第43話~己の魂を磨け!~

耳をつんざく大音量の超音波が剣の耳元を貫き、もがき苦しむ剣。

 その超音波に最早フリーセルどころではなかった。


「手を休めるな!そのまま続けろ!!」

 槍一郎がヘッドフォンの副音声から剣に指示する。


(じ、冗談じゃねぇ!頭が割れそうな音波の中でやれるってのかよ!!クソッッ!!!)


 開始から3分後、剣は悶絶寸前までいきながら必死にゲームを進める。

 そして少しずつだが音波にも慣れてきたようで冷静に進めるようになった。


「よし、ペースも上がってきている!次行くぞ!!フェイズ2!!!」


 超音波から切り替えられたのは、大会での臨場感を再現した歓声と実況が入り雑じった音だった。


(成る程、これが大会の時の環境って奴か。やかましいのは癪だが慣れれば何とかなる!)


 剣はさらにペースを上げて開始5分でフリーセル中盤まで進めた。


(一応大会でのプレッシャーは感じているか見たかったのだが…その心配は無さそうだな。)

 槍一郎はそう思うと次の準備に入った。


「剣、こっから後半は終わるまでこの音声でいくからな気を抜くなよ!!――フェイズ3!!!」


 次の音声に切り替わった――!!


「―――何もたついたプレイしてんだ!!」


(―――!!?)


 いきなり耳元に届いた暴言に反応し、剣のプレイの動きが止まった!


「フェイズ3は剣にとって耐性のない罵詈雑言に耐えてもらう。

 剣が本気でゲームに立ち向かうにはこれが一番の壁となるだろう。これを越えなきゃその先へは進めないぞ……!!」


 槍一郎の言葉に剣は応えたか定かでは無いが、剣の止まっていた手が動き出した。


(手は動いてはいるが、プレイが不安定だ。相当心が乱されている。迷いがある限りお前はこのまま立ち塞がるだけだ!

 ―――剣、頑張れッッ!!!!)


 槍一郎が無言で願うなか、剣は罵詈雑言を受けて手はまた止まった。そしてあることを考えていた。



(……俺、寂しかったのかな。

 みのり達に会う前は友達も庇う相手も居ない中でただ自分の弱さに向かい合わず逆らっていた。

 キザな言い訳にしかならないが、友達に裏切られて金輪際友達なんか作るまい、ゲームをしまいと思っていた自分もいた。


 だがそうじゃなかった、結局は自分の!!


 ―――でも、今は違うッ!!!)




「!?剣の動きが変わった――!!」


 槍一郎は直ぐに剣の変化に気づいた。剣自身が変わろうとしていることに―――!!



(みのりと出会って、槍ちゃんにもレミにも豪樹さんにも会って、俺の周りにまた『仲間』という存在が出来た!!

 俺の弱さを受け止めてくれた!俺を最強と導いてくれると約束した!!

 自分の中の『大切なもの』が仲間と出会って見つけられたんじゃねぇか!!!)


 剣のプレイのペースが更に早くなった!そして、ラストスパートッ!!!


仲間そいつらに報いる為にも、俺自身が『剣』を持って銃司や更に強いプレイヤーに立ち向かう為にも!もう俺は過去には立ち止まらない!!

  ここで歯食いしばって強くならなきゃッッ…………)




 ―――親友ダチとして申し訳が立たねぇだろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!



 桐山剣、フリーセル・フィニッシュ!!!!!



 ゲームを終えた剣は疲労困憊で床に倒れ果てた。今でも超音波が耳元にこびりついているようで耳を押さえている。


「――良く乗り越えたな、剣」


「……いや、俺まだまだ未熟だ。お前や仲間の皆に認められる強さになるまでは、期待には答えて見せるぜ」


 剣は満身創痍ながらも槍一郎に笑顔で返した。


 フリーセルのタイムは7分13秒。平均を下回るタイムだが、剣にとって大きな一歩を踏み出した成果となった。


 ◇◇◇


 そして、2人は個室を離れ仲間の元に戻った。丁度他の3人もトレーニングが終わった所だった。


「―――あ!剣君たち戻ってきた!!」

 レミがいち早く遠くの剣達に気づいた。


「剣君、どんなトレーニングしてたの?」

 後からみのりが剣に尋ねてきた。


「そうだな……『魂の特訓』!!槍ちゃんにびっしりしごかれたよ!俺、絶対最強プレイヤーになるからな!!!

 ―――いや~こんな素晴らしい友達持てて、俺は幸せだなぁ!!」


 トレーニング前から一変して明るくなった剣にみのり達はきょとんとしていた。


「ハハハハ!!何か知らんが剣も吹っ切れた感じがするな!こりゃ『シャッフル』も幸先えぇ感じがするでぇ」


 豪樹も豪快に笑うなかみのりは察した。


(迷いはもう無さそうね剣君……!)


 今はただ、己の魂を磨くのみ……!!

『G-1グランプリ関西予選』開催まで、あと1ヶ月あるのだから―――!!!

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