第28話~決戦は土曜日!!~

 「――で? 何が理由で揉めとったんや、新喜劇みたいに」


 大人同士のいざこざに紛れて、何故かマウントを取って、騒動の主権を握った高校生の剣。


 代わって語り部の私が説明しますと、ゲームジム『ビッグウェーブ』に借金取りが押し入った騒動に見かねた剣が、痺れを切らして話を聞いてあげることにしたという話。

 とはいえ、高校生に事を納められる大人も、妙に変な感じはしますが。


「早い話が、このビッグウェーブが赤字で借金が抱えていたんだ。ジムにまだ会員が少ないことと、ここのゲームと筋トレの融合強化改造プログラムが、まだ世間に流通してないのも原因の一つだ。


 それで僕は何とかWGCに説得して、立て直そうとしてたんだが……中々承諾が得られない所で借金取りが来て揉め事になったって事だ」


「成る程……」


 仲介側に回る槍一郎の説明で納得した剣。そこで彼は、ビッグウェーブで感じた第一印象をこんな感じで述べた。


「そりゃまぁ、馴染みないプログラムにピンと来ないのも判るし。てか来て早々ボルダリングは酷やろ」


 ――グサッ!


 ゲームジムオーナーの高橋豪樹の図星に刺さったような音が聞こえた。


「俺らスポ根やってるんじゃ無いんやし、ガチ勢狙いすぎて客そっちのけにしてちゃ、借金取りに求める金も来ぇへんよ。運動音痴が直ぐSASU◯Eやれつってるようなもんやがな」

 歯に衣着せぬどストレートなご意見。思わず借金取りの皆さんも、剣の意見に頷いていた。


(………兄ちゃん見かけによらず、言いたいことよー言いまんな……)

(仕方ないですよ、剣くんはそーゆー人ですから。でも!)

 等と豪樹とみのりがヒソヒソと私語を交わす中で、彼女の思惑通り、剣の真意が告げられる。



「――でもね、俺には興味があるんです。

 ゲームと『心・技・体』の強化がどう関わるのか。俺みたいな青ビョウタンプレイヤーに足りないものがそこにあるなら……ここを潰されるわけにはいきませんね!」

 剣の生意気な面の裏には、真っ直ぐな視線が貫いていた。


(剣くんのゲームにかける情熱は本物です! どんな相手にも決して屈しない、騎士のようなプレイヤーなんです!!)

(………………)

 剣に対して、豪樹の心の中に何か響くものを感じた。


「槍一郎、要は借金と経営難をどーにかすれば、この施設はどうにかなるんやろ?」

「え? あぁ、そうだけど……」


「よし、じゃ豪樹さん! もし経営が続けられるとしたら、ここの施設じゃないといけないって拘りはないですよね?」

「そりゃまぁ別に構へんけど、兄ちゃん一体何をする気や?」



「俺に良い考えがある……!!」



 ◇◇◇


 ビッグウェーブの騒動から翌日。

 早速に剣とみのりは、『ビッグウェーブ』の近くの巨大アミューズメントパーク『ギャラクシー』へ向かった。


「そうなんだよ、近頃はバーチャルゲームのやりすぎでプレイヤー達の体力の低下が問題になってるんだ。

 そこでニーズ改善に3階のアスレチックエリアを拡張しようとしている所なんだよ」


 剣達が面会に向かった相手は、『ギャラクシー』のメインオーナーの松坂茂之だ。

 未来のゲームプレイヤーである剣に協力する松坂に、忙しいなかアポを取り、直に会いに来たのだ。


「お忙しい中お時間頂いて申し訳ないです。それでお願いの事なんですが……」

「そう畏まる事はない。私は剣君のスポンサーだ、大抵の無理は聞くつもりだぞ。何でも言ってみなさい」


「はい! 実は―――」



 ◇◇◇



「「えぇ!?『ビッグウェーブ』を『ギャラクシー』から経営吸収させる!!?」」

 槍一郎と豪樹は大変驚いていた。



「3階のアスレチックエリアの拡張を機会に、『ビッグウェーブ』を新設させて新規の会員を増やす。

 そうすれば借金返済にもなるし、豪樹さんの言う理念が拡がると思ったんや」


 剣に続いて、みのりも状況を説明する。


「最初はオーナーの松坂さんも最初驚いていたんですけど、新しい話題作りになるかも知れないと思い承諾してくれたんです。

 借金額も移設費も負担になる程ではなかったので、松坂さんが保証してくれました」


「あのギャラクシーのオーナーと知り合いだったとは、よく承諾したな。剣、あの人と何かあったのかい?」

 槍一郎は不思議そうに剣に質問するが、


「別に? ただ単に親戚だっただけ。お互いに」

 剣は軽くひけらかした。


「とにかく暫くは移設準備をして、ギャラクシーと契約を交わせば、また経営が続けられるって事! これで借金取りさんもボルダリングしないで済むでしょ」


「へぇ、お陰さまで………」

 借金取りも内心こりごり気味で応えた。



「でも一つだけ、条件が……」

「……何や条件って?」


 みのりは不安げに恐る恐る話す中で、その代理に剣がその条件を説いた。


「ビッグウェーブの吸収をする前に、松坂さんが豪樹さん自身のゲームの実力を見せてほしいと言ったんや。次の土曜日に、ギャラクシーで格闘ゲームの大会イベントがある。

 ――そのエキシビションマッチとして、豪樹さんの育成プログラムを用いた対戦をしてほしいと頼まれたって訳」

 そんな条件に、豪樹はその内容を真摯に受け止めた。


「つまり……ワイにお客さんを魅せる実力があるか、試すっちゅー事やな」


 成る程成る程。アミューズメントパークの一環としてゲームジムを吸収する為には、豪樹自身のエンターテイメント性を見極めねばならない。

 常にお客さんの楽しみを提供するオーナーらしい条件である。


「そういうことです。豪樹さん、受けてみませんか……?」


「………ええで! だがワイの相手は、兄ちゃんに申し込むで!!」

「―――!!」


 提案者の剣に直々の指名。

 決して咄嗟に決めたことではない、彼なりの理由があった。



「このまま兄ちゃんに助け船を出されてばっかじゃ、ワイの沽券こけんに関わるからな。ワイやて年は25やが、現役の格ゲー系ゲーム戦士や!

 ”鉄拳魂“の誇りにかけて、格闘ゲーム勝負、受けて貰うで!!!」


 豪樹もまた、熱き魂を持ったゲームプレイヤー。


 剣のゲームジムを建て直そうとする姿勢に報いる事もあり、豪樹は格ゲープレイヤーとしての闘志に再び火を着けたのだ。


「………望む所ですよ、豪樹さん!!」


(剣くんの目の色が変わった! ゲームに本気に挑む目!!)

(……剣の魂が光りだした。さて、豪樹さんを何処まで本気にさせてくれるか……!?)


 みのりも槍一郎も、二人の間に迸る覇気を出しているのが肌で分かった。




 ――二人の決戦は、土曜日に持ち込まれた!!

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