第32話~天才? パズル女子プレイヤー現る!!~

 テトリスの厳しさを思い知らされた剣とみのり。

 一旦筐体から離れて、休憩用のベンチに二人きりで休んだ。


「でもテトリスも奥が深いわね。どんな形のテトリミノが降るか分からない上、咄嗟の判断で、何処に重ねるのか決めなきゃいけない。難しい世界だわ!!」


 みのりはお手上げな感じで頭を抱えた。


「それだけやない。いくら綺麗に積み上げても、俺みたいに肝心の落とす位置を間違えたら、大きなミスにもなるから余計に焦んねん。パズル好きのプレイヤー達がやり込む気持ちも分かるよ」


 剣はそう言いながら、ベンチから遠目に展示されたモニターボードを見つめている。


(≪テトリス日間スコアランキング1位 畠田はたけだレミ スコア:996450≫、か……)


 ゲームを上達させるためには、実戦を積み重ねるのもそうだが、最強プレイヤーのプレイを見て、模範勉強するのも手である。


 ≪畠田レミ≫……!!

 剣はハイスコアのボードに天高く記された、このプレイヤーの名前に標準を定めた。


「……何ボーッとしてるの? 剣くん」


 みのりは剣をジーっと見つめた。

 近くで見詰められているのを剣は後から気付き、たじろいだが直ぐに平静になった。


「………やっぱりパズルのノウハウを知るにゃ、トップから学ぶ必要があるな!」

「トップ??」


「テトリスのトッププレイヤーを探そう! 大体あーゆータイプは毎日ゲーセン通ってる奴だって、相場が決まってんねん」


 剣の概念は当てになるかはさておき。剣達はテトリスのトップスコアを取った『畠田レミ』なる人を探すべく、『パズルファクトリー』内のプレイヤー達に徹底的に訪ねていった。


「―――畠田レミ? あぁ、その人ならまたテトリスやってんじゃないの? 丁度この時間になると、毎日のようにやってるし」

「どんな姿してました?」


「君たちみたいな高校生くらいかな。それもお嬢ちゃんみたいなバリバリJKな感じ!」


(私と同い年くらいかしら)


 剣達はプレイヤー達の情報を下に、無我夢中で彼女を探しにテトリス筐体のあるエリアへと戻った。


「剣くん、あの人じゃない!?」


 そこには、テトリスの筐体にしがみつくように集中している黒髪ポニーテールの女の子が一人。みのりの思惑通り、彼女らと同い年の16歳、畠田レミがそこにいた!!



「に゛ゃぁぁぁああ!! またスコア100万点逃しちゃった~!!」

 見つけたと同時に鳴り渡る喚声。どーやら丁度ゲームが終わったようだ。



「……あの~、もしかして貴方が畠田レミさん……?」

 みのりが恐る恐るレミに話しかけた。


「だったら何よ? あたしの『テトリスでスコア100万点取っちゃるけんね作戦』の邪魔しないで!」


 貴方何処の生まれですか。と言わんばかりのノリだが、自称してる通り、間違いなく畠田レミ御本人のようだ。


「いや邪魔するつもりやあらへん。日間のテトリスランキング1位のプロが、どんな人かなーって観に来たんや。俺等はしがない野次馬や」

 しかし当のトッププレイヤーの反応は、意外なものだった。


「……あたしがプロで1位? 何それ。いつの間にそんなのになってんの??」


(え? 意識してなかったの??)

 剣とみのりはきょとんとしていた。


 一方のレミは、赤の他人にいきなり話し掛けられて、疑わしい感じもした。しかし自分と同年代であるのを察して直ぐに打ち解けた。


「……あたしね、小さい頃からテトリスとかパズルゲームが大好きなんだけど、スコアを競うとか、そーゆー争い事って好きじゃないのよ。

 ここ最近ゲームワールドでテトリスばっかりやってて、最近周りがワーキャー言うと思ったら、この事だったのね。知らなかった!」


「じゃ、この『パズルファクトリー』でしか、ゲームしてへんのか?」と剣。

「うん。パズル以外興味ないもの」


「え、じゃあ、公式大会とか出たことないの!?」とみのり。

「無いわよ」

「あ、俺も」


(剣くんも乗っかかるんかい)

 棚から飛び出た思いがけない個人情報である。


「……まぁせっかくやし、レミのテトリスの技とか見せてくれよ! 俺らも邪魔せぇへんからさ」


「いいわよ。でも集中したいから静かにね?」

「勿論や」


 そう言うとレミは再びテトリスを始めた。

 バージョンはさっき剣達がやっていたシンプルな初期型タイプである。


 ―――ゲームスタート!!


(実際テトリスでプレイヤー達を大きく差をつけて、100万点近く取っているヤツが、大会に出ないのは惜しい話だが――――見せてもらうぜ、その実力!!)


 剣は無言で視線を光らせながら思った……


 ―――その刹那に!!!


 ――ガチャン、ガチャ、ストンッッ!!


 素早いレバーの動き、ボタンの軽やかな連打で流星の如くテトリミノが降り注ぐ!!


 そしてジグソーパズルの如く綺麗に四角く四段ラインを積み重ね、残すは四段直列!!


 次に落ちるのは、I型テトリミノ!!

 四列の密着したブロック、その直線型の隙間を釘打つように突き刺した!!



「―――はいっ、『テトリス』!!」


 積み重ねたブロックが、一つ残らず消し去った!!


(な、何で!? 何でこんなにあっさりとテトリス出来ちゃうの!?)

(……初手テトリスで、やと……!!?)


 一見強者らしいオーラを感じないその裏に、見せつける畠田レミの実力。

 それは彼女が無意識の内に身に着けていた能力【ブラックボックス思考】にあった……!!

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