第8話~強者に睨まれた桐山剣〜
「――全く、この前は大変だったわ!」
……ありゃりゃ? みのりさんってば、開始早々の憤慨。つまりはふくれっ面して怒ってますね。
前回の話を思い出して、はは~んとしたらば、私がご説明を。
電脳異世界・ゲームワールドオンラインにて、みのりとゲーセンで出会った高校生・桐山剣と、不良グループ『
戦い終えてみのりは改めて、桐山剣と友達になろうとしたのですが……
『俺は友達なんて、要らないから』
と、孤高のロンリーウルフかコミュ障か。何ら訳ありな事情持ちの剣は只一人、ゲームワールドから地上へと帰還転送した。
『剣くん、確か私と同じ学校って言ってたよね。今度また捜して、とっちめてやる!!』
だがこれしきの事で友達になることを諦めないのがみのりちゃん。剣と同じ高校の服装である彼女は、今度は学校にて再度のリベンジを目指す事になったのですが……ここでもう一つ問題が発生した。
『あれ? 私、どうやって帰ればいいの??』
ゲームワールドへ連れて行った剣が勝手に一人で帰っちゃったものだから、帰還方法が分からないみのりは途方に暮れる。彼女は慌ててふためきながら、何とかゲームワールドを管理しているスタッフに帰還転送を教えてもらい、無事に元の世界に帰れた。途中見知らぬプレイヤーにナンパされて大変だったとか。
「でも楽しかったなぁ、ゲームワールド。――何であんな面白いこと、お母さんも他の皆も教えてくれなかったんだろう?」
みのりは今日に至るまで、ゲームワールドの存在を一切知らなかった。
ゲームワールドオンライン誕生から五十数年の年月が経つ現在にて、地上の人々の殆どがその存在を知るまでに至った近未来の時代。
その間に彼女が15年もこのVRMMOの存在を知らなかった。何か訳がありそうです。
学校行ったらそれなりにゲームワールドの話題が出そうなものだったが、何せみのりは高校入学の時に関東から引っ越したものだから、当然みのりを知ってる人は誰もいない。
それ以前にろくに友達も出来ず、近くのゲーセンやテレビゲームで満足したのだから、彼女自身がゲームワールドは眼中に無かったようだった。
そんな彼女が初めて、ゲームワールドオンラインの地に降り立ち発した歓喜の叫び。それはまさしく、テレビゲームの中では味わえない快感が心の中に呼び醒ましたのでしょう。
◇◇◇
―――そして日が変わってここは『
休み時間の合間、みのりは剣が何処にいるのか担当の先生に聞いてみた。
「え、桐山? あぁ確か2組の生徒だったな」
みのりは1組。隣の教室に剣がいたのだ。縁が無ければ本人が身近に居ても分からない。不思議な関係であります。
先生の助言を聞いたみのりは、早速に隣の2組の教室に向かえば、既視感の記憶を頼りにお目当ての男を見つけ出した。
「あっ! 剣くん!!」
自分の席に座り窓側を眺めて黄昏れるウルフカットの華奢な制服、そして死にかけた眼。間違いなく桐山剣だった。
「あ? ……なんや、お前か。俺と同じ高校だったんか」
「あのね、それが再会した女子に言う言葉? 私あの後
「……あ、いっけね! そっかお前連れて帰るのすっかり忘れてたわ!! 堪忍な」
なんという軽率な対応なんでしょうね! 右手だけ出して平謝りとは、ジェントルメンの風上にも置けない。
「ひっど~い! もうこうなったら意地でも私と友達になってもらうからね!!」
「はぁ? それとこれとは話は別や!!」
友達になることを頑なに拒む剣。自分の席から飛び出して、みのりを払い除ける。
「あっ、ちょっと待って! 剣くん!!」
2組の教室を出ようとする剣に、出口を塞ぐかのようにガタイの大きい学ラン男子が、その行く手を阻んだ。
「やぁ、君が桐山剣君だね?」
「……何なんすか?」
「俺はeスポーツ部の部長をやってる3年4組の
「は、はぁ……」
ゲームが世界を織りなす時代となった今、高校では正式、かつ一般的なスポーツとして格上げされたeスポーツ。
ここ天童学苑高等学校では、数十年前からFPS(ファーストパーソン・シューティング)を中心としたeスポーツの強豪ゲームチームとして名高い学校として有名だ。
(高木先輩……背が高すぎて顔見えない)
そんな歴史ある強豪チームのキャプテンである高木、ゲームというよりもバスケでもやりそうな程の長身。190センチの身体が剣をも包み込んだ。
改めて外に出て、ようやく剣とみのりにも高木の顔が見えた。スポーツ角刈りのゴツめな男であった。
「桐山君、この前ゲームワールドで『伊火様』って街のクズの親玉を懲らしめたって本当かい?」
「……えぇ、運悪くゲーセンで会っちゃってギャーギャー文句言ってたから、つい正義感に押されちゃって」
等と動機などをオブラートで包みながらさり気なく誤魔化す剣、でしたが。
「だが、君の瞬発力は明らかに凡人とはかけ離れている。ジョーカーカードをサンドイッチするかのようにフィニッシュを仕掛ける技など到底あり得ない」
高木の言動はまさに、ゲームワールドにて剣と服部とのスピード勝負に挑んだ様子を、偶然発見して興味に惹かれたような言い方であった。
「あんな常人離れな瞬発力を魅せられちゃ、俺もFPSの代表を背負うホープとして黙ってはいられない。君がカードならば、こっちは拳銃だ」
「……何が言いたいんすか、先輩」
「ひた隠さなくても分かってるんだよ。桐山君があの最強ゲームチーム『シャッフル騎士団』のキャプテン、
高木の物凄い威圧から放つは不気味な笑み。これにはニヒルが売りの剣をもたじろぐ。
それよりも剣が、五十数年の歴史に刻まれるゲーム戦士の孫とは。またしても謎が謎を呼ぶ好奇心の迷路。
「か、叶う訳無いでしょ。凡人と秀才じゃ……」
「俺に勝てば、天童高校No.1のゲーム戦士になれるんだぞ?」
その時、No.1のゲーム戦士になれると聞いた剣の眉間がぴくっと反応した。
「今日の放課後、eスポーツ部の部室に来てくれるかな?」
「………………はい、御望ならば……!!」
先輩の面前、礼儀を弁える上でどうしても謙遜せざるを得ないこの状況。
既に桐山剣の身体には、“身震い”とも言うべき好奇に満ちた闘争心が全身に駆け巡る。そして顔は、強者を打ち潰すという欲によって創られた鬼の形相が無意識の中で剣の感情を物語った。
「交渉成立だね。じゃ、楽しみにしてるよ……!」
と台詞を吐きつつ、高木も教室の前から去っていった。
(私の入る余地なんか全く無かったわ……)
完全にヒロインが蚊帳の外。強者同士のせめぎ合いに女は無用か、みのりは剣の横で複雑気分。
◇◇◇
――ゲームに勤しむ者にとって、最も退屈な学業の時間も終えて、下校のチャイムが高校内に鳴り響く。
約束通り、高木が招待したeスポーツ部の部室へと誘われる桐山剣。その後ろでこそこそと隠密行動をしてるのは……何してるんですかみのりさん!
「しーっ! 今剣くんの見張りしてるんだから静かに!」
静かにって、ここは校舎の別棟ですから否が応でも静かにしますよ。そーゆーみのりさんこそ怪しまれるんじゃないですか?
「大丈夫。ステルスアクションは慣れてるから!」
メタル◯アやってる訳じゃないんですから! あ、剣さんが部室に入ってきましたよ。
「どれどれ……?」
みのりが反対側の窓から顔を除けば、教室には無数のゲーミングモニターとゲーミングチェアが立ち並ぶ対称型のオフィス状態と化していた。
この別棟に建てられた教室は、元はパソコン教室に使われた形跡も垣間見られている。IT技術の急激な発展から、ゲーム特化の部室に変わってから数十年の歴史の変化がそこにはある。そんな部室に、桐山剣が踏み入れた。
「失礼しまーすっと……」
「………おぉ、君は確か……」
「すみません掃除中に。1年2組の桐山です。高木先輩が是非遊びに来いって、来ちゃいました」
「高木が……? まぁ別に構わんが……」
部室には、薄いジャージ姿で丁寧にゲーミングモニターを掃除する顧問らしき男が一人。eスポーツ部を指導する46歳、南澤先生兼監督だ。
「……南澤先生が部室掃除してるんですか?」
「他にやることがないからな。他の部員は『ウォーミングアップ』と言いながらゲーセンでサボってるし、私には高木に教えることは何もないからね……」
顧問一人が部室を清掃し、肝心の部員が誰一人も手伝わず離席している様相を見兼ねたか、桐山剣はウェットシートを使って、残りのゲーミングモニターの画面を拭く。
「あぁ、君まで掃除しなくてもえぇよ! 大事な客人なのに」
「気にせんといて下さい。モニター掃除なんか日常茶飯ですし、慣れたもんですよ」
「……君も、ゲームを良くやるのかい?」
「いや、その……お祖父ちゃんのパソコン! 御駄賃稼ぎにモニターを、ね」
剣らしからぬ、しどろもどろとした答えに優しい嘘が見えていた。だが南澤先生には、彼なりの不器用な優しさは伝わっていた。
「……えぇ奴やな、桐山は。うちの部活にも欲しいくらいだ」
「うちはアカンすよ。協調性無いし堅苦しいの嫌いやし。……昔はどんな感じだったんすか、eスポーツ部」
ホワイトボードから反対の壁側には、過去にeスポーツ大会で優勝して飾られたトロフィー・表彰状のショーケース。そして古びた写真立てが壁にずらりと飾られている。
「私が高校生として、入部したのはもう30年も前の話さ。まだ高校がゲームに疎い時期にeスポーツを立ち上げた時なんか大変だったよ。ゲーミングチェアが無いから寄りかかりづらいオフィスチェア、サーバーもゲーム用じゃないから画面がクッソ重くてねぇ!」
ありゃ、南澤先生てばゲームの話になるとフランクになっちゃいましたよ!
「何とかサーバーとかは、学費と大会の賞金で揃ったんだが、差し入れで持ってきたエナジードリンクをサーバーやキーボードに零した奴が居てね。2、30万があっという間にパーになって、全部員一斉にフルボッコにされたっけなぁ」
「えぇ〜〜〜!!?」
思い出ゲーム話に花が咲き、和気藹々と笑い合う先生と剣。そんな様相を影で覗くみのりも嬉しそうだ。
「剣くん、楽しそう……! ―――――あ!!」
だが、そんな平和な一時も部室の扉をガラッと開いて、現れた男の登場によって打ち砕かれた。
「…………おじゃましてまーす、高木先輩☆」
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