第75話~そして、涙の先に待つもの!!~

 超音波と雑音、音ゲーには最悪の不協和音PASに阻まれつつあるレミと豪樹。


 しかし、それでも希望は捨てることなかれ。レミ達の眼が生きているうちはチャンスはいつも諦めないものの側にいるものなのだ。


 諦めない限り……

 ――だが限界はそこまで待たせてはくれない。


「ハァ……ハァ…………」


「おいレミちゃん、大丈夫か…?」

 豪樹はレミの異変を直ぐ様感じ取り、懸念の様子で話し掛けた。


「平気平気!早くゲームに勝って、剣君と……一緒、に………」


 本人は強がってはいるが、第三者から見てもレミが大丈夫そうには見えなかった。

 顔色も悪く息も切れ切れ、前日のテトリスの勝負から電流とPASの使用で、立っているのがやっとな状態まで来ていた。


「駄目や無茶したらアカン!!これでPASを使ったらみのりちゃんみたいに――」



「――無茶でもしなきゃ!!大事な友達も何も守れないじゃないッッ!!!!」


 レミは力振り絞って叫ぶ。


「……剣君、あの夜泣きそうになってたんですよ?みのりちゃんを傷つけられて、守ることも出来なかった自分も責められなくて!あたしはそれ以上に観ていることしか出来なかった!!

 ここで立ち上がらなかったら誰が友達を守れるんですか!!?」


 そして、思いの丈をぶつけるうちにレミ自身も涙で眼が潤んできた。


「……だからあたしはこのゲームが来たときから覚悟してました。限界越えてでも、剣君達は守ります。

 ――!!」


「………………」


 レミの剣達を思う気持ちに豪樹はただ無言で受け止めるしかなかった。



 さぁラウンド2、失点したレミ達側のサーブ。レミは時折ふらつきながらも後衛のポジションへ。


(剣君達が勝つ為なら……ブラックボックスが持ちこたえられるかどうか――!!)



 しかし、そのレミの状態を阿比留あひる兄弟は見抜けない筈が無かった。



「兄者、あの女相当体力が応えてるようだぜ」

「あのテトリスのダメージが響いてるようだ。奴を徹底的に攻めろ、油断はするな弟よ」


 兄弟同士で相槌を打ち、それぞれのポジションに戻った。


 レミの思いはPASの波動と共に迸る、そんな彼女を止める事は出来ない。


 ……だが思い立ってほしい。

 覚悟を決める前にを忘れていないか――!?


「PAS発動!【サウンドウェーブ】!!」

「PAS発動!【ノイズ】!!」


 ゲーム開始前から阿比留兄弟のPASが発動された!強烈な不協和音はスタートコールが合図だ!!


『ミュージック・スタート☆』



 ――ギュイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!



 スタートと同時に2つのハイパーボイス炸裂!!



 レミはサーブを放つ!そして――!!



「PAS発動!!【ブラックボッ――」


「レミッッ!!!!!」


 PASを発動しようとするレミは一瞬ビクッとなりながら我に帰った。


 サーブした後に阿比留兄弟の打ち返すボールを前衛の豪樹が一人ラリーをしていた!


 互角のレシーブ合戦にレミの出る幕では無かった。


「豪樹さん!どうして――?」


「1人だけえぇ格好すんな!!ワイらはチームで闘っとるんや!仲間の為に命賭けるとか口先でも言うたらアカン!!!

 剣にとっての『大切な友達』にはお前も入っとるんや!!!!」


「――!!!」


 凄まじい騒音の中で豪樹は諸ともせずラリーを続け、一瞬の咆哮で一気に片を付けた。


ッッッッ!!!!!!!!」


 凄まじい咆哮に超音波は書き消され、その衝撃波にボールも流されそのまま阿比留サイドのゴールまで飛んでいった。これで1-1の同点。



「「な……何だ今のは――???」」


 阿比留兄弟は何が起きたか分からず途方に暮れていた。



「ちょっとタイムや!」

 豪樹は会場の審判にタイムを要求しレミの元に向かっていく。


「……豪樹さん――?」

 いきなりの事に戸惑っていたレミに豪樹は言い諭す。


「――――えぇんよ、レミちゃんだって泣いてえぇんや。好きな友達の前で本音言えへんのってキツいやろうし何より水臭いやないか!

 だからさ、命賭けるとか言うたらホントにアカン。友達守ろうとする優しいレミちゃんが自分で傷つく所なんかワイも剣達も見とうない」


「………………ひぐっ」


 レミの眼がまた潤んできた。それが本格的な涙になり、溢れてきた。


「1分でも10分でもえぇよ、今思い切り泣いて……また元気で明るいレミちゃんを魅せたってや!!」



「う、く、ひぐっ…………うわぁぁぁぁあああああああああああああ…………!!!!!」



 何分泣いたんだろうか……レミは会場の前でうずくまり、心の奥底から涙を流した。


 悲しさ、悔しさ、やるせなさ…それらが全て混ざりあってそれが地となり、レミの希望となった。






「……スッキリしたか?」


「ぐすっ……――うん!もう、本当に大丈夫!!」


 レミの眼が潤みながらも真っ直ぐな眼に戻っていった!もうこれで迷いは吹っ切れたようだ。


 ゲームは続行!サーブは阿比留兄弟。しかし何分も良く黙って待ってくれたもんだあの兄弟、意外と律儀らしい。


「泣いてる女の前でちょっかい出すのは野暮だもんな兄者」

「だがゲームは別だ、吹っ切れようがなんだろうが……ここで潰す!!!!」



 さぁこれが正真正銘のラストラウンド!


 レミ、豪樹よ、覚悟は出来たか――ッッ!!!?



『ミュージック・スタート!!☆』



「「【サウンドウェーブ・ノイズ】フルパワー!!!!!」」



 2つのPASがサーブと共に駆け巡る!!


 片やオールスターズは――!?


「いくよ!豪樹さん!!」

「何時でもえぇで!!!」


「PAS発動!【ブラックボックス】!!

 遊奥義・『ステータス・カルキュレーション』!!!!」



 ◎PAS【ブラックボックス】

 ・タイプ:アーティファクト

 ・プレイヤー:畠田 レミ

 ・能力:IQ1000のコンピューター回路が能力として発揮される人造物型PAS。

 しかし『ブラックボックス』の名の通りその能力の真相は操るレミ自身も知らず、未知の力を秘めている。


 そして遊奥義『ステータス・カルキュレーション』はプレイヤーのステータスを任意に増加させる効果を持つ!!


 そして締めは……明らかになる豪樹のPAS!!!



「PAS発動!【アイアンフィスト】!!」


 PASが発動すると同時に豪樹の拳に巨大な『鉄拳』が紫のオーラとして現れた。



 ◎PAS【アイアンフィスト】

 ・タイプ:ウェポン

 ・プレイヤー:高橋 豪樹

 ・能力:人の拳、拳骨を実体化させた最も原始的な武器型PAS。その力は豪傑極まりなし、ゲームの原理をも覆す破壊的パワーで相手を粉砕する究極の鉄拳にもなる。


 サーブしてきたボールをステータスの上がった豪樹が、必殺の一撃!!




「遊奥義・『我頑巌正拳ががんがんせいけん』ッッ!!!!!!!!!!」



 巨大な鉄拳がボールを押し寄せ、更には超音波さえも打ち砕く。



 ――――ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!


 そのままゴールへとぶち破った!!!!


『ゲーム・セット☆♪』



 ド迫力なシュートに似合わないポップなアナウンスでゲームは終了!!


 レミ・豪樹、大勝利!!!


 涙で不安を拭いきったレミの顔に満面の笑顔が戻ってきた。剣達に送る希望の笑顔が!!



 それを控え室で観ていた剣は……


(槍ちゃんも、レミも豪樹さんも強い思いがPASとして伝わる……PASの無い今の俺が皆の為に一体何が出来る――?)




 はたまた舞台変わって総本部では……


 予想だにしない展開が待っていた!!!!



「き、君……一体何を――!!??」


 束縛されているWGCの外崎そとざき社長は目の前の光景に唖然としていた。



 ボスの大鷲が烏田の手によってになるほど暴行を加えられ倒れていた。


「ったくこの耄碌もうろくが、ろくな事考えやしねぇ……」


 烏田の手には殴り込んだ拳の先に返り血が滲み出ていた。


「ジジイの作戦にはが足りねぇんだよ。せっかく面白くなってきたゲームを途中で終わらすとか考えられねえ!」


 そう言うと烏田は倒れこんだ大鷲を足で蹴り飛ばし、大鷲が座っていた本部の椅子を代わりに座り込んだ。


(さっきまでのクールな彼とは別人のように殺気立っている――!そして彼に感じる波動は……PASのか――!!?)


 烏田から感じ取ったPASの波動を読み取った外崎社長が思い悟るように、ブラックヘロンへの怠慢、ゲームへの不完全燃焼から眠っていた不満の感情が烏田のPAS暴走へと繋がった。



「――ここからは俺が指揮を取る。

 本当のを見せてやるよ……剣ィ!!!!!」

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