第25話~勝利へのダッシュ!!~

 八の字に交差する『エイトクロスサーキット』、周りくねって一周を終えて、迎えるはラップ2。

 剣のマシンが群抜いてトップの独占状態。一つ目のカーブを越え、再びアイテムボックスコーナーへと突入する訳であります。


「――っ!!」

 時速120kmのスピードで突っ走る剣のマシン。その速度だ即座に対応した剣は、正面のアイテムボックスの細工に気づいたように避けて、別のアイテムを取った。


「姑息やな。アイテムボックスの真下にトラップが仕掛けとった。俺が気付かん思たか!」


 と、余裕にも剣が後方へ目先を向けた矢先、


 ――――KABOOOOM!!!!


 後方の敵陣マシン、即ち陰険プレイヤーが仕掛けたトラップに自分が引っ掛かり、機体ごと爆風で吹っ飛んでいた。


「アホかぁ! てめーで仕掛けた罠にかかるとは………なぁっ??!!」


 剣の煽りから一転して仰天!


 トラップの爆風で吹っ飛んだマシンが、故意に丁度八の字の上下に交わる地点の上のコースを外れ、そのまま下の交わるコーナーに落ちた!!

 その瞬間、剣のレーシングカーが2位に沈降!


「はぁッッ?! んなやり方アリかよ!!?」


 これはコースの仕組みを逆手に取ったなショートカット。同胞の陰険プレイヤーのトラップの力を借りて、陰険親玉のマシンがトップを奪い取った!!



「ハハハハハ!! 見たか、俺の土壇場ショートカットは!!!」

 陰険親玉プレイヤーは下衆な笑いを立てて勝ち誇る。


「そんな!! ずるいわ!!!」

「バカめ、勝てば何でもありと言っただろうが!!」

 みのりら外野の抗議に片耳も貸さない親玉。勝ちに溺れた貪欲者には恥も外路も無しか。


「クソッッ、さっきから嫌な予感はしてたが、やっぱやりやがったな!!」


 親玉と剣の距離の差はコース半周分。メートル換算で凡そ800メートル。これに剣はヤケクソ気味に必死に追い上げる!

 剣がマシンに保留していたアイテムはトラップ。それを捨てるように設置し、今は追い上げに専念した。


(あのショートカットはゲームの微小なバグを利用した非正規な技だ。正式ルールで反則となっている技を平然と行う相手に……剣君、越えられるか!?)


 槍一郎はオフィシャルプレイヤーとして、この反則技を見抜いていたが、一旦はこのプレイに目を瞑り、ゲームは続行させる。

 桐山剣に、この理不尽な展開を打ち破る術があるかどうか、それを見極める為に……


 ◇◇◇


 さて、ゲームはいよいよファイナルラップ突入!

 剣がゴールラインを越えるとき、1位は一つ目のアイテムボックス前、その差は約400メートル!!


 一周の間に半分まで距離を縮めた剣、ドリフトを駆使し、その勢いを止めまいと決してアクセルを緩めようとはしなかった。1位の親玉は、先程のショートカットはこのラップでは使わずそのまま走行!


 剣は続いてアイテムをゲット!!


(―――来たっ、こいつなら!!)


 しかしまだ使う様子が無い! そしてまだ距離が縮まらない!!


「剣くん! 何でアイテム使わないの!?」

「いや……あれは出すタイミングを伺っている! あのアイテムを使う好機を!!」


 トップの親玉マシンは二つ目のカーブを曲がりきる所までいった! もう間もなく、ゴールラインが見えてくる!!


「終わりだクソガキが! 戦いの厳しさを思い知ったか!!」


 ――カツン。


 勝利を確信し、思い上がった陰険親玉プレイヤー。一瞬の緩みに余所見した彼の機体の先に、何かがぶつかった。


 ――ドォォォォォン!!


「――!!??」


 ぶつかったのは…ラップ2で剣が捨てていた『T(トラップ)』だった!!



(――――しめたッッ、今だ!!!)


 好機来たれり、剣の目が光る!

 そして刹那に彼の胸元に赤く輝くは、魂の形か―――!?



「――これが俺の全身全霊・アイテム超連打!! 火事場のバイブレーションパワーや!!!」


 ――――ガガガガガガガガガッッッ


 剣の指先が標的に何発も針を刺すように、アイテムボタンを高速連打する!!

 剣の連打技、高橋名人をも超越する1秒30連打の速さだ!!!


 アイテム『D(ダッシュ)』が無限に使用したかのような途切れぬ速さ、爆発によって停止された親玉のレーシングマシンを一気に追い抜いた!!


 マシンと人類、一体と化した超音速の風となりて、韋駄天がゴールへ突っ切る!!!


 ――――ゴールインッッッ!!!!


 AIアンドロイドが浮遊するドローンに乗って、トップのマシンにチェッカーフラッグを振りかざす! 勝者は桐山剣だ!!


 レーシングカーは超スピードの余韻を残さずにまだまだ八の字コースを突っ走る。剣は歓喜の雄叫びを上げてフィニッシュを飾った。


 そして歓喜の最中、剣の手元にあるプレイギアからプレイ報酬が贈られる。

 勝利賞金の5000円、そしてランダムに放出された金の宝箱二つにはアイテム『オープンロックキー』なる鍵のようなデータが30個分。

 この鍵データが、ゲームワールドオンラインの新しいゲートを抉じ開けてくれるのだ。





「――槍一郎くん、さっき剣くんが使ってたアイテムって……?」


「あれは『D(ダッシュ)』の最高級バージョンの『D・インフィニティ』。

 使うと一定時間の間、ダッシュが無限に使えるごく稀に出るアイテムだ。それをあの順位で出すのは相当強運なプレイヤーにしか出来ない、奇跡に等しい!!


 ―――桐山剣!! 僕は君みたいなゲーム戦士ウォーリアーに会いたかったんだ!!!」


(……“ゲームウォーリアー”……?)


 槍一郎の口調からは興奮が隠しきれていなかった。

 プロの彼がこれほどまでに魅力を駆り立てた剣のプレイ。実力、魅力において完全勝利を収めたのだ。



「ちくしょう、あのトラップさえ無ければ俺が1位だったのに……!!」


 陰険プレイヤーは悔しさのあまり声を押し殺して呟いた。


「……戦いに浮かれてたんは、やっぱしあんたの方だったみたいやな。卑劣な手使って粋がって、足元掬われるたぁ、こんなカッコ悪いことはあらへん」


 ゲームを終えた剣は陰険プレイヤー、略して『陰プレ』に詰め寄った。そして、槍一郎も続く。


「………残念です。良い大人がズルをしてまで勝とうとした結果、結局負けるとは。自分の実力を見抜けず、プレイヤーとしての精神を忘れた結果不正に走り墜落してしまった。悲しい話です」


「………」

 陰プレには何も返す言葉が無かった。



「先程のラップ2で行ったショートカットは、公式では禁手として違反されています。よってペナルティ処分を受けさせてもらいますよ!!」

 槍一郎が自分のプレイギアを出すと同時に、エリア内にてアナウンスがなった。


『違反報告、違反報告、『サイバーターボシティ』[ソニック・バトル F-MAX]』


 陰険プレイヤーや、それに荷担していたプレイヤー達は強制送還として転送された。

 そしてペナルティは『サイバーターボシティ』への出入り禁止。つまりは初心者をカモにした迷惑行為を行えなくなったという訳なのです。やっぱり悪い事はするもんじゃありませんね〜!



 ◇◇◇



「―――で、槍一郎だっけ? 何だって俺達にあんな勝負事をさせたんだ? 俺の実力を試すって………」

 剣は未だ話が読み込めなかったようで、槍一郎に質問をした。彼の答えはこうだ。


「……君達、ゲームチーム『シャッフル』ってのを作ってるんだろう?」

「―――!!」


 槍一郎が『シャッフル』の事を知っていた! 二人は一瞬で目の色が変わった。


「お……オイオイ! 仮にもWGC公認プロゲーマーのあんたが、チーム組んだばっかりの俺達の事を――?」


「桐山矛玄むげんさんってのは、君のお祖父さんなんだろう?」

「おじいちゃんの事も知ってんのか!?」


「矛玄さんはWGCの創成期から関わってきた重臣みたいな人だ。僕のようなオフィシャルが知って当然の有名人だよ。

 そしてその矛幻さんの孫である君が、最近になって友達とゲーミングチームを作ったってのも!


 ――やっと見つけたよ、この世で一番面白いゲームウォーリアーってのは本当だったんだ!!」


 話せば話す程、槍一郎の高揚が著しく増していく。その様子に剣は益々困惑するばかり。


「………おじいちゃんの事を聞いてるのは分かったよ。お前の要件ってのは結局何なんだ!?」


 賢そうな長話に付き合わされて、ちょっと剣もイライラしてきた所だ。



「……ああゴメンゴメン! つい興奮しちゃって。じゃあ単刀直入に言わせてもらうと……



 僕も君の仲間に、君たちの『シャッフル』に入れてくれないかい!?」


「――――――え、」



「「え゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」」



 いきなりの展開に剣とみのりも混乱した。



「僕はただのオフィシャルプレイヤーの端くれだ。でも君達と同じように、最強のゲーム戦士を目指してゲームに励んでいる!


 僕はさっきのゲームではっきりとしたよ! 剣となら更に強くなれるって!!

 だからこの天野槍一郎!! シャッフルに入団を希望するよ!!!」


 こんな嬉しいことがあっていいものか、しがない関西のゲーミングチームに、オフィシャルプレイヤーが入団!! 新たな仲間の登場に二人は心踊った!!


「剣くん! 槍一郎くんが仲間になったら、私達のチームも凄いことになるわ!!」

「おぉ!!こいつは凄いぜッッ!!!」


 二人とも入団に意義無し!!

 これを持って天野槍一郎(16)、『シャッフル』に仲間入りを果たすのだった!!!



「――――これからも宜しく! 僕は剣とみのりちゃんと同い年だから、友達みたいに関わっていいよ」

 槍一郎は入団ついでに挨拶を、そして誓いの握手を二人に交わす。



「勿論そのつもりや。―――そうだ! じゃ挨拶がわりに、槍一郎の実力を見せてくれよ!!『F-MAX』で!!」

 剣は早速馴れ馴れしく槍一郎にリクエストした。


「え?別に構わないけど」

「尺の関係もあるから同じ『エイトクロスサーキット』で一周のタイムアタックで良いよ」


 ちょっと! メタ発言はお控えください!!


「……じゃ御言葉に甘えて!」

 槍一郎はそう言うとすぐにレーシングマシンに乗り込み、準備をした。


『―――READY?』


 アナウンスとスタートシグナルが鳴る、そしてスタートダッシュのアクセルも静かに吹かしていく……!!


『スタート!!』



 ――その刹那、先程の剣と同様か、槍一郎の胸元に”蒼い槍“が形となりて光りだした!!



「ランサー流 遊奥義ゆうおうぎ!!『疾風怒濤しっぷうどとう』!!!」



 ――ギュオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!



 一瞬のリニア新幹線か!? 槍一郎のレーシングカーは、通常のスタートダッシュとは比べ物にならないスピードで突っ走る!!


 ドリフトも素早く、軽やか! アイテム無しの1ラップ勝負、決して反則技ではないテクニックでコースを駆け抜けた!!

 そして感嘆のコメントを述べる間もなくゴール!!!



 タイムは40.96秒! 先程のレースが平均ラップ48秒を軽く凌駕していた。



「「………………………」」


 剣ら二人は言葉を失った。いや、掛ける間もなくゲームは終わっていたのだ。


(さっきの剣くんのゲームを見て、槍一郎くんがレースゲームに得意なのは分かったけど、これは得意の枠を越えている……!!)


 みのりは改めて槍一郎の凄さを実感した。




「―――これでどうかな?」

 槍一郎が涼しい笑顔を魅せて筐体に降りた。



 (とんでもないお友達が、仲間になっちゃった!!)


 剣とみのりは驚きと喜びでいっぱいになりながら、仲良くハイタッチをするのでした―――!!

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