第66話~プレイヤーの魂~

 向かった先は同じくプレイヤーバザールエリアの南西にある静かな土地、バザールとは多少無縁なである。


「……俺達にされるんかな?」

「いやぁ!私解剖されるの!?寝たきりだし」


「アホ!!こんな緊急時に実験するか!みのりも乗らないでよろしい」


 余計なボケはほっといて、この研究所を説明しよう。


 ――この研究所の名は【プレイヤーズ・ラボ】。


 プレイヤーのゲームプレイの様子やステータスの変化、各ゲームの攻略研究等を行っている。

 研究所の無数のコンピュータから、ゲームのリプレイ等の映像データが多数眠っているのだ。


 しかし、槍一郎がここを選んだ理由は別にあった。


「ここで何をするんだよ?時間も無いのに」


「少ない時間でも剣達にとって充実する事をやって貰う。――その前に!」


 槍一郎はプレイギアを開きながらみのりに質問を持ちかけた。


「みのりちゃん、マインスイーパの決勝で戦った烏田からすだって男とゲームしてどんな感じだった?」


「?――えーと、何か冷たく怖そうな感じで……そうだ!何か右手が光りだして私、操られていたんだ!!」


「「「操られていた!!?」」」


「……もしかしてそれは、【遊奥義】とかいう技かな?」

「そうそう!!そんな事言ってた」


 遊奥義――!!


 読者の皆さんは覚えているだろうか、かつて槍一郎と初めて出会い仲間になった時に見せたあの技――!



『ランサー流 遊奥義!!『疾風怒濤しっぷうどとう』!!!!!』


 そして、レミが予選3rdSTAGEで見せたあの能力!


遊奥義ゆうおうぎ・【BLACKBOX《ブラックボックス》】発動!!』



 これらも同じ『遊奥義』という技・能力である。


「――これで分かったよ。

 そいつはブラックヘロンの一員だが、『B.H Bat』でイカサマをするような奴じゃない。だ」


 これを聞いた剣もそろそろ疑問に思うことが出てきたようだ。


「自分だけ理解してないで俺にも教えろよ、何なんだよそのってのは!」


「遊奥義ってのは、プレイヤーの極限を越えた能力の1つだ。

 プレイヤーステータスの『プレイヤースキル』のような技よりも優れたが存在するんだ。

 僕が前に剣に見せた技も烏田の能力もそれに値する」


「そんなマンガみたいな能力が……」

「有り得るんだよ。プレイヤーの力は無限大だからね」


 この物語自体がマンガみたいだとつっこむのは野暮なのでスルーしておこう。


「だが、遊奥義が凄い訳じゃない。プレイヤーにも十人十色といて色んな能力を持っている。

 下手すればゲームの本質さえも狂わせる能力を持つプレイヤーだっている。

 その能力はプレイヤーのプレイスタイル、そしてゲームに対する意思で姿を変える!――で!!」


 魂の形で姿を変える能力――!?


「……じゃ何か?その遊奥義が使えるのも、自分の個性やアイデンティティが形になったが存在するから……なのか??」



「流石はリーダーだ、飲み込みが早いことで!正に御名答!!

 その能力はプレイヤーの個性を形にした


 ――――その名も『Playing《プレイング》 Ability《アビリティ》 Soul《ソウル》』、略して【PAS《パス》】と呼ぶ――!!」



「【PAS】――!!!!」


 剣もこれを聞いて眼を光らせてたであろう。何しろ今まで聞いたこともない能力と、自分自身の可能性が光指したようなものであったから!


「あ。そういえば槍ちゃんもレミもPASが覚醒されてるんだったっけ?」


 槍一郎もレミも遊奥義を使ってたのだから気になってたようだ。


「僕はオフィシャルプレイヤーになってから覚醒はしたよ」


「あたしは剣君とテトリス手伝ってくれた時より前に既に覚醒してたんだって。豪樹さんが言ってた」


「え、じゃ豪樹さんもPASを――!?」


「皆よりも前から覚醒はしとるで!ただ皆の前では見せんかっただけや」


「怖っ……じゃ今までのは本気じゃ無かったんじゃん……」

 剣は改めて豪樹に身震いした。


「詳しい話はまだ研究しているけど、本来PASはゲームの経験と闘争心に反応して覚醒する仕組みになっているらしい。

 でも剣は経験値は十分、プレイヤーステータスで必要な数値やスキルも備わっている。後は自分の個性を自覚さえすれば覚醒も近いと思われる」


 槍一郎は剣との1ヶ月の特訓の成果から、PASを覚醒させる事も計算しての計画であった。


「てことは、俺も近々PASが覚醒するって事か!?」

「そういう事。だからこの研究所で自分のPASを自覚させたかったんだ」


 槍一郎がこの研究所を知ってたのもきっと同じようにPASの事をここで知ったからだろう。


「それはありがたいぜ!これであいつらと存分に戦える!!

 ――で、どうやってやるんだ槍ちゃん?」


「それは専門家の人に任せよう!先生、お願いします!!」


 研究所の向こう側のドアが開いた。

 出てきたのはみすぼらしさが目立つオールドオーソリティー感抜群の老教授、Mr.ノイマン(72)だ。


 彼の異様なオーラに剣は少しビビった。


「……こんな緊急時の時に、何とも興味深いプレイヤーを連れてきたようだな!槍一郎君」


 興味あり気に見つめるMr.ノイマンに槍一郎は満足そうに答えた。


「ええ!彼といると退屈しませんよ!!」



 ◇◇◇


 ――一方、プレイヤーバザールから離れ遥か北へ向かった先に小さな島のような大陸がある。


 ドス黒い雲にマッチするかのような赤く染まった中世の城のようなものが。


 その名も【バスター・キャッスル】!!!

 詳しい事はまだ不明である。



 その城の中に一人、玉座に座り退屈そうにしている男。そして玉座の間から一人の侍女が。


「――失礼致します。現在のゲームワールドの状況を報告致します、



 玉座に座る男、立海遊戯戦団のリーダーの『立海銃司たつみじゅうじ』である。

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