第28話 艶やかな百合の妖精リリ
愛はメンバーに、リリと会話をした内容を話した。
「・・・と言う話を、さっきまで心の中で会話をしていました」
マリサは幼少の頃、リリと会ったのを思い出して、それを聞いてみた。
「リリ。私はマリサ。
昔、貴女と会ったことが有るのだけれども、覚えていますか?」
リリは、愛の手から飛び立つと、ゆっくりとマリサに近づいて行って、彼女の顔の前で、上下左右に動きながら思い出そうとしていた。
「シアシテ山の、山百合の咲いている所ですよね。思い出しました。悪戯好きなお姉さんと一緒だった」
ジュリアが再び驚いて思わず、仰け反ってしまった。
そして、リリに聞いてみた。
「リリ、私の名前はジュリア。さっき言った姉が私なんですけれど、どうして私が悪戯好きだと分かったんですか?」
今度、リリはジュリアの方にゆっくりと羽ばたいて、同じ様に顔の前で上下左右に動いて、思い出そうとしていた。
「思い出しました。草の先を結んで、マリサを転ばさせようとしていました。幸い、その草にはマリサが通らなかったから良かったですが」
「そう言えば・・・、そうした気がする」
マリサがジュリアをジロッと睨んで、そんな事があったんだ、と言う顔になった。
ジュリアはここと、シアシテ山までかなりの距離があるので、どうやって来たのか聞いてみた。
「リリはこの世界の何処へでも行けるの?」
「百合のある所でしたら、何処へでも行く事が出来ますよ。今度貴女達はシャスタ山に行かれるんですよね。魔法の迷路の森には百合が沢山あって、花がとても綺麗に咲いています。是非見て行ってくださいね」
「リリは、その羽で、魔法の迷路の森まで飛んで行くの?」
「この羽は空中に留まる為で、遠くに移動する時は、そこに行くイメージだけでいけますよ」
ジュリアは、瞬間的に遠くに移動出来るリリの魔力に驚いた。何故なら、遠くに移動する魔法は、今まで聞いた事がなかったからだった。
「遠くに行く魔法の他には、何か別の魔法が使えるの?」
「それは今は教えられません。シャスタ山に登る事が出来れば教えられますが」
リリは、先程から段々と透明になって行き、今にも消えそうな状態になっていった。
「リリがハッキリと見えなくなってきたのですが、清浄の光の効果が無くなってきていると言う事ですよね」
「はい、その通りです。
あなた達の運が良ければ、また会えると思います。さようなら」
リリはそう言うと、魔法を使った。
突然、渦を巻いた様に回りながら上昇して、消えて行った。
残された空間には、更に強い濃厚な百合独特な香りを漂わせていた。
「これは驚いた。生まれて初めて妖精を見たよ。
しかも、この空間に漂っている香り。酔いしれる様だよ」
ユリアが、驚いた顔を隠そうとせず、両手で香りの残った空気をかき集める様にしていた。
それを見たトニーも同じ様に始めて、女性達はどうしてそうするのか、不思議な顔でそれを見ていた。
そして、猫のナイトまで妙な行動に出た。
香りが残った空間の下で、器用に後ろ脚で立って、前足で同じ様に空気をかき集めていた。
愛は、可笑しさよりも、男性陣の異常な行動に畏怖を感じた。
マリサが少し怖くなって、異常な行動をしているトニーに聞いた。
「トニー、どうして、空気をかき集めて香りを吸っているの?」
「え、この感覚が分からないの?
まるで、ほろ酔い気分で、とても気持ちが良いんだよ」
「私は、全くそんな気持ちになれないんだけれど!!」
少し強い言葉でマリサが言った。
「え、本当に?」
「ええ、本当よ」
マリサは、問い詰める様にトニーを見た。
トニーは、愛するマリサに言われて動作を直ぐに辞めた。そして、無理矢理腕を組んで、何故自分がこうしたかを考え出した。
「もしかして、この香りは男性だけ酔いしれる様な香り?」
「そうみたい。
でもそれって、リリがわざと置き土産を置いて行ったって事だわ。どうして?」
既に動作を辞めていたナイトとユリア。
ユリアは何故自分が変な行動をしたかを考え始めた。
ナイトは罰が悪いのか、愛の後ろに直ぐに隠れ、一回泣いて、ごめんなさいと愛に言った。
愛は、この現象はもしかしたらと思って言い始めた。
「はっきりとした確証は無いのですが、リリは私達に魔法の迷路の森が、こんな感じだよって言っているような気がしたのです。つまり、言葉では言えなかったけれど、似たような環境を一時的に作り出した。実際には、もっときつい香りなどで仲間割れを起こさすとか」
「そうね、先ほどの男性陣の異常な行動は、信用を無くさせるわね」
ジュリアがそう言って、ユリアを見た。
ユリアは、ジュリアに見られて恥ずかしかったけれど、客観的に先程の自分の異常な行動を分析して話し出した。
「ジュリアの言う通りだよ。
この香りを嗅ぐと、もっと香りたくなったんだ。今でもその衝動が起きているけれども、理性で今は抑えている。
もしこれが更に強い匂いだったら、間違いなく理性は飛んでいて、ずっと香りを嗅いでいると思うんだ。
これは厄介だな。戦いならまだしも、理性を無くさせようとするこの香りは。
そう考えると、これで練習しなさいって言う意味の、リリの置き土産だね」
「男性がこうなるという事は、女性も違う香りで迷わす可能性が高いわね。或いは、理性を無くさせる香りがあったら更に厄介だわ。どうにかならないかしら?」
「片手で、鼻を摘むと良いのではないでしょうか?」
トニーが言ったけれど、マリサが直ぐに反対意見を出した。
「トニーの言っているのは良いとは思いますけれど、騎士の男性二人は剣と盾を持っているので両手が塞がっています。例え、片方の手でそれらを持ったとしても、何かの行動を起こす時は、手を使えないので無理があると思うんです。もっと、良い案があれば良いのですが」
「マリサの言う通りだよ。
では、どうすれば良いんだろうか?」
トントン
誰かがドアをノックしている。
ジュリアが返事をした。
「はい」
ドアの向こうから女性の声が聞こえてきた。
「朝食の準備が出来ましたので、食堂の方にどうぞ」
「ありがとうございます」
返事を聞くと、女性は去っていった。
「朝のミーティングは終わりね。
それで、今日シャスタ山に行く?それとも明日?」
「明日にしよう。準備をしないと魔法の迷路の森で、本当に迷子になりそうだよ。
今日は魔物退治だね。アーモンドの畑と北の方は、ここ二、三日でほぼ終わっている。今日は、西の方に行こう」
ユリアがそう言った。
ジュリアが愛の方を向いて聞いた。
「愛はどうする?そろそろ魔物退治に加わる?」
「お願いします。
アンティとドラゴンぐらいしか倒した事がないので」
「ウフフ、それって笑えるわ。一番強い魔物しか倒していませんと言っているわ」
「え、本当ですね」
「さて、男性陣は部屋を出る。着替えを見たいのなら居ても良いけれど?」
ジュリアは右肩のネグリジェを少し下ろして、少し色っぽいポーズを取った。そして、ユリアとトニーにドアを指差した。
ユリアとトニーがそれを見て、同じ意味の事を、慌てた口調で言った。
「え、そ・そ・そ・れは。
これで失礼します」
ユリアとトニーは下を少し向きながら、ジュリアが指差したドアから慌てて出ていったのだった。
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