第70話~ゲームで示す正義~

 ゲームワールドの空に無機質な太陽が登り、朝が来た。しかしその朝は最悪ともいえた。


 未だデュエルフィールドやプレイヤーバザールを中心としたWGC管理総本部はブラックヘロンによってジャックされ、その本部を中心とした周辺では、予選に参加した無数のプレイヤー達が人質として監禁されていたのだ。


 そしてその総本部で操作するブラックヘロンの同胞が――


「トランスホールのセキュリティ、50%まで解除は出来ました。あとはデータのセクション3、4がどうにかなれば実行できるんですが……」


 ブラックヘロンの工作班、その中でも重要な役割でもあるトランスホールのハッキングを任された団員が苦い顔をして苦戦していた。


「一夜過ぎて半分か……余程セキュリティを強化してるな、もう少しペースは上げられないのか?」


 ブラックヘロンのボス、大鷲英機おおわし ひできが指示をかける。


「これでも精一杯です!セクション3はまだしも4の解除は……最早神頼みですね」

「そのに頼むしかないのか……」


「……いや、全身全霊かけて解除してみせます。貴方の復讐の為に私達が命賭けたんですから、任せて下さい!」

「そうか、その期待無駄にさせるな!」


 そう言うと大鷲はトランスホール制御室を後にした。そして団員に無線をかける。


「――我が同胞に告ぐ、トランスホールセキュリティ解除まで50%に達した。引続きプレイヤーの束縛及び反乱防止に着手せよ!」


『了解!!現在周辺エリア3ヶ所において弾圧完了しております』


「よし、次の段階に入るまで無線は控えるよう伝えろ」


 一人の団員が状況を報告したあと、大鷲の無線は切られた。



(――WGCも硬直状態に入っている。それに外部からの転送も無し、通報も書き消されてる。

 今いるのは同胞と無能なプレイヤーと……無能役人のみって所か、余裕は充分だ)


 大鷲の心情に一部焦りがあるものの、自分に暗示をかけるように言い聞かせた。


 ――ガーッ……


 その時大鷲の持っていた無線が作動した。それに苛立つように大鷲は無線に応答する。



「――改めて次の計画の指示をするまで無線を使うなって言ったはずだぞ!!」


『――あ、すいませーん!少し聴きそびれてましたボスぅ☆』


 こんな修羅場には到底似合わないすっとんきょうな明るい声高めの声が無線に繋がる。


 その無線の持ち主は――だった。


 ◇◇◇


『大事な事くらいスケジュール表とかに書いてくださいよぉ!

 実はさっき偵察に言ってた鳥塚とりつかさん、椿黒つばくろさん、十始末じゅうしまつのあんちゃんと、皆からさ、もしかしたらおじちゃん寂しがるかな~って思って報告しました!!』


 剣の周りには前回四方八方取り囲んだハイエナ……いや、ブラックヘロンの連中がボコボコにされて倒れていた。


 元ブラックヘロンの白鳥もメンバーも無事で、剣は団員の名前を書いたメモを見て報告していた。



「なっ……!?何故同胞の名前を知っ――!!」

 大鷲は一瞬動揺したが何かに察したらしく直ぐに冷静さを取り戻した。


「――ご親切にどうも!つまり君が我々の計画を邪魔したって事か。

 いい気なものだな……が!!!」


 まだ大鷲は気付いていない。妨害をしていたのがWGCからのオフィシャルプレイヤーだと思い込んでいる。


 その正体が無能と思い込んでいた無名のプレイヤー達とも知らずに……


「ブッブゥゥゥ!!残念、大外れ!次10点賭けて間違えたらあんた、ミリオンステージ行けなくなっちゃうぜ?」


 どこぞの古いクイズ番組気取りに煽る剣。


(今のうちにみのりは白鳥さんと一緒に何処か隠れてて!後で連絡する)


(――分かったわ!)


 無線に聴こえないようにジェスチャーで剣はみのりに指示した。

 剣と残りの4人はある場所に移動し始める。無線はそのまま継続中。


『――貴様、一体何者なんだ!?』

 無線から大鷲の声を聴き、剣はいつもの声で応対した。


「謂わば『英雄見習い』ってところかな!目の前の悪事を働く奴等を見ると、じっとしてられなくてね」


『……それで?Mr.英雄見習いが私に何の用だ』


 乗っかってきた!と言わんばかりの顔で剣は本題に入った。


「なに簡単な話よ。あんたが散々バカにしているプレイヤーを代表して、俺達がブラックヘロンに勝負するって事!」


『何――?この期に及んで何をバカな……』


「最後まで聴いて貰いたい。今俺達はあんたら組織の重大な秘密を奪い取っている。

 下手に手出しするようなら即効コイツの特権を使って組織ごと壊滅することだって出来るんだぜ?今やってやろうか?」


『………』


 ブラックヘロンの極秘データを団員や白鳥から入手している剣の言い分に偽りは無い。それ故に剣は挑発をかけている。


「あんたらもこの世界の転送装置いじくって何かする権利もあるし、こっちにもそれを妨害する権利がある。どちらも勝負事するには充分フェアな賭け分だ。

 どうだ?互いに意地ぶつけ合って残りの予選後半戦、タイマンで勝負しようや――!!!」


 これは剣自身、いやプレイヤー達全員の未来を賭けた挑戦だった!


 剣達がこの先『マスターオブプレイヤー』を目指すために、ゲームワールドを救うためにはブラックヘロンと直接ぶつけ合うしか方法が無いからだ。


 プレイヤーの誰しもが持つ特権、ゲームでを示す為に……!!


『……いいだろう、その要望に受けようではないか。だが勘違いするな、我々に歯が立つと思うなよ未熟英雄が――!!』


 勝負承認に気を良くした剣、彼らの移動し着いた先には大きな扉の前に立っていた。



「――じゃあんたも、プレイヤーの底力にビビんなよ!腐れ悪党ッッ!!!!」



 ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!



 デュエルフィールド会場の大きな扉を叩く音が聞こえたと同時に、光と共に扉は大きく開き放たれた。


 そこから現れたのは、4人のプレイヤー……もとい、プレイヤー達の未来を背負う英雄、シャッフル・オールスターズだ――!!


 英雄代表として、剣が声を大にして名乗りを挙げた。


「俺達プレイヤーの居場所、ゲームワールドをのさばるブラックヘロンに告ぐ!!

 俺達シャッフル・オールスターズが、G-1グランプリ予選後半戦を申し込む!!!

 てめぇら全員討伐覚悟で、纏めてぶっ潰してやらぁぁぁあああッッ!!!!!!」


 剣も、槍一郎も、レミも、豪樹も……既に怒り心頭、魂がバーニング!!!


 今、プレイヤー達の大逆襲が始まる――!!!!

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