第38話~『銃』へのリベンジ~

「――――【G−1ジーワングランプリ】?」


 仲間達と共に最強プレイヤーを目指すため、ゲームに挑む剣達。

 毎度些細な会話から物語がスタートするのが定番だが、今日は剣と槍一郎の二人。放課後を終えて家路へと浪速区を歩く二人の会話だ。



「そう、ゲームワールドで全国のプレイヤーの中の最強を決める大会だ。ゲームで勝ち取ってレベルを上げて、報酬を勝ち取るよりも格段に違う。

 G−1グランプリを制した者は、”最強のゲーム戦士“として名未来永劫名を刻まれるほど、最大級の名誉と言われてるんだ」


 槍一郎の言葉から出た『G−1グランプリ』。

 それは、超次元ゲーム時代を迎えてから50年の歴史の中で、黎明期から世界最大級のイベントとして有名な世界大会である。今回でその大会も50回目の節目を迎えたという。

 そしてその大会を制するということは、剣率いるゲーミングチーム『シャッフル』の頂点への目標を示す意味も持っていた。


「……世界大会って事は、関東からも来るって事か?」

「関東処か海外のプレイヤーも参加してるよ。それだけ巨大な大会って事」


「あのもか?」

「何だい、貴族野郎ってのは」

 槍一郎の鈍い反応に、剣は若干じれったくなりながら話した。


「『立海遊戯戦団たつみゆうぎせんだん』だよ」


「……成る程。確かに遊戯貴族が属するチームだけど。剣、そのチームの事を知ってるのかい?」

「『立海遊戯戦団』……」


 剣の脳裏には、かつてとある遊戯貴族に惨敗したシューティングゲームの事が鮮明にフラッシュバックした。

『立海遊戯戦団』のリーダー格、紅蓮のタキシードを装った悪魔の圧を持つ男、立海銃司たつみじゅうじとのタイマン勝負で見せられた実力の格差……


  思えばあの日から、剣のプレイヤーとしての意志が目覚めたと言っても過言では無かった。



「……へへへッ! 当たり前やがな。俺はあの真っ赤なキザったらしい貴族野郎に歯向かったんやからな」

「歯向かった? あの立海銃司と?」

 槍一郎は無謀かと言わんばかりに驚いていた。


「そう。あの弱者を見下した傲慢な面が気に入らなくってさ、でもアイツはめっちゃ強かった!」

 あの時、剣が彼に歯向かった事が如何に愚かであったか。自分の世界観が狭いものか今になって痛感していた。


「剣、銃司は遊戯貴族の中でも最も権力の強い【立海】の名に恥じぬ『銃』の魂を持つ男だ。

 強者を求めてゲームに挑んでは、相手を容赦なく豪快なプレイで圧倒する。そんな彼も今や関東代表のプレイヤーになっているんだ」


「大した大物やな! ――だが、俺もこのまま負けっぱなしじゃ性に合わねぇ。今度戦うときまで、奴を潰すくらい強くなんなアカンねん」

 剣のゲームやライバルに対する負けん気の意志は、鋼よりも固かった。


「やれやれ、血の気が多いな。でも剣、仮に銃司とリベンジするとして、今の君が彼に勝てる見込みはあるのか?」

「野暮な質問すんなや。例え実力差があろーが、意地でも奴にゃ俺自身の腕で勝負するに決まってんだろ」

 秘策や得策で勝つ気は無く、ただ純粋にド根性で勝負しようと誓う剣。だが


「敵は銃司だけじゃないんだぞ。それに『マスターオブプレイヤー』を目指す奴は根性だけで勝負するものじゃない。僕はその勝負に早まるべきじゃないな」


 剣は一旦躊躇った。だが剣の腹はライバルへの再戦の為に。そう魂に決まっていた。


「……槍ちゃん。その『G−1グランプリ』の受付ってのは締め切りは何時なん?」

「ん、確か……あと5日後だったかな? まず各地域ごとの予選のエントリーがあるんだ」

 これを聞いた剣は、一瞬頭の血が引いたと思えば、あたふたと荷物の中を探り出した。


「それを早く言ってくれよ! 今すぐエントリーしなくちゃ」

 咄嗟に剣は荷物からプレイギアを取り出して、G−1グランプリのエントリー情報を得ながら、ゲートを出現する準備をした。


「はっ? 剣、本気でG−1グランプリに参加するのか!?」

「なーに、あくまでも実力比べや。それに参加すれば『シャッフル』の知名度も上がるやろ?」


 プレイギアでゲートを呼び出し、一人ゲームワールドへ転送しようとする剣を槍一郎は一旦止めた。


「待て! ――その実力比べも、銃司を打ち勝つ為か?」

「………当たり前や。これは俺の誇りプライドの問題やからな。―――じゃな!」

 そう言うと、剣は一人ゲームワールドへ転送された。



(――宿命の好敵手ライバルってのは……何とも一方的なもんだな)



 ◇◇◇


 ―――変わってここはゲームワールド。

『プレイヤー・バザール』の市場から、南西に見た方向にある【インフォメーションオフィス】に剣は向かっていた。


 ここではプレイヤーのプロフィール更新や、クリア報酬の賞金の口座手続き、アンティでの破産保証保険の加入、そして先程のG−1グランプリのエントリーも行うことが出来るのだ。


 剣は『G−1グランプリ・関西地区予選』の概要パンフレットを読み漁っていた。


「えっと、参加条件は7才以上。ゲームプレイ違反点数が10以下であれば誰でも参加可能か。よし大丈夫や。エントリーするぞ~!」

 と張り切る剣は、勇んで大会エントリー窓口へと向かい、出場登録への手続きを行った。

 出場条件が緩い予選という事もあって、関西地区だけでも10万人以上のエントリー数を確認されていた。


 そして面倒ながらも、剣は長ったらしい登録手続きを終えたのだった。


「……はい! 正常に大会エントリーが完了されました! 予選開催まで約一ヶ月御座いますので、万全の準備でお臨み下さい」

 窓口の美人スタッフがにっこりと登録完了の報告と、健闘を祈る挨拶に、剣は俄然やる気になる。



「しかしまぁ、地区予選だけでも10万人のエントリーとは。予選突破だけでもかなり知名度上がるで、ホンマに」

 等と期待を膨らます剣に、スタッフも反応する。


「何しろ今年で50回目という節目の大会ですからね。……願わくば、今回でにならなければ良いのですが」


「そりゃごっつ押し寄せてくる訳や。これで勝ち続けりゃ絶対天下取れるで……………」


(――――最後……!!?)


 スタッフが思わず口にした、『最後』というさりげない言葉に、剣の顔色が一変した。


 一体どういう事なのか? 我々の知らない所で、ゲームワールドの危機に晒されているのか――!?

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