第37話~二つの刃の絆~
協力プレイ型シューティング『ゼビウス・フューチャー』に挑戦するも、互いの波長が合わず、早くも仲間割れの雰囲気を醸し出す剣と槍一郎。
そんな空気から抜け出したのは、槍一郎の方だった。
「………なぁ剣。最強ってのは、一人でなるものだと思うかい?」
「あ? 何やねん藪から棒に………」
剣は苛立ちが丁度落ち着き始めた時でもあり、威圧的になりながらも、脈絡の無い話に困惑した。
「剣、僕だって最初から強かった訳じゃないよ。僕のスピードも、他のプレイヤーや恩師達と自らの実力で培った結晶だ。
確かに剣と僕とじゃ実力は雲泥の差だが……君は僕よりも強くなって欲しいんだ!!」
槍一郎はその真意を熱く剣に語る。だが剣はまだ信じがたい様子であった。
「なんでそこまで……俺の何処にそんな根拠があるん……?」
「………剣は、僕の何処が凄いと思った?」
槍一郎は質問を質問で持ち掛ける。
「え、そりゃお前スピードやがな! それと、冷静な所やろ? あとは……」
『スピード』は直ぐに浮かんだが、剣はその後しどろもどろで中々槍一郎の利点が浮かばなかった。
「そう、悪く言えば僕はそれしか取り柄が無い。だけど剣にはそれ以上の可能性がある! ゲームに対する好奇心も、想像を越える戦略も僕より上だ!
――僕やみのりちゃん達が信じる君の力を、君自身にも信じて欲しいんだ!!」
「槍一郎………」
その熱意に嘘偽りは無い。クールな槍一郎が強くぶつけた想いは剣にしっかりと伝わった。
「――俺、槍一郎に遠慮してたのかもな。仲間同士なのにさ、自分押し殺してやるゲームなんてらしくねぇやな! 槍一……いや! 槍ちゃん!!」
「槍ちゃん!?」
剣は初めて槍一郎に対し、愛称で呼び掛けた。そのまま名前呼ぶのは、彼にとって性に合わないと思ったのだろう。いきなりの愛称呼ばわれに槍一郎は思わず動揺した。
「お前の事や! 今から俺は『
みのりやお前が俺を信じてくれたように、俺も俺らしく槍ちゃんを信じる! そう決めたかんなッ!!」
躊躇っていた己にようやく吹っ切れた剣。その清々しさに槍一郎も思わず笑みを浮かべる。
「――よし! じゃもう一度、ゼビウスにリベンジだ!!」
かくして、二人は再び闘志を燃やし『ゼビウス・フューチャー』に再チャレンジ。
それぞれ1回目と同じ配置で、各自スタンバイをする。
「今度は俺がどう動きたいか指示するから、槍ちゃんは『ザッパー』の連射、あと距離のスペース管理頼まぁ」
「了解!!」
互いに意思疎通のコミュニケーションを事前に取る。心の壁は無くなった今、二人の心は一つとなった。
さぁ、クリアに向けて……準備は出来たかッ!?
『ゲームスタート!!』
スタートアナウンスと8ビットファンファーレでソルバルウが飛び立つ!!
「剣、敵機に正面合わせて!」
「OK!!」
剣は咄嗟に向かってくる雑魚の敵キャラの動きに合わせ左右へ移動、そして槍一郎が直ぐ様、迅速の地団駄!!
ザッパーの雨で四散する敵機、ビットの儚い音を立てて一気に消滅!!
「あんま焦んな、体力はキープしとけ槍ちゃん!」
「大丈夫、まだ序の口だよ」
剣の方も先程よりも安定した動きで対地武器『ブラスター』を百発百中で仕留めていった。そして隠しキャラ『ソル』も――
――ニョキニョキ、ズガァァァァン!!
出現&撃退! ダブルで合計4,000点獲得!!
「良いぞ! 安定してる!!」
槍一郎は正面のモニターを黙視しながらも剣を鼓舞する。
中ボスの地上機も難なく撃破。
イージーミスを防ぐために敵に近づきすぎず、広めに距離を置いて撃破するのがシューティングの基礎。それを頭に入れてソルバルウは飛び回る。
暫くして――
「おっと来たか、鉄板ヤロー!!」
剣の言う『鉄板ヤロー』とは、空中回転する鉄壁の生命体『バキュラ』。
昔は≪ザッパーを256発撃たないと破壊されない≫ という噂が飛び交ったが、それはゲーム上実行不可能なのだ。
「バキュラが飛び交う今は避けるだけにして! ブラスター撃つのは僕が指示するよ!!」
砂漠地帯はバキュラの無法地帯、成す術なしのソルバルウはただひたすら避けるしかない。
そしてバキュラの群れを抜けて、道路が見えようとしたその時。
「――そこ! その辺をブラスターで撃って! アレが潜んでる!!」
「あ、ここか!」
そう言うと剣はブラスターで左右満面なく撃ち落とす。発射する毎にいちいち小ジャンプで撃たねばならないから体力が心配。すると、
「……出た! 【スペシャルフラッグ】だ!!」
☆【スペシャルフラッグ】
『ソル』と並ぶ隠しキャラの一つで旗のマークをしている。
ソル以上に潜在している場所が限られており見つけ方も難しくなっているが、出現した後に通過すると残機が1機追加される。
因みに『ゼビウス・フューチャー』の場合は通過で10,000点スコアが入る。
―G-バイブル『隠し要素はゲームのヒット要因』より抜粋―
直ぐ様ソルバルウにスペシャルフラッグを通過させ、10,000点獲得!!
ここまで来れば、もう後はゼビウスの一番の名物を待つのみ。
……え? 一番の名物って何?ですって。
それはこれから読んでのお楽しみ。あ、ゼビウスファンの方はお口チャックですよ!
「槍ちゃん、そろそろアイツが出る頃ちゃうか?」
「そうだね。油断しないように備えておこう」
――と言ってる側から……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!
((………来たッッ!!!))
これがゼビウスの一番名物!!
巨大要塞・アンドアジェネシス!!!
中央の赤いコアの周辺にある砲台4つの凄まじい攻撃と敵キャラの防衛による鉄壁。
これらを掻い潜って、弱点である赤コアをブラスターに撃ち込めば撃退される。
これを倒せば『ゼビウス・フューチャー』クリア、これがラストスパート! 二人とも頑張れー!!
「………とにかく避けるっきゃねぇ!!」
鼓舞した側から避けるとはこれ如何に。しかし前の中ボスよりも激しい攻撃を前にしては、逃げるしかないソルバルウ。剣の掛け声に槍一郎は無言で承知し、ひたすらに攻撃から回避する。
(アンドアジェネシスは最初は勢い付けて攻撃してくるが、暫くするとその勢いが弱まってソルバルウの隙を作る。仕留めるチャンスはそこしかない!!)
巨大要塞の攻撃の緩みを待つ剣達。
ところがいつまで経っても攻撃は一向に衰えず、それどころか更に激しさを増していく。
最終ボスの貫禄は決してプレイヤー達に妥協を許さなかった。
「槍ちゃん! 早く仕留めないと、俺達の集中力が持たねぇぞ!!」
剣も槍一郎も息切れ切れになりながら、ひたすら回避を続ける。そしてとうとう……
――ドカァァァァァァン!!
ソルバルウ、2機目の撃破。残りはラスト1機、後がなくなった。
「あんにゃろぉ~! 全然攻撃緩めねぇじゃん!!」
剣は巨大要塞の強さに悔しがる。
「……剣、君のステータスにあるプレイヤースキル、何持ってる?」
「あ?」
「あのアンドアジェネシスを仕留めるには、プレイヤースキルの能力を使わないと難しい。僕と剣のプレイヤースキルを駆使して、クリアするんだ!」
「おぉ!……とは言ってもよぉ……」
剣は自信無さげにプレイギアを取り出す。
彼のプレイヤーステータス、そのプレイヤースキルには【エース・スラッシュ】、【精神統一】のみしかない。
「十分じゃないか! これだけでも勝てるよ!!」
槍一郎が指し示したスキルとは……
◇◇◇
「なぁ槍ちゃん、俺このスキル使ったことないから分からんけど、信じてエェんやな?」
「まだ僕の事信じてくれないのかい?」
槍一郎は上の段からジト目で剣を見つめる。
「………うんにゃ! 俺は槍ちゃんとやるからこそ、全力で信じて見たいんや!!」
「――そうか!じゃ行くぞ!!」
二人はゲーム続行前にプレイギアのプレイヤースキルをタッチ操作で作動させた!
「「プレイヤースキル・【精神統一】、発動!!」」
◎プレイヤースキル◎
【精神統一】
・このスキルを発動する時、精神を一点に研ぎ澄ます事で、プレイヤーの五感全てを最大限に高める事ができる。
『ゲーム、スタート!!』
剣と槍一郎のプレイヤースキルを発動したことにより、今までとは違う感覚でプレイをしている。その感覚は剣が全てを物語っていた。
(ふわぁ……何や、この感じ。今にも眠くてバタンキューしそうな感覚なのに、縦スクロールでゲームが動いてる筈なのに――俺には全部止まってるように見える!)
それは槍一郎も同じ感覚であった。
止まってる感覚はゲームの不具合が原因ではない。
剣達がプレイヤースキルで五感を研ぎ澄ました事により、明鏡止水の如く心を落ち着けてプレイ出来るようになった賜物なのだ。
(それにお互い話さなくても、槍ちゃんの意思が俺の頭に直接伝わってくる! これならどんな敵でも怖くないぜ!!)
そしていよいよ……最終ボス『アンドアジェネシス』との再会だ――!!
「――!!!」
止めどなく降り注ぐ弾の雨と敵キャラの防衛、しかし剣にはそれすらもスローモーに見極めていた!!
(見える、見えるぜ――ッ!
この赤いコアを防ぐ弾と、防衛を潜り抜けられる勝利への突破口がッッ!!)
「……剣! 一気に攻め落とすぞ!!」
槍一郎も剣に呼び掛ける。ニヤリと笑みを浮かべながら、剣はそれに応対した!
「あぁ………行くぜッッ!!!」
弾を越えて、防衛を撃ち落として、カーソルが指し示した先は……アンドアジェネシスのレッドコア! ロックオン!!
「これで終わりだ!! ラスト・ブラスター発射ッッ!!!!」
対地武器ブラスター、投下!!!
――ズドォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
巨大要塞アンドアジェネシス撃破! 祝福は例のアナウンスで締めくくる!!
『ゼビウス・フューチャー、
「「――よっしゃああああああああああああああああッッ!!!!!!」」
歓喜の雄叫びがフィールドに木霊した!
更にプレイギアの通知音からクリア報酬の受け取り、そしてプレイヤーレベルの上がる音も褒美に受け取っていった。
剣と槍一郎がL字の2段レールを降りて駆け寄る。そして互いにガッチリと握手を交わし、抱き締めた。
「やったよ槍ちゃん~ッッ!!」
「良く頑張った! それこそ剣だ!!」
最強ゲーム戦士を目指す者同士、互いに力合わせゲームに挑むその心強さを、剣は身を持って感じた。
「俺分かったよ。最強になる為には一人だけの力じゃ駄目なんやって。自分の良いとこも悪いとこも理解してくれる仲間が居てこそ……だよな!」
剣の晴れ晴れとした笑顔が、また一つ彼を成長させた証となった。
「――そうだ! 自分の事ばかり考えてちゃ、自分じゃ見えない殻も破れないからな。
僕も剣と一緒に更に自分の壁を越えていきたいんだ!! だから……これからも宜しく!!!」
槍一郎はもう一度剣に握手を求めた。
「あぁ! 勿論や、槍ちゃん!!」
汗の滲んだ熱い手で握りしめた握手、それは互いの頑なな『絆』を示した誓いの証であった。
熱い魂を持つ剣と、クールなハートを持つ槍一郎。
彼らと繋ぐ絆の先には、どんなゲームが待っているのか――!?
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