第30話 新しい仲間


「ニャーーー」


 ナイトが、いきなり大きな声で鳴いた。

 周りに居た人達は、この二人の状況に声を掛けられなくて何も出来ずにいたけれど、お腹が空いていたナイトは早く食べたくて鳴いた。

 ナイトの声が聞こえたジュリアはキスを止めて、ナイトの方を見た。


「ごめんね、ナイト。

 お腹が空いたでしょう。朝ごはんにしようか?」

「ニャー」

「ウフフ、私もお腹が空いているわ。

 アンドリューは、朝ごはんはもう食べたの?」


 アンドリューは、彼女が猫のナイトと会話をしているので驚いて、ナイトとジュリアを交互に見て言った。


「驚いたよ、ジュリア。君はいつから猫と会話が出来る様になったの?」

「この旅が始まってからね。私自身もびっくりしているけれど、慣れれば普通の様に最近感じているわ。ナイトは人の言っているのが殆ど分かっていて、凄く頭がいいのよ。

 それに、私達の仲間でもあるわ。

 そうよね、ナイト」

「ニャー」

「ほら、そうだよって言っているわ」


 アンドリューは猫のナイトに対して驚くと共に、認識を新たにして人間の様に挨拶をした。


「初めましてナイト。

 私はジュリアのフィアンセで、この国の第一王子のアンドリューです。

 私も仲間になったので、宜しくお願いします」

「ニャーーー」


 ジュリアが通訳をした。


「ナイトは、こちらこそ、宜しくと言っているわ」

「そんなに詳しくジュリアは理解できるの?」

「えへ。大体ね。

 愛は、イメージで殆ど分かると言っていたわ。

 あれ、みんなどうしたの?何か、変な目線を感じるんだけれど?

 何か、呆れ返った様な?」


 ユリアは、朝から、目の行き所がない行為は止めてくれと言いたかったけれど、二人の会話を聞いていたら、言う気を完全に無くしていた。


「皆んな、お腹が空いているから、朝ご飯を食べようと言いたかっただけだよ」

「ごめんなさいね。朝ご飯が遅れて」


 ユリアは、ジュリアが急にお淑やかにな口調で話したので、びっくりをした。兄のアンドリューが来た事によって、性格が変わったかと思うほどだった。

 兄の前では、猫を被っているのではと思ったけれど、兄の幸せを考えて取り敢えずはその考えを心の中にしまい込んだ。


 男女六人と猫一匹は、朝の窓辺の清々しい空気が流れる中、美味しい魚介類のスープとパン、そして愛特製のブレンドコーヒーで、あっという間に朝食の時間が過ぎて行った。

 もちろん猫のナイトには、好物の魚の日干しを与えられた。彼は、今話している人間の会話に興味が全くなかったので、ゆっくりと味わう様に食べていた。


 朝食が終わり、コーヒーを飲みながら、ユリアが今日の予定を細かく話し始めた。


「今日は、先程言った西の方面の魔物退治になるんだけれど、今回は二組に分けたいと思う。何故なら、西の方面は森の部分、それと草原と畑の部分に分かれていて、どちらもとても広いので一日では回れないからなんだ。二手に分かれて戦うと能率が良くなって、一日で終わるんでね。

 それで、どうやって二組に分けようと思ったけれども、昔からこの国に伝わっているクジで決めたいと思う。何か質問はあるかい?」


 愛は、ユリアが最後に言った、この国に伝わっているクジの事を始めて聞いたので、どの様な方法なのかを聞いて見ることにした。


「ユリア、そのクジの方法を私は知らないので、説明をお願いします」

「そうだよね、うっかりしていたよ。

 クジは、魔法を使って分ける方法なんだよ。子供でも出来る簡単な方法なんだけれど、こういう時には公平に分ける事が出来るので、よく使われるんだ。

 みんなの手を重ね合わせて、魔法をかける時に分けたい数をイメージして発動すると、赤い紐が分けた者同士繋がっているんだよ」

「面白そうですね。それでお願いします」

「それではみんな、手をテーブルの上に置いて」


 ナイトがユリアの言葉に従って、愛が座っている椅子に乗って来きた。そして、後ろ足で立って、右の前足をテーブルの上に置いた。

 愛は、ナイトが器用に愛の足の間に後ろ足で立って、右手を出している姿に思わず心の中で笑ってしまった。

 ナイトは、愛の方を見るとイメージを送って来て、笑わなでよと言って来た。

 愛は更におかしくなって、顔が笑い顔になるのを止められなかった。

 隣にいたマリサはそれに気づいて、小声で愛に聞いた。


「愛、どうかしたのですか?急に笑い顔になって」

「ナイトが今まで見たことのない可愛い格好しているので、つい、ね」

「そういえば、少しおかしくて、可愛いですね」


 マリサは、笑い声を抑えながらナイトを見た。

 そして、猫が参加しているこのクジを見て言った。


「それに、このクジで猫が参加するのは多分始めてで、どうなるのか楽しみです。

 あ、終わったみたいですよ」


 森と書かれた小さな魔法で出来た札には赤い紐がついていて、その紐の先にはユリア、トニー、マリサ、そしてナイトと繋がっていた。

 草原と畑と書かれた札にはアンドリュー、ジュリア、そして愛と繋がっていた。

 ユリアが言った。


「これで決まりだね。

 それぞれのグループはリーダーを決めて、準備が出来次第出発してくれ」


 みんなが了解の返事をした。愛は二人の所に行って、思っている事をいった。


「ジュリア、アンドリュー王子にリーダーをしてもらうといいと思うのですが、どうですか?」

「賛成ね。賛成多数でアンドリューに決まりよ」


 アンドリューは温厚な性格なので、それでいいと思った。


「ああ、それで良いと思うよ。何かあれば三人で決めれば良いし。

 今回、始めて愛様の実力をこの目で見れるし、行く所の草原は観光地になっていて、今はあらゆる花が咲き乱れているから楽しみだね」

「アンドリュー、観光旅行ではないのよ、もう。

 愛は、遠くの魔物に魔法を当てるのが不得意で、今回はいい訓練になるわ。そうでしょう愛?」

「はい、そうなんです。

 ジュリアからアンドリュー王子が、遠くの魔物に魔法を当てるのが凄く得意だと聞いたので、そのコツを教えて頂けたらと思っています」

「それじゃ、ここでは話すのが長くなるので、歩きながら話そうか。

 そうだ。ここの料理長の腕が良いと、王都でも評判でね。その料理長が僕達の為にお弁当を作ってくれているんだってね。それを取ってくるから、少し待っていて」


 そう言うとアンドリューは急ぎ足で、厨房の方に歩いて行った。


「優しい王子様ですね。ユリアとかなり違いますね」

「そうなのよね。優しいんだけれど、おっとりとしていると言うか、呑気と言うか。それに、政情に興味があまり無いみたいなので困っているのよね」

「政情ですか?何かあったのですか?」

「え、えーと。これは気生臭い話なので、ここでは止めておく。いずれ機会があったら話すわ。

 あ、彼が来たわ」


 アンドリュー王子は、笑顔で彼女達に足早に戻って来て、お弁当からする良い香りを嗅ぎながら言った。


「ジュリア、愛様。このお弁当から良い香りがするんだよね」

「本当に?」


 ジュリアは興味をそそられて、直ぐにお弁当から出ている香りを嗅いだ。


「本当だ。良い香り。これは、お昼が楽しみね。

 愛もお弁当の香りを嗅いでみる」

「いえ、ここからでも中身が何か分かったので」

「本当に?さすがね」


 アンドリューがジュリアに聞いた。


「愛様は、近くに行かなくても、中身が分かるの?」

「そうなのよね。薬師の所に行った時に愛は、黒ニンニクの香りで・・・」


 愛は、二人の話を聞いていたけれど、二人の会話の内容よりも、このお弁当の中のある物に、少し吐き気がしてきて、どうしようかと思い悩んだ。

 死闘の後に目覚めた時に飲んだスープと同じ、あの蠢く物が、今度はソースとして使われていたからだった。












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