第7話~切り札はエース~
(切り札……? それにあの人の手先も……)
2度目のスピードコールを、今にも詠唱しようとする時、山札を取る手とは異なった不審な服部の右手の動きに、みのりは何か嫌な予感を感じていた。
「「せーのッッ!!」」
―――『スピード』ッッ!!!!
服部は大きくカードを振りかぶった。
その隙に剣はズボンのポケットに持っていた100円玉を服部の手元目掛けて投げ、ビシィッと弾く音を立てて出鼻を挫かせた。
「がっ……!??」
その反動で服部に手元の裾に隠していたカードが、地面に1枚ヒラリと落ちる。
「なっ、何しやがる!!」
「何しやがるじゃねぇよ、てめーの足元に落ちてるそのジョーカーはなんだァ――!?」
いつの間にか剣は服部のフィールドに入り込んで、足に落ちたカードを拾っては、青筋を立てて声を低くして答えた。
そのカードは正しく、愚者を嘲笑うピエロの絵が書かれたジョーカーカード。
(ジョーカー!? 確かルールじゃ抜かしてプレイするんだったような…?)
みのりちゃんの仰る通り! スピードの公式ルールでは、ジョーカーカードを除いた52枚のカードでスピードを行う。
スピードコールからカードを拾うタイミングで、服部の学ランの裾から滑り込むように自分の手元に渡るといった、あたかも実際に手に渡ったカードと見せかけた巧妙なイカサマ。不良軍団・伊火様の名に相応しい不正行為だ!
「……オイオイ、大丈夫かぁ? この柄からしてお前が渡したトランプじゃねぇか! まさかボケてジョーカー抜き忘れてたとか言うんじゃねぇよな? 俺様しらねーぞ!?」
「いや、俺はちゃんとジョーカーは2枚抜いてやってるぜ。新品の奴はババ2枚同封だからな。それに不利になってきたら、ズルしてでも勝ちそうな性根持ってそうなお前の事や。不正フィルター掛けんで不正の決定的瞬間を捉えたかったんや!」
剣はそれを証拠に、胸ポケットから2枚のジョーカーカードを証明する。
剣がシャッフルの際に服部に目を光らせたのは、服部がカードを切る際に、裾からカードらしき札が僅かに見えていたから。その為に不正執行の瞬間を見極める為に黙っていた。しかしそれでも往生際悪く粘るは服部。
「冗談じゃねぇっ! この絵柄、プレイヤー・バザールのP−ストアで購入したトランプと同じじゃねぇか。俺様のじゃないって言えるん……」
「言えるねッッ!!!!」
剣がキレた口上で話を遮り、先程証明の為に持っていたジョーカーと、零れ落ちた服部のジョーカーを比べてみれば一目瞭然。
「お前の持ってるジョーカーは傷だらけだ。――てめーみたいにカードを粗末に扱ってりゃ、痛んだり傷付くのは当たり前。
幾らゲームワールドで買った同じトランプでも、イカサマで散々使い古したカードに、新品相手じゃボロが出るのに気が付かなかったか!?」
「!!!?!?」
誤算だった、というよりは詰めが甘かった。
トランプを嗜むプレイヤーにとって、対戦する際は細工もイカサマも無い未開封トランプで挑むのがセオリーとされている。
更にシャッフルの様子から見て、カードを傷付けずデリケートに切っていた剣に対し、服部は乱暴かつ粗雑な切り方で早くもカードが傷んでいた。
これらの証拠から既に、仕組んでいたイカサマジョーカーの存在もいち早く剣は察していたのだ。はいそれまでよ。不正にチェックメイト。
「図星やな。お前がメダルやら何やら連勝したのはマグレじゃないって事はよう分かったよ……」
「ッ……!!」
「不正なんざ実力でも何でもない。今この時点で俺の前に立ってるのは一人の【ゲーム
「黙れ貴様ァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
イカサマを見破られ、ここまで煽られた事のなかった服部の理性がブチキレた。
「剣くん、もうやめましょうこんなゲーム! あの人達が不正したのが分かってこれ以上続けることないわ!!」
「なに言うとんねんな、寧ろ好都合や。久々に楽しませてくれる!!」
「―――剣くん!?」
みのりの静止を聞かぬどころか、恍惚に燃える桐山剣。そんな彼は何を考えたか、自分の持ってたジョーカーカード2枚を服部に遠方から渡した。
「………どぉぉぉいう事だ??」
「ハンデをくれてやる。そのジョーカー2枚もプラスして俺に勝ってみろ! そしたら存分にお前に忠誠誓ってやらぁ。だがお前が負けたら、不正した分割り増しでペナルティ喰らわせてやる……!!」
剣の瞳孔が開いた視線、不正行為上等の構えでこの不利を楽しんでいるように見えた。
立ち塞がる敵を徹底的に潰す、真の強者の眼だ………!!!!
「……さぁ来いよイカサマ野郎!!
――――相手になってやるぜッッ!!!」
コォォォオオオオオオ……!!
剣がカードを掴んでいる右手に迸る覇気を感じる。その覇気は、騎士が剣の鞘を握りしめるが如く、真剣にその命に託す戦士の魂か――!?
「……ケッ、上等だ。このハンデに後悔するなよ、キザ野郎がッッ!!!!」
服部は使おうとしていたジョーカーを躊躇いなく使う。次の瞬間ッ―――!!
「使わせっかッッ!!!」
手札から消費していく連カード、♤️5、6、♧️7、8! 場札で連番になっていた4枚をジョーカーが置かれて直ぐに順番に置かれ、そして手札からの補充で片方の捨て山に消費。
一気に剣がリード、服部のペースを崩れさせていく!
―――いや、それだけでは無かった。
「気のせいかしら。現実のブロック崩しもそうだったけど、ただゲームしているだけなのに、武器も持たない素手で戦っているのに……剣くんの動きそのものが『騎士』のよう!!
――戦場を果敢に駆ける、円卓の騎士に見える……!!!」
素人が見ても、メタバースの世界で普通にゲームをしている風景にしか見えないだろう。
しかしみのりのようにゲームが好きな心を持つ者は、一変してゲームの雰囲気が戰場へと変わると言われているらしい。……おっと! そんな事言ってる場合じゃない。ゲームはいよいよクライマックスだ!
剣の手札は残り2枚、対する服部も残り2枚! 服部の持つ最後のカードは全てジョーカー!!
「お前のジョーカーが仇になったなぁぁぁ!」
最後のジョーカーが入る前に、服部が使った一枚目のジョーカーの捨て札山に剣の残した♤️2が入った! しかし服部のフィニッシュはあとわずか!!
「これで終わりだ、くたばれッ!! 剣ィィィィィィィィッッ!!!!」
服部が完全に勝ちを確信した、その刹那!!!
「いや、終わりなのはてめーだ」
「……あ゛ぁ!!!???」
「最後に一つ教えてやるぜ。カード1枚、ボタン1プッシュ、ダイス一振りだって、ゲームに全力を尽くすプレイヤーにはそれぞれの【魂】が宿ってる。
それはテメー自身の力にして、不可能を超える力! そしてそれを信じ抜き、最後まで諦めない奴だけが……必ず勝利へと導いてくれる!!
―――それこそが、ゲームに勝利をもたらす≪切り札≫って奴だぜ!!!!」
剣の場札、ラストカードは―――SPADE♤️・ACE!!
服部のジョーカーよりも速く、光速でゲームを集結させるエースカードが飛ぶッ! ラストアクションに相応しき剣のカードを振るうその様は、
――――――SLASH!!!
暴君の身を打ち払う刃、騎士が敵の鎧ごと斬り裂く横一文字の一撃にもさも似たり!!!
『ゲーム・セット!!』
フィニッシュのコールがフィールド全体に木霊する。
剣から見て右の捨て山札、一番上に服部のジョーカー。
その下に『SPADE♤️・ACE』!!!!!
『桐山剣、WIN!!』
勝利は桐山剣、近未来の騎士にあり!!!
ジョーカー3枚のハンデを越えての白熱とした勝利となった。
「剣くん、本当に勝っちゃった………!!」
「何故だ………ジョーカー3枚掲げてまで、あんなヤツに負けるなんてッッ――!!!」
敗因はそのジョーカーにある。
確かにジョーカーを乗せることで番号や連番関係なしに動かせる。だが剣はそれを利用した。
剣の常人以上の瞬発力でジョーカーを乗せた瞬間を見切り、場札の連番4枚を一気に消費させていく。
その勢いで相手はペースを崩し、差を付けた。
さらにラストの2枚、服部が決めで取っておいたジョーカーの1枚目で剣は♤️2を割り込ませ、さらに♤️ACEでフィニッシュを飾った。
この勝利は紛れもなく、ゲームに本気になって挑む剣の戦術で飾ったものだった…!!
そして失意に堕ちた服部に剣は言った。
「ルールの下で自分の最大限のパワーを出して戦うプレイヤーと、イカサマを使った小賢しいやり方で実力をごまかすプレイヤー。果たしてどちらが『最強』なのか……?
それにお前は、ルールを破ってでも勝つ為のイカサマを俺の
「ふざけんな! 俺様は弱くなんか……!!」
「強い奴も弱い奴も、最初からイカサマなんてしないけどな?」
「…………………」
『違反報告、違反報告、『デュエルフィールド』エリア A-13』
エリアA-13は、剣達のいるフィールドである。そして服部含む『伊火様』のグループに転送依頼が要請されていた。
「オイ、何しやがった!?」
「何って『ペナルティ』だよ、不正行為の。あんたこれだけじゃなくて現実のゲーセンでも不正やって、ブラックリスト載ってるらしいじゃんか?」
ゲームワールドでは不正・違反が発見された場合には管理を経由して相応のペナルティが与えられる。
ひどい場合には2つの世界でゲームを禁止される場合もある。多分服部達はそれに当たるかもしれませんね。
「暫くゲームを取り上げて、どんだけテメーが自惚れてたか反省するんだな!!」
「―――クソォォォォォォォ!! 覚えてろよ剣ィィィ!!! 必ず復讐してやるからなァァァァァァァ!!!!!!!」
小悪党らしい捨て台詞を吐いて、『伊火様』は転送された。ざまぁですね〜!
「お前ごときがマスターオブプレイヤーになれるか。これで暫くは近所も静かになるだろうよ」
「剣くん!!」
遠方からみのりが剣の懐目掛けてガバッとハグっと抱き付いてきた。
「何だよ、まだいたのかお前」
「だから『お前』じゃなくてみ・の・り! 剣くんすっごいカッコ良かったよ!!」
「………そうかい」
これでやっと、みのりもあの言葉が言える。
「あのね剣くん、お願いがあるの。私と友達になって――――」
「やなこった」
「…………え??」
「俺はただ、最強プレイヤーとかゲーム戦士とか、自惚れたあいつらに意地になってただけや。
それに俺は……友達なんて要らないから」
そう言いながら剣はただ一人、元の世界へ帰還転送した。
(………どうして? ゲームをしてた剣くん、あんなに輝いていたじゃない。あんなにカッコ良かったじゃない!!
剣くんに何があったか知らないけど……私、絶対剣くんと友達になるんだからッッ!!!!)
剣が友達を拒む理由が何なのか、この時はまだみのりは知る由が無い。しかしこんなことでみのりは剣との間を絶つことはあり得なかった。
何故ならこの出会いから、ゲームとプレイヤーで繋がる壮絶なゲームサーガ・ゲームウォーリアーの物語が既に始まっていたのだから――!!
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