第72話~風と共にブッちぎれ!!~

『――そしていよいよ注目株の登場であります!関西代表オフィシャルプレイヤー・天野槍一郎!!名前の槍の如く、颯爽と登場致しました!!!』


 槍一郎が覚悟を決めた目付きでフィールドに登場した。『本気』と書いてとはこの事か。


 そして片やブラックヘロンの大将、速見隼人はやみはやと(17)。槍一郎は速見を見て真っ先に凡人とは違うオーラを感じ取った。


(こいつも……PAS使いか?)


 PASを持つプレイヤーは相手からみなぎるPASのオーラを感じ取ることが出来る。

 しかしそのPASの実態は、ゲームが開始されるまで分からない。


「お前の名は良く聞くぜ。天野槍一郎、オフィシャルのって噂だ」

「……何が言いたい?」


「お前も素早いプレイが得意らしいが……果たしてホントに速いって言えるのかな?

 己の意思を抑制し、己よりもWGCに尊重するようなセーフティードライバー気取りが、『神速のランサー』などちゃんちゃら可笑しいわ!!」


 ゲーム開始前から煽りを受ける槍一郎。しかし速見はまだ気付いていない。


 槍一郎が本気を出さないを――!!



『READY――!?』


 スタンバイコールのアナウンスが流れた瞬間、槍一郎の右手から蒼白いオーラが発生した。


 槍一郎よ……本気で魂をぶつける覚悟は、出来たか――!!?


『3,2,1……』


 1のコールと同時に、今度は速見の体に白いオーラが纏い始めた!


『……GO!!!!!』


「PAS発動ッッ!!【ファルコン】!!!」


 スタートの瞬間、速見の両腕に白い翼のようなオーラが見えた!!

 一般にもそして槍一郎にも見える実体化したオーラだ!



 ◎PAS【ファルコン】

 ・タイプ:アニマル

 ・プレイヤー:速見 隼人

 ・能力:一番速い鳥、はやぶさの能力を発揮させた動物型PAS。ゲーム内での移動速度が大幅に強化され、そのスピードは強化次第で100キロ前後を行く。

 またターゲットを狙う際に追い詰めるスピードはこれの3~4倍で、あまりの速さに残影が残るほどである。



「一気に行くぞ!【遊奥義・フェザーステップ】!!」


 速見はサークルフラッシュの柱をペンタゴン、いやヘキサグラム並みに描きながら残影を残してヘブンリーアンカーに進む、そのタイムたったの4秒。


 片や槍一郎はただ精神統一に集中し、スタート地点のまま動かない。


「――オイ!何やってんだ槍ちゃん!!もう始まってるぞ!!!」


 剣が会場の観客席から声をかける。槍一郎はちょうど集中を終えた所だ。


「……『神速のランサー』、久々に聞いたよその愛称!でもそれが何を意味しているのかは知らないみたいだね。

 ――どうなっても、知らないぞッッ!!!!!」



 槍一郎の目が蒼く光り、外を閉めきった会場にが吹いた!!


「PAS発動――!!【ランサー・疾風怒濤】ッッ!!!!!!」


 槍一郎の解き放つ波動と共に、真空の風が彼の身体を纏った!!


 ◎PAS【ランサー】

 ・タイプ:アーティファクト/ウェポン

 ・プレイヤー:天野 槍一郎

 ・能力:疾風のように舞い、突風の如く敵を突く武器、槍を力に実体化させた物質系PASの中の武器型のPAS。

 武器のPASを持つプレイヤーは成長に応じて様々な形、属性を持って『進化』する事も可能。

 槍一郎の場合はスピードを得意とする戦法から【疾風怒濤】といったを司る技を持った槍へと進化を遂げている。



 発動と同時に、槍一郎は遊奥義を繰り出す!


「――【一世風靡いっせいふうび】!!!」


 槍一郎が素早く右手を掲げ柱の中心で1回転、円を描くと……


 シュバッッ――!!!!


 僅か0.4秒、柱全てのボタンが一気に押され扉のロックが開いた!!



「なっ……!!!?」


 速見はおろか、ブラックヘロン全体がどよめいた。


 そして剣は……


(……そうだよ、これだよ!このが見たかったんだよ!!あの時出会って魅せた疾風の槍のような捌き、それこそが槍ちゃんじゃねぇか!!!!)


 大満足この上なし!親友の底知れぬパワーに興奮が収まらなかった!!


 次に挑むはパワー勝負のヘブンリーアンカー。速見は苦戦してるが、意外にも華奢きゃしゃな槍一郎が大幅に追い詰めていく!


 槍一郎が最初に出した【疾風怒濤】、これは槍一郎の行動が迅速に強化しただけでなく、パワー増加にも効果がある為なのだ。



「ちくしょう……畜生が!!いくらお前が神速だろうとも、隼が負けるなどあり得ない筈だぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


 一味先にヘブンリーアンカーを終えた速見が最後の難関、プレッシャーオペレーションへ進む。


「これで終わりにするぞ、槍一郎!!【遊奥義・ハヤブサ返……」



「遅い……――――どけッッ!!!!」



 ヘブンリーアンカーを終えた槍一郎があまり聞かない激昂が飛ぶなか、




 一瞬、時が止まった。




 そして、彼は――――!!!


「……し】???」





「【遊奥義・迅雷風烈じんらいふうれつ】……ッッッ!!!!!!!」






 ――――――シュビュビュビュビュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!!



 まるで台風が2つ以上重なり、ぶつかり合うような轟音と暴風が会場を木霊した。




 ――――風は止んだ。


 会場には唖然とする剣達と、フィールドには速見が気絶して倒れこんでいる様子が。

 そして槍一郎はいつの間にかコマンドを打ち終えて扉を開けボタンを押していた。



 そのタイムは……55秒55!!

 この記録、バーンアウト・トライアル史上最速記録だ――!!!



『……来ました、やりました!!ゲームワールドに神風来たり!!風と共にブッチ切った天野槍一郎、見事な圧勝!そして新記録更新だ!!』


 槍一郎のフィニッシュに確認した新垣実況は再び実況モードに入った。

 唖然としていた会場を他所に、監禁されている他のプレイヤーは歓喜に酔いしれていた。



(――これが槍ちゃんの力!これがPASの可能性って奴か!!凄かったぜ……!!!

 ……だけどやっぱり引っ掛かる。あんな力を持ったアイツが躊躇うなんて……槍ちゃん、お前の過去に何があったんだ――?)



 剣は戦い終えた後でも、表情を変えないままフィールドを去った槍一郎を見て更に不安が募っていった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る