第73話~気まぐれビートスカッシュ!!~
ゲームワールド・総本部室にて――
「何たる様だ!!我が軍勢にかけて何故一人も討伐出来んのだ!!!」
ブラックヘロンのボス、大鷲は憤怒していた。たった4人の無名プレイヤー、シャッフル・オールスターズに歯が立たない故である。
「……そう急かす必要もないでしょ?」
「何――?」
大鷲の小言に横入りしたのは、ブラックヘロンのエースプレイヤー、
「仮にもあんたは復讐の為に集めたプレイヤー達のボス、ここで感情的になるのはお門違いってもんだ。
何のために工作班が、トランスホールのセキュリティ解除に時間を稼いでるか考えるべきでしょう?」
烏田は冷徹に大鷲に対し言い諭した。
その表情は無感情そのもの、そして、不満も混じるような面だ。
「それに奴ら4人も昨日の疲れが残っている。ここは長期戦に持ち込んでいずれ来る限界を突いて徹底的に叩き潰す。
どっちにしても終わるのは奴らだ。ボスはただここで立ってればいいんですよ」
「何か――言いたげだな、烏田」
大鷲は烏田の言動に不満があった事を感じ取っていたようだった。
「……別に何も。俺は早くこんな茶番を終わらせたいだけですよ」
そう言うと烏田は総本部室を立ち去った。
(あの時代遅れのボスなど知ったことじゃない……俺はこの勝負で『剣』を潰す、それだけだ――!!!)
◇◇◇
一方、舞台変わってデュエルフィールド控え室。そこには剣達がゲームを終えた槍一郎の帰りを待っていた。
「……あ、槍ちゃん!!」
剣は控え室入り口から戻ってきた槍一郎に声を掛けた。槍一郎は足取りが覚束無い様子だった。
「ハァ、ハァ……剣か」
近づくにつれて槍一郎がかなり疲れはてていることに剣は気が付いた。そして今にも倒れそうな槍一郎に肩を貸した。
「お、おい槍ちゃんどうしたんだよ!?」
「……やっぱり諸刃だったな、PAS《パス》が思うように使えないとこうなる――!」
「PASが……!?」
プレイヤーの持つ極限能力『PAS』は決して万能ではない。強力な能力程それに伴うリスクも存在する。
『PAS』を使う時にはプレイヤーの体力や精神力を著しく消費する。
その為その力を酷使してしまうと、生命力の低下やPASの力が抑えきれず、自らの精神を暴走してしまう恐れがある。
槍一郎のPAS『ランサー』は、その強力な力ゆえに急激に体力を消耗してしまったのだ。
(PASを使うだけで槍ちゃんがこんなになるなんて……)
剣は驚きを隠せなかった。
『PAS』に無限の可能性がある反面、そのリスクがこれほどのものかと思い知らされたのだから。
◇◇◇
そんな中、デュエルフィールド会場が次のゲームの準備にかかっていた。
そこに現れたのは、長方形の巨大フィールド。まるで卓球コートのような出で立ちであった。
そして直ぐ様、実況アナウンスが会場に鳴り響いた――!
『――小粋なステップ、クールなターン!リズムで動く玉を絶対音感で打ち返せ!!
決してずらすな、勝利のエイトビート!!!
7th《セブンス》 STAGE《ステージ》、【ミュージック・ラリー】!!!!』
――――――――――――――――――――
PLAY GAME No.16
★G-1グランプリ予選 7th《セブンス》 STAGE《ステージ》★
【MUSIC RALLY ―ミュージック・ラリー―】
・ジャンル『ミュージックゲーム』
・プレイヤーレベル:33
ルール
長方形の卓球型LEDフィールドに設置された電子のパドルを屈折するボールを打ち返しながらラリーをする。
しかしここで特筆すべきはボールの動きがBGMのテンポに合わせてスピードが変わること。
即ち、ゲーム中に流れるBGMの音感に合わせながらボールを打ち返す音感ラリーゲームなのだ。
プレイヤーは2vs2のタッグ戦で行い、前衛と後衛で分けてそれぞれのパドルをモーションセンサーに従い左右移動で体感操作する。
3マッチ、2点先取したチームが勝利となる。
――――――――――――――――――――
7thSTAGEは音感をメインとしたテーブルテニス。
槍一郎が満身創痍で迎え、狼狽えるオールスターズにただ1人このゲームに絶対的な自信を持つプレイヤーがいた――!!
「――大丈夫!!このゲームもあたしにまっかせなさ~い!!!」
「何だよレミ、こんなヤバイときに……」
先ほどのゲームで槍一郎が疲労していた時であった為に剣は少し不安になっている様子だった。
「リーダーが焦った顔しないの!槍ちゃんに変わって今度はあたしが槍ちゃんの敵討ちしてやるんだから!!」
「いや、僕まだやられてないから……」
槍一郎が弱りながらもツッコミをかます。
「威勢が良いのは分かったけど、お前パズルだけじゃなく音ゲーも得意なのか?」
剣が疑問に思うのも分かる。レミと言えば『テトリス』で名が通る分、音ゲーのレミなど予想が付かない。
それ以前にまだこの小説で音ゲーなど1回もしていない。
「大会前の特訓をしてて分かったの、あたしには絶対音感があるって事を!」
「絶対音感!?」
絶対音感とは流れた音をその記憶に基づいて音の高さ、リズムを完璧に認識させる能力である。
「小さいときから音楽を聴くのが好きで、よくゲームしながら音楽を聞いてるうちに身に付いちゃったみたい!」
「それで身につけるものなのか……?」
「剣、ここはレミちゃんに任せても大丈夫や、ワイが保証する。
今はこのゲームで剣と槍一郎で組んで次に備えろ。お前らがチームの切り札なんやからな!」
「切り札――ね!」
――こうしてミュージック・ラリーの出場ペアが決まった。
剣と槍一郎、そして豪樹とレミで確定した。
(これで……良いのよ。剣君が全力で戦えるなら、あたしだって……!!)
「……?」
レミの表情に何やら頑なでピリピリとした感情を豪樹は微かに感じ取った。
◇◇◇
『――緊迫感が漂う会場に音楽教室が開校した!!今日のレッスンは勝利に奏でる英雄の讃歌か地獄の
さぁ出場していただきましょう!!!』
シャッフル・オールスターズから剣と槍一郎、ブラックヘロンからはウインナソーセージ……じゃなくて一卵双生児の
(ここは槍ちゃんを前衛に回して俺が後衛で守った方が良さそうだ。今はこのゲームに勝たなきゃ――!)
剣はそう思いながら対戦相手の阿比留兄弟を見た。色白なのが兄の
紹介は置いといて、そろそろゲームに進もうではないか!!
さぁ、準備は整ったか――!?
『アーユー、レディ?』
いつものコールアナウンスとは珍しくDJ風ガールの声で流れた。
『ミュージックスタート♪☆』
スタートと同時に音楽が流れてきた。そのBGMはテクノポップの8ビート、そしてフィールドにボールが飛び交った!!
剣達のレシーブ!!!
(1、2、3……ハイッ!)
剣は無意識に8ビートのリズムを取りながら、ボールを打ち返した。
「成る程、こーやってリズムを取ってボールを返すのか!」
そして阿比留兄弟、後衛の弟がそのボールを打ち返す。
(アイツらまだ分かっていないようだな。このゲームの真の難しさはそこじゃないんだよね~)
弟の黒助はニヤニヤしながら剣の様子を見た。
ボールはパドルの角を利用してジグザグに剣のサイドに向かっていく中、槍一郎がフェイントをかけて打ち返す!
「あんま無茶すんな槍ちゃん!」
後方から剣が声をかける。
「このくらい平気だ。このまま前に突っ立ってるなんて僕も
槍一郎もプライドにかけて自分の役割を全うする。
そのボールを同じ前衛の兄、士良が返してまた槍一郎が返す!!前衛同士の打ち合いだ!!
そしてボールは阿比留兄弟サイド後衛に向かってきた!
(……そろそろかな?)
弟がボールを打ち返した――その瞬間!!
カッ、カッ、カッ――――ビュンッ!!
「――!?ボールのスピードがッッ!!」
剣が慌ててスピードを上げたボールをギリギリ受け止め打ち返した!
剣はすぐにBGMが変わっていることに気づいた。ハイテンポなサンバのリズムだ!!
「ちょっと、オイ!サンバってどんなリズムだっけ!?」
剣は戸惑いながら必死にボールを打ち返す!
しばらくしてサンバのリズムに慣れてきた剣達――だったが!?
(次のBGM来るぞ!!)
サンバの次に流れたのは……
『ぬぁぁぁぁぁああああ~♪♪』
――ズコォォォオオオ!!!
無茶苦茶遅いテンポの演歌調だ!!!
いきなりの転調に思わず剣がずっこけてしまった。
「――あっ、ヤベッ!!!!」
剣は急いで立ち上がり、ボールを追うが……
『アウト!1-0』
ゲームアナウンスが流れる。剣達の失点だ。
そこに阿比留兄弟、兄が煽り立てる。
「このゲームを甘く見すぎたな。こいつはBGMと同じテンポでボールが飛び交うが、常に気紛れに音楽が変わる!!」
剣はそれを聞いて、マジかよ……と言わんばかりの顔で項垂れた。
(これは……ヤバい事になりそうだ――!!)
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