第50話~切り札騎士、剣舞う~

『―――さぁΦブロック最後の大一番!疾風の騎士の如く制した者、或いは強靭なパワーで弱者を圧倒した者。

 どちらが強いか赤青の舞台で白黒はっきり着けようじゃないか!!

 さぁ強者共よ、出てこいやァァァァァ!!!!!』


 ゲームの締めとして登場した実況の新垣治郎あらがきじろうの掛け声と共に、剣と妻夫木が同時にフィールドへ駆け上がった。


 妻夫木の胸元にはプロテクターの隙からチャラチャラしたアクセサリーが見えていた。



「これが最後の勝負です!プレイヤー共に、礼!!」


 審判の掛け声で作法に乗っとり一礼。

 しかし片や妻夫木はやる気ゼロ半分ふざけた態度、これには剣も癪に触った。


「随分余裕じゃないか?チャラ助さんよ」



「ったりめーじゃん?どーせ俺が勝つし?がプレイヤー全員を潰せって言われてるしよ!!」


 この時、剣の目の瞳孔が開いた。

 妻夫木がブラックヘロンであることを見切り、更にふざけきった態度に静かな怒りが出てきたのだ。


「……そうかい。じゃ潰せるかどうかやってみなよチャラ野郎!」


 両者待機位置に並び、竹刀を構える。


「一本目……始め!!!」


 開始と同時に剣が素早く仕掛ける!しかし妻夫木はそれを大きく振り払った!!


 バチィッッ!!!


「なっ――!?」

 剣の持つ竹刀から電流に似たような強い衝撃が両腕をほとばしった!!


「な、何だ今の強い静電気みたいなのは!?クソッ!!」


 剣が怯む間もなく、妻夫木は上段に構えて次の攻撃を仕掛ける。


「オラァ次行くぞ三流剣士が!!!――必殺『電流地獄の滝』ッッ!!」


 大きく振りかぶった妻夫木の竹刀が上から流れ落ちるように連打をかましていく!


 まさにナイアガラの滝……いや、ブラックヘロンが事前に竹刀に仕掛けた改造コード【BH Bat.ビーエイチバッチ】によって強化された電流の滝に剣は苦しめられる!!


 ―――バチィィィィィン!!!



 猛攻に耐えきれなかった剣は頭部のボタンに攻撃を許してしまう。

 審判の一本の旗が上がった。


 ◇◇◇


 ――一方控え室では、オールスターズ全員で剣の激戦を見守っていた。


 槍一郎はプレイギアを片手に会場の剣と応対を取っている。

 ルール上ゲームに妨害せず応援程度ならプレイギアとの通信は可能だ。


『――剣、どうした?奴から何か違和感でも感じたか?』


 剣はそれをプレイギアにBluetoothで繋げたマイクとイヤホンで小声で応対した。


「……あぁバリバリ感じた!強い電流に振動、小細工だらけだぜ」


『そんな!じゃ審判さんに伝えないと!!』

 槍一郎のプレイギアを横から聞いていたみのりが叫んだ。


「いや、ダメだ。あの刀を改造させている証拠が掴めてないんだ、報告した所で白を切られて不利になるのがオチだぜ。

 ――奴の鼻を明かす方法はただ一つ、!!!」


 剣は一旦通話を途切らせて、試合の方へ集中させた。



「どうしよう……あたし達じゃ何も出来ないのーーッ!?」

 レミも悔しそうにじたばた地団駄を踏む。


「……いや、剣は一度掴んだ尻尾は死んでも離さない主義だ。

 自分のチャンスは必ず掴む、最後まで諦めない奴が切り札に愛されるとか彼は言ってたが……

 ――本当にそうかもしれないな。一ミリも諦めた顔をしていない!」


 仲間達は今は見守ることしか出来ない、応援する事しかやれないかもしれない。


 ――だが、『剣ならきっと大丈夫!』と思う気持ちは四人とも既に胸に秘めていた。


 ◇◇◇


「おー痛ぇ……頭に電気とかやな感じだぜ。だが、コツは掴めた!!」


「はぁ?一本決められて何強がってんだ。このまま決めさせてもらうぞ三流野郎!!」


「うるせぇ、どっちが三流かはやってみなくちゃ分からねぇだろ!!」

 再び両者、待機位置へ。



「――――二本目、始め!!!」


 コールと同時に妻夫木、再び上段構えに移った。


「これで終わりだ!!滝に飲まれてしまえ!!!」


 電流の滝が剣に降り注ぐ!

 しかし剣、一本目と打って変わって力強く耐えている!!


 右膝をついて、いつ上へ飛び出るかわからない体制の構えで滝の猛攻をひたすら耐える!!!


「――ワンパターンだぜお前。一度滝で流されたなら……今度は昇ってやるまでだ!!!」


 妻夫木の頭部のボタンが光り始めた瞬間、振り下ろした所を見切り、一気に剣が飛び上がった!!!


「なっ……!?!?」


 ――この時、剣のプレイヤースキル【エース・スラッシュ】が発動した!!


【エース・スラッシュ】:プレイヤーは1ゲームに一度だけ、攻撃を確実に決めることが出来る。



「必殺!『エース・スラッシュ 滝昇たきのぼり斬り』!!!!」


 滝を昇りきった剣が天高く舞い上がり、滝を切り裂いた!!!



 ――――スパァァァァァンッッ!!!!!

 審判の一本旗が鮮やかに舞い上がった!!



 ルームから控え室まで歓喜の歓声が響き渡った。オールスターズ一同も大盛り上がり。


「……よしッ!決まりぃッッ!!」


 剣も一撃が決まってガッツポーズ、だが安心するのはまだ早い、最後の三本目が待っている。剣も油断せず真剣に構える。

 一方の妻夫木は―――??


「そんなぁ……こんなのあり得ないぃぃ、酷すぎるよぉぉぉ………」


「―――はぁ??」


 剣も呆れ返る始末、先程の一本で一気に戦意喪失したようだった。

 チャラさから一変して泣きべそ描いている幼稚園児みたいに成り下がっていた。


「――三本目、開始!!」


 開始しても妻夫木はまだ震えて立ち止まっている。

 もう半分涙目になっていた。そして段々と駄々をこね始めた。


「俺ずっと勝ってたじゃん!どんな手段でもやっても良いからあのバッチつけてやったのに負けたじゃんかよォォォォォ!!

 何だよあの連中も『入れば彼女出来る』とかでたらめ言いやがって、入ればむさ苦しいオッサンばっかで会議ばっかしやがって――」


 この妻夫木の無様な姿に剣は呆れを通り越してイライラし始めた。


「……あぁもう、焦れったいな!」


 剣は半ギレになりながらも妻夫木に詰め寄り、震えている手先の竹刀を剣の竹刀で振り払った。


 妻夫木の竹刀は地面にこぼれ落ち、その衝撃でヒビが入った。

 そこにはが……


 そして剣が妻夫木に近づき、囁いた。


「――お前もこれに懲りてさ、ゲームの厳しさってのを竹刀こいつでよーく頭に叩き込むんだな!!」


 その時の妻夫木の頭のボタンは光っていた。



 ――ッパァァァァァァン!!!!!


  「……………キュウ☆」


 妻夫木の頭部ボタンに渾身の竹刀が放たれ、その衝撃で妻夫木は倒れこみ、気絶した。



『……………行ったァァァァァァァ!!

 Φブロック決着!No.1は言わずもがな、桐山剣だァァァァァ!!!

 正に月とスッポン!チャンバラの天下は『剣』の名に相応しいこの男に決まりだ!!!!』


 実況の新垣も呆気ない結末を若干誤魔化しながらも強引に雰囲気を変えた。

 それもあってか剣に盛大な拍手と歓声、更には剣コールも鳴り響いた。


 生まれて始めて大会に出て、ゲームでNo.1を勝ち取った剣は、満身の笑みを浮かべて喜びに浸っていた。


(最後は変な感じだったけど、これが大会での勝利、普段のゲームに勝つとは訳が違う。

 ――最高の気分だぜ!!………ん?)


 そんな中で剣は壊れた妻夫木の竹刀に仕組まれたバッチに気づき、手にとって確認した。


(――おおっと……)

 

 ブラックヘロンの悪事の根元、『BH Bat.』を怪しんだ剣はそれに無言でポケットにしまった。



「――へっ、こんな小細工して勝とうなんて考えてる奴なんかに俺は負けねぇよ!!

 もう一つ言わせて貰うが、俺は三流野郎じゃねぇ……」


 そしてフィールドを離れる帰り際に、剣は大声で叫んだ。


「――『切り札騎士エースナイト』!!

 それが俺の代名詞よ!!!!」



 □□□


 ★1stファースト RESULTSリザルト

 ☆シャッフルオールスターズ

 ・桐山剣 結果 ΦブロックNo.1 100ポイント

 ・天野槍一郎 結果 ΣシグマブロックNo.1 100ポイント

 ・畠田レミ 結果 Tブロック 8位 30ポイント

 ・高橋豪樹 結果 ㈱ブロック No.1 100ポイント

 ・河合みのり 結果 Ωブロック 32位 5ポイント

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る