第39話~超次元ゲーム時代の異変~

 「あの、スタッフさん。失礼ですが―――今、大会は『最後』って言いました??」


 世界最大規模の大会、G−1グランプリの関西地区大会に出場すべく、出場エントリーをしにきた剣だったが……突如として不穏な空気が漂い始めた。


「いや、まだ大会が最後になると確定した訳では御座いませんが……今のご時世が続くとG−1グランプリはおろか、ゲームワールドオンラインそのものが、可能性が出てきてるんです」


「な、何やそれ!? 余計規模がデカなっとるやないすか!」

 事は急にして何十倍も肥大していった。超次元ゲーム時代を象徴するVRMMO『ゲームワールドオンライン』が、消滅するかもしれないという大事件。


 当然この話は都市伝説的な噂だけに留まり、事実として公表はされていない。剣もこの情報に信じるつもりは毛頭ない。

 するとスタッフの方から、耳打ちする距離で深刻な顔をして剣に囁く。



「実は、この噂が広がったのには訳があるんです。このゲームワールドを無くそうと企む集団が潜んでいるからだとか……」


「サイバーテロリスト……!!?」

 剣はあまりの衝撃的な情報に絶句した。


伊火様いかさま』や、大人のチンピラ集団とは訳が違う。

 世の中のルールや秩序を平然で破り、己の手を犯罪で黒く汚す不届きな連中が、この時代にも複数隠れて悪巧みをしているのだ。


 今回の件は、ゲームワールドを管理する機関『WGC』をも手こずる程の厄介な相手であった。どんな事をしているのかというと……?


「『チート行為』というのは知ってますか?」

「………えっ!? あ、はい。多少は……」

 絶句してしばらく意識がとんだ剣は、再び我にかえった。


「『チート行為』というのは、ゲームデータや構築するプログラムを改ざんして、正規のプレイでは本来出来ないことを、不正に出来るようにする行為の事を言います。

 彼等はそのチート行為を繰り返し、プレイヤー達が築き上げた記録や名誉を奪い取り、数々のゲーム管理システムをクラッシュさせていきました。


 これを何度も続けたのならば、WGCへの損害だけでなく、プレイヤー全員の尊厳や秩序をも崩壊する危険性もあります。最悪の場合、ゲームワールドの根源となるシステムそのものが破壊されて、完全機能停止される事も……!!」



(……オイ、マジかよ……!?)



 相当深刻な問題であった。身勝手なプレイヤーのチートプレイが、他のプレイヤー達の居場所を奪っていく、我々ゲーム好きにとって許しがたい行為だ。


「……ちょっと待ってください。じゃ何のために不正防止機能や、槍一郎みたいなオフィシャルプレイヤーがいるんですか!? こんな大事態防げないんじゃ、WGCだって……!!」


「過去何度も、公式の強固なセキュリティシステムをも掻い潜る裏工作をされていました。チート行為の証拠を消すために防止装置を細工したり、証人の口封じにその人が蒸発したケースも出ています」

 ゲームの問題に冗談では通じない犯罪行為にまでエスカレートしていた。


「本物の犯罪集団じゃないですか! VRMMOでどうしてそこまで――!?」


「それは私共にも分かりません。ただ私達には彼等の悪意には、『超次元ゲーム時代』と呼ばれている今の時代を良しとしない者のが籠もってるように思うのです」



(恨み? ゲームに恨みを抱える奴が居るのか? ――そんな奴らの為に、俺達プレイヤーの居場所を失われるのを黙ってみてろって言うのか……!!)


 剣の心理が不安から怒りに変わった。好きなゲームを挑む場所を奪われる事、にどうしても剣は我慢ならなかったのだ。


「……何とかならないんですか? このままゲームワールドを消滅されるのを指咥えて待つなんて……」



「最大限の尽力はするつもりです。しかし我々の力だけではおそらく足りないでしょう。

 けれどプレイヤーが引き起こした悪意は、同じプレイヤーで食い止めることが出来ます。

 魂を込めてゲームに挑む、”ゲーム戦士“ならば……!」


  (―――!!)

 剣の心の中に、何か先から光が指すのを感じた。


「お話できるのはここまでです。この事はくれぐれも公の場では拡げないよう、ご協力お願い致します」


「はい……」

 剣はすっかり力の抜けた返事で返し、窓口を後にする。


 この話を聞かされた剣は、G−1グランプリへのエントリーどころではなかった。事の重大さに背中から押し潰されるような感覚を味わった。

 だが過去の孤独だった剣ならこのまま終わっていたであろうが、今は違う。

 様々なゲームを通じて繋がった『仲間』がいるのだ。


「早く皆に、この事を伝えなアカン――!!」


 ◇◇◇


 直ぐ様剣は現実世界に送還し、みのりや槍一郎を集めて桐山家でこの事情を一部始終話した。



「そんな、ゲームワールドが無くなっちゃうの!?」


 みのりはこの状況に混乱した。

 その様子を見守っていた剣の祖父矛幻は、この事を知っていたようだった。


「………その連中は最近になって、大会や各ゲームで犯行を始めたんや。最初はごく一般な一人のプレイヤーから始めた悪行が、同じ悪意を持つ同胞を増やして今やWGCの驚異となっている。

 何とか槍一郎君のようなオフィシャルが証拠に残そうとしても、二重三重と妨害が張り巡らせて対処が出来ない。恐ろしい奴らだ」


 そして剣と同じように怒りを溜め込んだ者がいた。親友の槍一郎だ。


「僕らオフィシャルプレイヤーが、何も出来ないでアイツらの悪行がエスカレートしているのを思うと……僕も悔しすぎる――ッ!!」

 槍一郎の両手の握り拳がワナワナと強く握りしめて、テロリストにかませられた怒りを表す。


「でも、このままじっと見てるわけにはいかないわ! 剣くん、どうしたらいいの?」

 みのりが益々不安になるなか、剣の心の縁には既に相応の覚悟が出来ていた。

 


「一人の無名プレイヤーが始めた犯罪を、同じ無名のプレイヤーである俺達が覆せない筈はない―――!!」

「剣――!?」


 槍一郎とみのりには直ぐに分かった。

 一番怒りを込めているのは剣だと言うことを……!!



「俺達はゲームで繋がってここまで来たんや! そのゲームの大事な居場所を、あんなエゴイスト共に潰されてたまっか! 俺はあのテロリスト集団をぶっ潰す!!

 ―――みのり、槍一郎、俺に力を貸してくれ!!!」


 剣の渾身の叫びに、二人の魂が響いた!!



「……よし分かった! 僕もプレイヤーとしてのプライドに賭けて、力を貸すよ!!」

「私も! これは超次元ゲーム時代に関わる大事な事ですもの!!」



 ―――やってやるぜッッ!!!!



『超次元ゲーム時代』と呼ばれる時代の狂乱の渦に今、魂の下に闘う3人のゲーム戦士が立ち上がった!

 ゲームに生きる、プレイヤー達の未来を掴むために……!!

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