第45話~それぞれの強さ~

 桐山剣率いる『シャッフル・オールスターズ』5人は、ゲームワールドで開催される『G-1グランプリ関西予選』のトレーニングをしていた。


 あれから3週間―――!


「スタート!!」


 槍一郎の掛け声と共に剣はヘッドフォンを装着しフリーセルを行う。


 以前とは比べ物にならない程、超音波や罵詈雑言の声に傾きもせずただひたすらにフリーセルを行う剣。

 いやそれだけではなく、ペースも格段に速くなっている。


 そして52枚全てがホームセルに入った!


「よし終わりッ!!―――何秒だ槍ちゃん?」


 苦悶も見せず、清々しい顔でフリーセルを終わらせた剣は槍一郎に問いかける。


「……凄いぞ、2分15秒!新記録だ!!」


「ぃよしッッ!!!」

 剣も思わず歓喜の声が出た。


「この3週間、1日も休まずに特訓してきた成果がしっかり出てきてるよ。

 豪樹さん直伝の『心・技・体』のトレーニングのお陰で、前よりも精神が落ち着いてきてる」


 豪樹によるトレーニングは、エアロバイクで身体を慣らした後にバランスボールによる体幹トレーニング。

 そして体力を高めるルームランナーでのインターバル走、筋力増加のパンプアップ等コースを分けながら行っていった。


 その結果剣の心は、肉体の強化に合わせて想定以上の成長を見せたのだ。


「これも槍ちゃん達のお陰だよ。改めて礼を言うぜ」


「これは剣自身が身につけた力だ、もっと誇りに持て。それに礼はG-1グランプリで優勝してから言いなよ」


「へへ、違ぇねぇ!!」

 剣と槍一郎は笑いながらまた個室を後にした。



 ◇◇◇


「ところで、みのり達の調子はどうだ?槍ちゃん」


「剣に負けず劣らずの成果を出してるよ。

 レミは集中力があるから速攻で決着を付ける技術も付けたし、豪樹さんは独自で新しい技の特訓もしてる」



 槍一郎は剣にみのり達のステータスデータを見せた。



 特訓前のデータを比較してみると皆バランス良くステータスが上がっているのが分かる。


「へぇ……レミの奴、パズル以外でも良い成果出てるじゃん!集中力なんか更にアップしてるぜ」


「確かにそうなんだが、気になるのはみのりちゃんの方だ」

「みのりの……?」


 槍一郎はみのりのデータを指し示した。

 安定したステータスグラフに一際突き刺すようなジャンルが大きく目立っている。


「良く見てみろ。『ハート』の部分だけ、桁外れにを取ってる。

 しかもオールスターズの中でダントツトップだ!!」


『ハート』のステータスは集中や精神力を表している。


 そしてこれを見た剣は考え込んだ。


 他のメンバーと比べて、経験も技術も平均点な彼女だが、ただ一つ誰よりも長けているのは……である事。


 そしてゲームをこよなく愛し、ありのままに楽しんでいるのもみのりである。


 そのピュアな感情こそが、剣や槍一郎のような強いプレイヤーとは違った『強さ』の元になっているのでは……と剣は感じた。


「……槍ちゃん、みのりの事はG-1グランプリの後もゆっくり様子を見ていこう。

 今は普通だが、後々大成するタイプかもしれないぞ――?」


「……そうだな剣、ここで焦ることでも無いだろう。見守るのもチームの役目だ」


「そういうこと!!」


「―――剣く~ん!!!」


 施設の遠方からみのりの呼ぶ声が聞こえた。そして剣の方へ向かっていく、レミや豪樹も一緒だ。


「槍君と何か話してたの?剣君」

 みのりは無邪気な顔しながら、察しの良い質問を剣にしてきた。


「いや?みのりも皆も強くなったなって褒めあってた話!」

 あながち間違ってない答えである。


「そうなのよー!豪樹さんのお陰で新しい戦法も出来たし!!」


 レミも成長を実感したようだった。以前まで豪樹にビビっていたレミがあっという間に親しんでいた。


「レミちゃんも素直なえぇ子やからな!指導のしがいがあったっちゅーもんや!!」


「私も、ちょっとは強くなれたのかな?皆よりはまだ弱いけど……」


 剣はみのりが自分に実感が湧いていないことを気づいた。


「俺的には、みのりに『強い』とか『弱い』っていう言葉は似合わないかもしれないな……

 何というか、ってのが一番合う気がするんだ」


「優しい……?」


「今ははっきり言えないけど、強いだけがプレイヤーじゃないことは俺にも分かる。

 俺は誰にでも優しく出来るみのりの純粋な心が、オールスターズに必要じゃないかって思うんだが……どうかな?」


(優しさか………)


 みのりの心のなかにはまだモヤモヤがあったが、何か筋のようなものは伝わった。


「………そうね!私にも私だけの力があるのなら、『優しさ』で頑張ってみるわ!!」


「そうや!優しさもプレイヤーの力になるんやでみのりちゃん!!」

 豪樹も横から賛同する。


「―――どうやら、皆それぞれの力は得たみたいだね。

 それじゃ、次の段階に入ろう!!!」


 槍一郎がメンバーに発破をかけた。


「ゲームワールドに入って、各自様々なゲームをやって感覚を掴むんだ。そしてもう1つ……!!

『ブラックヘロン』のを掴むぞ!!!!」


 槍一郎の一言にオールスターズ全員の顔色が変わった。

 テロリストプレイヤー集団『ブラックヘロン』に近づく事に二つの感情が出てきた。


 ――『不安』と『怒り』が……

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