【限定エピソード】第44話~私だって強くなりたい!!~

 さて……剣と槍一郎がソリティアを通じて『プレイヤーの魂』を極める特訓に励んでいる頃。


 みのりとレミは何をしているのだろうか?


 そんな事を考えてた読者の貴方へ!今回は特別にその特訓の様子を御見せしよう!!


 ◇◇◇


 ――彼女達の特訓場所はゲームジム『ビッグウェーブ』、そこに設置してあるトレーニング器具を使っての特訓だ。


「ねぇ豪樹さん、まさか特訓って筋トレの事じゃ無いですよね……?」


 レミは冷や汗を滴ながらたじろぐ。彼女は勉強だけでなく運動も得意ではない。

 悪く言えばという感じだ。


「ちょっとそれ語弊があるわよ!」


 失礼しました。


「心配あらへん!初日からハードな事はせぇへんよ!

 まずはエアロバイクで身体を慣らしてから、重心と反射のトレーニングを行う。筋肉じゃなくて体幹を強化させるんや」


 前にも取り上げたが、何故ゲームを挑むのに身体を鍛えるのか?無関係じゃないかと思う人も居るだろう。


 とんでもない!実は関係大アリなのだ。


 人の心は身体と共に成長する。となると当然微弱な身体では心は容易く恐怖心や重圧に押し潰されてしまう。


 その身体と共に精神力を鍛えていくには筋トレが重要不可欠、トレーニングによっては集中力をも強化することが可能である。


「レミちゃん!私も居るんだから、一緒に頑張ろッ!!」


 みのりも横からレミを鼓舞する。やる気満々の様子だ。


「う、うん……」


 ◇◇◇


 ――かくして、二人のトレーニングがスタートした。


 まずはエアロバイク、初心者はマイペースに30分漕ぎ続ける事から始まる。ルールとしてはゆっくりで構わないが漕ぐのを止めてはいけないこと。


 最初のうちは元気良く早いペースで漕ぎ続けていた二人、だがまだ最初で体力の配分が分からない為に10分でペースが落ち始めた。


「へぇぇ、中々しんどいわねマイペースとはいえ……」


 早くもレミがへばっていく中、みのりは真っ直ぐな目付きをしながら安定したペースで漕ぎ続ける。


「それにしても頑張るわねみのりちゃん!」

「だって、ゲームに強くなるためのトレーニングだもん!!コツコツと頑張っていかなきゃ!!

 レミちゃんだってそうでしょ?」


「そりゃ、そうだけど……」


 未だ躊躇いを持つレミであった。


 ◇◇◇


 ――エアロバイク30分を終えて、次のトレーニングへ進む。豪樹が用意したのは2つのだ。


「次は重心トレーニングや。このバランスボールを手足使って乗る、これで自分の身体の体幹バランスを鍛えるのが目的や」


 体幹バランスを鍛えることにより、自分がゲームをプレイする際の姿勢を正し、身体の負担を軽減していく。


 パズルゲームを行うレミにとってもプレイ姿勢は意外と重要なのである。


 早速バランスボールに乗っかってみるレミ、しかし乗った途端に……


「――むぎゅッッ」


 バランスを崩し、顔からガクッと落ちていった。


「もう一回!今度はワイがボール押さえたる、10秒はキープせぇや」


 もう一度レミはバランスボールに乗る。豪樹のサポートもあって、ある程度はボールに維持しているレミ。


「あ、や、やだ、落ちちゃう、落ちちゃう!!」

「まだまだ!辛抱せぇ!!」


 産まれたての小鹿のようにプルプル震えるレミに豪樹が声を掛ける。そして……


「よし、OK!!!」

「ふぅ~………」


 10秒経過、一瞬の時間であったがバランスがぐらつくレミにとっては長い10秒であった。


 一方のみのりも豪樹サポートでチャレンジ。レミよりも体幹が保っていた為、10秒以上維持してバランスに乗り続けた。


「えぇやないかみのりちゃん!その調子や!!」


 意外に出来た事で照れるみのり。レミはブスッとちょっとふて腐れていた。


 ◇◇◇


 もう一つのトレーニングは至ってシンプル。

『手に膝を当て、手前の相手をしっかり見て、上から落とすボールをキャッチする』。これで瞬発力を養っていく。


 豪樹は意地悪にフェイントを掛けながらボールを自然に上から落とす。


 みのりは純粋故にそのフェイントにまんまと騙されたが、レミは落ちゲーパズルで鍛えた瞬発力で見事にボールをキャッチしていった。


 これで初日のトレーニングは終わり。

 運動後の柔軟ストレッチで締めて、一息付く二人。


 しかし、トレーニングを終えても曇った顔をしているレミに豪樹は気付いた。



「――レミちゃん!!」

 剣と槍一郎のトレーニング終わりを待ちに、控え室で一人休んでいたレミを豪樹は呼び掛けた。


「……豪樹さん、どうしたんですか?」


「いや……まぁ、レミちゃんがずーっと浮かない顔しとったから気になってな」


「ちょっと運動慣れてないから疲れちゃって……」


 レミは心の内を疲労で誤魔化して隠そうとしたが、豪樹には見破っていた。


「――みのりちゃんが結構運動出来るから、ちょっと嫉妬してたんやろ?」

「うっ……、それであたしを笑いに来たんですか?」

「んなアホな事せぇへんがな!!逆や、励ましに来たんや」


 更に拗ね始めるレミ。それに彼女はまだ豪樹のデカイ身体に蔓延る圧で抵抗感もあるようだった。


「……レミちゃん、ゲームでもっと自分の可能性を高めたいんとちゃうか?自分に負けたくない為に」


 それを聞いたレミは思わずハッとした。


「……何でそれを――?」


「みのりちゃんが言うてたで。

 苛められてた過去を乗り越えるためにレミちゃんはゲームに真剣に頑張ってる、だから私もそれに負けないくらい強くなりたいって。

 ――みのりちゃん、レミちゃんの事を目標にしてトレーニング頑張ってたんや」


 レミは吃驚した。いつの間にか自分が憧れている側に立つなんて思ってもいなかった。

 ましてや親友から尊敬の眼差しを送っていた等も尚思わなかった。


「……だったら尚更こんな恥ずかしい所、みのりちゃんに見せたくないよ………」


 思い詰めたレミはとうとう頭を伏せてしまう。そこで豪樹はある資料を見せた。


「これ、みのりちゃんのステータス」


 豪樹は特別にみのりのステータスデータをレミに見せた。


 それはレミのように特化した値は無く、いかにも初心者のような平凡なステータス……と思いきや一つだけが。


「え……凄い――!!何で……!?」


「ワイもこれには吃驚してな、この『ハート』の所だけはメンバーの中でトップや。

 だが改めて確信したよ。彼女が特訓を真剣に頑張る理由は、であること。その思いに尽きるわ」


『ハート』はゲームにおける集中力、精神力を意味する。

 元々女子ながらに胆力のある彼女にとって、このステータスは相当説得力のあるものであった。


「『ゲームが大好き』ってだけでここまで頑張れてるって言うの?みのりちゃんは……」


「――その思いは、同じようにゲームが好きな剣や槍一郎や、勿論レミちゃんのような、って意味も込められてるんやで」


「――!!」


 レミの頭の中に何かが繋がった。みのりが真剣にトレーニングしている意味が……


「……レミちゃん、自分の好きなパズルゲームが大人の都合で急に出来なくなったらどうする?

 自分に優しくしてくれる友達が離れていったら、それを翻す勇気はあるか?

 ――――みのりちゃんはな、そーゆー好きななものを守るために"強くなりたい"って決心したんや!」


「……………」

 レミの顔は一変、真剣な眼差しへと変わっていった。


「みのりちゃんだけや無いで!剣も槍一郎も必死で強くなろうと頑張ってる!

 自分勝手なエゴで居場所を無くそうとしている奴を止める事は、若い奴にしか出来ん事や。

 ――レミちゃんが今一番守りたいものは何や……!?」


 その答えは、既に彼女の心が既に気づいていた。


「あたしは……みのりちゃんと、友達になってくれた剣君達の力になりたい!!大好きな友達を守ってあげたい!!!

 ――あたし間違ってた、これは遊びなんかじゃない。大事な居場所を守るためのなんだ!!!!」


 レミの中途半端な迷いが今ここで完全に吹っ切れた。豪樹の粋な計らいで、レミの眼に輝きが取り戻された。


「……豪樹さん、ありがとう!!正直豪樹さん顔怖かったけど、優しいから好き!!!」


 素直な気持ちも戻ったようだ。

 だがその分豪樹も照れ臭そうに返した。


「――おおきに!男は見た目だけちゃうんやで!!

 ……さぁ、みのりちゃんの所へ行ってあげぇや!」


「………うん!!」

 レミは元気良くみのりの元へ駆け出した。


「ホンマに……このチームは優しい子達ばっかやな……ワイも気張らんとな!!」


 ◇◇◇


「――あ!レミちゃん!!私ずーっと待ってたんだよ?」


 みのりの様子から見て相当待ちくたびれたようだった。


「ゴメンゴメン!でももう大丈夫だから!

 ――みのりちゃん、明日も特訓一緒に頑張ろ!!あたしも皆に負けないくらい、強くなるんだから!!!」


 さっきとは比べ物にならないレミの気迫にきょとんとするみのり。


「何か良く分からないけど……元気になって良かった!また頑張ろうね♪」


 天真爛漫なみのりの笑顔がレミの心を更に癒していった。


 さぁ一歩ずつ心を踏みしめて、高みを目指せ!!

 G-1グランプリまで理想へ突き進むのだ!!!

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