第65話~哀しみの夜空~
――ゲームワールドにも夜がある。
予選での激闘、そして精魂尽き果てたプレイヤーの傷を癒すための夜がある。
そんな常闇とネオンで覆われたゲームワールドのエリア。
デュエルフィールドはテロリスト集団『ブラックヘロン』に完膚無く占領され、更には現実世界へ転送も出来ない。
最早、籠の鳥のようにプレイヤーが捕らわれつつあった。
――そしてここはデュエルフィールドから少し離れた救急病棟。
ゲームの電脳世界とはいえ、現実と同じでダメージに妥協しない。
不慮のアクシデントや、事故での怪我の為に各エリアに救急の施設が存在する。
その中では先程爆破テロの犠牲になったシャッフル・オールスターズ、河井みのりが手当てを受けていた。
「……どうなんですか?」
立ち合いに桐山剣が医者に問いかけた。
「何とか、九死に一生を得た感じですね。ただ暫くは安静にしていないと」
あの爆破に巻き込まれた時、剣の問いかけで急所から外れ、大事に至らなかったようだ。
「良かった……ホント良かった――!!」
剣も安堵の表情に戻った。
「でもこの怪我じゃ予選は厳しいぞ……?」
「……それは本人が一番分かってることだろ」
不安を仰ぐ槍一郎達に、剣も「皆まで言うな」と言わんばかりに話を遮った。
「さて、これから先どうするか考えんとなぁ。ゲームワールドから逃げられへんし、どのみち闘うより方法はあらへんが……」
豪樹がこの先の事を考えている最中、突然――!!
バァンッ!!!
「!?」
ブラックヘロンの一員が強引にみのりのいる病室に侵入してきた。
「見つけたぞ、剣!!大人しくその寝込んでるお嬢さん渡してお縄に――――」
――ドスッッ!!!!
剣は一員に思い切り腹パンを繰り出した。
「――今お取り込み中だ。とっとと消え失せな!!!」
腹パンに続いて剣は蹴りつけた所でメンバー一同、寝込んでるみのりをベッドごと持ち帰りその場を立ち去った。
「悪ぃな先生!みのりは預かります!!お世話様でした!!」
そしてメンバー一目散に病棟を後にした。
「……あぁ、お大事に。――後でちゃんとベッド返してね!!」
◇◇◇
ブラックヘロンの一員から逃れ、デュエルフィールドから一先離れた『プレイヤーバザール』まで徒歩で逃げていったシャッフルオールスターズ。
「ハァハァ、ここまで来れば大丈夫だろう」
「う、うーん…………」
あれだけ騒いでいた為か、寝込んでいたみのりがここで意識を取り戻した。
「あ!みのりちゃん気が付いたみたい!!」
「何!?ホントか!!?」
剣は直ぐ様みのりのベッドの元へ駆け寄る。
「しっかりしろ!俺のこと分かるか?みのり」
「…………剣君?あれ、私どうしちゃったんだろ?」
みのりのいつもの呑気さが戻り、剣達も心の底から安堵した。
「ったくよぉ……!!心配させんなよホントによぉッッ!!!」
ここで一番安心したのは剣であった。今にも剣の目が涙で潤みそうである。
「……そっか、あの時爆発に巻き込まれて――ゴメンね皆、心配かけちゃって」
「みのりちゃんは何も悪くないよ。剣は必死に君を救おうしてたんだ、責めることなんか1つもない」
「そうや、悪いのは爆弾仕掛けたブラックヘロンの方や」
みのり自身はそれでも責任を感じていたが、剣が自分を本気で救おうとしたことは少し嬉しかった。そして、あることに気付く。
「――――そうだわ!!ねぇ、私の予選どうなったの?皆のは!?」
みのりは自分の事とメンバーの予選の前半戦の結果を聞き始めた。
この事は剣が思い切って説明した。
「………良く聞いてくれみのり、G-1グランプリは中止になった。
ブラックヘロンの奴等が、参加プレイヤーと主催のWGCの役員達を人質に取って、完全にゲームワールドを乗っ取りやがったんだ!!!」
「……嘘でしょ――?!」
先程の救急病棟での襲撃であったように、会場の『デュエルフィールド』を中心に、『プレイヤーバザール』や『パズルファクトリー』等の周辺エリアは既にブラックヘロンによって占領。
もはやG-1グランプリ処の話では無くなり、ゲームワールドはテロリストの巣箱同然と化してしまったのだ……
「私達のやってきた事は無駄だったって事なの……??」
勿論みのりや剣達は納得はしていない。だが緊急時には致し方ない決断だった。
みのりの出した言葉から悔しさが滲み出ていた。
「……みのり、悔しい気持ちは分かるが――」
「悔しいもん!でも大会でダメだったからとかじゃない!!」
剣の同情を遮り、みのりは思いの丈をぶつけた。
「――私ゲーム強くないし、いつも剣君達のゲーム見ててカッコいいな、羨ましいなとかあんな風に上手くなりたいって思ってた。
でもどんなことをしてでも勝とうとする悪いプレイヤーが好き勝手やってるのは強さとは違う、間違ってると思う。
そんな私にはそれを証明する力がない!!何も出来ない!!!
強さとか暴力で大切なものを踏みにじられて、それをただ見ていることしか出来ないのが私は一番、悔しい―――ッッ!!!!!」
みのりはこの時初めて、大粒の涙を剣達の前で見せた。
ゲームの実力が無い自分がどれほど無力か、剣達に迷惑をかけてしまったか、それがみのりは一番悔しかった。
「――――――?」
そんな泣いているみのりの手を握りしめて、剣は更に寄り添った。
「そうだよな、悔しいよな。俺達みたいな正直者が泣きを見せるほど悔しすぎるもんな……!!
みのりをこんなに泣かせて、仲間を傷つけられて結局あいつらを仕留められねぇ。
ホントに非力って罪だよな、何も出来ないって……ムカつくぜ――!!!!」
剣も今にも泣きそうになるくらい声を震えながら膝をおろした。ただただ無念としか言い様の無い空気がメンバー全員に漂った。
「――前に矛玄さんが言ってた。
『力を持つ者には2つの魂がある』って」
「……おじいちゃんが?何だよ2つの魂って」
剣は槍一郎が発した祖父の矛玄の名前に反応するように話を聞いた。
「1つは【正義の魂】、正義といってもヒーローの概念に拘らず、己を信じ己の信念を貫き通し正しき方向へ導き示す心を意味する。
もう1つは【邪気の魂】、我を見失いただ己の欲望を欲するがままに破壊や殺意を覆う人の道外れた魂、それに囚われし者は栄光か破滅への道かを選ぶしか術なし」
「……急にマジな話になっちゃったけど、何が言いたいんだよ?」
剣はさっきまで泣きそうになってたのが小難しい話で眉をしかめていた。
「分かんないかな……要するに!
力のある強いプレイヤーってのは考え方次第で英雄にも悪役にも成りうるって事!!」
槍一郎もそんなにムキにならなくても良いと思うが。
「……剣はどっちの方が良い?英雄になるか、落ちぶれてグレて終わるか!?」
「――!!」
剣は目が覚めたかのように何かに悟った。
「前者だ、当たり前だろ?俺が最強のプレイヤーを目指すのは自分の為だけじゃねぇ。大事なものを守り通すため!!
その為に『剣』抱えてゲームやってんじゃねぇか!!!」
槍一郎は剣が活気を取り戻したと同時に笑みを浮かべた。
「分かってるじゃないか!じゃ話は早い!!今から剣や皆には『英雄』になって貰わなきゃ!!そして僕もね!!!」
「ちょ、ちょっと!槍ちゃん何処に行くのよ!?」
「――決まってるだろう?英雄になるためにうってつけの研究所だ!!」
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