第29話~VRファイト!紫煙の格闘王~
―――日にちは変わって土曜日。
ギャラクシー3階のテナント募集の空き地に、複数の筐体が建ち並んだ。
≪GALAXY主催ウィークリーエンド・ゲーム大会≫!!
名声を求めて参加するプレイヤー達、それを背にする巨大ゲームセットとスクリーン!!
そこに忽然と立つ熱き魂の二人のプレイヤー、高橋豪樹と桐山剣!!!
約束通り、大会前のエキシビションマッチが幕を開けようとしていた!!!!
「――凄い人だかりですね!松坂さん」
「ここではWGCの公式大会も兼ねてるから実力のあるプレイヤーが多く集まるんだ。
だがあの高橋君が持ってきた巨大セットを持ってくのが大変だったよ」
観客席にはみのりと主宰を務めてくれた『ギャラクシー』オーナーの松坂もいた。
松坂オーナーもこの大会の準備の為に骨折った様子だった。
これは相応の盛り上がりを見せないと、豪樹のゲームジム契約にも響くだろう。
「―――剣!!準備はちゃんとしてきたやろうな?」
「勿論です豪樹さん!格ゲーのノウハウは全部頭に叩き込みました!!」
剣はこの土曜までに徹底的に格ゲーの基礎を叩き込んだ。
レバースティックの弾きかたからのコマンド早押し、ガード、回避とゲームセンター毎日通いで右手に熟練度を高めていった。
「予習はバッチリしてきたようやが…主導権はワイにあるやで!
兄ちゃんにはこのVR型格闘ゲーム、【ビクトリーレイズファイター】で勝負させて貰うで!!」
「え、VR型格闘ゲーム…!?」
それは剣にとって、予想外のゲームだった。
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PLAY GAME No.8
【ビクトリーレイズファイター―VICTORY RAISE FIGHTER―】
・ジャンル『ファイティングゲーム』
・プレイヤーレベル:21
概要・ルール
巨大スクリーンに前に互いに向かい合うようなゲームフィールドで,VRゴーグルとセンサー内蔵スーツを着用しプレイする、リアリティ格闘ゲーム。
実際にパンチやキックをすると、センサーが反応し、ゲーム画面のキャラとシンクロする仕組みとなっている。
互いの体力ゲージで勝負し、ゼロになった時点でラウンド先取となる。
※今回のゲームでは『クリア報酬』は無いが、WGC公認のゲームであるためプレイヤーステータスの経験値は貰える。
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(リアルファイト型とは
流石に実際の喧嘩までは予習できるはずも無い。剣は徐々に焦りを感じていた。
「これが剣のセンサー内蔵スーツや」
豪樹は遠くで剣に投げるように渡す。
「―――?!!!」
受け取ったスーツに剣は驚愕した。
(重いだと…!?しかも並の重さじゃない!!これは…)
「びっくりしたろ?このスーツだけでも30㎏もあるよう工夫してあるんや」
「30㎏!!?」
「そうや。これがワイのプレイヤー育成プログラムの一つ!ゲームキャラと一心同体になって操作性を養う、そして重力の束縛をスーツで加え体力強化も備えた!!
『心・技・体』の真骨頂、剣に味わわせて貰うで!!!!」
豪樹の気合いはピークに達した。その気迫が施設中に広がる。
剣は今までにない圧力を、センサー内蔵スーツの如くのし掛かっていた。
(これは…やるしかない!!プレイヤーの魂がそう応えてる!!
そして豪樹さんにゲームへの熱意を本気でぶつけ合う為にも……
桐山剣、全力勝負で相手してやらぁ!!!!!)
「――ッッしゃあ!!!!!」
豪樹の気迫に燃え移るように剣の魂も燃え上がるように着火した。
「剣君が気合いを入れた…」
みのりにも両者の気迫が胸に染み渡っていた。
「ゲームは全5ラウンドで行うんだが、剣はまだこのプログラムに慣れてへんから……
1ラウンドでもワイに勝てたら剣の勝ちでどうや?」
「!!―――言いますね……」
5ラウンド内で1回でも制すれば勝利。剣にとって相手次第では屈辱にもなるが、槍一郎のような真の強者のオーラを、剣は今まで以上に感じていたのだ。
つまり剣が1勝でもすれば……最強としての目標、理想に繋がるという事!!!
「……分かりました!!それで行きましょう!!!」
両者VRゴーグルとセンサー内蔵スーツを着用する。
VRゴーグルは特に装着していて重さとかは感じなく、違和感も感じない。
しかしスーツはスウェット並にタイトで、着こなした途端に鉛をいれたような感覚に襲われた。
そしてそのままキャラ選択、豪樹はいかにも『格闘王』という感じの空手家キャラを選び、剣はカンフーの美女ファイターを選んだ。
「オイ、アイツ女選んでやがるぜ。あのキャラのファンなのかぁ!?」
野次馬プレイヤーが剣にからかう。
(お前らガチ勢がもっさりプロレスラーとかヨガじーちゃん選ぶよりはマシじゃボケ)
剣は舌打ち気味で無言に返した。
『ROUND1,READY―――?』
開始のコールが辺りを騒ぎ立てるなか、また一人プレイヤーが呟く。
「……しかし、あの豪樹さんが決めたルールが剣にとっては妥当かも知れない」
槍一郎、いつの間にそこにいたの!?
「いたよ失礼だな。剣も気づいていたかも知れないが、豪樹さんは現役の格ゲープレイヤーである上、ある呼び名もある」
「……どういう意味なの?槍一郎君」
「高橋豪樹、またの名を―――≪紫煙の格闘王≫!!」
『ファイト!!!!!』
スタート共に歓声も大きく広がる!そして豪樹がいち早く剣のカンフーキャラに近づき、正拳突き!!!
ドォォォンッッ!!!
「グォォッ―――!!?」
ダメージを受けた剣のスーツ全体に衝撃がほとばしる!!
プロコントローラーの振動パックの比じゃない、電流にも似た激しい振動が心臓に諸に来るようなとてつもない衝撃だ!
「うそ、剣君の体力ゲージが……あの1発で半分も減ってる!?」
「この格ゲーには『急所』が存在する。当て方次第では一撃必殺も可能だ。
剣はそれに耐えたことで、半分で済んだのだろう」
「それでもダメージが大きすぎるわよ!?」
みのりのリアクションと槍一郎の冷静な解説。まさに小説で実況するには欠かせない存在だ。
だが、剣もこのまま引き下がれない。
「野郎ッ―――!!」
剣はリーチの広いキックを撃とうとするが……
「冷静さが足りんで剣、隙だらけや!!」
豪樹の素早いバルカンジャブ!そして咄嗟に近づき…背負い投げ!!!
投げられた剣はそのまま背中から地面に鈍い音を立てて叩きつけられた。
『
ラウンド1は豪樹のパーフェクト勝ち!!歓声が一気に広がった。
「やるなぁ高橋君、あの重いスーツを着ながらのこの動きは桁が違うぞ!」
松坂オーナーも感心の域に入った。
(でも問題は剣君、一目見ただけでも経験則の違いがありすぎるわ。
やっぱり無謀だったんじゃ………?)
素人のみのりから見ても、剣と豪樹との差が絶望的に圧倒されているのを察していた。
そして剣本人も……
(―――ダメだ、スーツの重さで思うように動かせない……同じ条件の筈なのに何故あんなに豪樹さんは動ける?
これが『心・技・体』の成せる技なのか……!?)
剣も初戦でこんなに力の差を感じたのは、あの
『――ROUND2、READY?』
剣が考える間もなく第2ラウンドへ……
『ファイト!!!』
(ここは突っ走っちゃアカン。防御体制で固めて、出方を伺うんだ!)
剣は開始直後両腕をクロスさせ、守りに入る。これでガードが固められる。
「今のラウンドで学習したな剣、だが甘いで!!!」
ガードしている剣を直ぐに豪樹はつかむ動作をして、投げつけた。
剣にダメージ、しかしのけ反る隙はない!咄嗟に反撃のキック!!豪樹に一撃入った!!
「よし!!ダメージ食らわし………………た?」
――バキッッッ!!!!
喜びもつかの間、剣の目先に飛ぶのは顔面めがけた豪樹のアッパーカット……!!!
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