第27話~ゲームジム・ビッグウェーブ~
「…………ホンマにここか?」
剣達は目的地に到着するなり、その外観に目を疑った。それもそうだろう。
体育館と道場を足して2で割ったような感じの施設に『ビッグウェーブ』の看板。
外見から見てもあまりお金かけてなさそうな感じに、二人は呆気に取られていた。
「何? 槍一郎はここで部活しとん? 剣道? 剣道なのか??」
「違うよ、何で剣道なんだよ。数年前からゲーマー達の間で開発されたゲームと武道が合体した肉体・精神改造プログラムで、心身共に養成する施設を『ゲームジム』って言うんだ。
――そしてそのジムの一つが、この『ビッグウェーブ』って訳」
((ゲームと武道……???))
剣とみのりはまだいまいち理解してないようだった。
「まぁ、入ってみれば分かるよ」
というと、槍一郎と剣達は施設の中に入った。
「……槍一郎氏、何すかコレ?」
「何って、ボルダリング。あと何故に敬称?」
入口に入って直ぐに、剣達の目の前に立ちはだかるは、抉れた大きな壁とカラフルな突起の数々。フリークライミングの壁が辺りを包み、その上に登らないと入口には進めない仕組みになっている。
「これ何つーSASU○Eェェェェ!!!??」
「私ボルダリングなんてやったことないわよ!?」
流石の剣ら二人も狼狽えていた。
「このボルダリングの壁を越えた者だけが、ゲームジムトレーナーにして経営者の『
「アホか!? ニートと紙一重なゲーマーに何を筋力試すことがあんねん!!?」
剣はワケわからんと言わんばかりの抗議だ。常識破りな壁を見せられてあーだこーだと文句を言う彼に対して、槍一郎は。
「じゃ、行くの辞める?」
……とまぁ、ビール並みのスーパードライ。
「………分ーッたよ、もう!!」
「あの槍くん、私には簡単に登れる所教えて。ね?」
かくて、剣とみのりと槍一郎はボルダリングの壁を登っていく。
槍一郎は何度も何度も来所してくうちに慣れたのか、一分もかからず登り切った。クレイジークライ◯ーも真っ青。
一方の剣は、持ち味のセンスと根性で登りきり、残りのみのりは、槍一郎達にフォローされて何とか登りきれた。
「ハァハァ、何やねんコリャ。トレーナーに会う前からクタクタやがな」
「私も………」
身体よりも頭のセンスで勝負する剣達にとって、いきなりの体育系はきつかったようだ。
「豪樹さーん! 天野槍一郎です。お客さんも連れてきましたよ~!!」
「――おぅ!! よぅ来よったのぉワレェ!!!」
必要以上にデカイ声が施設内に木霊した。
――――ドォォォォォォォォォォォン!!!!
「「!!??」」
遠くの部屋に設置されている高い鉄棒から地響きを立てて降りた男が、剣達の元へやってくる。
「ヤァヤァ、未来のゲーム戦士の諸君! 『ビッグウェーブ』へようこそぉぉ!!」
190センチはありそうな筋骨隆々なる巨体、そして輝くスキンヘッドの頭。
初見で見るとかなりビビる強面マンがビッグウェーブのメイントレーナー、高橋豪樹(25)なのだ。
「「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
◇◇◇
しばらくして―――
「ワハハハハハハハ!! ――いやぁ~驚かして悪い悪い! ワイがここのメイントレーナー、気は優しくて力持ち! 高橋豪樹や!!」
「「は、はぁ………」」
名前に負けないほどの豪快にして
「二人共見た感じ鍛えとらんようやが、よぅあのボルダリング越えられたな。大したもんやで!!」
「あ、はい。お陰さまで……」
剣はボルダリングを越えたらメチャクチャな造りに文句を言おうと思ったが、もはやそれ所ではなかった。
「あ、あの~。えっと、豪樹さん、ですよね?」
みのりも恐る恐る豪樹に質問をした。
「おぉせやで、お嬢ちゃん。何でも話してみぃ」
「ここは『ゲームジム』って施設だそうですけど、具体的にどんな事をするんですか?」
「おっ、よーゆーてくれた! ここはな、ゲームと筋肉トレーニングを融合させて、ゲームプレイヤーの能力を強化改造させるプログラムを用意した『肉体強化型プレイヤー養成ジム』なんや!!」
「それじゃ、ゲームをしながら体を鍛えるんですか?」
そんな驚く彼女に対し、槍一郎も話を割り込んできた。
「豪樹さんは現役の格闘ゲームプレイヤーでもあって、武道の有段者なんだ。ここの施設のプログラムはそんなプレイヤーに体を鍛えながら、ゲームのトレーニングをするジムを経営してるんだ」
「何でまた、ゲームで筋トレなんて……」
剣はまだ納得がいかない様子だった。
そもそも昔から、テレビ画面やボードとにらめっこするゲームに、運動とは無縁である事が暗黙の了解であったが、この物語の時代は『超次元ゲーム時代』。ゲームと運動は水と油、等とそんな古い概念はリサイクルに出されて、アルミになっていったのだ。
「その前にそのボケも意味分からん」
そりゃ悪ぅ御座んした!!
「ゲームの実力ってのはスポーツの能力と良う似とる。五体の力を極限に発揮させる為には、『心・技・体』の3つの要素で成り立っているんや。
――――例えば頭がキレるセンスをしてそうな兄ちゃんは『技』に長けとろうが、長期戦のプレイに耐えうる体力の『体』と、どんな劣勢なプレイにも屈しないメンタルの『心』が無いと最強とは言えへん。
それらの強化は、殆どが肉体の強化で賄うようになっとる。それを徹底的に強化するのが、ここのプログラムなんや」
頭良すぎても、運動が出来なければダメ。だからと言って筋肉ムキムキで頭空っぽでもダメ。
そして何より弱気なガラスのハートで挑んでも到底ダメ!
これら3つの要素をバランス良く鍛え上げ、至高のゲームプレイヤーを目指す『心・技・体』の強化!
これが高橋豪樹の最強プレイヤー養成術なのだ。
「…………そーゆーもんかな?」
豪樹の熱弁に対し、現実的な剣は少しは納得しつつあるが、まだまだ実感が湧かないようだ。
「まぁ兄ちゃんらもまだ若いからな、足りないと思う理由は自分で見つけるのもエエだろう。
どや、せっかくだからお試しでトレーニングするか? 今なら無料サービスやで」
豪樹は笑いながらトレーニングを勧めようとする。先ずは無料からと勧める辺り、入会狙いでしょうか?
「いやいやいやいや! 俺ボルダリングでもうお腹一杯なんで!!」
「わ、私もちょっと……すいません。あとココアおかわり」
剣達、なれない有酸素運動に必死の抵抗である。みのりはちゃっかりココア2杯目行くんじゃないの。
「何や釣れへんのぅ。――そや槍一郎、あの件どうなったんや?」
「実は………」
何やら豪樹と槍一郎で深い話をしようとした、その瞬間。
「おい高橋ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
(今度は何!???)
入口玄関の扉を足で乱暴に蹴り開けるも突然の怒号に音がかき消される。そんな様相にみのりは怯えた顔で驚いていた。
「てめぇぇぇぇまだ借金返す手立てが付かへんのかワレェェェ!? 何時まで待たせる気じゃオラァ!!!」
どうやら借金取りのようですねぇ。しかしこの小説、悪役でチンピラやら不良やら出てきて、挙げ句の果てにはヤ◯ザですか? 健全なゲーム小説なんですよ!
「大丈夫、初見の方には龍が◯くリスペクトと思えば……」
ここの作者、そのシリーズ一回もプレイしてませんよ。
「じゃ不健全やな、この小説」
認めちゃったよ、主人公!!!
「(ちょっと剣くん、私達帰った方が良いんじゃない?)」
「(あぁ……触らぬヤーさんに祟りなしや――)」
二人は極道の揉め事に逃げ出そうとした!
……しかし、何故か回り込まれてしまった!(ドラ◯エ風に)
「このイベントに付き合えってか!?」
「主人公って辛い……」
「だからまだ金返されへんってゆーとりまんがな!!もうちょっと待ってくれへんと!」
「待つ待つゆーて、もう3ヶ月経っとんねん。エエかげんにせぇとうちら禿げるわ!! お前みたいにスキンヘッドなるわ!!!」
「あぁん!? 何うちのスキンヘッドバカにすんなや、うちハゲ気にしてしたんちゃうぞ、イメチェンやかんなボケ!!」
「……あのさ、話逸らすな。別にスキンヘッドディスりにうちら来たんちゃうねんアホ。
――金やて!!!! はよ借金返さんと、こんな汚れ仕事せんで済むんや! 毎日ボルダリングやらされて二の腕筋力付いたわ!!」
「あ、そりゃおめでとうございます」
「えぇお陰さまで肩こりも……って、そらすなッッゆーとるやん!!! はよ出せや借金!!」
「………あのー」
「無いもんは無いんやて! うちも会員一向に来ぇへんから金卸しようがないねん!!」
「だったらお前の『金』で賄えや! 持ってんやろ下にプラプラ2個!!」
「あのーっ!」
「てめ話に紛れて下ネタすんなや! そんなんで読者分からんとでも思ったかボケェ!!」
「知らねぇよ誰も見ねぇよ、慶とか言う作者のクソなげぇ説教文なん―――――」
「あのォォォォォォォォォッッ!!!!」
犬をも食わぬ、豪樹と借金取りの揉め合い。それに剣はとうとう痺れを切らせた。
「……まぁ、あんたらの掛け合い漫才オモロイし、んな時に止めて申し訳ないすけど。こんな室内でギャーギャー騒いで、こんなん見せられて俺らどうしたらエエんすか?
槍一郎も台詞無くて突っ立ってるだけだし」
(……今それどーでもよくない??)
「話も何ですから、次回の更新で、俺にも話聞かせてもらえませんか?」
(え゛!? 剣くん、数行前まで触らぬ輩云々言ってなかった!!??)
みのりのツッコミも虚しく、ゲームジム騒動は次回のお楽しみに。
「変な事持ちこまないでよ~!!」
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