第2話~剣の魂を持つ男~
ブロック崩しのゲーム筐体。1プレイヤーと2プレイヤーを選ぶ二つのボタンと、中央にラケットを左右に動かすために使うダイヤル型のパドルコントローラー。これのみでレトロゲームは最大限まで稼働される。
そして操作するパドルの元には、事前に買ってあったのだろう黒いアルミ缶のエナジードリンク。それを男子はぐぐっと口いっぱいに含ませて一気に飲み干せば、倦怠だった眼もギラッと鋭く輝いているではないか。これぞゲームとカフェインの相対性理論だ!
「……っしゃ」
男子は筐体の硬貨投入口に100円を入れ、即座に1プレイヤーボタンを押した時、画面には無数のブロックが現れた。パドルダイヤルを左右回して、滑らかなラケットの動きに調子も良し、後はサーブボタンを押せばボールが発射される!
――――ビッ
ゲームスタート、サーブ発射!
甲高い電子音のサーブと共にボールは右上に飛び、片隅のブロックを消しそしてラケットがそれを打ち返す。二打、三打とラケットは固定しつつ、右から着々とブロックを消していく。
「――――凄い。返ってくるボールの位置を事前に把握していてラケットにブレがない。しかも反射的に狙いにくい右端のブロックから当然のように消してる!」
みのりが呟く間もなく、8段の層からなるブロックの溝は5段目に入り―――ハイスピードリターン! それを角度が変動することなくラケットが素早く跳ね返す!!
右端から狙ったブロックは8段目を消してブロックの壁に穴を開けた。
「………よし、天井裏いただきッ!」
ブロックの隙間にボールが入り込んだ!
ビキキキキキキキッッ
ハイテンポな打楽器と化した8ビットの電子音と、小刻みにブロックを打ち消す動き、ブロック崩しの調和が出来上がっている。
これぞブロック崩しのオーソドックスな攻略技。ブロックの壁に隙間を作り、天井の空白を利用し一気にブロックを消す技だ。
天井の8段のブロックは高得点の大行列。この技無しに高得点は狙えない。みのりもその事は知っていたのだが、一発で成功したのは初めて見たようだ。
天井を狙い穴食い状態となったブロック層。ここから少なくなったブロックを消す事は、ラケットの稼働力を大きく揺るがす故に集中力の闘いとなる。しかし男子は乱れる事なくブロックを消す。
そして……残りブロック1個!
ボールがハイスピードな上、ラケットも縮んでいる。みのりも胸は縮こまってないが(?)、神経ピリピリになるのが伝わっている。
「―――決めたるか」
男子は右手を後方大きく身構えた。返ってくるボールのタイミングを計らい、テニスの素振りのように大きくダイヤルを回す!
――――シュッッ、ビキッ!
その時、みのりは何かを見切った――!!
(あの人の右手が、【剣】に見えた……!?)
勢い良く回したダイヤルによって残像を残すように素早く右に移動するラケット、片や反対側から高速で返ってくるボールに、ジャストミートッッ!!
「ボールの角度が変わった!!」
ラケットのボールに当たる位置が端寄りになると60°から45°の角度でボールが跳ね返る! 高速左スライドで打ち返したラケットが、中央のラストブロックに直撃!!
――――ブロック全消し! 500点達成・一面クリア!!
「凄ーーーーいッッ! 1発クリアだ!!」
みのりも思わず興奮の歓声が止まらない。
「うるせえっ! まだ終わってねぇ、静かにせぇや!!」
「あ、ごめんなさい」
このゲーム、全部ブロック消しても2面目があるのだった。みのり、反省。
(まだゲーム続くみたいだし、一人にしてあげよう)
みのりは一旦ブロック崩しの筐体から離れて店長の所へ向かった。
◇◇◇
「お、みのりちゃん! 今日も来てくれたんだね。どや、ゲームの様子は?」
みのりは毎日この店に来ているものだから、20代後半の若大将店長も、彼女は通として顔見知りである。
「ねぇ店長さん。あのレトロアーケードにいる男子、結構この店来てるの?」
「……あぁ、アイツね。週2くらいにうちに来ては、気まぐれにゲームやって高得点残してすぐ帰るんだよ。変わったヤツだ」
「あの男子の名前、聞きたいんだけど……」
「何や? みのりちゃんアイツに惚れたんか?」
笑いながら店長はからかう。
「ち、違いますッッ!! ――ただ気になったの。あの人の底知れない集中力と鋭い動きをしたプレイ、只者じゃないって思ったわ。なんかこう……剣を振るう騎士のようだった! 私、どうしてもあの人と友達になりたいの!!」
学校では殆ど友達が出来なかったみのり。大好きなゲームを通じて、自ら友達になりたいと思うその意志が、店長にしっかりと伝わった。
「………からかって悪かった。みのりちゃんの友達になるのなら、ちゃんと教えてあげないとな。
彼の名前は【
(――――【桐山剣】……そうか、“
そう強く願ったみのりは、再びレトロコーナーに向かう―――その時だった。
「邪魔するぜ」
学ラン姿の数十名の群れを作った不良集団がゲームセンターへ来店した。
「――――え?」
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