第80話~魂の声を聞いたか!?~

 ファイナルステージ『アルティメット・スピード』、開始1分で100枚ある山札を20枚以上消費するハイスピードの中で剣はブラックヘロンの烏田が繰り出すPASに苦戦していた――!


 ◎PAS【ブラックボム】

 ・タイプ:アーティファクト

 ・プレイヤー:烏田からすだ 康宏やすひろ

 ・能力:爆弾の爆破をPASとして遺憾なく発揮させた武器型PAS。その爆発はゲームのルールそのものを巻き込むだけでなく物理としてプレイヤーにダメージを与えることも可能な危険極まりない能力だ!



「お前を見てるとな……イライラすんだよッ!!」

「……あ?」


 ゲームの最中に烏田が吹き騰がる怒りに剣は反応した。


「何も出来ねぇお前みたいなクソガキが何を本気になって戦おうとする?

 ゲームだろ!?お前にはそれしか生き甲斐がねぇのか!!?」


 理不尽に飛ばす怒りがPASの爆破になって剣を直に攻撃させる。それに剣は言い返した。


「……痛つぅ~!じゃお前は何でゲームやってんだよ!プレイヤーだったら俺と一緒じゃねぇか!!」


「一緒だと?ふざけるなッッ!!!!!」


 剣の発言で更に激怒した烏田のPASの波動が激しく燃えた!!


「たかがゲームの為にッ!!金も名誉も失われッ!!!下等人物に見られた地獄をお前は知ってんのかッッ!!!?」


「!!?」


 剣は驚くと同時に何処かを感じた。


「――俺の親父みたいだ……」


 剣の父もゲームに飲み込まれ、家族を残し自らの命を賭けてまで無様に身を滅ぼした。

 剣の眼には烏田がそんな父の面影と重なるものが見えたのだ。



「俺は心底『プレイヤー』とか言う奴を憎んだ、ゲームに勝って優越感に浸りながらヘラヘラ笑ってられる奴をぶっ殺してやりたいとも思った!!

 ――俺を打ちのめしたゲームでぶちのめしてやりたいと思ったぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」



 その時、烏田の山札が大きな火柱を上げて爆音と共に爆散していった。


「な……えぇ!!?」


 剣は驚愕した。烏田のPASの暴走によりまだ70枚程あった山札が30枚に減っていた。


「俺は憎しみの限りぶちのめしていくうちに高揚感を覚えた!

 興奮が!!爽快が!!!エクスタシーが!!!!俺の中のPASとして形になり、プレイヤーを滅ぼすことが生き甲斐になった!!!そしてお前も――――」


 烏田の狂気染みた殺気は剣に向けられ……


「――がっ!?」

 剣は全身に糸のように縛られた感覚を覚えた。


「これは……まさか、みのりがやられた遊奥義――!!?」


 マインスイーパでみのりを瀕死に追い込ませた遊奥義『ハンドコントロール』だ。そして剣の全身に光が灯る。


 まるでの如く――!


「今度はだ。俺が味わった地獄を……身をもって味わえ――『デッド・エクスプロージョン』!!!!!」



 ――――ドカァァァァァァン!!!!!!



 ◇◇◇


 一方、デュエルフィールド会場の控え室。


「もう始まってるんじゃないかな――?」


 立海遊戯戦団の銃司に助けられ、トランスホールのゲートを開いたみのり達が遅れて会場に戻ってきた。


「……随分派手にやられているな」

 遠目で銃司はモニターを見つめながら言った。


「え?――あっ!!剣君!!!?」

 遅れてみのりも会場からのモニターを見てその惨劇に眼を疑った。



 未だ『ハンドコントロール』に縛られ、爆破で全身ボロボロになった剣の姿に――!!



「へ……へへへへへはははははぁ!!!!!

 無様だなぁ!惨めだなぁ!!まだ死ぬには勿体ねぇなぁッッ!!!」


 完全にPASに取り込まれ、イカれつつある烏田に対し剣はただ縛られか細い息を溢すだけだった。


「ほらほらまだ死ぬな死ぬな死ぬなァァ!!」


 烏田がカードを消費させていくと共に爆破が立て続けに剣を襲う。それに連れて剣の意識は徐々に失いかけていた。



(……剣にPASの波動は感じない。このまま進んでも戦果に変化はないだろう。やはり無駄骨だったか……)


 銃司は不機嫌な表情を浮かべ、興醒めした様子で暫くモニターを見つめた。



 そして、会場では……痛烈な苦しみと一方的なゲームが展開されていた。


(畜生……チクショウ!!あんなイカれた野郎に何一つ立ち向かえねぇなんて、こんな情けない事があるか!!!

 ――もう……ここまでなのか…………)


 剣の心情に『諦め』の文字が出始め、薄れゆく意識が完全に途絶えようとした……







 ――その時!!



『オイ!!しっかりせぇよ!!!』


「――え?」


 剣の目線には真っ黒な世界観、そして目の前にデフォルメサイズのちっちゃい騎士の格好をしたが。


「――――え、俺!!?」


『そ!俺は!つまり!』

「いや、ややこしいって。それよりゲームは!?どうなってんだこれ?」


『ゲームは一旦中断!ここはお前のや!!』


 どうやら剣は自分自身の心の中に意識が行き、時が止まった状態にいるようだ。


「じゃ、俺が俺に何のようだよ?」

 剣はもう一人の自分に問いかけた。


『誰に対しても偉そうやなぁ俺~!せっかくPASの事を教えたろと思ったのに感じ悪ぅ~』

 デフォルメ剣は気分を害したようだ。


「何、PAS!?そうとなら先に言ってよ俺様~いや騎士の俺様~♪」

 自問自答と言うべきか、第三者から見てこの光景は中々シュールだ。


『まぁ偉そうなのは元からやし、教えたる。今の俺、桐山剣がPASを使えるにはあと1つ足りんものがある!』

「……足りんもの?」

『そうや、ノイマンのおっさんも言ってたやろ。『心に極限の瞬間が来てない』って!』



「……あぁ、言われた。でも結局それって何が足りないって事なんだ?」


『――俺にとってのって何や?』


「……あ?」


『みのり達、仲間を傷付けた奴を倒したいからか?ゲームワールドの危機を救いたいからか?当てはまってるんだが正解じゃない。俺の何処かに本当の答えがある。

 ――その答えを今ここで、俺自身の前で出してくれへんか!?』


 デフォルメ剣の言葉に剣は気持ちを落ち着けて思い出していった。


 みのりと出会い、ライバルに挫折し、ゲームに挑もうとしたあの気持ちを……!!



 (…………だぁ?

 答えは俺の側にずっとあるんじゃないか!!!)



「……なぁ、ここだけの話な。

 俺みのりとゲーセンで出逢ってさ、ずっと心から『親友』って呼べる仲間が欲しかったんだ。

 今こうしてみのりと槍ちゃんとレミと豪樹さんと、仲間と一緒にゲームをする瞬間が本当に楽しくて、嬉しくて……!!」


 剣は話していくうちに声が詰まり、涙声になりつつあったが堪えて話を続けた。


「今ならはっきり言える。俺はゲームが大好き!そんな大好きなゲームを仲間と一緒にやるのがもっと大好き!!

 そして俺にとってのゲーム、俺がゲームをやる理由は……これだ!!!!」



 その時、剣の胸の奥が赤く光り始めた!!




 ――――大好きなゲームと仲間と共にッッ!!!!!

 俺は【マスターオブプレイヤー】になってやるッッッッ!!!!!!!!!!




 次の瞬間、剣の胸の奥に光った赤い光が激しさを増し、その光は細長い形に変わろうとしている!!



『伝わったぜ!俺自身の気持ち!!

 俺だけの不屈の【剣】!受けとれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!』









「……君―!剣君!!お願い、起きてぇぇぇぇ!!!!」


「ヒャハハハハハハハハッッ!!!!これで終わりだぁぁぁぁ剣ぃぃぃぃ!!!!!」




 ――――――――シュバッ!!



 先程まで爆音に騒ぎ立てられた会場の周囲は一瞬の一太刀の音で一瞬にして書き消された。



「……な、な、何だその【剣】は!???」


 烏田だけではない。控え室を去ろうとした銃司もその様子を見て驚愕した。



「PASが……――!!!!?」


 そして、その横で見ていたみのりは……


「私、前にも見たことがある気がする……!初めて剣君と出逢ったゲーセンで!!

 あのの剣君だ――!!!!!」



 会場に仁王立ちで立つ剣、その右手には赤白く纏った剣の形をしたオーラが握っていた!!



 桐山剣、PAS【ロングソード】ここに覚醒ッッ!!!!!!

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