第19話~超次元が翻す法則~
石英の大理石に新緑グリーンでコーティングされた巨大な8✕8マス、即ち64マスのフィールドに相対する剣とみのりと、ボードゲーム人気促進に貢献する任侠組……もとい、
幾多のボードゲームを世に広めるべく、その強さを証明せんと勝負に挑む桐山剣。どっちが強いか白黒はっきりさせるに相応しきゲーム・オセロ。
そんなオセロが近未来で劇的パワーアップしたという『エクストリーム・オセロ』とはどのようなゲームなのでしょうか?
「そんじゃゲームをやる前に。アンティはどうしますか、伴場さん?」
剣は盤連会の会長・
「アンティ? なんやそれ、アンティー家具なら実家に幾らでもあるで」
どうやらアンティルールの事は70歳の
「いやそうじゃなくて、賭けるものとかありますかって話です! 例えば俺達の私物を頂くとか、縄張りに入っちゃダメ!って言う要望とか」
「あぁ何や、賭けの事かいな! だったらお隣さんの女子高生でも………」
「ダメダメダメダメダメダメッ、それだけは御勘弁をッッ!!!!!」
剣は必死の抵抗、アンティに指定されたみのりは全力で首を横に振る。当たり前でしょう、それを許したらコンプライアンスやら色んなラインをぶち抜いてしまう。
「ハッハッ、冗談じゃよ! ワシはお前たちから何も奪うことはせぇへん。……せやな、ほんじゃま逆にワシらに勝てたら、お前たち二人に良いものをやろう。それでえぇか?」
「良いもの……?」
剣達二人は色々と想像した。あの盤連会の事です。勝利を得るだけでも儲けものだが、それだけでなくボーナス特典まで貰えるとは。
商品券か、お米か……? いやいや市民イベントじゃあるまいし、もっと凄いものなのかも――!?
「じゃそれで、交渉成立! そっちは誰が相手してくれるんすか?」
「ワシからは盤連会きってのエースプレイヤー、
なんと剣の相手は盤連会ナンバーワンの実力者、賽目耕作。その出で立ちはゴツい連中とは水と油の如く際立つ、茶髪ロン毛が眩しいハンサムでスマートな青年であった。すると伴場が、賽目にこっそりと耳打ちをしてきた。
(―――賽目、えぇか? 相手はあの桐山矛玄のお孫さんや、そこいらで戦った平均点なプレイヤーとは明らかに覇気が違う。気ぃ引き締めて、プライドに掛けて全力で勝負するんやで!)
(任せてください、伴場さん!)
一方、剣の方は伴場達の方をマジマジと見詰めながら各々ゲームの準備をしている。
「………ねぇ剣くん? さっきからお爺さん達の方ばっか見て、何か気になることでもあるの?」
「いや、何て言うか……あのじいちゃん以前どっかで見たことあるんよね。いつ会ったんだろう――?」
剣の脳裏に10年くらいの記憶をプレイバックさせるが、残っているのはトラウマとゲームをやった感覚ぐらいで細かいことなどは覚えていなかった。
「桐山君だったね!早速始めようか!!」
「あ、はい!!」
遠くから賽目が剣に呼び掛け、両者巨大フィールドの盤面操作及び全体把握する為のリフト型コントローラー席に乗り込んだ。
手元のコントローラーはタッチパッド式。指先で盤面に置きたい石をタッチしながら操作する。至ってシンプルかつ最先端らしい操作方法だ。
コントローラースクリーンには64マスのフィールドの略図。
そしてゲームを起動するや否や、ランダムで白黒どちらを操作するか選ばれた。
剣が白、賽目は黒。
オセロの初期配置も自動的に白黒互い違いにセットされる。
――さぁ二人とも、準備は出来たか!?
『――――
フィールドに電子的な音声アナウンスが鳴り響き、ゲーム開始。まずは先手、ルールに従って黒の石を動かす賽目からスタートだ。
賽目は剣側から見た中央右上の白、その右側に挟み込んで黒に変える。
後手は剣。先程の賽目と対抗するかのように右下の黒、同じく右に挟んで白に変えた。
そして賽目の黒が今度は右下の黒に挟み込み、一気に2つも裏返す。
どうやらボード全体から観て右下から盤面は広がっていくようだ。
(一見、何の変哲もないオセロやが……気がかりなのは俺も、あの賽目さんも所持してる“スペシャルストーン”。あれがこの普通のオセロフィールドを混沌の如く変えていくに違いない! それまでに従来通りの手で進めないと……)
剣は危惧していた新要素『スペシャルストーン』なる特別な石に危惧していた。
元々従来のオセロは【二人
即ち『偶然に左右されないゲーム』として、分類が成り立っている。
そしてプレイヤーはおろか、コンピュータでさえも完全解析が未だにされていないのがこのオセロの奥深さである。
知恵を振り絞る実力のみで勝敗が決する従来のオセロに、要素そのものを逆転する要素を組み込んだとしたら、ゲームの行方はどうなるのか?
その答えはこの『スペシャルストーン』が全ての鍵を握っているのだ。
オセロの展開は石のセットによってどんどんと広がり、着々と右下の角へと進行していく。
(……あら? 剣くんもしかして、角を取るために賽目さんを誘導しているのかな?)
プレイしている剣の横で傍観するみのりも、このやり手に気づき始めた。
オセロでは4つの角を多く取った者が盤面を制す。何しろ角では敵の石でも挟めないし、終盤に置いて多く石を返す為の重要な部位となる。
オセロを制す為には角を制すべし。それを剣は勿論のこと、みのりも良く知っていた。そして………
「よしッ! 右下角、いただき!!」
誘導成功!剣の白ストーンが右下角にしっかり納まり、左・上・左上とある程度白へとひっくり返した。
だがその達成感も束の間……
「――!? 剣くん、あれ………」
みのりはフィールド上空に落ちてくるものを指差した。その正体は賽目が繰り出した、赤いオセロストーンだった。
――バチィィィィィン!!!
右下角目掛けて投下された赤ストーンの反動で、納まっていた白ストーンが弾き飛ばされた!!
「……えぇ!? 俺の角に置いたストーンが手元に戻っている!!?」
更に驚くことがもう一つ。
「!!??」
赤ストーンが徐々に黒く染まり、赤から通常の賽目の黒ストーンに変貌し、そのまま周囲に挟まれた白が黒に返された。
――――そう、これが超次元のオセロ。
凝り固まった常識など……いとも容易く翻される――!!!!
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