第13話~ゲームに轟く銃声~

 ゲームワールドオンラインのシューティング流星群、【シューティング・スターロード】!!


 それは近未来科学技術で構成されたメカと未確認生物が漂うスペースワールド!!

 チャレンジャーに立ち塞がる壁はインベーダーと隕石と、無数に散ったメカの残骸のみ!


(この間のプレイヤーバザールとか、デュエルフィールドとは全く違う。SFチックで不思議な感じ……!)

 みのりも静かな感動に酔いしれてる所ですが、今はそれに浸る場合ではない。


 関東地区でも随一の強者であり、幾多のゲームを制覇する上級国民の証として名付けられた『遊戯貴族』と呼ばれる立海銃司に喰らいついた桐山剣。

 未知のゲームワールドに対する感動よりも、目先の決闘の方が気掛かりだ。


「……で? 何のゲームをやるんだ?」

 剣は銃司に訪ねる。


「多少古風だが、貴様には【ラピッドファイア・スター】をやってもらおう」


 (ラピッドファイア・スター!? それって、私が昨日剣くんの家でやったゲームだわ!!)


 なんという因果か奇遇か、みのりが暇潰しに剣の家でプレイしたゲームを、リアリティ増加のゲームワールドにて行うことになろうとは!


 ★★★


 PLAY GAME No.4

【ラピッドファイア・スター】


 ・ジャンル『シューティングゲーム』

 ・プレイヤーレベル:26


 概要・ルール

 VR空間を作り出す宇宙空間にて、戦闘機の操縦コクピットの中のコントローラーの連射力次第でスコアが大きく変化する縦スクロールタイプのシューティングゲーム。


 約20種類(空中敵・地上敵合わせ)に及ぶ敵キャラクターは、耐久力が高い、幾何学的な軌道を描く、飛行速度が超高速、弾の連弾数など難易度は比較的高い。


 またフィールド内にある『パワーチップ』を取ることで3方向発射、5方向連射、5方向+バリアと自機をパワーアップすることが出来る。


 フィールド内には各所に『ラピッドコア』と呼ばれるパネルがあり、それを連射して出現、破壊することでボーナススコアが加算されたりと様々なスコアアタック要素も用意されている。


 ★★★


「今回はこの1面のみでスコアアタックを行う。そこでのボスを撃墜した時点のスコアで、貴様と俺で競って貰おう。勿論ミスしたらその時点で終了だ」

「分かった」

「では、まずは貴様からやれ」


 先攻は剣、黙々と戦闘機のコクピットへ入り込んで準備をした。中は大型の座席と数個のボタンと飛行用レバーといったシンプルかつタイトな構造である。


(気取ってんだか何だか知らねぇが、あんな傲慢リッチ野郎に負けるつもりはねぇ!)

 コントローラーの起動スイッチを作動、その瞬間辺り一面にバーチャルな宇宙が広がった。そして剣の乗るコクピットにも。


『READY?』

 開始前のアナウンスが響き渡る。剣よ、準備は出来たか――!?


『ゲームスタート!!!』


 始まった、16ビットのテクノBGMがヴァーチャルスペース全域に駆け巡る! しかしすぐに敵は現れるわけではない。開始から約6秒、突然敵の飛行編隊が現れた。


「こちとら無茶苦茶腹立っとんねん、ぶっ放したらぁ!!」


 剣は敵機が出現した瞬間すぐに、親指を垂直に体重を掛けるようにボタンに添えて、腕を自力で痙攣させて空中弾を連射した。これが俗に言う【痙攣連射けいれんれんしゃ】だ。


 腕自体は振動痙攣をやり過ぎるとダメージになるが、バイブレーションな動きがボタン反応がスムーズにさせる効率の良い連射法なのだ。


(ザコ機を気に取られても得点としては少ない。だからここは狙わずある程度多く当てて、ラピッドコア連続撃破のボーナススコアを狙う。取り続ければその分倍加で得点も上がる!)


 剣は効率の良いハイスコアを狙った。ザコ機の攻撃、被弾や激突を避けながらひたすら攻撃を強化するパワーチップやラピッドコアを狙い着実にスコアを取った。

 そしてゲームの説明には無かった、もう一つのボーナススコアが――!!



 剣のコクピットの目の前に白い霧がかかり、一瞬にして『幽霊船』が現れた!! 剣は先程の冷静なポーカーフェイスから一変して、必死の形相で幽霊船目掛けて連射するが……


「―――あぁっクソッッ、失敗だ!!!」


(え、失敗!? まさか今の幽霊船がもう一つのボーナススコア……?)


 みのりは、以前矛玄に教えてもらったプレイギアの辞典アプリ『G-バイブル』を起動した。



 ★【ファントムシップ】

 シューティングゲーム『ラピッドファイア・スター』の中型戦艦。各面でプレイヤーの自機の目の前に現れ攻撃する。別名『幽霊船』。

 出現時には20発当てると撃破できるが、白い霧から実体が現れる約1秒の間に15発当てると100000点のスコアボーナスが得られる。

 ※G-バイブル『ラピッドファイア・スター攻略』より引用



(1秒で15発!? 剣くんが失敗したのはこの難易度の為だったのね!)


 千載一遇の高得点チャンスを逃した剣。やむを得ず出現後のファントムシップを20発で通常撃破し、残すは1面ラスボス。それに30発当てて無事撃破。

 しかしラピッドコアを全5個全て撃破し剣のスコアは『159510点』となった。



(最後までクリア出来たけど、さっきのミスもあって落ち着いてなかった。私に教えた実機の動かし方も形になってなくて、危なっかしかったわ……)

 みのりの予感通り、いつものクールな剣ではない。動転やらもあり、心の乱れがかなり多かった。これがイージーミスを招く大要因である。


「思い通りのプレイが出来てなかったようだな。このゲームの要が『連射』だということを忘れたか?」

 銃司はニヤリと笑みを浮かべた。


「っ! 何が言いたい!?」

「すぐに分かる。そこでじっと見てろ」


 剣が苦し紛れに言い返す間もなく、後攻の銃司が交代にコクピットへ向かう。



「――始めろ」

『READY?、ゲームスタート!!』


 銃司は即座にスタート。敵機が来るまで平然としている。その数秒後に群がる敵機襲来、銃司の目の色が変わる!


 電子ビット音で織りなすハイテンポセッション、音速の連射音、そして爆撃音が激しく響き渡る!

 痙攣連射とは比べ物にならない、まるでガトリングかバルカン砲のように、宇宙に敵機目掛けて弾の雨が降り注ぐ!!


(何て連射だ……、しかも戦闘機を無駄に動かずに全弾敵に当てやがる。隠れたラピッドコア、パワーチップもお見通しかの如く瞬時の撃破だと……!?)



 中間地点、これまで敵への撃破ミスはゼロ! 全弾ヒットの甲斐あって剣の得点に迫る高得点。しかしこれ如きで驚くことなかれ。

 いよいよ鬼門の『ファントムシップ』へ――!



 幽霊船まで一瞬の平穏………


 白い霧がかかった! 次の瞬間っ!!!


 


 ――――――ドォォォォォォォォン!!!!!!




 大型銃・44マグナムのような豪快な砲撃音に似た音がゲーム内にこだました!!


 そして画面には「BONUSボーナス 100000」の文字が……!!

 まさか! 1秒15発撃破をあの轟音、わずか0.5秒で撃破したのか!???


「な………何や、今のは!?!?!!??」


 剣は絶望に似た青ざめた顔で驚愕した。

 あのスコアボーナスで既に剣のスコアを上回っていたのだ。

 そしてその後も、ラピッドチップや敵への撃ちこぼしなくラスボスへ。苦戦する様相もなく軽々と撃破し1面全ての敵をパーフェクトにクリア。


 得点は「300000点」! 1面のパーフェクトスコアを銃司は達成した!!

 圧倒的なスコア差を魅せつけられてのゲーム終了。冷ややかな顔で銃司はコクピットを降りた。


「これで分かったか? 自惚れプレイヤーが」


 ――完敗だ。あまりの力の差に落胆した剣には銃で撃たれた屍のように、言葉を返す余力は無かった。


「シューティングゲームは、ゲームが終わるまで全神経を集中せねば制する事は出来ない。その為には何事にも冷静に対処する精神力が一番重要だ。高得点を取ることに集中しすぎて、心を乱すことなど自殺行為に値する」


 敗者の剣にはもう何も返せない。ただ悔しそうに唇を噛むだけだった。


「よく覚えておけ雑魚め、ゲームは魂で戦うものだ! 貴様のなまくら刀のようなの魂で俺のに勝とうなど片腹痛いわ!!

  貴様のようなヤツが最強プレイヤーなど滑稽千万こっけいせんばんだ、出直してくるがいい!!!!」

「………………クソォォォォッッッ!!!」


 剣は悔しさの余りに、現実世界の出口へと誘うゲートの先へ逃げ出した。


「逃げるのか、負け犬が! ハハハハハハハハハハ!!!!」

「剣くん!!!!」


 みのりも剣の後を追い、悔恨の感情を残しつつゲームワールドから離脱するのだった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る