけだ。
湊に怒られるのが怖いわけではないですよ。
坪川さんも委員長しているだけあってしっかりしているのだが、どうも自分が男に性的に見られているとは思ってないようだ。時々、さっきのようなハプニングが起きる。
彼女持ちの俺には中々困難なミッションだ。
さりげなくカバーできる男の友人に副委員長を変わってもらおうとしたら、坪川さんは白目がトラウマになったらしく拒否、梅ちゃん先生も湊対策にいてもらわないと困るという。
俺が美人な湊と交際しているのでヘイトを貰っているのに、更におさげ眼鏡巨乳委員長という坪川さんの傍に居ることでヘイトが増大しているのは無視された。
俺に出来るのは坪川さんのやらかしをさりげなく無くすことだけだ。
ムニュッとしたのを目の前で見れたのは役得とは思っていない。
「穂高さんは人気者だね。時東くんは彼氏として鼻が高いんじゃない?」
「う~ん、俺としては普通の生徒でいてほしいんだが、慕われるのをそれなりに楽しんでいるみたいなんだよな」
「凄い人を彼女に持つと逆に悩むのか~」
坪川さんと職員室に向かって歩きながら話す。
今は湊のことを話していた。
「まあいろいろと受け入れていかないと凡人の俺に湊の彼氏は出来ないのですよ」
「受け入れてるだけでも凡人ではないと思うけど」
「そこは心の持ちようだけだから、頭脳と体は関係ないし」
「いやいや、普通はついていけなくてくじけちゃうよ」
そうかな?好きという感情は努力しなくてもいいから楽だと思うのだが。
「周平?」
湊のクラスの教室前を歩いていると、湊がちょうど出てきた。
「うわっ、いきなり出てくるなよ」
「普通に教室を出ただけなのになんでそんなこと言われないといけないかな」
驚いた俺に、不満げになる湊。
湊の事を話していたら本人が現れるなんて軽いホラーだろ。坪川さんだって怯えているじゃないか。
「何をしてるの」
「提出物を職員室まで運んでいるとこ」
湊の質問に答える。
「ふーん」
少し考えた湊は坪川さんを見る。
「坪川眞子さんだっけ?」
「は、はい!坪川です!」
湊に緊張して答える坪川さん。
一度二人は会っていた。湊もクラス委員長になっており、一学年のクラス委員で集まったときに挨拶をしている。
「私もこの後に職員室に用事があるから、ついでに坪川さんが持っているその提出物も持って行ってあげるよ」
「え、でも・・・」
湊の提案に焦る坪川さん。委員長としての責任があるから困っているのだろう。
「お願いだ。周平と少しでも一緒にいたいんだ」
「は、はいどうぞっ!」
イケメンに迫られたヒロインになった坪川さんは顔を真っ赤にして提出物を湊に渡した。
「ありがとう坪川さん。お礼はそのうちに周平と一緒にするね」
どうして俺も一緒なのですかな湊さん。
「そんな!持って行ってもらうのにお礼なんていりません」
「無理を言って交代してもらったんだから当然だよ」
もう坪川さんの脳は沸騰寸前だ。
湊は白のスーツでも着せたらイケメンホストに見える。女子から見れば二次元から出てきた王子様に見えるのかもしれない。
その後、坪川さんは顔を真っ赤にしたままフラフラと教室に戻って行った。
「湊、やりすぎ」
「なにをかな?私は重そうだったから職員室に行くことだし、ついでに預かっただけだよ」
うそぶく湊。
嫉妬で預かったのは俺にはわかるんだよ。
「そのせいで俺とお前の薄い本が描かれるぞ」
教室に向かった坪川さんはぼそりと時東穂高?いや穂高さんが攻めでしょとかボソボソ言っていた。
「それはいいね。ぜひとも見せてもらおう」
「湊は男性化するけどな」
「・・・そのときは私が攻めなのかな?出来上がったら一緒に見ようね」
「なにが楽しくて彼女が男になった本を読まなくちゃならんのか」
アッー!とか叫んでいる自分の絵なんぞ見たくもないわ。
ーーーーーーー
「それはそれとして大きかったね坪川さん」
「・・・」
「提出物を多く持ってムニュッとしたままにしなかったので罪は帳消しにしてあげよう」
「見てたの!?」
坪川さんはヒロインではありません。
周平のヒロイン湊だけです。
お友達枠ですかね。
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