第74話~雑音とブラックボックスと……~

『ミュージック・ラリー』、剣ペアVS阿比留あひる兄弟戦。


 気まぐれに流れる音楽に惑わされた剣は、阿比留兄弟に先制を許してしまった。


 これで1-0。シャッフル・オールスターズにもう後は無くなった。


「情けねぇなぁ、こんなんで1点取られるなんて!!」


 剣はさっきのミスが意外とショックだったようだ。そりゃそうだろ、なんせサンバからの演歌でずっこけたんだから。


「剣、そんなに落ち込むことじゃないよ。落ち着けばこんなん全然勝てるから!ちょっと耳貸して……」

「ん?」


 槍一郎は剣の耳を借りてヒソヒソと耳打ちをする。


「……あ、そーゆー仕組みだったの!」

「だからその法則を頭に入れて――」


 まだヒソヒソ話する二人に阿比留兄弟は痺れを切らした。


「「おい、いつまでやってんだ!!」」

 双子の兄弟らしくハモって声を掛けた。


「分かってるよ!そんなガーガー騒ぐなって!!」


 剣はそう言うと元の陣地に戻った。


 ラウンド2、このゲームでは1点取られたチームが軽くジャンプでボールをサーブすることになる。そしてサーブした瞬間、また気まぐれ音楽が流れ始める。


 一呼吸おいて……剣のサーブ!!


『~♪』


 先ほどの演歌調BGMに乗ってボールがゆっくりと阿比留兄弟に向かっていく。


「何か調子狂うなぁ!!」


 剣は焦れったく思いながらも、サーブしたボールを見ながら何かを様子だった。



「オイ後ろの奴!テンポ遅いからってボーッと生きてんじゃねぇぞ!!」

 と言いながら剣目掛けてボールを打ち返す!


(――ボールが跳ね返ったのが今ので4回。じゃこれで……どうだ!!)


 剣は左端の角に目掛けてボールを返した!

 するとボールは大きく角度を変えて左右行ったり来たりにジグザグと徐々に相手サイドに迫ってきた。


(7、8、9……)

 剣は壁に跳ね返った回数を数えながらボールを観ている。


(――10!!)


 10回ボールが跳ね返った瞬間、演歌BGMから急激に音が変わった!!


『~~☆♪♪☆』


「ゲッ!?ヤバい!!!」


 流れたのはジュリアナ東京のお立場で流れるようなハイテンポなディスコポップだ。古いよ。


 不意を突かれた阿比留・弟が急激にスピードが速くなったボールに追い付こうとするが、間に合わず。剣達が追い上げ1-1の同点となった。



「何やってんだ黒助!!」

「しょうがねぇだろいきなしディスコ流れんだから!!」

「それでも取れよ!伊達に肌焦げてんじゃねーだろ!!」

「焦げてねぇよ!つーんだよボケ!!」


 元から仲が悪いのか、ばりにガーガーと叫び喚いてる阿比留兄弟。


「「おーいいつまでやってんだよ~お前らのサーブだぞ~☆」」


 剣と槍一郎が仲良くハモって仕返しとばかりに挑発した。


((この野郎……ッ!!))



 最後のラウンド!阿比留兄弟・弟のサーブ!ディスコポップからスタート!!


『~♪♪』


「テンポの早いうちに攻めてアイツらを落とすぞ兄貴!!」

「もちろんそのつもりだ弟!!」


 開始早々またしてもガーガーガーガー騒ぎ立てる阿比留兄弟に対し、冷静にボールを返しながらもイライラしてきた剣。


やかましいな、あのアヒル兄弟!!」

「剣、もうすぐ曲変わるからここは僕に任せろ!」

「OK!槍ちゃん!!」


 阿比留兄弟のレシーブ!丁度スタートから8回ボールが跳ね返った所で槍一郎がフェイントをかけて9回目!!



「これでフィニッシュだッッ!!!!」


 そして前衛をすり抜け、壁に当たり10回目!!!


 弟が猛ダッシュでボールを追いかけるなか、

 曲が変わった――!!!!





『な~むあ~みだ~~♪』


 ――――ズコォォォォォ!!!!!!



 ポクポクと木魚が奏でるお経のBGMに今度は阿比留兄弟二人ともずっこけ、取りに行こうとした弟がその拍子に大胆に転んで動けなくなってしまった。


 ――チーン……


 阿比留兄弟の失点と同時に剣達二人で手を合わせた。


 1-2。剣達の逆転勝利!!!



 ずっこけて倒れていた兄が先に起き上がり、剣達に話し掛けた。


「お前ら……このゲームの法則知ってたのか――?」


「……槍ちゃんが教えてくれたんだ。ボールが壁やパドルに10回跳ね返った時に曲が変わる。

 そして10回目で当たった部分で決められた曲が来るってな」


「ちくしょう、結局はオフィシャルの入れ知恵か……」

 兄の士良が悔しがるなか、剣が更に物申した。


「『オフィシャル』とか言うんじゃねぇ!槍ちゃんは俺のだ、覚えとけ!!」


 剣の言葉に槍一郎は剣を見て笑みを浮かべた。


「……どっちでも良いさ、次ので残りのチームなんか潰してやる!!

 ――おい黒助起きろ!いつまで寝てんだ」


 そう言うと士良は弟の黒助を叩き起こし会場を去った。


「……剣、今アイツら『兄貴達』って言ったって事は、阿比留はって事なのかな?」

「まだ兄弟いんのかよ……」


 アヒル双生児は4人2セットでお得だったという話でした。


 ◇◇◇


『さぁ第2回戦、緊迫状態の最中とは思えないすっとんきょうな音楽教室となってしまいましたが、当会場レッスン中では騒がしいのは控えめに!

 ――しかし熱狂はそのまま冷め止まないうちに盛り上げましょう!!本命ペア、ご登場です!!!』


 ――別に結婚式をするわけではないが。


 注目のペアが会場に入場した。

 まずはシャッフル・オールスターズから前衛・高橋豪樹たかはしごうき、後衛・畠田はたけだレミ。


 そしてブラックヘロンからはあの阿比留兄弟のが入場した。

 前衛・長男の金一きんいち、後衛・次男の銀治ぎんじの登場だ。


「あのアヒル野郎達、四人兄弟とか聞いてないぞ……」


 試合を終えた剣と槍一郎が呆れながら会場外で見ていた。さっきの対戦した阿比留双子は三男と四男だったようだ。


「僕達が戦った兄弟と違うところがもう1つある。レミ達の相手……PASを持ってる」


「――何?」


 即ちこの勝負、四人ともPASを使う戦いとなるだろう。

 それを承知でレミが先陣を切り、7thSTAGEをクリアを目指す。


 さぁ二人とも、準備は整ったか――!?




『アーユー、レディ!?☆』


 DJアナウンスが鳴り響く、最初はレミ達のレシーブ!!


『ミュージック・スタート!!』


 流れたのは16ビートの速いテンポで流れるデキシーランドジャズだ!!


「いきなり速く来たわね!!」


 先ほどの剣達の試合以上に速いスピードで飛び交うボールをレミは難なく捕らえ、打ち返す!


 しかし、相手の阿比留兄弟も瞬発力、そしてそれを捕らえる音感も敵ながら中々のものだ。



 それを控え室で試合を観ている槍一郎はあることを思っていた。


(確かにあの兄弟にPASの波動を感じた。だが僕とタイムトライアルで戦った奴とは何かが違う……あれは何のPASなんだ――?)


 そんな中でゲームは順々に進んでいく。


「そろそろ音楽も変わる、その時には……やるぞ兄者」

「よし」


 阿比留兄弟が何かを合図している様子が伺えた。


 そして、音楽が変わる!!


『~♪♪』


 残暑が残るなかで名残惜しい盆踊りの音楽が流れた。若干テンポは遅めだがリズムは乗りやすい……いや?ちょっと待った。


 それとは別に何処からか……




 ――ギュイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!


 耳をつんざくような強烈な超音波がBGMを書き消すように襲いかかった!!


「きゃあ!!何よこの音!!!?」

「頭が割れそうや――!!!!」


 レミも豪樹も耳を防いで立ち往生している!


 そこに成すすべなくボールはレミサイドの奥底へ。痛い失点だ。



「あれが阿比留兄弟のPAS……しかも2だ――!!!」


 槍一郎が感じたPASの波動。それは兄弟2人が奏でる、現象型フィノメノンタイプPASだ――!!!



 ◎PAS【サウンドウェーブ】

 ・タイプ:フィノメノン

 ・プレイヤー:阿比留 金一

 ・能力:PASから発生する波動が音波となって実体化し、その力で攻撃する現象型PAS。

 その力は音楽ゲームのBGMを書き消したり相手の集中力を乱す程強力だ。



 ◎PAS【ノイズ】

 ・タイプ:フィノメノン

 ・プレイヤー:阿比留 銀治

 ・能力:人の精神や神経を書き乱すような『雑音』をPASの波動で作り出した現象型PAS。

 具体的に言えば黒板に鉄の爪でガリガリやるような拒否反応を起こしそうな嫌な音で相手を苦しめていく。


(超音波に雑音――!!最悪だ、音ゲーにあるまじきコラボレーションだ……レミ、大丈夫か!?)



 槍一郎が本気で危機感を感じるなか、当のレミ達は……諦めた眼はしていない!!



「騒音妨害……上等じゃないの!こんなことであたし達が負けると思わないでよ!!!!!」


 しかし……

 彼女の足元は既にふらつき、息は切れ切れの空元気の状態だった――!!


 ◇◇◇


 一方のゲームワールド総本部では――


「――ボス!トランスホールのセキュリティ解除領域が90%を到達、あともう少しです!!」


 転送装置『トランスホール』のセキュリティハッキングをしていたブラックヘロンの工作班がボスの大鷲に近況報告をしてきた。


「そうか!これで私の復讐の祈願が――!!」

 大鷲はワナワナと腕に力が入りながら気持ちが高揚する。


「しかし、仮にセキュリティが解除されたとしても残りの試合はどうするんですか?」


「そんなものはどうでもいい!!こんな俗物の世界を滅ぼせるなら途中でも構わん!!一刻も早く作業を続けろ!!!!」


 本来の目的に近づいた大鷲に最早本来の冷静さは失いかけているようだ。


「…………」


 それを観ていた烏田の影が……

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