第46話~宣戦布告!!~

 ―――オールスターズは早速ゲームワールドへ赴き各エリアでブラックヘロンのメンバーの出所を探すことにした。


 レースゲームの未来都市からパズルゲームの工場まで隅から隅まで探すなか、

 剣とみのりは眩く黄金に輝く賭博場、【ゴールドラッシュ・カジノ】へ向かっていた。


「――何か眩しすぎて目が痛い……私達があまり来ちゃいけない気がするわ、剣君」


「俺だって来たくないんだが……ここならあのテロリスト共のメンバーが来るんじゃないかなって思ったんだ」


 プレイヤーの欲を貪り食らう黄金の賭博エリア、【ゴールドラッシュ・カジノ―GOLDRUSH CASINO―】!!


 ここに来たら最期、億万長者への架け橋か破産への崖となるか、全てはプレイヤー達の運のみぞ知る命懸けのカジノ!!

 中には裏社会のマフィア等の取引に使われる噂もあるんだとか……


 ◇◇◇


 ――剣達が向かったのは、カジノの『イージーエリア』。


 ここでは自己破産するほどの賭けに歯止めをかけられ、パチンコの景品のような対価交換で抑えられているため、16歳以上で入ることが出来る。剣達もセーフラインだ。


 因みに本場の『ジャックポットエリア』は18歳以上は入場お断りなのだ。


 ――剣は周りのゲームの様子を見渡しながら、休憩所でみのりとジュースを飲んでいた。



「……あの『ジャックポットエリア』はゲームワールドの中でもセキュリティを厳重にしてるから、アイツらも変な真似はしないと思うんだが……」


「それで用心のために、近くのイージーエリアで様子を伺うって事ね」


 剣とみのりの周りには、パチンコ台やメダルゲーム等に戯れる年配プレイヤー達が多く見られている。


 それに異端を放っていたのは、テーブルゲーム・トランプでのエリア。


  そこに数人黒に鳥のような刺繍のTシャツを着た男達が【ポーカー】をプレイし座っていた。


 みのりはそのプレイヤーのプレイの一部始終を見て違和感を感じていた。


「―――ねぇ剣君。あの男達、何か違和感無かった?」

「……みのりも気づいたか。俺もだ」


 特に重視すべきはディーラー(トランプを配る人)の方だった。

 ディーラーらしくリフルシャッフルをやる分には普通だが、問題はカードを配るときだけ指先の動きが明らかにおかしかった。


 そして黒いTシャツの男達に配られたカードはストレート、4カードと高い役で勝ち続けた。


「――ちくしょう!また負けた!!」

 無関係の同席したプレイヤーは余裕を無くしたように退散した。


「へへへ……ちょろいカモだったな」


「あーゆーカモがバカな程、ネギしょってくるもんだ。

 ここのカジノは我々『』の縄張りになってることも知らないで――!」


(―――!!!!)


 剣とみのりは黒いTシャツ男達が『ブラックヘロン』の一員である事に気づいた。


「バカはお前らだ。公共の面前で『ブラックヘロン』の言葉を使うなと言っただろう」


 話したディーラーまでも組織の事を知っていた。つまりこの連中、グルになってプレイヤー達を搾り取っていたのだ。


「でも兄ちゃんこそ公式のディーラーを偽ってブラックヘロンに入っておきながら、あのジャックポットエリアを占領出来てねぇじゃねぇか」

 一員がディーラーにちょっかいを出す。


「それほどあそこは手堅いって事だ。だがいずれは制して我が組織の資金と化すればゲームワールドを手中に納めるのも夢じゃない事だ!」


「あのG-1グランプリも組織のリーダー達が仕留めれば俺達の天下だしな!ククク……!!」


「ゲームは勝つことが全てだ!!どんな手を使ってもだ。ルールだとか規則に従う愚かなプレイヤー共をブラックヘロン我が組織が服従してやるんだ!!!!」


 一員達の会話をじっくり聞いていた剣にはもう我慢の限界が来ていた。


「あの野郎……ッッ!!」


「剣君、なにする気なの!?」

「なに、ちょいとゲームだ。みのりは用意しといて」


「…………分かったわ」

 そう言うと剣はブラックヘロンのいるテーブルコーナーへ向かった。



 いよいよ、急接近だ――!!


「いやぁ~皆さん!楽しそうですね、ちょっと僕にも混ぜてくれませんか?」

 剣は無邪気そうな顔と口調で近づいた。柄にも無い感じ。


(来たぞ、次のカモだ。切り替えろ)


 一員とディーラーは無言で相槌を打つ。


「どうぞどうぞ!丁度席も1つ空いてますので…」


「そんじゃお言葉に甘えて……」

 剣はそう言いながらテーブルに相席に座った。



【ポーカー】ではゲームを開始する前に賭けるチップを出す『ビット』を行う。


 そして同時にディーラーがトランプを持ち、リフルシャッフルを行い、全員にカード5枚を配り終える。


 別名『ショットガン・シャッフル』と言われるリフルシャッフルは強引に折り曲げたりデッキに割り込んだりするため、急速にカードを痛める粗暴なシャッフルとされている。


 カード1枚1枚を大切に扱う剣にとって、この手のシャッフルは大が付くほど嫌いであった。


 剣はディーラーによって粗雑に扱われるカードを見て、一言呟いた。


「…………へっ、しかしまぁ下手っぴなシャッフルだったねぇ~!

 近所のおばちゃんの方が手先良いぜこりゃ、ひでぇや!!」


 当然、剣お得意の皮肉に一員やディーラー含めて良い思いはしなかった。

 そこでプレイヤーに装う一員の一人がフォローをする。


「いや、すまなかったな。何でもこのディーラー手に持ってるから手先が覚束ないんだ。

 ――まぁシャッフルなんてカードが混ざればなんてことないだろう?」


「……そう。そのシャッフルの事も特に気に入らないね」


「何―――うぁ!?」

 剣は少し笑みを浮かべながらディーラーの手元をぐいっと掴んだ。


「何が神経痛だよ。汚ねぇ事に器用な良い手してるじゃねぇか、さっきのプレイ拝見してみたがひでぇもんだったぜ。

 ―――素人が見れば平凡なプレイに見えるかも知れないが、俺から言わせてみれば人の財布に小細工するみたいなカード回ししてるようじゃないか」


「き、巾着切りだと!?」


 巾着切りとはの別の呼び名の事。

 そしてその一言にディーラーも内心図星に突いていた。


「だってそうだろ?例えば一番上のカードを配っていると見せかけて2、或いはのカードを、その場に応じて配るディール捌きにも気に食わなかった!

 イカサマで良く使われる狡い手だぜ。

 ―――まるでプレイヤーとディーラーがグルになってカモを陥れるような、品も格もないやり方だって言いたいんだよ!!」


(こ、この野郎め……!!!)

 ディーラーも唇を噛みしめ怒りに耐えていた。


(このクソガキが、こうなったら思う存分搾り取ってやる!!全員ビットを最大値まで上げろ!!!)

 組織一員とディーラー全員に合図を送った。



 一員一同で賭けチップを競りあげる『レイズ』で最大値10000円相当のチップでMAXにビット。


 剣を除いて定員は6名、仮に剣が破れれば最大6万は支払わなければいけなくなる。


 そしてそれに繋がるように全員同じ額でビットを繋げる。そして剣もMAXでビット。


 誰も競り合いに降りる事は無く、他のプレイヤーと同じチップ額を賭けた後ゲームを続行する『コール』をした。


 そして、肝心の手札交換――!!

 各自1,2枚ほど交換していくなか、剣は1枚も交換しなかった。


「……俺はこのままでいいぜ」


 そして次の一員プレイヤーが一変して手札を全部交換した時、剣の目が変わった。


(素人が、我々『ブラックヘロン』に楯突くなど百年早いんだよ……!!地獄へ落ちな!!!)


 手札をディーラーに交換し、ある程度シャッフルした後にカードを渡そうとした瞬間、ディーラーの裾に光るものを剣は見逃さなかった―――!!!


(――来たこの一瞬ッ!待ってたぜ!!!!)


 そう思うと剣はカードを渡す前に、ビットしたチップ1枚をディーラーの裾目掛けて投げた。



 ――――ビシィィッッ!!!!


「ぐぁ――ッッ!!!?」


 この展開、覚えているだろうか?


 以前に剣がチンピラ集団、『伊火様いかさま』とのトランプ・スピード勝負でイカサマを見破ったあの瞬間を―――!!



 するとディーラーの右腕の裾から、5枚のカードがこぼれ落ちた。

 ♠️の10、JジャックQクイーンKキング、そしてAエース


 最強のポーカー・ハンド『ロイヤルストレートフラッシュ』の役がボロを出した。



「……やっぱり巾着切りじゃねぇか」

 剣は勝ち誇った顔で捨て台詞を呟いた。


 その様子に駆けつけた他のプレイヤー達はその一部始終を見ていた。イカサマの様子はもう既に皆の脳裏に焼き付いた。


「あわわわ、ヤバいですよディーラーの兄貴……!!!」

 一員達がオロオロと慌てふためいた。


「―――コイツらが皆ブラックヘロンの手先って分かった以上!ここで長居する必要はこれっぽっちもねーな!!俺は降りるぜ」


 剣の故意的な3割増しの大きい声に、観衆のプレイヤー達が騒ぎ立てた。


「ふざけるな!!!大した証拠も出さないままで帰されてたまるかッ!!!!」

 ディーラーが抵抗の如く無罪を主張するなか、みのりが現れた。


「じゃ、この証拠はどうですか!?」


 みのりが見せたのはプレイギアに先程のプレイをディーラーの手先と裾の隠しカードを録画した動画だった。

 これを管理者に渡せば、確実な証拠となる。


 (―――!?!??)


 一員とディーラーはもう隠す隔ては無かった。


『みのりは用意しといて』


 剣がみのりに言ったのはこの事。

 みのりは気付かれずに、遠くからこのイカサマを録っていたのだった。


「クソォォォォォォ!!かくなる上は……このクソガキ共を始末しろてめぇらァァァァァァァ!!!!」


 ぶちギレたディーラーの声と共にブラックヘロンの一員が剣に殴りかかる――が。



 ――バキッ!ドスッ!!グチャ!!!チーン☆


 体力強化を兼ねて筋トレをしていた剣には痛くも痒くも無かった。金的攻撃のおまけ付き。


 ゲームだけでなく喧嘩にも強くなったようだ。


 中にはカモにされていたプレイヤーも混じって一員をボコボコにした。相当頭に来ていたようだった。



 そしてゲームを中断した剣のポーカーの札が、喧嘩と共に風圧で吹き飛んだ。



 その役は……正真正銘♠️のロイヤルストレートフラッシュだった―――!!



 ◇◇◇


 ―――しばらくして、喧嘩も収まりカジノ内にはブラックヘロンの一員とディーラーが山のように気絶して倒れていた。


「――剣君!違反通報しといたよ!!」


「おう!ご苦労様。お手柄だったぜみのり!」


「……でもこれでブラックヘロンの事が分かれば良いのにね」


 そう、この騒動は剣達にとっては組織に対するに過ぎないのだ。


「その分アイツら狙われやすくなったけどな。―――そうだ、それならいっそ……!」


 剣は束に倒れた一員とディーラーの山を写真に撮り、その写真にある字を書いた。


「何やってるの?剣君」


 ――ピリリリリ……

 その時みのりのプレイギアに着信メールが届いた。


 そこにはさっき剣が撮った写真に、フォトペイントで書き足したような字も加えた画像が送られていた。

 写真に書かれた字は――



 ≪『剣の魂』の名において、組織『BLACK《ブラック》 HERON《ヘロン》』を叩き潰す!!≫



「それ、管理者とWGCの角田さん達に贈っといて」


「剣君……!!」


 敵を殴り倒して真っ赤に腫れ上がった握り拳を、また強く握りしめていく剣。

 その内側に秘めた怒りは当然収まり切る筈は無い。


 この憤りを晴らす方法はただ一つ。

 G-1グランプリ予選で『ブラックヘロン』を全滅させる他は無い。


 ブラックヘロンの残骸山に親指を地獄に向かって逆落とすように向け、腹の底から言い放った。




「―――俺達プレイヤーを……ナメるなよ!!!!!!」



 第2章『G-1グランプリ予選編』へつづく。

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