第76話~欲望の反乱と進化したチェス~
――ここはゲームワールドの管理室。
そこではブラックヘロンの工作班が必死に転送装置『トランスホール』のセキュリティを解除しようとしていた。
そこに手元のプレイギアの着信音が……
「――はい、ボス……あれ、
『ああ、ボスに変わって俺が指揮を取ることになった。今セキュリティはどうなってる?』
烏田はさりげなく嘘を付きながら進行状況を聞いた。
「烏田さんも聞いてて分かるでしょ、必死こいて作業してます!」
ボスからの横暴な指令で工作班自身も苛立ちを感じるのが烏田にも分かった。
『その事なんだがな……トランスホールのセキュリティが解除されたらそのままにしておけ。――試合は最後まで続行させることにする!』
「え、本当ですか!?」
今まで大至急に作業していた分、少しの余裕が作れて工作班は内心ホッとしていた。
「その代わり次のゲームのシステム調整と参加プレイヤーの要請を頼む」
(何だよ、やること増えてんじゃん……)
安堵も束の間、仕事を増やされてがっくりした工作班は烏田の指令に従った。
◇◇◇
一方、剣と槍一郎が待つ控え室では……
「――あ、レミ!!」
剣の目先に疲れてヨロヨロになっているレミと豪樹が入り口から近づいてくるのが見えた。
「……おい、大丈夫か!?」
槍一郎が心配をする。
「ん、大丈夫……と言いたいけどもうダメ!くたびれた~!!!」
身体ボロボロながらもいつもの明るいレミの様子を見て、剣達は胸を撫で下ろした。
「なぁレミ……俺、お前に心配かけ――」
「そこはあたしから言わせて。
……二人とも心配かけさせちゃって、ごめんなさい!」
剣の話の腰を折りながらもレミは先に謝罪をした。
「あたし達なら大丈夫だから!こんなゲームちゃちゃっと勝って、皆一緒に帰ろうよ!!」
レミの鼓舞に横で聞いてた豪樹も誇らしげに笑みを浮かべた。
だが、剣の顔はうつむいたままだ。
「……違う。そーゆー事じゃねぇんだ」
「――?」
「皆の試合を観てて思ったんだ。槍ちゃんもレミも豪樹さんも固く強い意志があるからPASが使えるし、強い力が得られてる。
……だが俺にはその力は無い!現に強がってばかりでみのりですらも守れていない!
そんな俺がシャッフルのリーダーとして、『剣』に恥じない強いプレイヤーだって誰が断言出来る――ッッ!!!!」
剣は話を続けるうちに唇を噛みしめ、自分の非力さにやるせなさを感じていた。
「……俺だって分かってんだよ!ここで焦っても仕方ないことぐらい!!
でもここで立ち止まってたらお前らまでも守れていない、そう思うと――!!!」
今、剣に置かれているジレンマ。力と仲間とプレイヤーとしての誇り、そこに示す答えはまだ剣の目の前に現れない。
そんな頭を抱え込んだ剣に槍一郎は……
「剣、僕は……いや、僕らは成り行きで君をシャッフルのリーダーにしてる訳じゃない。
君には僕らに無いものを持ってる!それは――」
槍一郎が本意を話そうとする途中、実況アナウンスと会場のアップデートに邪魔をされた。
『――最終決戦の幕が刻一刻と迫りつつあります!9つのゲームが繰り広げた戦慄の戦記、残すゲームは後2つ!!さぁ、会場を刮目せよッッ!!!!』
広い会場にアップデートの作業が終わった後、一気にその雰囲気は中世の戦場と化し、辺りには巨大な柱のようなものが32個。
これをモニターで見た剣達は驚愕した。
「これは……チェス!?」
『戦いの歴史はチェスと共にあり!!今なお繰り広げる戦に時代を
これぞ超次元ゲーム時代チェス!!8th《エイトゥス》STAGE《ステージ》・『ハイパー・チェス』!!!!!』
――――――――――――――――――――
PLAY GAME No.17
★G-1グランプリ予選 8th《エイトゥス》 STAGE《ステージ》★
【HYPER CHESS ―ハイパー・チェス―】
・ジャンル『ボードゲーム』
・プレイヤーレベル:36
ルール
超次元ゲーム時代から格段な進化を遂げたボードゲームの定番、チェスの進化版。
やり方は普段のチェスとは変わらないが、64面のチェス版パネルに特質な効果を得るルールが加えられた。
……え?そもそもチェスのやり方すら知らない?
大丈夫。ちゃんと本編で教えながら進めますよ!
相手の『キング』を戦略を企て討ち取る事が出来ればチェックメイトとなる。
――――――――――――――――――――
しかし今回のこのゲーム、いつもとは違うルールまでも加えられた。
『――なお今回は特別ルールとして、プレイヤー1人1人にこの巨大な駒に乗り込みながらプレイして頂きます!!』
「駒に乗り込む!!?」
剣達はおろか、参加するブラックヘロンのプレイヤーすらも驚いた。
それもそのはず、このルールを仕組んだのは烏田なのだから――!!
(……思う存分潰しあうがいい、プレイヤーの苦しみは俺の
◇◇◇
「ったく……こんなアホみたいなルールがあるか!!」
剣も色々と葛藤するなかでの『ハイパーチェス』のぶっこんだルールに突っ込まずにいられなかった。
「どうするんだよ、どれに乗り込む?」
チェスはポーン、ビショップ、ルーク、ナイト、クイーン、キングの六種類の駒がある。ゲームの要になるのがキング。
「……よし、ここは剣がキングに乗り込め」
槍一郎が剣に指示をした。
「俺が!?」
「そう、キングにはリーダーに乗って貰わないと。それにチェスのやり方知ってるだろ?」
「そりゃ知ってるけどさ……」
剣は乗り気では無かったが、槍一郎の考えに乗り、剣はキングを選んだ。
「豪樹さんはルーク、レミがクイーン、僕は――ナイトでいくよ」
シャッフル・オールスターズ4名の配置駒が決まりそれぞれ巨大駒の上に乗った。
剣のキングを中心に左隣のクイーンにレミ、右端のルークが豪樹、そして豪樹の左隣に槍一郎のナイトが並んだ。
そしてブラックヘロンは大勢の団員から駒の数32個分の人数でぎっしりとセットされた。
そして総本部を牛耳った烏田はアナウンスで指示する形で高みの見物だ。
(……絶景だな、ここが戦場になると思うと――!!!!)
烏田の眼の瞳孔が開くほど高揚した。
『――巨塔と見まごうような駒に乗り込んだプレイヤー達、それが何を意味するのか我々には想像は出来ませんがこれだけは宣言しよう!
……プレイヤー達よ、無事に生き残り、勝利を手にするのだ!!』
試合開始、その合図はコールではなく先攻のブラックヘロンが動いたときに始まる。
突然、総本部からのアナウンスが聞こえた!
『G-7のポーン、前方2マス移動』
剣側の左端のルークから見て下から1~8と上がり左からA~Gと、マスの位置は記号で記されている。
そこで音声コールをすることで各駒は自動で移動する。
ブラックヘロンのポーンは2マス前に進む。ポーンは最初の移動のみ2マス動き、残りは1マス前進、駒を取るとき斜めの敵のみ。
「……どう動く?」
剣は槍一郎に相談をした。初手とはいえ最初が肝心だ。
「左側から攻めていこう」
「……よし!――B-2のポーン2マス移動!」
剣達のポーンも自動で動く!!
暫くはポーンで両者の動きを伺っていた。
そしてD-4とE-5のポーンが斜めに向かい合った!剣達のターン!!
「……ねぇ、まさかと思うけど駒を取るときって本物の決闘とか――しないよね??」
レミは何か不吉な予感を剣に言い諭し、一瞬手の動きを止めた剣。
しかしコールしない限りゲームは進んではくれない。一旦間を置いて、剣のコール。
「……D-4のポーン、E-5へポーン討伐!!」
次の瞬間、剣達のポーンが光り相手のポーン目掛けてレーザーを放った!!
「え、ちょっとま……わぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
――ドカァァァァァァァァァァン!!!!!!
上に乗っていたブラックヘロンのプレイヤー諸とも爆破が爆破された。
これを見た剣達とブラックヘロンの一員は愕然とし、血の気が一気に失せた。
「…………
剣はそう言うと、更に緊迫した顔になりながらも身を引き締めた。
(こんな状況でもう迷ってられねぇ!1歩でも気ぃ抜いたら――殺られる!!!!)
更にゲームは進んで、剣達はなるべく乗っている4人を動かさずに襲い来る敵の猛攻にひたすら防御を固めた。
「H-4ポーン、G-5へ!【アンパッサン】!!」
すると4の列に隣り合わせになっていたポーンが移動と同時にG-4のポーンを取った!
★【アンパッサン―En Passant―】★
フランス語で「通過中」の意。ポーンが最初の位置から2マス進み、相手のポーンの横に止まった時(言いかえると相手のポーンの効いているマスを飛び越えた時)、相手のポーンは動いたポーンが 1マス動いた時と同じように取ることが出来る。
この特別な取り方はポーンが 2マス動いた直後の手でしかできず、それ以降は取る権利が無くなる。
―G-バイブル『将棋も良いけどチェスも面白いよ?』より抜粋―
久々のG-バイブルが出たが、安心するのはまだ早かった。
ここから普通のチェスとは違う進化システムのお披露目だ――!!
それは、ブラックヘロンにターンが移るときに始まった!
『――フィールドチェンジ!ワープディメンジョン!!』
会場でのゲームアナウンスがいきなり流れると、フィールドが西洋風のパネルから渦巻きのようなワープホールで埋め尽くされた!
そして総本部からコールを放つ!
『B-8ナイト、A-6へ』
初めて8方向に将棋の桂馬飛びをして動かすナイトを指定の位置へ動かしたその時――!!!
シュバッ!!!!
ナイトが一瞬消え、なんと普通の移動とはありえないF-3へ移動した!!
『……【チェック】!!!』
「なっ!!??」
剣は驚愕した。開始して間もない中で【チェック】、即ち『王手』を宣言されるとは思わなかったからだ。
剣達に底知れぬ危機が迫る――!!!!!
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