第77話~剣にしかないもの~
ハイパーチェスの特殊ルール、フィールド全体をランダムな位置に瞬間移動する『ワープディメンジョン』によりブラックヘロンのナイトが一気に剣達の陣に攻め込まれた!
ナイトの位置はF-3、剣のキングに向けてチェックのコールがかかった。
(ヤバイぞ……かくなる上は――!!)
剣のキングに移動コールをしようとするが、
「待った!キングは動かすな!!」と槍一郎。
「今ワープかかってる中でキングを動かしたらそれこそ危険だ!ここは僕が行く!!」
「でもそしたらお前が――」
「僕達の事は気にするな!コールを!!」
剣は躊躇ったが、ここは迷いを振り切りナイトにコールした。
「……G-1、F-3のナイト討伐!!」
槍一郎ナイトは右斜めのナイト目掛け、鋭いドリルでブラックヘロンのナイトを貫く。
バキッ――!!!
「ゲェッッ!!!?」
ナイトは真っ二つに割れるとそのまま爆散して欠片が辺り一面飛び散った。
ナイトに乗っていたプレイヤーは爆破の瞬間に逃げた為、フィールドの床で腰を抜かしていた。
「出来れば僕はこんなゲームは――おっと!?」
ブラックヘロンナイトを討伐したのも束の間、槍一郎ナイトは瞬間移動しそのまま……
「――――え」
チュドォォォォォン――!!!!!
ポツンと立っていたC-3のポーンの上から強引にナイトが乗っかり、そのままポーン討伐してしまった。
「……死んでもやりたくはない!!」
悲惨な状況に唖然するのを通り越して憤った槍一郎である。
次はブラックヘロンのターン。
『C-8ビショップ、E-6ポーン討伐』
ビショップは将棋で言う『角』の役割を持ち、4方向斜めのみ移動する。
先程自分のポーンを討伐した剣達のポーン目掛けビショップは機関銃のようなものでポーンを蜂の巣にさせ爆破した。
そして……ワープ!!
着いたのはH-3、ワープしたレミのクイーンの射程距離に入っていった!
「おい、嘘だろ!?」
反撃から危機に転じられたビショップ。しかしここは戦場、情けをかける余地はない。
「レミ頼むぞ!D-1クイーン、H-3ビショップへ討伐!!」
(危ない所にワープしませんように――!!!)
レミはクイーンを移動させながら手を合わせ神頼みをした。
クイーンは8方向何処でも進むことが出来る。将棋で言えば角と飛車が合体したような動きをする万能駒だ。
ビショップ討伐!そして――ワープ!!!
着いたのは……?
「……あれ?戻ってきちゃった!」
クイーンの初期位置のD-1にとんぼ返りするように行って帰っていったレミのクイーン。そしてゲーム内のアナウンスが鳴る!
『フィールドチェンジ!プロモーションクロス!!』
渦巻きワープホールから一転し、A-1~H-8とH-1~A-8の斜め直線に虹色のパネルがクロスに交互したフィールドと化す。
「良かった~!もう変な所へ飛ばされないのね!!」レミもひとまず一息付いた様子だ。
しかし――!?
(シャッフルの愚か者共が、このフィールドが来るのを待っていたんだ!!)
ブラックヘロンのターン。総本部の烏田はニヤリと笑みを浮かべ、コールする!
『F-7ポーン、F-6へ――
プロモーション!!!!!』
「……はぁ!!?【プロモーション】!!!?」
剣は驚きと同時に文句も押し寄せそうな態度になった。それには訳がある。
★【プロモーション】★
別名『昇格・成る』。相手側の最終列に達したポーンは、同色(味方)のクイーン、ビショップ、ナイト、ルークのどれか好きな駒に昇格することが出来る。
将棋の『成り』に似ているが若干異なるうえプロモーション出来るのはポーンのみである。
―G-バイブル『チェスより将棋のが独特なんです』より抜粋―
剣の文句の言い所はプロモーションを行う配置である。
元々相手側の最終列、終点で行うが『プロモーションクロス』よってX型の虹色パネルに乗ったポーンはそこでプロモーションを行うことが出来たのだ。
Fの列にプロモーションされたクイーン。このままでは剣達のビショップは危ない、剣は直ぐ様ビショップをG-2に避難させる。
だが、すかさずブラックヘロン追撃が!!
『D-7ポーン、D-5へ。プロモーション!!』
――最悪だ。語る側から見ても地獄絵図が文章の中から見えてしまった……!!
「クイーンが……3つだと――!!!!??」
そのクイーンの位置はF-6、D-5、そして初期位置のD-8!
(ちくしょう、こんな所で諦めてたまるか……)
剣は唇を噛みしめながら必死で戦略を立てようとしている。
クイーンの射程に入っていた槍一郎のナイトをC-3からA-2へ避難させた。
『……F-6クイーン、E-6へ。チェック!』
烏田のコール、クイーンの猛攻が始まった!
(お出でなすったな、クロサギ女王!)
E-1の剣のキングが狙われた。避難は必須だが…?
「剣、一旦あれを使った方が良い。キングとルーク!」
槍一郎のアドバイスに剣はハッと何かを思い出した。
「あ、そうか!そしたら……」
剣はクイーンの居ない左を見渡し、移動コール!
「E-1キングをC-1へ!」
次の瞬間、8方向1マスしか進めないキングが2マス進み、剣側から見て左のルーク(豪樹が乗っていない方)が同時に右隣のD-1へスライドした!!
(【キャスリング】か……生意気な!)
烏田はこの様子に眉をひそめた。
★【キャスリング】★
別名『入城』。キングを安全なマスに移し、ルークを隅から出して活用するという2つの仕事を1手で行う。
ただしキャスリングには条件として
①キングの最初の動きであること。
②そのルークの最初の動きであること。
③キングと動かすルークの間に他の駒がないこと。
④キングが、チェックされることになったり、チェックされているマスを通過したりすることは出来ない。
この4つを満たしてる上でキャスリングが可能。
―G-バイブル『君もチェスをやってロマンを感じようぜ!』より抜粋―
(今剣がやったキャスリングは『クイーンサイド・キャスリング』や。
ホントなら反対側のワイのルークでもエエんやが……そしたらクイーンに取られる。
作者のシュミレーション不足やし、しゃーないわな)
――悪かったな!(作者の声)
豪樹の愚痴が飛び散るなか、烏田のターン。
『D-8クイーン、D-1ルーク討伐!!』
「え?――うわぁ!!!」
剣の真横のルークが光出し爆破、その横にクイーンが割り込んできた!
『チェック!!!』
クイーンに乗るプレイヤーは予想外の移動に戸惑い、次第に爆破の恐怖に怯え出した。
(あいつ固執して俺を狙っているのか!?)
剣は理解出来なかった。3つあるとはいえ重要なクイーンをキングの横に出すことは自殺行為に等しい。
「オイお前、ちゃんと逃げろよ!C-1キング、D-1クイーン討伐!!」
剣はクイーンに乗ってるプレイヤーに避難を呼び掛けてコール、プレイヤーは間一髪難を逃れ爆破には巻き込まれなかった。
「あの野郎、何考えてやがるんだ……」
剣はプレイヤーを道具に扱うような烏田の指示に怒りをさらに蓄積させた。
◇◇◇
ここからはダイジェスト。
残り2つのクイーンの猛攻に負われながらも剣はキングを避け、隙あらばブラックヘロンの駒をレミのクイーン、ナイトの槍一郎、そして豪樹のルークで応戦し撃破させた。
「ワイだって活躍せんとな」
そりゃそうだ、豪樹。
一方のブラックヘロンは殺意を剣に矛先を向けられるようにキング目掛けてチェックを繰り返し、その度に爆散していった。
その光景は正に特攻隊の末路、幸い命は落としていないが瀕死のプレイヤーが死屍累々の如く横たわっている。
そして、終盤戦――!!
「…………ちょっと待てよ――!!??」
剣はあることに気付いてしまった。
※盤面※
・ブラックヘロン:クイーン×2(E-8、F-7)、キング(H-8)
・シャッフル・オールスターズ:ルーク(D-7)、ナイト(D-6)、クイーン(G-3)、キング(F-6)
剣達のターン、F-7のクイーンでチェックされている。即ち――――!!
「覚悟はしていたけどね……」
槍一郎が既に悟ったかのように小声で剣に伝えた。
「僕のナイトでF-7に移動させてチェックした後、僕は斜めのクイーンで取られる。
そしてそれをルークで最後のクイーンを落とせばチェックメイト《詰み》だ!!」
「ッ……冗談じゃねぇよ!!!!」
「どういう事なの?」
レミが問いかけてくる。
「槍ちゃんがチェックメイトの為に犠牲になるつもりだ!!」
「――そんなのダメよ!!!他に方法があるはずよ!!?」
「方法は………無いッッ!!!!」
槍一郎は額に大量の汗が流れるなか答えた。
どの方法を取っても誰かが犠牲になる上、勝敗も分からない。
そんな中で最善なのは槍一郎のナイトで犠牲になり詰ませるしかなかった。
「……後の事は頼んだぞ剣、リーダーとしてブラックヘロンを止めてくれよ!!」
槍一郎の言葉についに剣が痺れを切らした。
「――リーダーリーダーって言うけどさ……何の力もない俺にそんな資格あんのかよ!!?
俺がお前らより優れてるものが何処にあるんだ!!!!」
「あるじゃないかッッ!!!!どんな敵にも立ち向かう勇気を持った【
「!!」
「……剣、今ゲームワールドを救えるプレイヤーは可能性に満ちた君しかいないんだ。
僕には分かる!僕でも、レミでも豪樹さんでもない!!君だけが出来る事なんだ!!だから――!!!」
槍一郎のナイトを掴む力がぎゅっと強くなった。
「その不屈の剣、絶対に手放すな――!!!!!」
槍一郎の激励に後押しされた剣、覚悟を決めて彼に頷き、槍一郎も相槌を打つ。
剣がコールをした瞬間、槍一郎のナイトが作動する。
そして……覚悟を決めた!!!
「……D-6ナイト、F-7クイーンへ討伐せよ!!!」
ナイトが動き出した瞬間、槍一郎は強く眼を瞑る。まずはF-7のクイーンを機関銃で撃ち放つ!!
数秒後にナイトがF-7へ移動を終えた。
「「――チェック!!!!」」
剣と槍一郎、2人揃ってのチェックコール!!
そして、ブラックヘロンのターン!!!
『E-8クイーン、F-7ナイトを………殺れェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!』
クイーンが槍一郎ナイトに視線を合わす、槍一郎は攻撃が近づくに連れ、顔が強ばり出した。
そしてついに……クイーンの閃光がナイトに解き放たれた――!!!!
「わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」
ナイト諸とも槍一郎はフィールドに吹っ飛ばされ、会場の壁にぶつかりそのまま倒れた。
だが、ゲームはまだ終わっていない!!すかさず剣は豪樹のルークをD-7からクイーンのF-7に追撃のコールを放つ!!
「D-7ルーク、F-7クイーンを……討伐ッッ!!!!」
そのコールは、剣の怒りの咆哮と共に会場を木霊した………
――――チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!
最後のコールは……切なく終わる。
「――――チェックメイト」
ブラックヘロンのキングは爆破されることなく崩れ落ちた。
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