第56話~天才とバカは紙一重~

 控え室で様子を見ていたみのりは試合を一段落終えたのを確認し、ほっとしていた。


「はぁ、レミちゃん大丈夫そうで良かったわ。―――そうだ!皆にこの事を伝えないと!!」


 みのりは直ぐ様プレイギアでレミ達メンバーに今の状況を連絡した。


 先に繋がったのは先程試合を終えたレミからだった。インターバル中のレミのプレイギアが鳴り始めた。


「もしもし?―――あ、みのりちゃん!そっちの様子どうだった?」


『聞いてレミちゃん!さっきのゲーム、貴方50人くらいのプレイヤーに集中攻撃されてたの!!』


「ご、50人!!?冗談じゃないわ!ランダムに攻撃が来るんじゃ無かったの!?………まさか」


 ここまで来てようやくレミはブラックヘロンに踊らされていることに気がついた。


『今豪樹さんが管理室で細工されてないか様子を見てるの。だからそれが解るまでレミちゃんはゲームに集中して!』

 みのりも冷静に今後の行動をレミに指示する。


「うん、分かった!!ブラックヘロンなんかあたしがまとめて片付けちゃ―――」


 ――バチィィィィッッ!!!!!


 みのりの耳元から高圧電流のような音が無線先につんざいた。


『……レミちゃん?レミちゃん何があったの!?レミちゃん!!!』


 レミのプレイギアでみのりの叫び声が聞こえるなか、レミは右腕を強く押さえて苦しく悶絶していた。


「……ってのは俺達の事か?小娘」


 右手にスタンガンを持った男が見下す視線でレミを見つめる。ブラックヘロンの刺客の一人、鳩山照雄はとやまてるおだ。



「あんた―――ッッ!!!!」


 レミは苦虫を噛むように鳩山を睨み付ける。


「たかがテトリスで殿堂入りになって浮かれてる所悪いんだが……俺はそーゆーガキが嫌いでね。世の中そんな甘くないって事を、電流コイツで教えてやろう」

 鳩山の冷たい目線には黒い殺意が感じ取れた……


 ◇◇◇


 一方、着信を不意に切られたみのりは。


「どうしよう、もしかしてレミちゃんバレちゃったんじゃ……?」


 オロオロと狼狽えてる最中、またみのりのプレイギアから着信が入り、電話に出た。


「もしもし――?」


『あ、みのりちゃんか?ワイや!』

 連絡相手は豪樹だった。


『今管理室で不審な奴を追ってる!応援が欲しいんや!槍一郎か剣はまだ試合してるか!?』


 みのりは咄嗟に他のブロックのモニターを確認した。

 槍一郎はまだ試合の最中、剣はどうやら試合終了し第3回戦でリタイアしていた。


「今、剣君の試合が終わったみたい!!後で伝えておきます!!」

『おう、頼むで!!』


 そう言うとみのりは着信を切り、剣の帰りを待った。そして直ぐ様剣はやってきた。


「――あ~やっぱりキツかったわ、10人生き残りとか厳しいっつーの」

 剣は納得いかない調子で小言を垂れていた。



「剣君!!ブラックヘロンらしき人を豪樹さんが見つけたって!!早く行ってあげて!!!」


「…………へ!?」


 ◇◇◇


 そして、デュエルフィールド会場。


『幾千のプレイヤーの頂点、No.1を目指すためには決勝の中の100人に入らなければなりません。

 そのための全ブロック融合準備機構!準決勝に進んだ各ブロックのプレイヤー達よ、気を抜くな諦めるな、頂点の道を侮るな!!!』


 シャッフルオールスターズ、準決勝進出は槍一郎とレミの二人。

 決勝ラウンド進出、なるか!?


『……GO!!!』


(―――痛ッ!?)


 『おっとどうしたレミ!?右手を押さえている!試合でのダメージが響いているのか!?』


 新垣実況も心配そうに見守るなか、更に最悪な事にまたしても大勢のプレイヤーに紛れたブラックヘロンに執念深く狙われていた!



(ヤバい……さっきのスタンガンで痺れて右手がほとんど動かない!)


 右手の操作はテトリミノの位置変換のボタンに使われるが、これが不自由に動けないとなると致命傷だが……


 もたついている暇は無いぞ!多勢の猛攻が襲いかかる!!



「……ゲームに現を抜かす愚か者が、ここで!!!」


 ランダムに攻撃される筈のシステムをブラックヘロンが細工したことによって、鳩山はレミにターゲットを絞り、テトリスを仕掛けた!!


 次の瞬間、レミの筐体テーブルから指先に強い電流がほとばしった!!!


 ――バリバリバリバリィッッ!!



「――きゃあああああああああ!!!!!!」


 レミに迸った電撃、それは観る者全てに衝撃が走った。


「感電―――!!?まさか!!!!」

 控え室で待機しているみのり、即座にメンバーに連絡をする。


「――もしもし!?剣君!!急いで工作員を見つけ出して!!

 レミちゃんが感電して苦しんでるの!!!!」


「か、感電だと!!?アイツら!やりやがったな!!!!」


 剣は猛スピードで管理室に向かう。そして向かい側からも急いで走っているパソコンを持った男に剣はぶつかった。


「痛つぅ……危ねぇだろバカヤロォ!!」

 パソコン男は倒れたまま項垂れている。


「――あ、剣!そいつや!!そいつを追っていたんや!!」

 豪樹が後から走り追っていた所で剣と合流した。


「何ぃ!?」

 剣はすぐに立ち上がり倒れているパソコン男を押さえ込んだ。


 そして豪樹が尋問を仕掛ける。


「管理室の所でUSBのキャップが落ちとった。まさかと思うが、そこで細工しかけてたんやないよな…?」


 しかしパソコン男は黙秘する。剣はその際にその男の持ち物がパソコン以外に無いか探った。

 そして豪樹が見つけたキャップとぴったりの黒いUSBが……


「あんたが小細工したなら、直しかたも知ってるはずだよな。――小細工を戻して貰おうか?」


 剣は拳を構えて脅しにかけた。


「お前は僕に脅迫は出来ない」

「……ほぅ、どうして?」


「プレイヤーにはがある。暴力で片付けようなど人としても違反するだろう」


 鼻に付くようなインテリぶった屁理屈。しかし剣には通用はしない。


「……確かにな、俺も学校の先生に良く言われてたわ。

 ―――だが、プレイヤーの自由を奪うてめーら外道の事までは言われてなかったぜ!!!!」


 ――バキッ!!!!!


 剣の怒りの鉄拳が、パソコン男の顔面目掛けて思い切り飛んできた。

 パソコン男は声も出さずに悶絶している。そして剣は直ぐ様男の胸ぐらをつかみ低い声で囁いた。


「さっさと元に戻せ。でないと後ろのおっきいおっさんが骨ごと粉々にするってよ」


 豪樹も悪そうな面で拳を鳴らす。最早パソコン男の血の気はゼロだ。


 ◇◇◇


 一方レミは先程の電撃ダメージで気絶寸前の所で耐えていた。


「な……何なのよさっきのは!?」


「お前のゲームサーバーに少し工夫を施しといた。テトリスでのダメージが電流として椅子やコンピュータに伝わり、お前に直接電撃を食らわせる。

 その威力は蓄積されたダメージ分だけ強くさせるのだ」


 レミの後ろから響いた声はスタンガンを食らわせた男、鳩山照雄だ。


「やっぱりあんたが――!!まさか負けたら命まで貰う考えじゃないでしょうね?」


 しかし鳩山はその先は答えず、ただテトリスを続けている。そしてまたレミに向けて集中攻撃を始めた!


 レミのダメージゲージが蓄積されていく!これが頂点に達すると邪魔テトリミノに変換されダメージが電流に伝わってしまう!!


(ヤバい!!これ以上電流受けたらホントに死にかねないわ!!!)


 レミ、必死で相殺に向かった!!しかし敵の攻撃が強いゆえに微小な電流ダメージがチクチクとレミに襲いかかる!!



 一方、レミや鳩山と同じブロックでは槍一郎も同じく戦っていた。

 試合中プレイヤーがで第三者のテトリスの様子はゲームモニターのサブ画面で見れる。


 それを見ていた槍一郎は察し付いた。


「何だこの集中包囲は!?―――まさかレミか!!よし!!!」


 槍一郎は直ぐ様テトリスを撃ち、プログラム『HOMING《ホーミング》』を発動。

 このプログラムはサブ画面で5ヶ所のプレイヤールームにロックオンして狙い撃ちする遠方攻撃だ!


 レミを攻撃していたプレイヤーに直撃した!!一気に5人リタイア!!!


「もう既にブラックヘロンが何か仕出かしたんだな!――耐えてくれよレミ!!」


 槍一郎はまだレミが狙われている事を知らない。だがこの戦況の異変には流石に疑わざるを得ない、援護を仕掛けた槍一郎だが……


「邪魔が入ってるな――消え失せろ!!!」


 そう言うと鳩山は手元から小型コンピュータを繋げて改造プログラムを作動させる!!


 改造データによって槍一郎のルームにターゲットを絞り、ゲームには存在しないウイルスプログラムを撃ち放った。


 そのプログラムは――【DELETE《デリート》】!!!!


「―――!!?」

 一気に槍一郎の蓄積ダメージがMAXになった!!


 一気に槍一郎のブロックの積み段が天までかけ登った!万事休す!!!!



『おおっと何が起こったのか!?

 1~2段程しかなかった天野槍一郎のテトリミノが一気に掛け上がりリタイアしてしまった!!!!』


 新垣治郎の実況が飛ぶなか、槍一郎自身も何が起きたか分からない状態だった。


(こんな事って……僕はまだ、何も成し遂げて無いんだぞ―――!!!!)


 槍一郎の顔から徐々に悔しさが滲み出ている。


「――――クククククク……!!!」

 そんな中鳩山も不気味な笑いが飛び交った。



「――何が可笑しいのよッ!!」


「……プレイヤーなど消えてしまえば良いんだ。知性も経験も無いバカ共がゲームで勝っただけで社会の英雄気取りにふんぞり返る!

 俺が築き上げた学歴、経験、貢献など何にもゲームの前では何にも役にたたない!!

 ――鬱陶しいんだよこんな世の中ッッ!!!!」


 冷酷クールが第一印象だった鳩山が初めて感情を剥き出し、ぶちギレた。

 それと同時に猛攻がまた激しくなった。


「だが今はどうだ!?我がブラックヘロンの前に政府は何も出来ずにただ突っ立っているだけだ!所詮ゲームバカに本当の天才相手には太刀打ち出来ないんだよ!!」


「そんな事……!!」

 レミは激しさを増す攻撃に抗うのに精一杯だった。しかしその勢いは止まる処か押されている。



「お前みたいな小娘がたかがテトリス殿堂入りしていい気になるなど片腹痛い。

 だがこれで分かっただろう!ガキの玩具で天下取った奴がどれだけ無力かを!!ゲームプレイヤーなど社会に必要ない!!!

 ――バカ共はゲームワールドごと滅び死ねばいいんだッッ!!!!!」



 プチンッ―――!!



 何かの切れる音が聞こえた。

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