第18話~オセロと盤上連合~

 何の因果でスゴロクロードのワープの影響から、大人のギャンブルに水指さなければいけないのか。剣は後悔の念を自分から強く送った。

 今なら10分以上、あの設備に文句を言いたい所だがそれどころではない。


 巨大な盤上を囲む極道一直線な兄ちゃん達に四方八方睨まれているからだ。


「ふわぁ~……あれ、私何してたんだろ――――ッッ!!!???」


 双六の『一回休み』効果で熟睡していたみのり。

 爽やかな目覚めも周辺の男達の鋭い目付きを見て、その眠気を一気に現実に呼び戻す。血の気も急速冷凍もの冷えっぷりだ。


「な、な、な、ナ……何がどうなってるの剣くん!!?」

「遺書書いとけば良かった……」


 この修羅の状況を知らずに狼狽えるみのり、そして威圧に耐えきれず少し涙が滴り落ちる剣。人生色々、感情も色々。


「さっきから何を黙りこくっとんのじゃガキ共が!! ワシら連合のショバを土足で入るたぁ、どう落とし前つける気じゃ!! あ゛ぁ!!?」


 連合? ショバ!? ホンマモンやないか!!?と剣は思ったが、口から息が溢れるばかり、反論する勇気も当然出てこない。それでも精一杯搾り取ってカスカスの声で説明しようとする剣。


「…………ぁの、その……スゴロクロードが、ですね……」

「何や!? 言い訳すんならもっと声出せ声を!!」


 精一杯剣が口を開いても、怒号が飛び交う始末。なに答えても只じゃ済まないとこの時彼は悟った。

 そしてプツンと理性が切れた。



「――――エリアのスゴロクがねぇッ!!?『ゲームのどっかにワープ』するとかアホみたいなマス付けやがってぇ!! んで気が付いたらこんな所飛ばされてこっちもえらい迷惑ですわ!! こんな殺生な始末、どない思いまっかあああああぁぁぁッッ!!!??」


(剣くんが壊れた……)


 ヤケクソ、どうにでもなれの剣にみのりも強面達も唖然となる。と、そこへ………


「もうエエやろ! はよお前らその子達から離れんかい!!」

「「へ、へい! 親分!!」」


 遠くから年配の男性の覇気ある声に喝を入れられたか。強面一同剣達から離れ、全員跪くように地に片膝を付けた。まさに典型的親分たる演出か。


「全く、俄事にわかごとな起きたくらいで学生相手にギャーギャー威嚇すんなやボケが――!!」


 黒のスーツよりも目立つスキンヘッドにガタイの物凄さ、現代の組長顔負けの威圧感。それ故に貫禄プレミア級のオーラを放つ年配の男性が剣達に歩み寄る。剣もみのりも震えが止まらず、互いに抱き合って覚悟を決めた。――――ところが。



「いやぁ、済まなかったな若ぇの! うちの組が粗相をしちまったようで!! あのスゴロクロードにゃ程々困っとったんよ、毎回君らみたいなプレイヤーが水指すもんやから」

「「は、はぁ………?」」


 剣とみのりは呆気に取られた。落とし前をつけられるかと思いきや、親分たる男は豪快に笑いながら二人に詫びを入れた。


「いや、な、何かこちらこそすみません……そちらのに勝手に入っちゃって」

(ちょっ、剣くん!?)


「縄張り? んな輩な事はせぇへんよ、うちらのグループは【盤上遊戯愛好連合協会】、略して『盤連会ばんれんかい』で通っとる。ワシがそのの伴場萬代《ばんばばんだい》(71)じゃ!」


 盤上の盤長? 良くわからないが、どうやらあっちの方のグループじゃなさそうで一安心。


「それで、そのばんばん……じゃなくて、盤連会って普段何してるんですか?」

(お、オイ、みのり!?)


 事情が解った途端に躊躇いなく盤長に質問するみのり。こーゆー胆力がある彼女も案外凄い。


「名前の通り盤上の遊戯、つまりボードゲームを愛好するグループや。

 紀元前数千年前から存在していたボードゲームの歴史、その素晴らしさを後世に語り継がせる為に作られた連合……と言っても地域ボランティアみたいなもんやがな」


 現実ではエジプトの紀元前3500年頃の遺跡、および紀元前3100年頃の遺跡から発見された『セネト』と呼ばれるボードゲームを始祖に、チェス、オセロ、碁、バックギャモンなど様々なゲームを世に出してきた。

 彼ら盤連会の目的は、ボードゲームの素晴らしさを日本各地いや、世界各国に伝えていく事にある。


 超次元ゲーム時代に入って、最先端ゲームがどうしても人の目に行きがちな傾向にあることから、盤長の伴場が名乗りを上げて愛好連合を作り上げたのだ。

 しかしなんでか強面でゴツい若者達ばかり集まるものだから、ヤーさんの方に誤解されやすいんだとかとか。


(あんな威嚇されりゃ極道と間違えられるわな)


「『ボードゲームは古い』とか『ワンパターン』だとか戯れた声も聞くが、そんなものは頭の固いプレイヤーの決まり文句じゃ!!

 ボードゲームも時代と共に連れて進化するという事を世に知らしめる為に、このボードゲームのエリアで特訓を積んでいた訳じゃ」

「おぉ~☆(パチパチ)」


 みのりは盤連会の大きな目標に興味津々、眼をキラキラさせての拍手喝采だ。

 そんな話を傾聴した剣も、彼らが悪い人じゃないと知って安心したか、プレイヤーの習慣として話を持ちかけた。


「………じゃあ、ボードゲーム人気貢献の為に手伝ってやらなきゃな。誰か俺と勝負させて下さい! きっと意義なゲームが出来ると思いますぜ!」

「おぉ? 急に大きく出たな若造。そこまで豪語するって事は、相当腕に自信でもあるんか?」


「まぁそれなりに! 俺は『マスターオブプレイヤー』を目指す男、桐山剣ですから!!」


(ん、桐山………? まさか!?)


 剣の名字を聞いた途端、何かに勘づいたような反応を示した伴場。


「あい分かった! そこまで言うのなら、勝負付き合ってもらうで。

 ワシらの床にある、この64マスのフィールドで繰り広げるを!!!」


「………進化したオセロ?」


 ◆――――――――――――――――――◆

 PLAY GAME No.5

【エクストリーム・オセロ―EXTREME OTHELLO―】

 ・ジャンル『ボードゲーム』

 ・プレイヤーレベル:20


 概要

 それぞれ黒と白の石を担当する2人のプレイヤーが自分の石で相手の石を挟んで自分の石に変えるという条件のもとに、交互に盤面へ石を打っていく。

 最終的にどちらの石が盤面に多く置かれるかを競うご存知恒例のボードゲームである。


 しかし、通常のオセロと異なる部分は64マスの上で置くにある。

 各自が持つ32個の石のうち5個には赤、青、黄色などといった白黒以外の色を持つ【スペシャルストーン】が存在する。


 スペシャルストーンを使うことによって、取った石の強奪や、天地をひっくり返す凄まじい効果で盤上に大胆な変化を起こすことが出来る。


 このスペシャルストーンの使い道が勝敗を大きく分ける、まさに『進化したオセロ』である。

 ◆――――――――――――――――――◆



(そしてその進化オセロをやるのが、このでっけぇフィールドって訳か――!)

 そう、強面集団を囲った巨大な盤はエクストリームオセロの為のフィールド。


 このフィールドを舞台に、法則をも凌駕するオセロのタイマン勝負が幕を開く……!!

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