第15話~ゲームチーム・シャッフル~

 

 【ゲーム超次元時代】を迎えてから約五十年の月日が過ぎた、超次元ゲーム西暦・0050年の頃。舞台は日本、関西の中核・大阪。

 大阪は日本の中でトップクラスにプレイヤーの数が多いんだとか。


 そんな大阪の中心・通天閣がトレードマークの浪速区の下町情緒溢れる住宅街。新生活の風吹く四月の朝の陽気から、女子高校生の元気な声が。


「行ってきま~す!!」


 彼女の名前は河合かわいみのり。

 ここ浪速区の私立『天童学苑高等学校』の1年生で16歳。ミディアムヘアかつ純粋無垢が特徴的な―――――



 ――――あれ、このくだり前にやりましたっけ?


「やりました、一番最初のとこで!!」


 やっぱり、みのりさんもそう仰ってますな。私Mr.Gは語り部ですから、話の整理して語らねば


「始まったばっかでしょ? しっかりしてよ!」


 失礼しました。じゃ気を取り直して……





 関東・東京からの黒船ゲームチーム『立海遊戯戦団たつみゆうぎせんだん』のリーダー・立海銃司たつみじゅうじとのシューティングゲームで、完膚無きまでに打ちのめされた桐山剣。

 しかし負けてばかりはいられない。剣は改めて河合みのりと親友になり、葛藤を越え再びゲームの情熱を取り戻すのだった!!



 ――そして、日が変わって日曜日。


 みのりは学校ではなく、近所の小さな公園で剣と待ち合わせていた。そこにはゲームワールドオンラインへのアクセスに必要な黒いモノリスが設置されている。


「―――剣くん! お待たせ♪」

「お! 来たなみのり。俺も今来た所だ」

 剣はいい加減な所があるが、一応約束には律儀で時間も守るタイプだ。


「じゃ早速行きましょうよ!」

「あぁ。いつものプレイヤー・バザールな」


 早速二人はモノリスの前にてプレイギア内のプレイヤーIDを入力、更にログイン認証のコードを入力する。今日のゲートコードは『しんでしまうとはなにごとだ!』


「物騒この上ないわね……」

 このコードを管理した人を見てみたいとみのりは呆れながら思った。


 ――ゲートコード認証完了。その瞬間に公園の広場からゲームワールドの入口『ゲート』が現れた!


「「ゲート・オープン!!」」


 ゲートの扉を開き、デジタル粒子と化した二人の身体はゲームワールドへとダイブする。行き先はプレイヤー達の登竜門『プレイヤー・バザール』だ。


「うわぁ、前に来たよりもたくさん来てるわね!」

「日曜だからな。休みにゃ先ずはここに来るプレイヤーが多いんだこれが!」


 今日二人がここに来たのは他でもない。

 現実・ゲームワールド両者にて活躍する『ゲームチーム』を作るためだ。


「ねぇ剣くん。私達二人だけでチーム作れるの?」

「”二人以上“が最低条件だからな。今は俺とみのりだけだが、いずれはメンバーを増やすぞ」

「じゃ私みたいなゲーム好きな女の子とかも来るのかな!?」


「そうだな。ま、みのりみたいに下手っぴじゃなきゃえぇけど!」

「ちょっ、ひどーい!!」

「冗談だよ!ムキになんなって!!」

 剣は笑いながらみのりをからかった。彼の眼は今まで死にかけて闇を抱えていたような時とは別人のように輝いていた。これが本来の桐山剣の性なのだ。


 さて、彼らがゲームチームを作る為に何故プレイヤー・バザールに向かったのか。それはエリア南西の端に設置されたRPG等でよく見かける木造建築のカントリーな店。その名も―――


「『アディウルの酒場』?」

「そ。本来ここはゲームワールドの情報交換やコミュニティに使われる場所だが、ゲームチームの登録も出来るんだ」


 酒場と聞いて、ポンッと仲間をスカウトしてパーティーを作るという『◯イーダの酒場』的なものとは、また別の趣向ではあるが。腰丈のスイングドアから入って、すぐ左に曲がったところにゲームチーム登録用のカウンターがあった。


「すみません、俺ら二人で新規のゲームチームの登録をしたいのですが」

 剣はカウンターの店員に話しかける。


「………じゃ入るメンバーのプレイヤーID確認するから、自分たちのプレイギア出して」

 ありゃ、あまり接客には不適切な無愛想な感じ。その所は気にする間もなく、二人はプレイギアを店員に出した。店員はPCにプレイギアを繋げて操作した後、直ぐに持ち主に返した。


「………はい、ID確認しました。じゃ今からチームの登録申請をするから、ここにリーダーとメンバーの名前と、チーム名と、チームの特徴を必ず書くこと。

 あと任意でチームからのコメントも書き終わったらうちに渡してください」


 ……と言うと店員は申請用の必要明記が掲示されたタブレットを渡した。


 メンバーはリーダーが桐山剣。他のメンバーで河合みのりと入力する。

 チームの特徴はエンジョイ型、本気型、ビジネス型などあったが、チームは『本気型』で決定した。チームのアピールコメントは一応後回し。残すはチーム名だ。


「剣くん、チームの名前どうしようか?」

「実はもう決めてあるんだ」

 と剣は言うと、申請用紙のチーム名記入欄にある英単語を書いた。



「―――『SHUFFLEシャッフル』?」


 カードゲームやトランプでお馴染み、山札を切り混ぜる行為『シャッフル』。しかしみのりと、我々読者には少しばかりのがあった。


「確か、剣くんのおじいさんが入ってたチームも『シャッフル』って名前じゃなかった?」

「せや、『浪速シャッフル騎士団』。おじいちゃんが築き上げた武勇伝は大阪全体の伝説になってる。でもおじいちゃんのやってきた事を伝説のままにしたくないんや」


「……それって、おじいさんのやってきた事を継いでいきたい、って事?」

「継承や。俺はおじいちゃんの孫や。勝負運もセンスも全部おじいちゃんから鍛えられたもんやし、友達が居なくなった後も俺の事見守ってくれてたし。その恩もゲームで返していきたいねん。


 今は俺とみのりだけだが、前以上に仲間を集めて、名を連ねて、最強のゲームチームを作る! そういう意味も込めて『シャッフル』にしたんだ!!」


 このチームの名に込めた。祖父からの意志を継ぐ、過去からの決別。綺麗事に聞こえるのかもしれない。だが彼のゲームに対する想いは本物だ。

 河合みのりという親友を得て、剣は変わろうとしている。ゲームに挑み、強くなり、共に戦う仲間を探す為に再び騎士団の旗を掲げた。


 “新生シャッフル”、桐山剣の手によって結成されようとしていた!


「よしっ、じゃ早速申請してくるぜ!」

「いってらっしゃ~い。早めに帰ってきてね〜♪」


 何処の新婚夫婦ですか、あんたら。しかし仲良きことは素晴らしきことかな。

 剣がゲームチームを申請しようとカウンターに向かう最中、酒場のテーブルにて屯するプレイヤー達の話を耳にした。



「―――おい聞いたか? 昨日大阪辺りであの『立海遊戯戦団』が来たっての」

「マジかよ!? あの東京・Aランクゲーム戦士チームが何でまた……?」


(立海遊戯戦団……!!)


 剣はピタッと動きを止める。申請への足取りも止まって、暫く彼らの話を傾聴していく。


「あの気まぐれ城主の事だ、東京のプレイヤーに飽きて、大阪まで足を運んでゲームしてたんだろう」

「……あ、俺こんな話聞いたわ。大阪中のゲームセンターに入って、ゲーム全部制覇して、店の経営権まで奪ってきたとか」

「マジかよ、何処の地上げ屋だ!?」


「そうそう、あと俺こんなのも聞いた。掲げて銃司に歯向かったプレイヤーがいたらしいぜ。当然ボコボコにされたが」

「誰だか知らねぇが、そんな命知らずなプレイヤーがよくいたもんだ!」


「やっぱさ、強い奴には逆らえないもんだな。弱肉強食の時代を地でいってる」

「そんでゲームに勝ちたくて沼にハマって、金に溺れて……なんてやってたら洒落にならんわな」

「俺らは底辺でエンジョイしてるのが性に合うんだよ。強い奴はせいぜい頑張れーってな!」


 最後には馬鹿笑いのプレイヤー達の会話を一部始終聞いていた剣は、盗み聞きしてたのを悟られる前に静かにその場を離れ、カウンターに向かう。その後は数分も立たない内にチーム申請は完了した。



 ◇◇◇



「あ、剣くんおかえり」

「………あぁ」

 申請前と比べて、明らかに剣の顔が少し曇っていたのがみのりには分かった。


「何かあったの?」

「………みのり。約束して欲しい事があるんだ」

「?」


「後からシャッフルに入るメンバーにも事前には言うけど、これから前線に立つゲーム戦士としてやっちゃいけないことがある。―――ゲームには、絶対になよ!!」


(剣くん……!?)



「……おじいちゃんは凄かったけど、逆に俺の親父の方は根っからのゲーム好きで、年がら年中ゲームばっかして仕事で得た収入も全部ゲームに使いやがった。

 ―――おじいちゃんやおふくろも止めたんだが、結局てめーの抑制が止まらないままエスカレートして、挙げ句の果てには自分のまで賭けた!!」


「命、え!? そんな事って……!??」


 みのりは衝撃の事実に愕然とする中、剣は抑えきれなかったものが急に沸き出るように喋り続けた。


「別に死んじゃいねぇよ。ゲームに呑まれすぎて、金も欲も闘志も一滴残らず絶えただけや。そんな廃人になったクソ親父を見てられなかったんだろうな。おふくろは心労で倒れて今実家で別居して休養してる。


 親父の借金はおじいちゃんが何とかしてくれたが………家庭を潰されたのは間違いなくゲームだった!!」

「…………」


「ゲームは楽しいだけじゃない。溺れれば自分の心を狂わせる。優しい心も、純粋な心も、ゲームの前では非情になる! 俺の前の友達と親父がそうだったように………!!」


 剣の心の叫びに、みのりはただ表情を変えず真摯に受け止めていた。そして剣の肘付いて項垂れている両腕の手を優しく握り、



「私は絶対にゲームに溺れたりしない。勿論剣くんも同じよ。だって貴方は、人としての弱さを知ってるわ。それはあなた自身が傷ついて、誰よりも優しくなって、必死に強くなろうとしているから! だから剣くんも私も大丈夫!!


 ――ゲームの強さだけが正義じゃないって、このチームで証明してみせようよ!!」


 みのりの言葉は一筋の光、迷える騎士を導くように、剣の眼に輝きが戻った―――!!



「……へっ、みのりに余計な心配させちゃったな。だったらとことんやってやろうぜ! このゲーム時代を俺達の手で変えるんだ!! 行くぞォォッッ!!!」

「おーッッ!!!」

 情熱溢れて熱籠もる二人の手を、テーブル中央に重ねて鼓舞する剣とみのり。


 ――かくして、ゲームチーム『シャッフル』がこのアディウルの酒場にて結成されたのだった!!


 そして、アディウルの酒場の天井に掲示されているデジタルモニターには、ちょうど最新のゲームワールドにおける情報。そこには新ゲームの制覇情報と、関東地区ゲームチームランキング1位、これら全てに『立海遊戯戦団』の文字が。これが剣の眼に焼き付けていた。



(………銃司、そしてまだ見ぬゲーム! そこでじっとしてろよ、俺は勝って、這い上がって、お前らの待つフィールドまで行くからな!!

 俺とみのりの、『シャッフル』の旗と共に!!!!)



 ―――剣の魂の名の下に、目指せ最強の称号『マスターオブプレイヤー』!!

 剣達のゲームはここから始まったッッ!!!

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