第42話~槍一郎の本音~

「ここで何をすんねん? 槍ちゃん」


「言っただろう、剣には徹底的に特訓するって。『シャッフル』は君が作ったチームだ。リーダーの君には、僕や皆以上に強くならなくちゃ面子も立たないだろう? その為にも剣には―――『プレイヤーの魂』を最大限に強化させる!」


「『プレイヤーの魂』……どーゆー事や?」

 槍一郎は熱弁を振るうも、剣には少し理解していないようだった。そこで彼ははある質問を投げ掛けた。


「そうだな、剣はゲームをするとき、どんなプレイスタイルに拘っている? 例えば、自分はこんな風に相手に勝ちたいとか」

「せやな……俺は、『飛ぶ鳥を落とす勢いに相手を翻弄し、かつ鋭く俊敏に攻撃して相手に勝つ』。

 ――そう、剣を持つ騎士ナイトのように!」


「成る程。ちなみに僕の場合は、『疾風のようにゲームの波を駆け抜け、疾風のように勝利を勝ち取る』。みのりちゃんがさっき言っていた、槍を持った聖騎士パラディンのようにね。

 ―――それぞれに抱えるゲームへの信念は、さっき言ったプレイスタイルのような熱意の形。つまりゲームに賭ける『魂』が大きく関わっているんだ」


「………それで、槍ちゃんは俺に何をして欲しいんや?」

 剣の食いかかりに槍一郎も痺れを切らせて口調を荒げた。


「君の、のような魂を、僕が一から叩き直す!!」


(な、なまくら刀、だぁ……!!?)


 剣の脳裏には、あの立海遊戯戦団たつみゆうぎせんだん立海銃司たつみじゅうじの屈辱戦を思い出した。『なまくら刀のようなプレイヤー』と称された、あの悔しさが。


「オイ、今の台詞は聞き捨てならねぇな。俺の何処が『なまくら刀』だ!? 言うてみぃや!!」


 久々にブチキレた剣、眉間が捻り曲がって強面になった顔を、ゼロ距離で槍一郎に近づけるが、それでも彼は臆せずに淡々と話す。


「そのひねくれ根性がなまくらだと言っているんだ。チンピラに喧嘩引っ掻けては、ストレスの捌け口のように徹底的に叩き潰す。自分に都合の悪い言い方をすれば食って掛かる。そんなもの、今の君はチンピラと同格にしか見えない」

「何ぃ………!?」


「剣が過去に色々あって、叩きのめされて性根ひねくれた事なんか、今と比べれば邪魔な記憶でしか僕は思わない! 過去は過去だ!!

 『マスターオブプレイヤー』を目指す桐山剣が、真っ直ぐな信念貫き通さないで、誰が『シャッフル・オールスターズ』を引っ張るんだ!!!」


 常時クールな槍一郎から垣間見えた熱いソウルの叫び。親友として認め合った二人だからこそ、ぶつかり合う心情。その心意気に、ヤンキーな剣の心にも響き合った。


「剣には確かに、俊敏な瞬発力と鋭利なセンスはある。それに切り札を寄せ付ける魅力がある! それは僕が保証する。――でもそれだけじゃ足りないんだ! 剣が最強のゲームプレイヤーになるには、剣自身の『魂』を磨く必要がある!!


 ………いつか、最強に相応しいのは桐山剣だって、として誇らせてくれ…!!」


「お前……」


 ここまで熱い想いを、剣にぶつけたことがあっただろうか? いや、否。剣はただ、気迫掛かった彼の熱意に茫然するだけ。しかしその秘められた思いに、剣はガッチリと受け止めた。



「――悪い、俺一番大事な事を忘れる所やった。

 俺がBLACKブラック HERONヘロンを潰すって言ってオールスターズを作ったのにさ、リーダーの俺が一番強くならなアカンがな!!

 槍ちゃん、俺の魂の『剣』を、最高級に叩き直してくれ!!」

「……よし、直ぐにでもやるぞ!!」


 槍一郎は直ぐ様トレーニングの準備に取りかかった。持ってきたのはトランプの束だ。


「剣、【ソリティア】はやったことはあるかい?」

「ああ。トランプを使って、一人でやることの出来るゲームやろ?」

「その通り。色んなソリティアがあるんだが、今から剣には【フリーセル】を行ってもらう」


「【フリーセル】―――!」


 ◆――――――――――――――――――――◆

 PLAY GAME No.10

【ソリティア・フリーセル―SOLITAIRE FREECELL―】

 ・ジャンル『カードゲーム』

 ・プレイヤーレベル:18


 概要

 バラバラに並んだカードを『フリーセル』と呼ばれる4つのスペースをうまく活用して、すべてのカードをホームセルと呼ばれる場所に片付けるのが目的である。


 ルール

 まずジョーカーを除く52枚のカードをよくシャッフルし、左から順に数字が見えるようにして8列に並べる。

 左の4列は7枚、右の4列は6枚となる。

 また、これとは別にフリーセル(上段左)用に4つ、ホームセル(上段右)用に4つのスペースを用意する。


 プレイヤーは以下のルールに従って、一度につき一枚だけカードを移動することができる。


 ①列の先頭にあるカードは移動することができる。

 他の列の先頭にあるカードと色が違っていて、番号が置こうとする列における先頭のカードの数字より1つ小さい場合、そのカードを列の先頭につなげることができる。

 カードがなくなった列は自由にカードを置くことができる。


 ②フリーセルには、カードを4枚まで自由に置いたり、列に置ける場合は取り出すことができる。


 ③ホームセルには、同じスート(♠️など書かれてあるマーク)のカードをAから始まって数字の小さい順に重ねることができる。

 ホームセルに置いたカードは取り出すことができない。


 ④52枚すべてのカードをホームセルに移動できれば勝ち、どのカードも動かせなくなった場合は負けとなる。


 ※カードが動かせても、他の列と行き来するなどの無意味な移動しかできなくなった場合は、事実上の負けである。


 今回はシュミレーションゲームの為、『クリア報酬』とプレイヤーステータスの経験値は無し。

 ◆――――――――――――――――――――◆


「トレーニングゆーから、最先端系ゲームを頭に浮かんでたんやけど。何で『ソリティア』なん?」


「ソリティアには思考精度を上げたり、物事を冷静に判断する力を養えられる。

 だがそれだけでは足りないから、このゲームにはこれを着用してやってもらう」

 槍一郎は最新型のBluetoothヘッドフォンを剣に渡した。


「これは?」

「僕が用意したハイレゾコンポに、騒音とか大会での野次のサンプルボイスが録音されている。

 剣はヘッドフォンを付けながら、集中してフリーセルをやるのが特訓だ」


「成る程。つまり周りの音や罵倒にも気にしないで、ゲームの集中力を身に付けるって事やな。受けて立とうやないか!」

 剣はやる気満々に準備をする。

 槍一郎は大型のテーブルの手元にトランプの山札、そしてその横にサウンドスピーカーを連動させたハイレゾコンポを設置させた。


「準備は良いな?」

「いつでも!」


「じゃ……始め!!」

 コンポの録音サウンドを再生した瞬間―――!!



 ――――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!



「!!??―――ガァァァァァァァァァ!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る