第17話~卓上ゲームの街~
剣とみのりを新たなエリアへ導いた『ゲート』、プレイヤーバザールから西に設置されたその門に書かれてある文字には、こう刻まれている。
≪卓上に描いた遊戯、己が駒となりてボードの世界へ誘わん≫
それが卓上ゲームの専門エリア【テーブルトップ・シティ】への案内看板、キャッチフレーズだ。
「―――私達、ちっちゃくなったのかしら」
「ちゃうな。卓上ゲームの方が大きくなって、それが街になったエリア。それが『テーブルトップ・シティ』だ!」
辺りを見渡せばポーンやナイト、キングといったチェスの駒が巨大なオブジェのように聳え立ち、地面も白黒ゴシックのチェス盤に剣達は立つ。
まるでプレイヤー達がゲームに踊らされているかのように、盤上のゲームの街は
「何かどっかのおとぎ話であったよね、主人公がちっちゃくなって、チェスの世界に迷い混む話」
みのりはゴシックボードの床と、巨大なチェス駒のオブジェをキョロキョロ見渡しながら、うろ覚えな記憶を探っている。
「『鏡の国のアリス』か?」
「そう、それ! 私小さい頃その絵本読んで、初めてチェスの事を知ったの! ――まぁチェスのルールは分かんなかったけどね」
日常におけるゲームとの出会いは、ゲームセンターや家庭用ゲームだけでなく意外な所で遭遇します。
先程話題に出た『鏡の国のアリス』にはチェス、『不思議の国のアリス』にはクリケット、皆さんが読んでいた文学の中にもゲームが存在し、連想されて興味を注ぎ、初めてその存在を知っていく事もあるのです。みのりちゃんも影響を受けたその一人。
「でも俺はどっちかつーと、将棋のが好きだけどな」
下町育ちの剣にとっては、西洋なチェスよりも和製な将棋の方が、剣らしい感じはします。
「そー言えば、チェスと将棋の違いってどんな感じなの? 剣くん」
「ゲーム性は同じだけど、2つとも別物のゲームだぜ。第一、両方とも駒の役割も若干異なるし、チェスには駒によって細かいルールもある。
後は将棋は取った駒を自分のものにして使えるけど、チェスは駒取られたら復活出来ないんだぜ?」
「そうだったんだ!」
『プロモーション』と『成り』、『チェック』と『王手』。
これらの用語も類似しているが若干見方やり方が異なっている。
………なんて剣とみのりで雑談をしている間にチェスのオブジェを通り抜け、またしても変わったものを二人は目の当たりにするのだった。
「あら? この道筋……」
みのりの足元の床には『3マス進む』と書かれたプレートが………いや、ちょい待ち。
一マスだけでなくずらーりと遠くまでマスが繋がっている。まるで双六の道標のような。
「へぇ、面白ーい! ちょっと乗ってみようかな」
「あ! みのり、ちょっ待った!!」
剣はみのりが双六のマスに乗るのを止めようとしたが、時既に遅かった。
「あ、あらららら!?」
マスに乗った瞬間、みのりは自動でマスの指示通りに『3マス進む』。ルールに従って3マス先に止まったプレートには………
「『一回休み』? ――――あれふわぁ?? 何か、ねむたい………zzZ」
一回休みのマスに止まったみのりは急にコテンと寝転がり、マスの上に眠ってしまった。
「あーあ、言わんこっちゃない。その『スゴロクロード』の上に乗ったら自分が駒になって双六しなきゃいけないんだから、面倒なんだよな」
このまま道端で寝ていても征く先々に通るプレイヤー達の邪魔になってしまう。しかし気持ち良さそうに寝ているみのりを剣は、良心的にも無理やり叩き起こす気にはなれなかった。
「仕方ねぇな……」
剣はマスに乗らないように、みのりを起こさないようそっと背中に彼女を背負おうとした……その刹那だ。
――ガクッ!!
「あぶッッ!!?」
何かの拍子で剣は、急に膝を折るようにつまづき、片方の膝を付いた衝動で別のマスに手を置いた。
「あ」
そこに書かれていたマスは………
【―めんどくさいから、どっか好きなゲームへ飛んでっちゃえ!― このエリアのゲームへランダムにワープする】
――――ビシュンッッ!!
みのりを背負ったまま、剣はテーブルトップ・シティの何処かのゲームへ瞬間移動された。
◇◇◇
ワープされた剣は瞑った眼を見開くと……?
「――――――嘘ん」
その光景に現実を疑った。
オセロのような巨大な盤面の正面に、東に、西に。
強面及び極道面した大人達(素肌に入れ墨付き)がルームマッチでギャンブルしていた。
「何や、何処からガキが沸いてきたんや? おぅワレェ!!」
四方八方に注がれるプレイヤーさん達の殺気に、流石の剣も顔面蒼白。
最強を目指す剣の挑戦が、早くも終了の危機に晒された………!!
(――――こんなん、最悪やァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!)
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