第33話~テトリス攻略・ブラックボックス流~

 ―――10分後。


 剣とみのりが、テトリス日間ランキングのトッププレイヤー・畠田はたけだレミのプレイを拝見し、剣はあることに気づいた。


(……やっぱりレミのセンスの源は勘やな。

 途切れない集中力と空間認知力が継続の助けになってる反面、大それたテクニックはなく、工夫もなかった。やり方は知ってるけど本質知らず。【ブラックボックス】って所か……)


 ブラックボックス、即ち『中身の分からない箱』。


 レミの脳内に宿る暗箱が起動され、テトリスを凌駕する。ところが、そのブラックボックスが尻切れトンボのように集中が途切れ、ゲームオーバーの音が鳴り渡る。


「……あれぇ~? おかしいな、さっきから調子が上がらない……」


 勿論剣達が邪魔した訳では無いが、レミのスコアは845360点。前回から減点された不調である。


「さっきから長い事ずーっとプレイしてたから、集中力が途切れたんや。レミ、一旦ちょっと休憩しようや!」

「工場の外に売店があったわ。彼処でお茶でもしましょうよ!」

「え、うん……」


 工場の近くで売店、更にティータイムというのもマッチしない雰囲気だが。剣達はレミを連れて一旦パズル工場を離れた。


「はいよ、俺達からのおごり!」

 剣はレミに売店で買ってきたチョコレートシロップタップリなパフェを渡した。


「え!? 良いの?」

 レミは戸惑っていた。いくら同年代の学生とはいえども、見ず知らずの人に奢って貰うとなると流石に遠慮する。


「真剣にテトリスしてるレミちゃん見てたら、応援したくなっちゃって!」

「俺等の気まぐれやと思って食べな。甘いものは頭の休憩に良いんやで」


「わぁ、ありがとう~! あたしチョコレートパフェ大好きなの!!」

 と言うとレミは嬉しそうにパフェを頬張った。


「―――昔からやってるの? テトリス」

 みのりはレミに興味津々に質問する。


「テトリスというよりも、あたしパズルゲームそのものが大好きなの。

 普通の人から見たら難しそうなパズルを、自分の力で解いてくのが凄く楽しくて!

 このゲームワールドでパズルがやれるって事を知ってから、ずっとパズルばっかりやってるわ」


 ゲームへの想いは人それぞれ。レミのパズルゲームに対する好奇心が、知らない間に驚異的なセンスを産み出しているのだ。


「それに……ゲーム上手くなったら、友達出来るかなって思って」

 レミは急に浮かない顔をしながら下に俯いた。


「………どういう事や?」


「――――あたし、中学の時に結構いじめられててね。

 親友って呼べる人も居ないし、不登校にはならなかったけど、あたしにも誇れるものが欲しいと思って……!」


「「………………」」


 レミの眼から若干涙で潤い始めた。

 話さなくともその苛めが悲痛であることを、剣とみのりは真摯に受け止めた。


「………ほんで、そいつらを見返したいと思ってゲームしてんのか?」

 剣は一転して真剣な表情になって、レミの心情を伺った。


「そんなんじゃないの! 私は自分の極限を越えたい!! ――自分だってやれば出来るって事を、ゲームを通じて証明したいの!!!」


  (…………その時点で圧勝やがな。イジメっ子野郎相手にゃ……!)

 この本音を貫いたレミの答えに、剣の魂に何か惹かれるものを感じた…!


「……よし! じゃ俺も手伝ってやるよ。レミの『スコア100万取ったるわコルァ計画』!!」

「本当!? でもそんな計画名じゃないわよ!『スコア100万も良いけど百万円は欲しいわ計画』!!」


 ネーミングはどーでもいいでしょうに。


「まぁ、それはエェとして。レミはさ、テトリスやってて歯痒かった事はあるか?」

「歯痒かった事? んー、ラインを積んでる時にT字に穴空いてて、T字テトリミノに入れられない事かな?」


「成る程ね。ところで、みのりはレミのテトリス見ててどう思った?」

「私は……最後まで諦めないで欲しい事かな」

「どーゆー事?」


「テトリミノが完全に下まで落ちて、固定するまでタイムラグがあるでしょ? それを応用してみると、もっと継続出来るんじゃないかなって」

 みのりは平凡に見えても、時々核心付いた意見を言うから十分に参考になる。剣はそれを理解していた。


「せやな。レミは本能の直感でテトリスをしてる所がある。せっかく人並み以上の集中力があるのにもったいないぜ。

 ――ここは一つ、戦略を立てよう! 俺達が絶対、100万点スコアを取らせてやらぁ!!」


「戦略―――!?」




 ◇◇◇


  休憩を終えた三人は再び工場の中に入り、テトリスエリアへ向かった。


「―――えぇか? 俺が教えた戦略を、まずはテトリスのレベルが低いうちにマスターするんや」

「そのまま本番でやっちゃうの?」

「その方が体に染み込むだろ。それとレベルが上がりゃ、ムズぅなって戦略もやり辛くなるしな。その時ゃまた俺がフォローしたる」


 剣はレミのプレイを見守るコーチポジション。その横にはピュアに応援する後見人役に打って出た。


「レミちゃん大丈夫? 声掛けられると気が散るんじゃない?」みのりはレミに心配の一声。


「落ちるのが遅い時なら大丈夫。静かにしたいときにはこっちから言うわ」

 等とみのりを気遣いつつ、マイペースを一貫するプレイを宣言するレミ。それを聞いてみのりは一安心。


「……よし、準備は良いか?」

「――OK! いつでもいける!!」


 剣の一声に、レミの覚悟で返す。レミの片手には100円ワンコイン、それを指で弾いて投入口にストンと入る。

 強者ムーブ漂う演出に筐体も反応したか。スピーカーから奏でるゲームサラウンド音が、スタートボタンを押すと共に響き渡った!


「ゲームスタート!!」


 テトリスのスタートはロシア民謡のトロイカの音楽と共に始まる。電子音からでも寒さが伝わる哀調から、雪の代わりに無機質なテトリミノが降り注ぐ。

 高所からテトリミノを素早く落とすとその分スコア加算されるが、長期戦が予想される100万点スコアチャレンジで焦ることは無いだろう。


「とりあえず、まずは自己流でテトリス消しやってみて」

 剣は横から指示し、レミは何も言わずに頷いて了解した。

 するとどうだ。積み木のように細やかに綺麗に四段積み重ねて残すは縦四段直列!!


 ブロックは若干残ったが、僅か7秒で四段消滅、テトリス消し!!


「やっぱり早い……!!」

 みのりはこの早業に思わず溜息。


「あんまり焦んなよ。ゲームは始まったばかりや」

「分かってる!」

 レミは画面に集中しながら応答した。


 ◇◇◇


 ――3分後。


 テトリスレベルも徐々に上がる中、レミの積み重ねた段に、先程難しいと語っていたT型の空白が、入れづらい隙間を作って出来上がっている。


「……そろそろやるぞ。戦略その1!」

「よーし!!」


 そう言うとレミは、スティックレバーを動かさずニュートラルに。落ちるスピードに合わせてゆっくりT字隙間にT字テトリミノを入れようとする。


 まずはT字テトリミノを左回転させ『T』から『ト』の形で入れる。

 そして隙間に入れるテトリミノが、地に付いた瞬間――!!


「―――今や!!」

 剣の号令と共にレミはテトリミノを回転させる!

 すると、無理矢理捩じ込むようにすっぽりと隙間T字にテトリミノが入った!! ダブル消し確定だ!!


「出来たッッ!!!」

「よしッッ、これが戦略その1!『T―SPINティースピン』や!!」



 ★【T‐SPIN―ティースピン―】

 テトリミノをそのまま落としただけでは入らないような隙間に、テトリミノを落としてから回転させ、うまくねじ込むテクニック(通称「回転入れ」)を、T字形のテトリミノで行うことを指す。

 T-SPINと同時にラインを揃えると「T-SPIN Single(1列)」「T-SPIN Double(2列)」となり通常よりも高い得点が得られる。

 ―G-バイブル『テトリス努力積み重ね攻略法』より引用―



「そういう事だったのね! 落ちたテトリミノが完全に落ちて、固定される時間を利用して無理やり入れる!

 さっき貴方が言ってた『タイムラグを利用する』意味がわかったわ!!」

 みのりのアドバイスが役立った! そう思うと彼女も照れている。


「おおっと、よそ見するなよ。まだ気を緩む時ちゃうま」

「あっ、いけない」


 ◇◇◇


 ―――更に10分後。


 さっきより格段にテトリミノが落ちる速度が速くなったが、それでもレミは冷静に対処していく。

 ぶっつけ本番でやった『T-SPIN』を、この後も箇所で何度も見せていった。


(……やっぱりアイツはパズルに天性の才能がある。俺でも分かる。無理矢理だが、本番でやらせたT-SPINを直ぐに自分のものにしやがった! これがブラックボックスの成せる技か……!?)


 剣はレミのファインプレイに武者震いをしながら、その強さを実感した。

 しかし、レベルが上がり落ちる速度が上がると共にレミの焦りが、剣とみのりにも伝わった。


「剣くん、テトリミノの積み方が乱れてきてるよ」

「俺もそう思うてた! レミ、一回落ち着いて体制立て直せ! 戦略その2! 『ハーフピラミッド戦法』の用意だ!!」


(――『ハーフピラミッド戦法』!!)


 レミは無言ながら剣の指示に行動で示す。積もったテトリミノを集中して、一段一段ずつ消したあと即座に左側にテトリミノを寄せ落とし、ピラミッドを右半分残した三角形の型に積み重ねた。


 そして段の少ない所から四角く積めていく。空白は若干広げて2マス分、穴のように空いている!!


 上段ギリギリまで積み重なった!!


「よしっ! 一気に行けェェェェ!!」


 と剣が言うと一気にレミは右にテトリミノを寄せてシングル、ダブルと徐々に消していった!!

 しかも2マス分の空白で、どんなテトリミノでも入る為止めどなく消していく!!


「これが戦略その2、『ハーフピラミッド戦法』!

 左側にピラミッドを半分にしたような三角形を作るように積み上げて、2マス分の空白を作った後一気に段を下げる戦法や!!」


「でも何で左側なの?」

 みのりは剣が提案した戦法に疑問を持っていた。


「落ちてきたテトリミノをスムーズに落とすには、人間の感覚から右側が一番やり易いんや。

 右に待機していれば変な位置にテトリミノを置いても、最低限カバー出来るって訳」

「成る程!」


「二人とも、こっから静かに見てて! 集中するわ!!」


「おっと、チャレンジャーの指示が入ったで」

「静かに見守りましょ」

 レミも本気モードに入った。剣達は潔く無言でレミの奮闘を見守る。


 ――100万点スコアまで、残り30万点!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る