第53話~それぞれのゲームへの感情~

桐山剣は2nd STAGEセカンドステージを終えて、少し疲れはてた様子で控え室に戻った。


「さてと……アイツら俺のプレイ見てくれたかな?」


 剣はみのり達シャッフルオールスターズのメンバーを探したが何処にもいない。

 居たのは前にプレイしていた高橋豪樹だけだった。


「――おう!お疲れさん、剣」

「いや~中々凄かったですよ2nd。でも楽しかった!!」


 ゲームを終えた剣はいつも晴れやかな笑顔を見せてくれている。


「そうかそうか!楽しめたなら何も心配は要らへんな。

 丁度あっちのモニターで、みのりちゃんのゲームやっとるで」


「おぉッッ!?よっしゃ早速見てこよ~っと!!」


 先程のゲームの疲れが一気に吹き飛んだ剣は一目散にモニターへ突っ走った。


「ホンマ楽しそうにゲームするな剣は!同じメンバーとして鼻が高いわ!ワハハハハ!!」


 ◇◇◇


 控え室にある数多くのモニターの中でみのりのいるΩオメガブロックのモニターを探す剣。


「……あ!もうやってる!!」


 Ωブロックのモニターでは丁度みのりの番が来て今まさに激戦の最中であった。


 現在みのりの得点は72540点、残り2機の状態でマザーボイジャーと健闘している所だ。


「よぉし!みのり行けェェェェ!!!」


 一方の会場のみのりも冷静に光弾を避けながらマザーボイジャーに迫るが中々エネルギーコアに届かない。


「大丈夫、落ち着け落ち着け!!

 ――そうだそこを掻い潜って……あぁ駄目だ!後ろから来てるぞ!!!落ち着けェェェェ!!!!」


 いや、まずお前が落ち着け。


 そんな剣に見かねて他のプレイヤーが注意をしようとする。


「ちょっとあんたうるさいよ?あとモニター見てんだけ……」

「そこ来てるって後ろ!!危ない危ない危ないってば!!!あッ……!――ああああやられたァ…」


 ……駄目だ、全然聞いちゃいねぇ。


 らちが開かないと他のプレイヤー達は諦めて剣の側を離れて行くなか、みのりの2機目がやられてしまった。


 だが、みのりの目には諦めの色は無かった。非力ながらも必死に倒してやろうという闘志が剣にも伝わってきている。



 ―――さぁ3機目!

 マザーボイジャーの元にすぐにたどり着いたみのりは攻めよらずただ敵の光弾を避けることに専念する。まだ動きに焦りはない。


 一瞬、マザーボイジャーの攻撃の激しさが収まった!


 そして直ぐ様みのりはエネルギーコアにカーソルを狙い、ミサイル投下!!



 ――ドカァァァァァァン!!!



 マザーボイジャー撃破!!


「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!!良いぞみのりぃぃぃぃぃぃッッ!!!!」


 剣は理性ぶっ飛んで幼心に戻ったかのようにはしゃぎ叫んだ。



 同じ仲間が一生懸命になって頑張っている姿を見るのは誰でも嬉しいものだが、ゲームがあまり上手くなかったみのりの成長を見て剣はより一層嬉しかった。


 ―――ボカァァァァァァン!!


「……あら??」


 3機目の爆破した音が鳴り響いた。

 マザーボイジャーを撃破した後集中力を使い果たしたかのように光弾に当たってしまったようだ。


 河合みのり、結果94250点。そして94ポイントが加算されて2ndSTAGEが終了した。



 ◇◇◇


「ひぇぇぇ疲れたぁ……!」

 みのりは疲れきった顔で控え室に戻ってきた。他のプレイヤーから所々で暖かい拍手が送られた。


「みのりぃぃぃ良く頑張ったなぁ!!知らないうちに強くなっちゃって、このこの~!」

 剣はみのりに近づいて軽くじゃれた。


「えへへ……でもマザーボイジャー倒すので精一杯だったわ」


「何言ってんだよ充分じゃないか!一生懸命やってくれれば俺は嬉しいよ」


 剣もいつの間にかリーダーらしい事を言うようになったものだ。


「―――あ、剣君いたいた!みのりちゃんも!!」


 丁度レミもゲームを終えた所で剣達と合流する。


「そっか、レミちゃん私と同じ時間で出番が来てたのね」

「で?どうだったゲームの結果は!?」


「えーと、102340点!でもマザーボイジャー倒せなかったわ。前のスペシャルポイントで1upと高得点で何とか稼げた」


「あらー、でもちゃんと全力出したんだろ?」


「勿論よ、当たり前じゃない!のがあたしよ!!」



「そうだったな、悪い悪い!中途半端しなければ俺は何も言わないよ。良くやった!」


 剣は優しくレミに拍手を送り、続けてみのりもレミにむぎゅーなハグで称えた。なんと微笑ましい光景だろう。


「剣、いつの間にリーダーの風格になってきてちょっと生意気やな!」


「豪樹さんのゆー通り!でもこれくらいドンと構えてくれた方が頼もしいわ」

 


「あとは……槍君だけね」


 オールスターズで2ndをプレイしていないのは槍一郎ただ一人だけとなった。

 みのりは心なしか仲間内で感じることのないが過っていた。


 ◇◇◇


『さぁΣシグマブロックからWGC公認オフィシャルプレイヤーの登場であります!迅速の槍、天野槍一郎(16)!!!』


 しかし、不思議なことに槍一郎からの歓声が少ない事に剣は気づいた。

 オフィシャルでの知名度が槍一郎にあるはずだが、全く無名である剣の方が歓声が大きかった。


(……………)

 剣はこの反応に驚かなかった。

 槍一郎の大会の様子を見たのが2ndが初めてだが、剣は既に何かを悟っている様子だった。


『ゲームスタート!!!』


 16bitのオーケストラが出陣する槍一郎を出迎えるが、何かが足りない。やはり応援の歓声が少ないことだった。


 しかしそれに屈することはなく、槍一郎はただ黙々とゲームを進める。

 動きも攻撃もスペシャルポイントの獲得も完璧、しかし何処かしら心に響かない。


 まるでのようなプレイに、心踊る者はいなかった。



(――アイツには実力も才能もある。だが仲間同士でこんな事は思いたくないが……

 あのプレイには

 まるでやりたくない宿題を済ますような芯の無いプレイは、俺は嫌だ!!)


 剣の苦々しい顔からみのりは直ぐに核心を持っていた。

 槍一郎のプレイは特訓で共に過ごしていた分メンバーの皆が察していた。


 "槍一郎の魂にが無い"――と。


「剣君、分かっていると思うけど……」


「分かってるよ、今は奴らを潰す事に専念する。だが――!!」


 剣の納得の行かない苦虫噛みが声にも染み渡った。そして豪樹も。


「思った通りか。アイツ、オフィシャルの中でも評判悪いって噂されてたから何ぞやと思うたが……重症やな」



 そう言っている間にも槍一郎はただ先に進むのみだった。そして例のマザーボイジャーも……一瞬のうちに片付けてしまった。


「ねぇ豪樹さん、皆が槍君を良しとしない理由って…勘だけど実力の問題じゃないと思うの。―――彼に何かあったの……?」


 みのりのキャラに似合わず核心突かれた質問に豪樹は冷静に答えた。


「……レミちゃん、人ってのは知られとうない事の1つや2つは必ずある。まだそれを聞くのは野暮だと思うで」


 一体彼に、何があったというのか……!?


 ◇◇◇


 それはさておき、槍一郎のプレイと同時に『プレイヤーステータス』を見てみよう。


 ☆天野槍一郎/プレイヤーレベル:38

 [プレイヤーステータス]

 ・アクション:284・シューティング:289

 ・ロールプレイ:274・タクティクス:367

 ・スピード:397・ブレイン:308

 ・ハート:194・ミュージック:280

 ・ラック:270

 [プレイヤースキル(必殺技)]

 ・【疾風怒涛】・【精神統一】


 スピードとタクティクスが長けていながらこちらも安定しているステータスだ。

 プレイヤースキルは今の時点で分かっている技のみを書いているが、他にも様々な技を持っている。



 更にゲームを進めていこう。

 あれから3分経過し、当然の如くノーミスで中間地点のマザーボイジャーを撃墜。

 そして遂に、あのエリアへと突入する。


 剣が触れずして破れた『ゴッドマザーボイジャー』へ―――!!!


(来たか……『神』と名高い、超巨大母艦!!)


 旋風の如く修羅場を潜り抜けた槍一郎も、最後の難関に気を引き締める。


 直列、扇、螺旋型に次々と光弾の雨が降り注いだ。ゲーム画面から見ればその動きは芸術的に感じる弾幕の様だった。


 普通のプレイヤーならたじろぐ難関、しかし槍一郎はそれを素早く――見切った!!!!


(――あの弾幕を超えた……意図も容易く!!槍ちゃんにはあの巨大母艦の攻撃すらも、そよ風を通るものにしか感じないのか……!?)



 光弾弾幕の嵐を越えてジグザグと稲妻の曲線を描くように、一気にゴッドマザーボイジャーへ近づいた!!


「プレイヤースキル発動、【疾風一閃しっぷういっせん】!!!!」



 ◎プレイヤースキル◎

【疾風一閃】:プレイヤーが操作する自機やキャラのスピードを最大限まで上げる。



 ――ジャキキキィィィィィン!!!


 戦闘機が金属の刃が切り裂くような音を立てて、3つのエネルギーコアを僅か0.7秒、カーソルに定めそして……撃ち放した!!


 正に疾風が走る、止めの一突きだ!!!


 超巨大母艦『ゴッドマザーボイジャー』が大きな爆破音を出して、宇宙の藻屑と消えていった!!


『――ゲームクリア!!!!』


 コズミック・カウボーイではゴッドマザーボイジャーを討伐することによってクリアとなる。


「…………」


 剣が超えられなかった巨大母艦を呆気なく倒した槍一郎。

 剣はそれをただ呆然と見ることしか出来なかった。


 最終結果として、天野槍一郎の得点は199630点。

 パーフェクトゲームの200000点とはならなかったが、199ポイント獲得でΣブロックのNo.1が確定した。


 会場と控え室は最低限の礼儀並みの拍手で締め括られた。


 ◇◇◇


 ――そして控え室。


「槍君、お疲れ様」

 みのりは優しく槍一郎に話しかける。


「あぁ、ありがとう。剣は……?」


 槍一郎の先に下を向いてしゃがんでいる剣の様子が見えた。


「……どうしたんだ?」

 その剣の顔は不機嫌そのものだった。


「…………槍ちゃんさ、今のゲーム槍ちゃんにとって難しかったか?楽しかったのか?」


「ん、まぁそれなりにかな。普通だ」


 槍一郎の答えに、剣の顔に青筋が立った。


「へぇ…そうかい、意地でもか……!!」


 剣の怒りを込めた低い声が、わなわなと震えながら槍一郎に詰め寄った。


「ちょ……剣君!!」


「俺達はしにゲームしてるんじゃない。本気で『マスターオブプレイヤー』目指してやってんだ!!

 槍ちゃんに手加減されてやるゲームなんか面白くねぇよ!!!」


 剣は今まで特訓してきた槍一郎に対する思いの丈を話した。間を置いて槍一郎が呟く。


「………まだ、君達には教えられないよ。僕が何で本気を出せないでいるのか、訳ありなのは確かだが今はまだ……言いたくはない」


「教えられないってなんだよ!俺ら仲間だろ?親友にも言えねぇ事なのかよ!?

 ――そんなん槍ちゃんらしくねぇよ!!!!!」


「…………………………」


 槍一郎はそれ以上何も言わなかった。

 それと同時に剣の憤りも徐々に冷めていった。


「……今は何言ったってしょうがねぇ、今はクロサギ潰すのが先だ。

 ―――お前に何があったか知らねぇが、あんまり俺達プレイヤーを侮辱すんなよ。は許さねぇからな!!」


 剣が放った槍一郎への怒り、これが本人に届いたかは分からない。

 だがこの槍一郎のプレイに隠された本当の意味を知るのは、まだ先の話になりそうである。




(俺は信じないぜ、アイツが半端な気持ちでプレイヤーなんかやってない事を。あの迅速のパラディンが偽りでない事を―――!!!)


 剣よ、それぞれの迷いに振り向くな。

 今矛先にある敵は、まだ先にあるのだから―――!!



★2nd RESULTS★

 ・桐山剣 結果 Φブロック 5位 162ポイント→計262ポイント

 ・天野槍一郎 結果 ΣシグマブロックNo.1 199ポイント→計299ポイント

 ・畠田レミ 結果 Tブロック 23位 102ポイント→計132ポイント

 ・高橋豪樹 結果 ㈱ブロック 27位 105ポイント→計205ポイント

 ・河合みのり 結果 Ωブロック 29位 94ポイント→計99ポイント

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