第10話~桐山家、ご案内~
大阪・浪速区の住宅付近の地域は、人々の交流を活力に笑いが溢れた町。喧しいながらも下町風情と人情味が染み渡っていた。
しかし、そんな暖かな雰囲気を一気に神聖なものに変える連中が現れた。その連中に会った人々は、皆が口を並べてこう語るのだった。
『下手に手ぇ出したら、撃ち殺されるようなヤツが来たでぇ』――――と。
◇◇◇
そんな事などいざ知らず、舞台移り変わってここは浪速区の夕焼け染まる下町の路地。近未来の時勢にも関わらず、ここにも人情味が溢れそうな、瓦の屋根と木造建築の一軒家が。
「―――ここ、剣くんの家なの……?」
これこそ、ゲームウォーリアーの主人公・桐山剣の住む自宅。そして玄関には威厳のありそうな老人が、揉めていた剣とみのりに物申していた。
「剣、家の前でギャーギャー騒ぐんじゃない! 玄関まで筒抜けやないか」
彼こそは、剣の祖父『
「だっておじいちゃん、こいつが俺の家入るとかゆーもんだからさ……」
剣がみのりを指差して言った。すると矛玄はみのりに近付き、物珍しそうな顔で尋ねた。
「君、名前は?」
「え、あ……私、『天童学苑高等学校』1年の河合みのりです! 近くのゲームセンターで剣くんに助けられたんです」
(河合―――?)
その時矛玄は、何か既視感を覚えたような、因果を感じ取ったような苗字に反応した。
「……あの、どうかなされましたか?」
「いやいや何でもないよ。礼儀正しいお嬢ちゃんやないか。何で追い返そうとするんだ、剣?」
「しつこいんだよ! 会った途端に友達になりたいとか言ってきて、ずっと付きまとわれてさ!!」
「なってあげりゃエェやないか! こんなしっかりした子はここにゃ滅多におらんし。……ところで、君のお母さんには門限とか話は付けているのかね?」
「いえ、お母さんは今日も仕事で……夜遅くまで私一人なんです」
「……そうか、なら今日は晩御飯はワシの家で食べていきなさい! 帰りは剣に送ってもらうとエェ」
「本当ですか!?」
「ちょっ、おじいちゃん!? 参ったなぁ……」
祖父による唐突な招待、それも半ば強制的に事を進められては剣も文句をとやかくと言えなかった。
◇◇◇
「さぁさ、遠慮せずに上がんなさい」
「お邪魔しま~す♪」
他人の家にお邪魔するとき、当たり前にあると思っている自分の家と比べて、全く違う世界に見えることがあるだろう。
剣の家は2階建て、そして古い家の独特な匂いがみのりに新鮮さを与えていた。
廊下は至って普通だが、リビングや矛玄の部屋を見てみるとどうだ。何やらゲームに関わった風靡で、棚には豪華な表彰状やら、ゲームの道具みたいなものが所々にあるではないか。
更に周囲を見回せば、ゲームの大会に表彰された際に授与される金色にきめ細やかなエンブレムの彫刻がなされた盾もあった。その盾には【初代G−1グランプリ・浪速シャッフル騎士団】と書かれている。それをみのりは目にし、質問する。
「あ、あの、剣くんのお祖父さん? “シャッフル騎士団”って、お祖父さんが活躍した頃のゲーミングチームなんですか?」
それを聞いた矛玄は、世代のギャップも超えてその名を知ったみのりに驚きつつも、照れくさそうに答えた。
「活躍したというか、もう50年以上も前の話やがな。今のゲームワールドよりゲームが少なくて、規則も緩かったから強いプレイヤーになれただけの話やて」
「そんな事ないですよ! こんなにトロフィーやら盾やら貰うって、強豪校でも出来ないです!」
「煽て上手やなぁ、みのりちゃんは!」
等と謙遜しながらも内心照れ照れの矛玄。女子高生のみのりが尊敬の目で見つめられては、鼻の下を伸ばさずにもいられない助平心も強調される。そんな祖父に呆れながらも、剣が例の『浪速シャッフル騎士団』の事に触れる。
「おじいちゃんは、超次元ゲーム時代が発足する前から浪速区で名のしれたプロゲーマーだったんよ。その強さに惹かれて、近所の仲間をスカウトして創り上げたゲーミングチームが『シャッフル騎士団』や。今でもその仲間を家に連れてOB敬老会やってんだ」
「敬老会は余計や」
それを聞くなり、みのりはヘェ~と頷くばかり。しかし祖父・矛玄の武勇伝はこんなものじゃない。
「んで、おじいちゃんはプロゲーマーであると同時に、ゲームワールドを管理する“WGC 《ワールド・ゲーム・コーポレーション》”を創設した頃からずーっとゲームワールドを管理していた重臣の一人なんだ。
今は現役引退してるけど、時々役員が家に入り込んで相談に乗りに家来たり、ゲームワールドに招待されるってわけ」
「え………え゛えええぇぇぇぇぇ!!??」
プロゲーマー兼VRMMOの管理者。野球選手だって監督兼現役選手に兼任される事など極稀なのに、近未来になると肩書が凄まじい。
そんな彼を祖父に持つ剣、明らかに凡人とは違う血統を持っている事をみのりはこの時悟った。
「おっと! もうこんな時間だ。ワシは飯作るから、剣はみのりちゃんと部屋でゲームでもしてあげなさい」
「あぁ、分かったよ……」
◇◇◇
剣の部屋は2階の小部屋。いかにも現代の高校生らしい部屋だった。勉強机に教科書、そして本棚にはゲーム情報雑誌『G通』や漫画、ゲームの本がびっしり。
そして薄型テレビ、別の机にはパソコンやゲーム機に繋げられたゲーミングモニターとチェア。机の棚にはゲームソフトがずら~っと並んでいた。
(やっぱり剣くん、ゲーム好きって感じ)
みのりはそう思いながら、徐ろに棚の中のゲームソフトに手を出した。
「あ! これ私がやりたかったゲームじゃない!! 剣くんこんなの持ってたんだ」
「………やるか?」
「やりたい!! すっごいやりたい、ねぇ剣くんやらせておねが〜〜い♡♡」
(何でこんな時だけ色気出しとんねん)
剣は少し舌打ちしながら、薄型テレビに据置型ゲーム機のケーブルを繋げて電源を入れる。やりたかったゲームは、数十年前にヒットしたレトロのシューティングゲーム。みのりは意外と昔物に興味を惹かれやすいようだ。
「大丈夫か? そのゲーム古いし結構ムズイで。クリア出来んのか?」
「むっ、バカにしないでよ。私だってやれば出来るんだから!」
ボタン一つでゲームスタート。しかし、みのりの慣れない操作と敵機の素早い動きで早くも撃沈。呆気ない幕切れに剣が横から鼻で笑っていた。
「あははは……今のは軽い準備運動よ。本番はこれからこれから!」
あからさまなごまかしを添えてゲーム再開。2回目は学習能力を駆使してちょっとはマシになってきたが、やっぱしダメ。弾に不意打ちを食らってまた撃沈。
「あ~ん! 難し過ぎる!!」
今どきのゲームとは違って、レトロゲームは容赦ない難易度を突き付けられるものが多い。実力平均点のみのりは、そんなレトロの洗礼を喰らわれた。
「しょうがねぇな……ちょっとゲーム止めな。コツ教えてやっから」
しびれを切らした剣がみのりに駆け寄り、彼女もコントローラーを彼に渡した。
「ええか? お前は敵の動きに驚いちゃって、ちょこまか余計に動かしすぎちゃってるんだ。だから敵にぶつかって失敗する。
ここは持ち場からあまり動かないで、敵に近づきすぎないように弾を撃つ。敵の弾が来たときだけ避ければいいんだ。得点とか気にしないで、進めることだけ考えれば徐々に上手くなるぞ」
これがシューティングゲームの基本。それを剣はちょっとだけプレイしながらみのりに教えた。
「分かった、ありがとう剣くん!」
みのり、再度プレイ! するとどうだろう、さっきまで自分から自滅していったプレイから、高得点とまでいかないが一気に形になっていった。
1面のラスボス。通常よりも激しい敵の攻撃に翻弄され、そのままやられていった。クリアまでは行かなかったが見事な躍進だ。
「あ~惜しい! でも剣くんのお陰でこんなに進めたわ! 嬉しい~♪」
失敗しても楽しそうにプレイするみのりを見て、剣は心情を内に語る。
(あいつ、ホントに楽しそうにゲームしとる。俺もまたあの頃に戻れたら………)
想いに更ける桐山剣。どっこいしょとカントリーな床から身体を起こして立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくる。あとは一人でもプレイ出来るだろ?」
「うん、大丈夫」
みのりはさっきのプレイで疲れたのか、ポーズボタンを押して一旦休憩。コロンと床に寝転んだ。彼女の目先には本棚の上から飾られた2つの写真立て。
(あれは……?)
みのりは写真立てを手に取る。そこに写っていたのは、矛玄ではない剣の両親の写真。
そしてもう片方は、剣を含めた7人の親友らしき人物と撮った写真だった。
「………………」
みのりは時が止まったかのように立ち尽くしていた。
『みのりちゃん! ご飯出来たぞ!!』
「あっ、はーい! ゲームも消さないと」
1階から矛玄の声を聞いたみのりは、夕食に向かうべくゲームとテレビの電源を落とし、剣の自室を後にするのだった。
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